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「しかし、痩せてるね。ユーダレウス、あんたこの子にしっかり食べさせてるのかい?」
マーサの言葉に、集まっていたマーサの友人たちが同調する。ユーダレウスはうるさそうに顔を顰めて「食わせてるに決まってんだろ」と返事をした。
「何を食べさせてるかが問題なんだろう」
呆れた様子で言うマーサに、付け合わせの揚げた芋をフォークに刺していたティニが言う。
「師匠のごはん、いつも美味しいですよ」
「おや、そうなのかい」
予想外の答えだったのか、マーサは目を開いた。
隣のテーブルに座る、品の良い老婦人から「いつもはどんなものを食べるの?」と聞かれ、ティニはフォークを置いてそちらを向いた。
「えっと、野菜のシチューも美味しいし、たまごを焼いたのをチーズといっしょにパンにはさんだやつも美味しいです。あとお魚を……何かしたやつも好きです。でも師匠のごはんは全部、全部美味しいです」
裏表のない弟子の褒め倒しがむず痒く、ユーダレウスは眉間に皺を増やして顔ごと視線を逸らした。追い打ちをかけるように、ティニは「パンもいつもふわふわです」と嬉しそうに今日一番の微笑みを見せた。途端に周囲は猫なで声の「あらあら、まあまあ」の大合唱となった。
ふわふわとした曇天色の頭を、ごつごつとした手が後ろから乱暴に撫でる。
「大魔術師さまの作った飯か! 俺もいっぺんありついてみてえな!」
厨房がひと段落ついたトレバーは、ティニの頭から手を放し、マーサの隣の席に腰を落ち着けた。ちゃっかりジョッキを持って来た辺り、メアリの目を盗んで酒の調達に来たようだ。
トレバーはジョッキに発泡酒を注ぐと、干からびる直前だった人が水にありついたかのように一気に飲んで、たまらないとばかりに声を上げる。
その姿に、くすくすとさざ波のような笑い声が上がった。
「まったくこの飲んだくれ。恥ずかしいったらないよ!」
マーサがトレバーの背をバシンと叩く。しかし、逞しい体格のトレバーはものともせずに、ジョッキの底に残った酒をぐいと呷るとすっかり赤くなった顔をティニに向けた。
「な、やっぱり美味えんだろ? なんてったって魔術で作った飯だもんなあ」
香ばしく揚げた芋をぱくりと頬張ったティニが、違うと首を振る。
追加の酒を注ぎながら、うっとりと自分の想像に思いを馳せていたトレバーが、ティニに視線を戻した。それでも酒を注ぐ手を止めないのはさすがと言うべきか。
「師匠はごはん作るとき、魔術使ってないですよ」
途中で自信がなくなったのか「そうですよね?」と言って服を手で引いて見上げてくる弟子に、ユーダレウスは不機嫌な顔のまま肯定の意味で低く唸る。するとティ二は自分のことのように、自慢げに胸を張った。
「ユーダレウス、あんた料理までするのかい」
面食らったマーサの問いかけに、ユーダレウスはそっぽを向いたまま、呟くように答えた。
「……暇つぶしにやりだしたらはまっただけだ」
「昔っから、縫い物でも洗濯でも、なんでも自分でやる男だとは思ってたけど……」
感心を通り越して呆然としたマーサの代わりに、その場に居合わせた恰幅の良い女が感嘆の声を漏らす。
「生憎、時間だけはあるからな」
ユーダレウスが自嘲的に笑ったのを皮切りに、周囲に集った婦人方がまるでうら若い少女に戻ったかのようにきゃらきゃらとかしましく声を上げた。
「ほんと、根無し草にしておくのが惜しいわあ!」
「背も高いし、体格もいいし」
「ちょっと怖いけど男前だし?」
「声も素敵だしねえ」
通りかかったメアリが足を止め、身を少し傾けて話の輪に入る。
「それになんと言っても、凄腕の魔術師さまですしね」
女性陣のユーダレウス賛美にメアリが参加したことにより、トレバーがつまらなそうに口を尖らせ、自らのジョッキに並々と酒を注ぐ。まるで拗ねた子供のようにジョッキの縁から酒を啜るトレバーを見て、マーサが額を手で抱えた。
「まったく、飲んだくれるしか能のないうちのお父ちゃんと取り替えてほしいもんだわ!」
一人が豊かな腹を揺らしながらそう宣言すると、少し離れた席ですっかり酔った表情の男が一人、テーブルに突っ伏してわっと泣き出した。
「ちょっとちょっと、あんたんとこのダンナよ、あれ」
「まったく、あの泣き上戸! しょうがないんだから」
言葉のわりに優しい声音でそう言うと、女は少々幅をとる腹回りを精一杯引っ込めて席の間を縫うようにして夫の元へと向かう。店中に「捨てないでくれェ!」と泣きむせぶ声が響き渡り、たちまち笑いの渦に包まれた。
つられて声を上げて笑ったユーダレウスに、ティニが目を丸くして皿の上にフォークを取り落とす。
――せっせと食事に集中していたくせに、なんでこんな時ばかり見ているのか。
なんとなく面映ゆい気持ちで喉が詰まるのを感じながら、弟子の視線を逸らすために頭をぐりぐりと強くなでる。手を放すとティニは大きな目をぱちくりとさせ、まっすぐにユーダレウスを見た。
「師匠って、笑うんですね……」
「そりゃ生きてりゃ何かしら笑うだろ」
もう一回、見られはしないかと期待の眼差しで見つめてくる幼い視線を、どうやっても逸らせないと悟ったユーダレウスは、自棄になってティニの皿に残った最後の一つのイカ団子にフォークを突き刺し、がぶりとひと口で頬張った。
残念そうな非難の声を上げるティニを無視して、もぐもぐと咀嚼する。
イカのこりこりとした歯ごたえが楽しく、店秘伝の甘辛いソースも絶品で、幼い弟子への小さな不満など、一瞬で吹き飛んでしまった。
「……ん。美味い。やっぱここのメシには敵わねえな」
満足そうに頷いたユーダレウスに、ひたすらちまちまと酒を舐めていたトレバーが顔を上げた。銀の瞳と視線がかち合うと、照れた少年のようにくしゃりと笑った。
マーサの言葉に、集まっていたマーサの友人たちが同調する。ユーダレウスはうるさそうに顔を顰めて「食わせてるに決まってんだろ」と返事をした。
「何を食べさせてるかが問題なんだろう」
呆れた様子で言うマーサに、付け合わせの揚げた芋をフォークに刺していたティニが言う。
「師匠のごはん、いつも美味しいですよ」
「おや、そうなのかい」
予想外の答えだったのか、マーサは目を開いた。
隣のテーブルに座る、品の良い老婦人から「いつもはどんなものを食べるの?」と聞かれ、ティニはフォークを置いてそちらを向いた。
「えっと、野菜のシチューも美味しいし、たまごを焼いたのをチーズといっしょにパンにはさんだやつも美味しいです。あとお魚を……何かしたやつも好きです。でも師匠のごはんは全部、全部美味しいです」
裏表のない弟子の褒め倒しがむず痒く、ユーダレウスは眉間に皺を増やして顔ごと視線を逸らした。追い打ちをかけるように、ティニは「パンもいつもふわふわです」と嬉しそうに今日一番の微笑みを見せた。途端に周囲は猫なで声の「あらあら、まあまあ」の大合唱となった。
ふわふわとした曇天色の頭を、ごつごつとした手が後ろから乱暴に撫でる。
「大魔術師さまの作った飯か! 俺もいっぺんありついてみてえな!」
厨房がひと段落ついたトレバーは、ティニの頭から手を放し、マーサの隣の席に腰を落ち着けた。ちゃっかりジョッキを持って来た辺り、メアリの目を盗んで酒の調達に来たようだ。
トレバーはジョッキに発泡酒を注ぐと、干からびる直前だった人が水にありついたかのように一気に飲んで、たまらないとばかりに声を上げる。
その姿に、くすくすとさざ波のような笑い声が上がった。
「まったくこの飲んだくれ。恥ずかしいったらないよ!」
マーサがトレバーの背をバシンと叩く。しかし、逞しい体格のトレバーはものともせずに、ジョッキの底に残った酒をぐいと呷るとすっかり赤くなった顔をティニに向けた。
「な、やっぱり美味えんだろ? なんてったって魔術で作った飯だもんなあ」
香ばしく揚げた芋をぱくりと頬張ったティニが、違うと首を振る。
追加の酒を注ぎながら、うっとりと自分の想像に思いを馳せていたトレバーが、ティニに視線を戻した。それでも酒を注ぐ手を止めないのはさすがと言うべきか。
「師匠はごはん作るとき、魔術使ってないですよ」
途中で自信がなくなったのか「そうですよね?」と言って服を手で引いて見上げてくる弟子に、ユーダレウスは不機嫌な顔のまま肯定の意味で低く唸る。するとティ二は自分のことのように、自慢げに胸を張った。
「ユーダレウス、あんた料理までするのかい」
面食らったマーサの問いかけに、ユーダレウスはそっぽを向いたまま、呟くように答えた。
「……暇つぶしにやりだしたらはまっただけだ」
「昔っから、縫い物でも洗濯でも、なんでも自分でやる男だとは思ってたけど……」
感心を通り越して呆然としたマーサの代わりに、その場に居合わせた恰幅の良い女が感嘆の声を漏らす。
「生憎、時間だけはあるからな」
ユーダレウスが自嘲的に笑ったのを皮切りに、周囲に集った婦人方がまるでうら若い少女に戻ったかのようにきゃらきゃらとかしましく声を上げた。
「ほんと、根無し草にしておくのが惜しいわあ!」
「背も高いし、体格もいいし」
「ちょっと怖いけど男前だし?」
「声も素敵だしねえ」
通りかかったメアリが足を止め、身を少し傾けて話の輪に入る。
「それになんと言っても、凄腕の魔術師さまですしね」
女性陣のユーダレウス賛美にメアリが参加したことにより、トレバーがつまらなそうに口を尖らせ、自らのジョッキに並々と酒を注ぐ。まるで拗ねた子供のようにジョッキの縁から酒を啜るトレバーを見て、マーサが額を手で抱えた。
「まったく、飲んだくれるしか能のないうちのお父ちゃんと取り替えてほしいもんだわ!」
一人が豊かな腹を揺らしながらそう宣言すると、少し離れた席ですっかり酔った表情の男が一人、テーブルに突っ伏してわっと泣き出した。
「ちょっとちょっと、あんたんとこのダンナよ、あれ」
「まったく、あの泣き上戸! しょうがないんだから」
言葉のわりに優しい声音でそう言うと、女は少々幅をとる腹回りを精一杯引っ込めて席の間を縫うようにして夫の元へと向かう。店中に「捨てないでくれェ!」と泣きむせぶ声が響き渡り、たちまち笑いの渦に包まれた。
つられて声を上げて笑ったユーダレウスに、ティニが目を丸くして皿の上にフォークを取り落とす。
――せっせと食事に集中していたくせに、なんでこんな時ばかり見ているのか。
なんとなく面映ゆい気持ちで喉が詰まるのを感じながら、弟子の視線を逸らすために頭をぐりぐりと強くなでる。手を放すとティニは大きな目をぱちくりとさせ、まっすぐにユーダレウスを見た。
「師匠って、笑うんですね……」
「そりゃ生きてりゃ何かしら笑うだろ」
もう一回、見られはしないかと期待の眼差しで見つめてくる幼い視線を、どうやっても逸らせないと悟ったユーダレウスは、自棄になってティニの皿に残った最後の一つのイカ団子にフォークを突き刺し、がぶりとひと口で頬張った。
残念そうな非難の声を上げるティニを無視して、もぐもぐと咀嚼する。
イカのこりこりとした歯ごたえが楽しく、店秘伝の甘辛いソースも絶品で、幼い弟子への小さな不満など、一瞬で吹き飛んでしまった。
「……ん。美味い。やっぱここのメシには敵わねえな」
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