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第一章
3-4
しおりを挟む今日は、子供たちが初めて自身の魔力を確かめる日。
十歳になったばかりの小さな命が、それぞれの歩みを始める、大切な節目。
私はこの日が好きだった。
祈りの声に耳を澄ませ、彼らが見上げる先にそっと姿を潜ませる。もちろん、誰にも見えはしない。私はただ、神として、遠くから彼らの成長を祝福するだけ。
今日もいくつかの教会を巡って、祝福を返していた。
そして最後に、王都の教会――『暁光の聖座』に立ち寄った。
……その瞬間だった。
ぴりっ。
身体に、痺れるような感覚が走った。
胸の奥がざわつく。
懐かしく、恐ろしく、信じたくないほどの予感。
「……まさか……!」
私は無意識に、聖堂の高みに身を隠した。
――そして見た。
あの方を。
最愛の、尊き御神を。
私があの日から探し求めていた、翠音羽様を。
「…………え?」
視線の先にいたのは、
人間の子供の姿をした、あの方だった。
神々しさを隠しきれずににじませながら、屈託ない顔でそこに立っていた。
人のふりをして、何事もないように。
どうして……どうしてここに……!
私は、あの方が神界から姿を消されてから、
空の隙間を縫っていくつもの世界を探し続けていた。
血眼になって、全力で、十年も。
なのに――
まさか、自分の管理するこの世界に普通にいらっしゃったなんて……
しかもなんだか、楽しそうに暮らしておられるなんて……
……ああ、楽しそうで何よりです……本当に、よかった……けれど。
けれど――その刹那。
あの方は、
私の像の前で、
膝をつき、
静かに、頭を垂れた。
その姿を見た瞬間、私は――
「――だめ……っ、やめてください……!やめて、そんなこと……しないでください……!」
心の中で何度も、何度も叫んだ。
そんな、そんな恐れ多いこと――
人の姿を取っていようと、あの方はあの方だ。
その方に、祈りを捧げられるなど、あってはならない。
私は震えながら、像の奥で必死に祈り返した。
「どうか、お顔を上げてください……」
「私にそんなことをなさらないで……」
「やめてください……恐れ多すぎます……!」
そう――
あのとき、教皇と枢機卿が震え上がった“あの現象”。
子供たちの祈りの粒が女神像へと集まり、
その祈りがまるで逆流するように、
一人の少年――翠音羽の元へと還っていった、あの神秘的な光景。
実はその正体は、
身を隠していたアマネヒメが、
最愛の師に膝をつかせてしまったことへの
恐怖と畏れのあまり、魂を込めて祈り返していたという――ただそれだけのことだった。
「顔を上げてください……どうか……!お願いですから……!」
誰にも聞こえぬその懺悔が、
あろうことか“神威”のように可視化されてしまったのである。
つまり――
神が神に必死に謝っていただけ、である。
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