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「……どうぞ」
ミアが仏頂面でテーブルの上に瓶を二本置くと、ユーダレウスは低い声で礼を言った。
ジュースの瓶を取って栓を抜き、ティニのコップに注ぎ入れる。そのまま続けて、残りを新しいコップに注いだ。
「こっちはもういい」
ユーダレウスが酒の瓶をミアに返す。それを見たマーサが怪訝そうな顔をした。
「何だい。お前さん、昔はもっと飲んだだろう。お代がうち持ちだからって遠慮してるなら……」
「いや。飲んでも酔わねえから、飽きてな。たらふく飲むのは随分前にやめた」
ユーダレウスは淡いオレンジ色をした柑橘のジュースを、ぐい、と呷った。
動いた頭につられて長い銀髪が男の肩から滑り降りる。傷んだ毛先が明かりに照らされて、まるでガラス粒をまぶしたように光った。ミアはそれを睨みつけると、不満げに鼻を鳴らす。
「魔術師様のお口に合う酒が出せなくて、申し訳ないわ」
わざと憎まれ口を叩いて厨房に戻っていく孫娘を見届けたマーサが、手持ち無沙汰にテーブルの上に並んだ小ぶりな果実を一つ取り、指で薄い皮を剥いていく。
「悪いね、ユーダレウス。あの子、まじないの類を毛嫌いしててね。あんたのそれは、まじないなんかとは別ものだと言ってはみたんだけど」
弱ったように片眉を下げたマーサは、剥き終わった果実をティニに差し出した。ティニが素直に果実を受け取って頬張ったのを横目に見ながら、ユーダレウスは自嘲気味に口の端を上げる。
「……今日日、まじないも魔術も似たようなもんだろ」
「馬鹿言いなさんな。あんたは別格だろうが」
真剣なその声に、眉間の皺を深くしたユーダレウスは何も答えず、コップに注がれた甘酸っぱい風味を飲み干す。
早々に果実を食べ終わったティニが、フォークを手に取った。目の前の料理に取り掛かることにしたらしい。
照りのあるソースを絡めた揚げ肉団子のように見えるが、その主な材料が肉でないことをユーダレウスは知っていた。
「いただきます」
ティニは、小さな口には余る団子を半分だけ頬張り、ゆっくりと味わうように目を細める。よく噛んでごくんと飲み込むと、気に入ったのかすぐに残りの半分も口の中に入れた。
「美味しいかい?」
尋ねるマーサに、ティニは何度も頷いて答える。それだけでも美味いと言いたい気持ちは十分に伝わるが、行儀よく口の中の物を飲み込んだティニは興奮したように口を開いた。
「これ、初めて食べたけど、すっごく美味しいです!」
その顔は相変わらず人形のように動きがない。しかしよく見れば、海より鮮やかな青い瞳は、美味な食事にありついた喜びにきらきらと輝いている。
すっかりティニの虜となっている婦人方が、それを見て色めき立った。料理の皿を持って通りかかったミアも、思わずその仏頂面を緩めて小さく微笑んだほどだ。
温かで柔らかい空気の中、今ティニが食べたのは、ティニが恐れているイカの身を細かく刻んで団子にしたものであることを、本人には絶対に言うまいとユーダレウスは心に決めた。
ミアが仏頂面でテーブルの上に瓶を二本置くと、ユーダレウスは低い声で礼を言った。
ジュースの瓶を取って栓を抜き、ティニのコップに注ぎ入れる。そのまま続けて、残りを新しいコップに注いだ。
「こっちはもういい」
ユーダレウスが酒の瓶をミアに返す。それを見たマーサが怪訝そうな顔をした。
「何だい。お前さん、昔はもっと飲んだだろう。お代がうち持ちだからって遠慮してるなら……」
「いや。飲んでも酔わねえから、飽きてな。たらふく飲むのは随分前にやめた」
ユーダレウスは淡いオレンジ色をした柑橘のジュースを、ぐい、と呷った。
動いた頭につられて長い銀髪が男の肩から滑り降りる。傷んだ毛先が明かりに照らされて、まるでガラス粒をまぶしたように光った。ミアはそれを睨みつけると、不満げに鼻を鳴らす。
「魔術師様のお口に合う酒が出せなくて、申し訳ないわ」
わざと憎まれ口を叩いて厨房に戻っていく孫娘を見届けたマーサが、手持ち無沙汰にテーブルの上に並んだ小ぶりな果実を一つ取り、指で薄い皮を剥いていく。
「悪いね、ユーダレウス。あの子、まじないの類を毛嫌いしててね。あんたのそれは、まじないなんかとは別ものだと言ってはみたんだけど」
弱ったように片眉を下げたマーサは、剥き終わった果実をティニに差し出した。ティニが素直に果実を受け取って頬張ったのを横目に見ながら、ユーダレウスは自嘲気味に口の端を上げる。
「……今日日、まじないも魔術も似たようなもんだろ」
「馬鹿言いなさんな。あんたは別格だろうが」
真剣なその声に、眉間の皺を深くしたユーダレウスは何も答えず、コップに注がれた甘酸っぱい風味を飲み干す。
早々に果実を食べ終わったティニが、フォークを手に取った。目の前の料理に取り掛かることにしたらしい。
照りのあるソースを絡めた揚げ肉団子のように見えるが、その主な材料が肉でないことをユーダレウスは知っていた。
「いただきます」
ティニは、小さな口には余る団子を半分だけ頬張り、ゆっくりと味わうように目を細める。よく噛んでごくんと飲み込むと、気に入ったのかすぐに残りの半分も口の中に入れた。
「美味しいかい?」
尋ねるマーサに、ティニは何度も頷いて答える。それだけでも美味いと言いたい気持ちは十分に伝わるが、行儀よく口の中の物を飲み込んだティニは興奮したように口を開いた。
「これ、初めて食べたけど、すっごく美味しいです!」
その顔は相変わらず人形のように動きがない。しかしよく見れば、海より鮮やかな青い瞳は、美味な食事にありついた喜びにきらきらと輝いている。
すっかりティニの虜となっている婦人方が、それを見て色めき立った。料理の皿を持って通りかかったミアも、思わずその仏頂面を緩めて小さく微笑んだほどだ。
温かで柔らかい空気の中、今ティニが食べたのは、ティニが恐れているイカの身を細かく刻んで団子にしたものであることを、本人には絶対に言うまいとユーダレウスは心に決めた。
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