殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ

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「……ついに、お見合いの場所が地下の酒場になりましたわね」


ラブリーは、薄暗く埃っぽい店内のカウンターで、度数の低そうな果実酒をちびちびと煽っていました。
辺りには顔に傷のある荒くれ者たちがたむろし、不穏な空気が漂っています。


「ラブリー様、ここが正念場ですわ。今回のお相手は、裏社会を束ねる暗殺ギルドの若き首領、ゼロ様。……彼なら、殿下の権力が及ばない『闇』へ連れ去ってくれるかもしれませんわ!」


ミリーが、暗闇の中で光る猫のような目でメモ帳に『候補者⑨:デンジャラスな男』と書き込みました。
そこへ、音もなく背後から一人の男が現れました。
漆黒の衣装に身を包み、冷徹な殺気を放つ美青年。


「……俺がゼロだ。公爵令嬢がこんな場所へ何の用だ。……光り輝く場所へ帰れ。俺のそばにいるのは、死を隣り合わせにするということだぞ」


「死! なんて刺激的な響きかしら! 今の私には、殿下の過保護という名の窒息死の方が現実的ですわ。さあゼロ様、私を地の果てまで連れ去って、二度と誰にも見つからない場所に隠してくださいませ!」


ラブリーが必死に縋り付こうとした、その時です。
カウンターの下から、ヌッ、と見覚えのある白い手が伸びてきました。


「……待ちなさい。彼女を隠すなら、私の『個室』の方がよほど安全だよ」


「殿下!? 今度はカウンターの下に潜伏ですの!? 埃だらけになりますわよ!」


中から現れたのは、暗殺者よりも暗殺者らしい、特殊な消音迷彩(カメレオン魔法付き)の漆黒スーツを纏ったクロードでした。


「邪魔をしているわけではないよ、ラブリー。私はただ、君の隠れ先における『生存率』をプロの視点から査定しているだけだ。……ゼロ君。君のギルドのセキュリティは、私の開発した『全自動ラブリー探索衛星』を回避できるのかい?」


「……衛星? 何を言っている、この男は」


「この衛星は、ラブリーの体温、心音、そして彼女が放つ特有の『愛らしいオーラ』を宇宙から常時スキャンしている。たとえ君が地下百メートルの核シェルターに彼女を隠したとしても、私の端末には常に彼女の現在地がセンチメートル単位で表示されるんだ」


クロードが手首の端末を操作すると、空中にラブリーの現在地を示す真っ赤なドットが表示されました。


「殿下! それ、お見合い相手への牽制じゃなくて、ただのストーカーの告白ですわ!」


「ラブリー様、殿下の技術がもはや軍事機密のレベルですわ……」


ミリーが震えながら追記しました。
ゼロは、自分の「隠密技術」が、最新鋭のテクノロジーと執念の前に、赤子同然であることに驚愕しました。


「……ふん、位置が分かったところで、俺の配下たちが黙っていない。この酒場にいる百人の暗殺者が、貴様を――」


「ああ、彼らなら先ほど全員『公務員』として採用しておいたよ。給与三倍、退職金完備、有給休暇もしっかり取れるホワイトな騎士団の別働隊だ。……君たち、挨拶を」


酒場の荒くれ者たちが一斉に立ち上がり、クロードに向かって完璧な敬礼を捧げました。
「「「殿下! 国民の義務、果たさせていただきます!」」」


「……裏切り者どもが! 金か! 金に屈したのか!」


「愛だよ、ゼロ君。私は彼らに『ラブリーを守る仕事の尊さ』を三時間かけて説いたんだ。……さあ、ゼロ君。君に、彼女を隠すために、全人類の目を欺き、衛星をハッキングし、私の私財すべてと戦う覚悟があるのかい?」


「……無い。そんな、国家予算と狂気を敵に回すような真似はできない……! ……降参だ。俺の負けだ。影は光には勝てないが、貴様の執念は影よりも暗い……!」


ゼロは、自分のギルドが実質的に「王立ラブリー護衛団」に吸収されたことを知り、肩を落として闇の中へと消えていきました。
またしても、クロードによる「買収とテクノロジー」の勝利です。


「……殿下。もう、この国の裏社会まであなたの手中に落ちましたわ。私の逃げ場、本当に地球上に存在しますの?」


ラブリーが絶望の淵で問うと、クロードは優しく彼女の肩を抱きました。


「何を言うんだ、ラブリー。私は君に『最高』を見つけたいだけなんだ。……さて、次は誰だったかな? ……あ、次はついに、このお見合い合戦の最終兵器。隣国の『伝説の勇者』だね」


「……次は世界を救った男が来るんですのね。ミリー様、もう私の人生、魔王を倒す方が簡単そうですわ……」


「ラブリー様、殿下の方がよほど魔王に近いですわ……」


自由を求めるラブリーの道は、ついに伝説の領域へと突入し、彼女を逃がさないための監視網は、宇宙規模へと拡大していくのでした。
ミリーのメモ帳には、『候補者⑨:ゼロ、殿下の衛星監視と全員スカウト作戦により、組織ごと消滅』と、無慈悲な記録が残されました。
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