神様は身バレに気づかない!

みわ

文字の大きさ
3 / 34
第一章

1-2

しおりを挟む

 ──金の瞳が深き黒へと染まり、静かにまぶたが閉じられてから。
 フォルシェンド家の次男・シオンは、再び目を覚ますことなく、深い眠りに落ちた。
 それは、まるで春を待つ蕾のように、あるいは、何かを封じるような、静謐なる眠りだった。

 医師を呼び、聖職者を頼り、王宮付きの魔導士までも招かれたが、誰ひとりとしてその理由を突き止めることはできなかった。
「肉体に異常はない。だが……目覚めない」
 そう呟く医師の顔にも、戸惑いが浮かんでいた。

 オリヴィアは、毎晩、眠るシオンの枕元で手を握り、祈るように語りかけ続けた。
 「……私が、もっと丈夫に産んであげられていれば……」
 誰に聞かせるでもなく、掠れた声で漏らした言葉を、夫であるクローヴィスが優しく受け止める。
 「君がいたから、この子は生まれてきてくれた。それだけで、もう十分だよ」
 そう囁きながら、彼は静かに妻の背を撫でるのだった。

 その姿を見ていた、長男グラーヴェ。
 兄として、何もできない己の無力さが胸に重くのしかかった。
 「……父上。私、もっと強くなりたい。弟を……助けたい」
 そう決意し、彼は魔法の書を手に取り、日々修練を重ねていく。
 弟のために、家族のために。わずか十にも満たぬ少年が、静かに歩み始めた道だった。

 屋敷には、時折、鈴のような涼やかな音が響いた。
 シャラン──シャラン……
 誰も鈴など鳴らしていない。にもかかわらず、その音は確かに空間を震わせるように鳴り響いた。
 音が響いた時、空気がわずかに変わる。まるで、見えない“何か”が、そこに宿ったかのように。

 ──そして、さらなる異変が屋敷を包む。

 ある夜、シオンの寝室に向かった女中が、青ざめた顔で駆け戻ってきた。
 「……仮面が、宙に……浮いて……っ!」
 驚いた者たちが駆けつけると、そこには確かに“仮面”があった。
 誰もいない空間に、おかめを思わせる微笑みの女面が、宙にふわりと浮かんでいた。

 別の日には、ひび割れた翁の面。
 またある日には、長い鼻を持つ天狗の面。
 この世界には“能面”という概念は存在せず、それらは人々にとって“異形の仮面”だった。
 最初にそれを目にした者は、恐怖に震え「悪魔の使いか」と疑った。

 だが、仮面から感じる気配は異なる。
 どこか神聖で、温かく、懐かしささえ宿した気配。
 仮面たちは誰にも危害を加えず、ただ心配そうに、眠るシオンの周囲をふわりふわりと舞うばかりだった。
 やがて人々は、それらが“敵ではない”と理解するようになる。

 不安に思ったクローヴィスは、信頼する魔導士を呼び寄せた。
 魔導士は仮面たちの存在を目にした瞬間、瞳を見開き、膝を震わせた。
 「これは……魔力ではない……魔導の理から逸した、まったく別の……とてつもない力……」
 彼の背中を伝う冷や汗が、その“異質さ”を物語っていた。

 「もしかすると……このお子は……人ではないのかもしれぬ……」
 そう呟いた魔導士の目には、畏れと敬意がないまぜとなって浮かんでいた。

 だが、クローヴィスは静かに首を横に振った。
 「何であろうと、あの子は我が子だ。フォルシェンド家の愛しき息子──それだけは、揺るがぬ事実だ」

 オリヴィアもまた、微笑みながらシオンの髪を撫でる。
 「この子が眠っているなら、私たちが夢を守ってあげましょう」

 そうして五年──

 兄は弟のために日々魔法を学び、
 両親は変わらぬ愛を注ぎ続け、
 屋敷の者たちは、異形の仮面に怯えながらも、そっと共に過ごす術を覚えていった。

 そして──その時は、ようやく訪れる。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

わがままで口の悪い主人様はいつまでも子供

千崎
BL
6歳の頃、孤児である俺を拾ったのは公爵家のソレイユ様だった。あれから数年経ち、俺が15歳になると同時に、再婚相手であるルナ様を紹介された。そしてルナ様の息子であるシエル様の従者として任される事になった。複雑な気持ちだったが、その事に納得した俺はシエル様の面倒を見る事になったのだが…

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています

たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話

処理中です...