公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳

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04 友の命は俺が助ける

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 ふだん意識することはないが、エルンストはグスタフにとってかけがえのない存在だった。
 子どもの頃に村の子どもと喧嘩をしたことがあった。喧嘩の理由は忘れたので他愛もないことがきっかけだったのだろう。グスタフは一人で三人の子どもに向かった。どこで聞きつけたのか、そこへエルンストがやって来て喧嘩を止めようとしたが、止めて止まるようなものでもなくエルンストも巻き込まれた。
 その時、相手の村一番の暴れん坊がエルンストの額に石を投げた。額から血を流したエルンストを見てグスタフは逆上した。

「決闘だ!」
「望むところだ」

 売り言葉に買い言葉でその場で一対一の喧嘩になった。グスタフは三つ年上の暴れん坊に一切遠慮せずにぶつかった。突き倒し、力任せに腕をひねり上げた。暴れん坊はいてえと叫んで泣き出した。喧嘩はそれで終わった。
 額に怪我をしたエルンストと屋敷に戻って乳母に事情を話すと大騒ぎになった。執事は暴れん坊の家に行き相当な額の見舞い金を渡した。後で聞くと腕が折れていたらしい。グスタフは乳母に叱られた。

「エルンストが怪我をしたからといって若様が仇をとる必要はないのです。それがエルンストの仕事なのですから」

 納得できなかった。エルンストを家来だと思ったことはない。彼は兄弟であり友でもある、かけがえのない存在だった。
 あの時と同じ衝動が彼の身体にみなぎっていた。
 グスタフはエルンストにとどめをさそうとしている男の気配を暗闇で察知するや、背後から一撃を加えた。手ごたえがあった。恐らく骨に当たったはず。
 獣めいた声を上げて、男がどすんと倒れた。
 そこへ灯火と足音が近づいてきた。

「グスタフ!」
「大丈夫か!」

 村の広場にいた若者たちが数人、たいまつをかかげて走って来た。彼らは独り身の男同士、別の場所で飲もうと広場を離れたが、街道を先に歩くグスタフたちのランタンの灯火が消え、何やら不穏な金属音がするので、駆けて来たのだった。
 彼らは血塗れで倒れている見た事のない男二人に息を呑んだ。グスタフは叫んだ。

「エルンストが斬られた。屋敷に」

 グスタフがひざまずく傍に倒れているエルンストは苦し気に呻いていた。
 若者達は一大事とばかりに寒さよけのマントを脱いで、その上にエルンストを寝かせ館へと運んだ。別の若者は他の村人を呼んで、不審な男二人の死体を村の役人のところに運ばせた。



 館は大騒ぎになった。グスタフはエルンストを自分の寝室に運ぶように指示した。すぐに医者が呼ばれ、エルンストの腕の怪我の手当てがされた。
 医者は傷は浅いが剣に毒物が塗られていたようで、もし毒がまわればもたぬかもしれぬと言った。とりあえず手元にある解毒薬を塗ったが有効かどうかわからぬので、隣の伯爵領にいる医師からもっと強い薬を融通してもらうとも言った。
 乳母のハンナは息子の一大事に気丈な態度で臨んだ。

「グスタフ様を守るために息子は戦ったのです。これで命を失うのは本望」

 だが、それはグスタフの望むところではない。エルンストは生まれた時からともにいて兄弟のように育ち、友人でもあった。かけがえのない者なのだ。

「では、俺が馬で伯爵領に行き、薬を取ってこよう」

 老いた医師の足では伯爵領に行って戻ってくるまで三日はかかる。馬車を使ってもまる一日。だが、愛馬のテオならば半日、今から行けば明日の昼には戻ってこれる。
 館の管理一切を引き受けている執事のバックハウスはとんでもないことと止めた。公爵の息子が乳兄弟を自分の寝室に寝かせること自体ありえない話なのだ。ましてや、薬を取りに行くなど。

「俺は男として、かけがえのない友のために行くのだ。身分など関係ない」

 医者から書いてもらった手紙を懐に、グスタフはうまやに走ると自らテオに鞍をつけ跨った。
 引き留めようと追いかける下男たちに構わずグスタフは叫んだ。

「エルンスト、待っていろ! 必ず助けてやる」





 その頃、斬り合いのあった現場に戻って来た村の若者は男が倒れていた場所に不似合な絹のハンカチーフを見つけた。黄色いバラの刺繍を見た若者はこれと同じものを今年の夏に見たことを思い出し震えた。無論、寒さのためだけではない。


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