王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良

文字の大きさ
41 / 43

41話

しおりを挟む
 ラファエルのもとに伯爵が亡くなったと知らせがあったのは数日前。捕らえていた部屋のなかで毒を呷り死んでいたのだと聞かされた。
 毒を最初から持ち込んでいたとは考えずらい。ならば、誰かが毒を差し出したということになる。
 彼の独断ですべてをなしたと考えるのは難しく――なにしろ、アラベラの監視につけた騎士は伯爵との関わりが薄く、ラファエルが王位に就く際に支持した者の縁戚から選んだ。

 それなのにアラベラの行動を黙認し、報告しなかったのだとしたら、伯爵以外も関わっていると考えるべきだと調査を誰に任せるかを悩んでいた矢先の出来事だった。

 おそらくは、伯爵の口から自身の名前が出るのを恐れた者の仕業だろう。たとえ王位継承権がない愛人の子だとしても他者の子を王の子と偽るのは、王家に対する忠誠を疑われる行動だ。
 そして王妃であるクリスティーナを追い落とそうと企んだのだから、王家を謀とうとしたことも踏まえると、冒とく罪や反逆罪に問われてもおかしくはない。

 だから手を下したのだろうと考えるのは容易だった。問題は、そうしたのが誰なのか。そして調査を誰に託すのか。
 なにしろ王であるラファエルの命令で捕らえられていた者が、王のひざ元で死んだのだ。監視役の兵、食事を運んでいた使用人だけではなく、城内にいる者すべてが疑わしい。

 誰かに調べさせるのが道理であることはわかっている。だが、そこでラファエルの手は止まった。

 ラファエルを支持していても、クリスティーナの存在を快く思っていない者がいることはわかっていた。慣例に倣いラファエルを王にと望むのだから、当然王妃も慣例に倣い、有力な後ろ盾はもちろん縁を繋ぐだけの存在であることを望んでいた。
 だがそういった者は、まだ婚約関係だった頃からクリスティーナに対する当たりが強かった。そのため、アラベラの監視を誰にするか決めるときには除外したはずだった。

 それなのにクリスティーナを追い落とす計画に与したのならば、心から信頼し、調査を任せられる者などいるのだろうか。

 古くから王家に仕えている者という基準で選ぶのは難しい。伯爵は歴史ある家の当主で、長年王家に仕えていた。
 ルシアンではなくラファエルを支持し、王にと望んでくれた者のなかから改めて選ぶにしても、その方法はすでに失敗しているといっていい。

 誰ならば信頼できるのか。誰ならば安心して任せることができるのか。
 いくら考えても答えはでず、結局ラファエルは自ら調べることにした。これまでの書類を見返し、関わりのあった者たちを呼び出して話を聞き――そうしたなかでアラベラを連れ戻したと報告を受けた。そして誰かに託すこともできず自ら赴いたラファエルは、結果として彼女の言葉にさらに追い詰められることになる。 ラファエルが何も言わずとも、伯爵のときと同様に彼女自身誰かの手によって殺されるだろう。だがそれでも殺せと命じたのは、かつての行いを突き付けられたからだ。

 クリスティーナを追い詰めたのは自分ではないのだと、ほかの誰かが何かして、彼女を害したのだと思いたかった。
 だがいくら調べても何もでない。中には虚偽の報告をしている者もいるだろう。だが直接何かしたと思われるだけのものは見つからない。
 クリスティーナに対する悪意はたしかにあった。心ない言葉を囁き合う者もいた。だがそれは、彼女が王妃になる前からそうだった。

 それでも彼女は微笑んで、ラファエルのそばにいた。ならば変わったのはなんなのか――それを、アラベラに突き付けられた。

 違う、そんなことは言っていない、ということはできなかった。
 王妃となり、変わったのだと思っていた。ラファエルではなく、クリスティーナが変わったのだと。
 かつての輝きは色あせてしまったのだと。

『政に口を出すとは、陛下を侮っているのでは』

 クリスティーナが案を考えているのを見て、そう囁く者がいた。
 最初はクリスティーナはそんな女性ではないとはねのけることができたが、似たようなことが何度も続くうちに心のなかに積み重なっていった。

 自分はまだ王として認められていないのだと。完璧な王にはまだまだ遠い存在なのだと。クリスティーナまで、そう思っているのだと。
 ルシアンと王位を争うことになったのも、ラファエルの心によどみとして残っていた。ラファエルを支持する者もたしかにいたが、ラファエルが王になったのはルシアンが自ら辞退したのが大きい。
 勝ち取ったわけではなく、ルシアンが身を引いたことで王位に就いた。その事実が王として認められていないのだと思うたび、重くのしかかる。

 その思いをクリスティーナに吐露することはできなかった。吐き出せば、自ら認めるようで、彼女にまで責められれば立ち直れないような気がして。
 だからただ、完璧な王を目指した。完璧な王になれば、迷いはなくなり、何もかもがうまくいくのだと、信じたかった。

 だが結局、ラファエルに残ったのは、自らのひざ元で堂々と毒を盛れるほどに弱い立場と、信頼できる者のいない環境だけだった。
しおりを挟む
感想 635

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...