神様は身バレに気づかない!

みわ

文字の大きさ
32 / 34
第二章

5-2

しおりを挟む



 王城への突然の襲撃。
 現在、王城の騎士団が応戦しているものの、敵には闇魔法の使い手が数人混じっており、対応はかなり困難なようだ。
 
 使われている魔法の性質からして、かつてフォルシェンド公爵家を襲った者たちと同一の組織と見られた。
 しかも、今回はその時の三倍の戦力で攻め入ってきているという。

 クローヴィスは、第一王子であるレンツィオと、自身の息子シオンのもとへと駆けつけてきた。
 その理由は一見、「王族と息子の無事を案じて」のようにも見えたが――

「シオン、本当に何もしていないか? いや、何もやらかしていないな?」
 
 クローヴィスはシオンの顔をまじまじと見つめながら、もう一度、矢継ぎ早にそう問いかけた。

 このときの問いかけは、決して“襲撃に巻き込まれていないか”という意味の心配によるものではない。
 クローヴィスが本当に確認したかったのは、この異変を察知して、息子がまた何か余計なことをやらかしていないかという意味の心配によるものだった。

 その様子にレンツィオがぽつりと呟く。

「……心配の方向、そっちなのか……」

 近くにいた侍女は思わず小さく吹き出しそうになったが、今は笑っていられる状況ではなかった。

 そのとき、もう一人の騎士が駆け込んできた。

「報告します! 第一関門、突破されました!」

 場の空気が一瞬で張り詰める。
 クローヴィスの表情も、瞬時に厳しいものへと変わった。

「――分かった。私も向かう。伝令には後続を急ぐよう伝えろ」

「はっ!」

 騎士が再び駆け出していくのを見送ると、クローヴィスはレンツィオとシオンに振り返った。

「殿下、ここは危険になります。急ぎ、避難所へ移動なさってください。シオン、お前も行きなさい。」

 厳しい声音に、シオンがぴくりと反応する。
 そして迷いのない声で口を開いた。

「私も、行きます」

「……何だって?」

 レンツィオが目を見開く。
 クローヴィスも一瞬言葉を失い、眉を寄せて息を吸った。

「ダメだ」

 静かだが、強い否定だった。

「っ!?…ど、どうして? …人数は、いた方が有利、でしょう。それに……狙われているのは、公爵家のはずです。だったら…これは、公爵家の…戦いでしょう?」

「その通りだ。だから私が行く」

 真っ直ぐな視線のまま、クローヴィスは応じる。
 それでもシオンは引かない。

「だったら……!」

「――だが、お前は子供だ」

 低く、強く。
 その言葉は、確かな重みをもってシオンの胸に突き刺さった。
 返された言葉に、シオンの瞳が大きく揺れる。

「子供は、戦わずに守られているものだ。だから――決して来てはならない。
 いいか、子供のお前は、ここに居るんだ。安全な、ここに」

 クローヴィスの声が優しくなることはなかった。
 だが、それは拒絶ではなく、守ろうとする者の真摯な決意だった。

 シオンは俯き、言葉を失った。
 視界の端で、レンツィオが不安げにこちらを見ているのが分かる。

 (……子供、だから?)

 その言葉が、じんと胸に滲んでいく。

 人の子だから――。
 今の私は、
 わらわは、人だから――。

 何もできないのか。

 頭の奥に、前回の襲撃事件の記憶が蘇る。
 公爵家の者には軽傷者こそいたが、死者は出なかった。
 襲撃してきた賊たちの多くは騎士団によって捕らえられ、今も王都の牢に収監されている。
 だが、その賊たちの頭であり、共に捕らえた闇魔法の使い手のひとりは、あの後、自害したのだ。

 気付けなかった。 
 
 周りの者は襲撃だと言っていたが、あの者達から感じたものは殺意ではなかった。
 
 まるで自らの意思を持たぬかのように、ただ命令に従っているだけだったのだ。捕えられた襲撃者の大半は、思考も曖昧な、まるで操られたかのような様子だったという。尋問を試みても、皆揃って同じ言葉を繰り返すばかりで、要領を得なかった。
 闇魔法の使い手――ただひとりだけが、『自分の意思』で動いていた。
 情報が得られたのも、彼のみだった。
 だが、そんな彼からですら――あのとき、シオンは殺意を感じ取ることができなかった。
 後にわかったことだが、彼は忠誠から動いていたのではない。
 呪いか、契約か――抗うことのできない強制に縛られた、『奴隷』という存在だった。

 命じられたから動き、命じられた通りに任務を遂行し、
 そして――成功しても、失敗しても、その結末には自害が待っていた。

 それを、彼自身が受け入れていたのかどうかは分からない。
 だが、どこかで自らの人生に絶望し、死を望んでいたのだろう。だからそこには“敵意”と呼べるほどの波がなかった。
 
 だから気付けなかった。止められなかった。助けられなかった。癒すことも、語ることも、できなかった。

 そして今も、何もできないと言うのか。

 自分は、ただの子供で、だから――。

「……っ」

 小さく息を呑んだシオンの頭に、そっと大きな手が乗せられる。
 クローヴィスだった。

 その瞳は、まっすぐにシオンを見ていた。
 何も言わず、ただ一度、しっかりと撫でるように手を動かすと、クローヴィスは背を向けて歩き出す。

 その背中が、遠ざかっていく。


 

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

わがままで口の悪い主人様はいつまでも子供

千崎
BL
6歳の頃、孤児である俺を拾ったのは公爵家のソレイユ様だった。あれから数年経ち、俺が15歳になると同時に、再婚相手であるルナ様を紹介された。そしてルナ様の息子であるシエル様の従者として任される事になった。複雑な気持ちだったが、その事に納得した俺はシエル様の面倒を見る事になったのだが…

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています

たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話

処理中です...