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「……もう、ここがどこなのかも分かりませんわ。ミリー様、空気が薄い気がします」
ラブリーは、標高三千メートルを超える聖峰の頂(いただき)に立っていました。
周囲には雲が流れ、神々しい静寂が支配する場所。
そこで彼女を待っていたのは、背中に巨大な聖剣を背負い、全身から黄金のオーラを放つ美青年でした。
隣国の伝説、魔王を討ち果たした勇者・アルカディア。
「ラブリー様、彼こそが究極の護衛対象ですわ。世界を救った力があれば、殿下の過干渉という名の魔の手からも、きっと守ってくださるはずですわ!」
ミリーが、酸欠になりかけながらもメモ帳に『候補者⑩:ガチの勇者』と書き込みました。
アルカディアは、その凛々しい眉を上げ、ラブリーへ手を差し伸べました。
「ラブリー殿。君の噂は聞いている。殿下に捨てられ、行き場を失った孤独な魂……。案ずることはない。俺がその聖剣で、君の行く手を阻むすべての障害を切り裂いてみせよう。たとえそれが、王家の執念であろうともな!」
「聖剣で切り裂く……! なんて頼もしい響きなのかしら。勇者様、ぜひ私を連れて行ってくださいませ! 伝説の英雄の隣なら、いかなる王子も手出しはできますまい!」
ラブリーが歓喜に震え、アルカディアの手を取ろうとしたその瞬間です。
アルカディアが背負っていた、神代の金属で出来ているはずの「聖剣の箱」が、内側から凄まじい力で弾け飛びました。
「……待ちなさい。その『障害』、私がすでに殲滅済みだよ」
「殿下!? 今度は勇者の武器庫の中に潜伏ですの!? 聖剣が、聖剣が真っ二つに折れていますわよ!」
中から現れたのは、勇者よりも勇者らしい「超・伝説級(自作)」の魔導甲冑に身を包んだクロードでした。
その手には、聖剣よりも遥かに禍々しい……いや、眩しく輝く「対・勇者用ラブリー守護剣」が握られていました。
「邪魔をしているわけではないよ、ラブリー。私はただ、君を護る者の『火力不足』を懸念しているだけだ。……アルカディア君。君は魔王を倒したそうだが、彼女の『寝癖』一つ直すための繊細な魔法制御はできるのかい?」
「……寝癖? 俺は邪悪な魔力を断つための剣技を極めた男だ。髪の手入れなど、侍女の仕事だろう!」
「却下だ。ラブリーの髪は非常に繊細なシルク構造をしている。……私はすでに、彼女の髪一本一本に『自動修復・常時艶出し魔法』を付与し、風が吹くたびに彼女の好きな花の香りが漂う『全自動芳香粒子散布システム』を構築済みだ。君に、これほどの精密な加護ができるのかい?」
「殿下、それ、加護じゃなくてただの魔改造ですわ! 私は歩く香水瓶ではありませんわよ!」
「ラブリー様、殿下の執念が、ついに神の領域を超えてしまいましたわ……」
ミリーが酸素を求める魚のように口をパクパクさせながら追記しました。
アルカディアは、己の愛剣が、クロードの「執着という名の物理的な重圧」で粉砕されたことに、膝を突きました。
「……ば、馬鹿な。この聖剣は、世界を救うために女神から授かったものだぞ。それを、一個人の執念が上回るというのか……!?」
「世界を救う? 私は彼女の『機嫌』を救いたいだけだよ。アルカディア君。君は魔王と戦ったそうだが、彼女が『おやつがない』と拗ねた時の、あの絶望的な空気感に耐えられるのかい? 私はその瞬間のために、世界の食料事情を裏で操作し、彼女の好物であるイチゴの品種改良を三十年分先取りさせているんだが」
「品種改良を三十年!? 殿下、公務員どころか、もはや創造主の真似事をしていますわ!」
「さあ、アルカディア君。君に、彼女の笑顔をたった一秒守るために、因果律を書き換え、歴史を再編する覚悟があるのかい?」
「……無い。そんな、たった一人の女のために世界を改変するような狂気、俺の辞書には無い……! 降参だ。俺は世界を救ったが、貴様は一人の女のために世界を滅ぼしかねない。……貴様こそが、真の魔王だ!」
伝説の勇者は、初めて「勝てない敵」を目の当たりにし、涙を流しながら断崖から飛び去って(飛行魔法で)いきました。
またしても、クロードによる「執着が産んだ神殺し」の勝利です。
「……殿下。もう、この世界にまともな男は残っていませんわ。勇者様ですら逃げ出すお見合いなんて、最初から詰んでいましたのね」
ラブリーが虚無の瞳で空を見つめると、クロードは優しく、そして逃がさない強さで彼女の腰を抱き寄せました。
「何を言うんだ、ラブリー。私は君に『最高』を見つけたいだけなんだ。……さて、これで候補者はすべて終了だね」
「……終わりましたの? ついに、この地獄のようなお見合い合戦が?」
ラブリーが安堵の息を漏らしたその時、ミリーが慌てた様子でメモ帳の最終ページをめくりました。
「ま、お待ちください! ラブリー様! まだお一人、お名前が載っていない候補者が……。あ、あれ? この名前は……」
「……おや。リストの最後に、とびきり相応しい男が残っていたようだね」
クロードが、今までにないほど不敵で、甘やかな微笑みを浮かべました。
自由を求めたラブリーの旅路。
そのゴール地点に待ち構えていたのは、皮肉にも、彼女が最も遠ざけようとした「運命」そのものでした。
「ラブリー。最後の一人と、面会してくれないかな? ……彼は、君のためなら世界を敵に回し、因果を壊し、宇宙の果てまで追いかける覚悟ができている男だ」
「……それ、間違いなくあなたじゃありませんことーっ!?」
ラブリーの絶叫が、聖峰の頂から世界中に響き渡りました。
ラブリーは、標高三千メートルを超える聖峰の頂(いただき)に立っていました。
周囲には雲が流れ、神々しい静寂が支配する場所。
そこで彼女を待っていたのは、背中に巨大な聖剣を背負い、全身から黄金のオーラを放つ美青年でした。
隣国の伝説、魔王を討ち果たした勇者・アルカディア。
「ラブリー様、彼こそが究極の護衛対象ですわ。世界を救った力があれば、殿下の過干渉という名の魔の手からも、きっと守ってくださるはずですわ!」
ミリーが、酸欠になりかけながらもメモ帳に『候補者⑩:ガチの勇者』と書き込みました。
アルカディアは、その凛々しい眉を上げ、ラブリーへ手を差し伸べました。
「ラブリー殿。君の噂は聞いている。殿下に捨てられ、行き場を失った孤独な魂……。案ずることはない。俺がその聖剣で、君の行く手を阻むすべての障害を切り裂いてみせよう。たとえそれが、王家の執念であろうともな!」
「聖剣で切り裂く……! なんて頼もしい響きなのかしら。勇者様、ぜひ私を連れて行ってくださいませ! 伝説の英雄の隣なら、いかなる王子も手出しはできますまい!」
ラブリーが歓喜に震え、アルカディアの手を取ろうとしたその瞬間です。
アルカディアが背負っていた、神代の金属で出来ているはずの「聖剣の箱」が、内側から凄まじい力で弾け飛びました。
「……待ちなさい。その『障害』、私がすでに殲滅済みだよ」
「殿下!? 今度は勇者の武器庫の中に潜伏ですの!? 聖剣が、聖剣が真っ二つに折れていますわよ!」
中から現れたのは、勇者よりも勇者らしい「超・伝説級(自作)」の魔導甲冑に身を包んだクロードでした。
その手には、聖剣よりも遥かに禍々しい……いや、眩しく輝く「対・勇者用ラブリー守護剣」が握られていました。
「邪魔をしているわけではないよ、ラブリー。私はただ、君を護る者の『火力不足』を懸念しているだけだ。……アルカディア君。君は魔王を倒したそうだが、彼女の『寝癖』一つ直すための繊細な魔法制御はできるのかい?」
「……寝癖? 俺は邪悪な魔力を断つための剣技を極めた男だ。髪の手入れなど、侍女の仕事だろう!」
「却下だ。ラブリーの髪は非常に繊細なシルク構造をしている。……私はすでに、彼女の髪一本一本に『自動修復・常時艶出し魔法』を付与し、風が吹くたびに彼女の好きな花の香りが漂う『全自動芳香粒子散布システム』を構築済みだ。君に、これほどの精密な加護ができるのかい?」
「殿下、それ、加護じゃなくてただの魔改造ですわ! 私は歩く香水瓶ではありませんわよ!」
「ラブリー様、殿下の執念が、ついに神の領域を超えてしまいましたわ……」
ミリーが酸素を求める魚のように口をパクパクさせながら追記しました。
アルカディアは、己の愛剣が、クロードの「執着という名の物理的な重圧」で粉砕されたことに、膝を突きました。
「……ば、馬鹿な。この聖剣は、世界を救うために女神から授かったものだぞ。それを、一個人の執念が上回るというのか……!?」
「世界を救う? 私は彼女の『機嫌』を救いたいだけだよ。アルカディア君。君は魔王と戦ったそうだが、彼女が『おやつがない』と拗ねた時の、あの絶望的な空気感に耐えられるのかい? 私はその瞬間のために、世界の食料事情を裏で操作し、彼女の好物であるイチゴの品種改良を三十年分先取りさせているんだが」
「品種改良を三十年!? 殿下、公務員どころか、もはや創造主の真似事をしていますわ!」
「さあ、アルカディア君。君に、彼女の笑顔をたった一秒守るために、因果律を書き換え、歴史を再編する覚悟があるのかい?」
「……無い。そんな、たった一人の女のために世界を改変するような狂気、俺の辞書には無い……! 降参だ。俺は世界を救ったが、貴様は一人の女のために世界を滅ぼしかねない。……貴様こそが、真の魔王だ!」
伝説の勇者は、初めて「勝てない敵」を目の当たりにし、涙を流しながら断崖から飛び去って(飛行魔法で)いきました。
またしても、クロードによる「執着が産んだ神殺し」の勝利です。
「……殿下。もう、この世界にまともな男は残っていませんわ。勇者様ですら逃げ出すお見合いなんて、最初から詰んでいましたのね」
ラブリーが虚無の瞳で空を見つめると、クロードは優しく、そして逃がさない強さで彼女の腰を抱き寄せました。
「何を言うんだ、ラブリー。私は君に『最高』を見つけたいだけなんだ。……さて、これで候補者はすべて終了だね」
「……終わりましたの? ついに、この地獄のようなお見合い合戦が?」
ラブリーが安堵の息を漏らしたその時、ミリーが慌てた様子でメモ帳の最終ページをめくりました。
「ま、お待ちください! ラブリー様! まだお一人、お名前が載っていない候補者が……。あ、あれ? この名前は……」
「……おや。リストの最後に、とびきり相応しい男が残っていたようだね」
クロードが、今までにないほど不敵で、甘やかな微笑みを浮かべました。
自由を求めたラブリーの旅路。
そのゴール地点に待ち構えていたのは、皮肉にも、彼女が最も遠ざけようとした「運命」そのものでした。
「ラブリー。最後の一人と、面会してくれないかな? ……彼は、君のためなら世界を敵に回し、因果を壊し、宇宙の果てまで追いかける覚悟ができている男だ」
「……それ、間違いなくあなたじゃありませんことーっ!?」
ラブリーの絶叫が、聖峰の頂から世界中に響き渡りました。
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