天使の分け前

ゆなな

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天使か悪魔か

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    ゆったりと紫煙を燻らせながらパリコレモデルも斯くもやという長い脚を組み直すとクスクス笑う声が聞こえて視線を上げる。
「見ーちゃった。いっけないんだー蓮城クン」
「お前か、驚かせるな」
    そう言ってさらりと長い髪を憂鬱そうに掻き上げる姿は壮絶に色っぽい。 天使よりも悪魔のほうがぴったりだ。
「全然驚いて見えないんですけど。いいのかなー天使サマが煙草なんか吸って」
    嘯きながら綾人の胸ポケットに入っていたジッポをすっと抜き取って唇に銜えた煙草に火を点けた藍澤。
「俺よりお前のがまずいだろう?鬼の風紀委員長じゃなかったか?」
    艶やかな黒髪をタイトにセットしてシルバーフレームの眼鏡を掛けた藍澤はひょいっと片眉を上げて低く嗤った。
「息抜き、息抜き。天使だって息抜きが必要なら風紀委員長なんか尚のこと必要だろ?そんなことよりも、随分夢中らしいじゃないか」
「…何がだ?」
「惚けて見せても、情報は入ってきてるんだよ、綾人。髪の毛ばっさり切ったら、めちゃくちゃ色っぽくなっちゃって、神代君。『あの』天使様が骨抜きで、片時も傍を離れないって、すげぇ噂だぞ。こんなとこでボディーガードサボって一服なんてしてていいのかよ」
「下の進路指導室で担任と面談中だからな。さすがに面談中は大丈夫だろ」
「毎日毎日礼拝堂でデートしてるらしいじゃん。まるでギムナジウムを舞台にしたイケナイ映画みたいだって」
    藍澤に綾人はゆっくりと長い睫毛に囲われた瞳を瞠目すると紫煙を吐き出した。
「イケナイ映画、ね」
 藍澤の言葉に低く嗤う綾人。
「で、どうだった?学年トップを『あの』蓮城綾人と争う神代陽也クンのお味は?」
とニヤニヤ彼の冷たさの漂うクールな容貌を裏切る下卑た笑いを浮かべて藍澤は尋ねる。
「もったいなくて教えられるか」
 綾人はふ、と煙を藍澤目掛けて吐き出す。
「何だよ、それ!余計に聞きたくなるじゃんか!」
 ちらりと横目で綾人は藍澤を見遣ると、酷く淫猥な笑みを浮かべて
「すっげぇ、イイ」
と、嗤った。
 壮絶な色気を醸し出す綾人に藍澤は思わずポカンと口が開いた。それから
「あちっ…っぶねー」
思わず煙草を取り落とした。
「何やってんだ」
 呆れ顔の綾人に。
「えっろい顔すんじゃねぇよ、それにしても、そんなにイイんだ、ハルくん」
「気安く呼ぶな」
「いいじゃん、そんなにいいなら一回くらい貸してよ。綾人がそこまでお気に入りなら俺だってちょっと興味ある。あのうるうるしてるように見える大きな瞳、あーんなの前髪で隠してたなんてな。あんな目ぇされたら泣かせてみたくなるよな……っと」
 藍澤が口にした瞬間。ざわりと周囲の温度が音を立てて冷たく冷えるのを感じた。綾人の纏う雰囲気があっという間に鋭いナイフのように鋭利になった。
「ハルは、駄目だ。指一本でも触れたら……」
この先は言わなくてもわかるだろう?と綺麗な瞳に酷く冷たい彩をせて藍澤を見遣る。この視線の恐ろしさを嫌と言うほど知っている藍澤は軽く両手を上げて降参のジェスチャーをして見せる。
「そんな怖い顔すんなって。綾人を敵に回すなんて命懸けなことするほど馬鹿じゃないって」
 そんな藍澤を一瞥すると綾人は煙草を空き缶に捩じ込んで押し込み立ち上がった。
「先に戻る」
 それから視線だけ藍澤に向けると
「じゃあ僕の煙草の後始末よろしく頼みますね、藍澤くん」
 これまでの低い声とは違った清らかさを纏う透明感のある声色で綾人はそう言うと、吸殻の入った空き缶を藍澤の胸元に押し付けた。
「あ、はい……ってきったねぇぞ、綾人」
 思わず空き缶を受け取ってしまって苦々しい顔の藍澤に
「便利だろ?コレ」

    そう言って声を立てて楽しそうに笑うと陽に透けそうな髪をさらりと揺らして綾人はその場を後にした。
        
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