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二、開花
二、開花 ⑲
しおりを挟む「花さえ食べていたら、私も形だけの番として遠ざけられると思ったのでしょうね」
祖母は両親から守るために竜仁さんを利用し、竜仁さんは花の毒で僕に近づけさせないようにしたってわけか。
僕が知らない間に、二人の中で何か契約が行われたということ。
彼はその口約束の為に僕を保護した。
そしてアルファを遠ざける毒を纏う僕を、番にしたと。
「なんで竜仁さんには花の匂いが効かないの」
砂を弄りながら、拗ねたような口調になる僕に、「愛の力ですよ」と威張ってみせる。
「ご両親に愛を貰わず、学校にもあまり行かず、けれど貴方は菫さんに愛を貰って、真っ直ぐに育っていました。歪だったかもしれない。歪んでたかもしれません。でも、貴方自身の心が綺麗なのは、一目でわかりましたよ」
そんなわけない。
僕は、この花の香りを利用して祖母の形見を全て、貴方から奪おうとしたんだよ。
運命だからって、番だからって、綺麗なところしか見ないのはやめてほしい。僕にはその辺に転がっている石ころぐらいの価値しかないのだから。
「菫さんは貴方を毒に侵してでもアルファから守りたかったのだとしたら、私は貴方を幸せにする。絶対にする。その花ではない。私が貴方を守ります」
綺麗な花には毒があって、食べている僕もその毒に侵されている。
一目ぼれだとか運命だとか、それだけで僕に手を差し伸べてくれる彼の優しさが、溢れんばかりに感じられて胸を焦がす。
こんな気持ち、初めてで動揺して心臓が張裂けそうだった。
それに粘膜接触はまだ怖いって避けてきた竜仁さんが、僕の唇に触れてきた。子供みたいな口づけだったけど、何度身体を許しても口づけだけはくれなかったから嬉しくて驚いてしまった。
嬉しいって感情もなんだけど蕩けんばかりの笑顔の、緩みまくった顔が、アルファにしては油断しすぎというかなんというか。
「もう一度、キスしてもいいかな」
「きか、聞かないでください」
ふいッと顔を背けたら、頬に手が伸び、真っ直ぐ見つめ合わされた。
サングラスを外すと貝殻の隣に投げ捨て、先ほどより深い口づけをしようとしているのが伝わり、心臓が破裂してしまいそうだった。
ぎゅっと目を閉じた瞬間だった。
クラクションのけたたましい音に、咄嗟に身体を離してしまう。
音の方を見ると、竜仁さんの車の隣に、高級車が停まっている。
「……だれ」
「うーん。有栖川家所有だからって誰でも入っていいって言わなければよかった」
貴方、先ほど上も下もないって、言ってたじゃないか。呆れた僕に「運命の前では、気持ちが優先なんです」と苦笑していた。
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