花嫁

一ノ瀬亮太郎

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【四】

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 征之進は道場の中心に座り込んで、雪之丞を手招きした。雪之丞が隣に腰を下ろすと、顔を寄せて小声で話し始めた。

「私、幼い頃より、自分が男であるということをどうしても受け入れられませんでした」

 雪之丞の目が大きく見開かれた。

「なんと……そんなことが……」
「自分でもおかしなことだと判っております。それでもどうしようもないのです。そんな自分を変えようと武芸に励んだりしてみましたが、駄目でした」
「駄目とは? あれだけ達者なのに?」
「腕は上がりました。ですが、どんなに上達しようとも、どんな強い相手に勝とうとも、なんの喜びも感じないのです」
「それはまた……」
「私が本当に欲しかったのは竹刀でも弓でもなく、市松人形でした」
「人形を?」
「はい。近所の娘ごたちが人形で遊んでいるのが、羨ましくてなりませんでした。本当は道場になど通わず、彼女らに混じって遊びたかったのです」
「男であるのにか?」
「そうです。ですがやはりそれは叶いませんでした。特に私は女、女と続いた後の待望の男子でしたから、人形が欲しい、女の子と遊びたい、などとは決して言えなかったのです」
「なるほど……よく解った。陰間趣味ということだな?」
「いえ、そのような趣味はございません。そちらの意味であれば女人を好みます。くるわで遊んだことも無いとは申しません。ですが、内に女人が住むような私が嫁を取るなど、相手に失礼であると思うのです」

 征之進はそこで言葉を切り、雪之丞の顔を窺った。雪之丞は腕を組んで考え込んでいる。

「そのことは家の者も知らぬのだな?」
「もちろんです。家の者には絶対に知られてはならぬと判っております」
「其許はそのことでずっと苦しんできたのだな?」
「はい、そのとおりです」
「そうであったか……あい分かった。悪いようにはしないから、某に任せてくれ」
「かたじけのう御座います」

 征之進は雪之丞に見送られて長谷見家を後にした。

 他人にこのことを話したのは初めてだった。もっと奇異の目で見られることも覚悟していた。しかし雪之丞は意外なほど同情してくれた。縁談を断ったことにも怒らなかった。それどころかよいように取り計らってくれるという。

 そうは言っても内心では怒りに燃えていて、腹いせに秘密をばらされる恐れがないとは言えない。しかし征之進はそれでもよいという気持になっていた。そのときはすっぱり勘当してもらい、半田林の家を出ようという覚悟ができた。極貧に堕ちようとも、自分を偽り、妻を偽って生きるよりはよいと思えた。

 話してよかった……

 征之進は今までに感じたことのない解放感を味わっていた。
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