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「……はぁ。やっと、やっと終わりましたのね」
ラブリーは、公爵邸の自室でベッドにダイブしました。
十人の候補者。騎士、文官、豪商、詩人、王子、司祭、発明家、暗殺者、そして勇者。
世界中から集まった(あるいは殿下が無理やり連れてきた)精鋭たちが、ことごとく「クロードという名の災害」によって再起不能にされる様を見届けた一週間でした。
「ミリー様、お疲れ様でしたわ。あのリスト、もう全部斜線で埋まりましたわね?」
「ええ、ラブリー様。私のメモ帳も、もはや『殿下の異常行動記録』という名の黒歴史ノートと化しましたわ。……でも、おかしいですわね。殿下が仰っていた最後の一人、まだお見えになりませんわ」
ミリーが首を傾げながら、クッキーを齧りました。
その時です。部屋の扉が、かつてないほどエレガントに、かつ重厚に開かれました。
「お待たせしたね。……最後の一人の、入場だ」
現れたのは、もはや変装も潜伏もしていない、正真正銘の第一王子クロード・ド・マニフィークでした。
彼はタキシードの襟を正し、バラの花束……ではなく、これまで彼がラブリーのために開発した「過保護技術の目録」を抱えていました。
「……殿下。もういい加減にしてくださいまし。最後の一人はどこにいらっしゃいますの? 早く連れてきて、さっさと粉砕して終わらせましょう」
「何を言っているんだい、ラブリー。君の目の前にいるじゃないか」
クロードは、流れるような動作でラブリーの前に膝をつきました。
その瞳には、一国の王子としての威厳と、それを完全に上回る「狂おしいほどの執着」が同居しています。
「最終候補、エントリーナンバー十一番。クロード・ド・マニフィークだ。職業、第一王子。特技、君の健康管理と二十四時間体制の監視。趣味、君の幸せを科学と魔術で捏造すること」
「……はい?」
ラブリーの思考が、一秒ほど停止しました。
「殿下。……あなた、自分で自分をリストに入れたんですの?」
「当たり前じゃないか。世界中を探したが、君を私以上に愛し、君の我儘を全肯定し、君のために床暖房を敷き詰め、宇宙に衛星を飛ばせる男は、私以外に見当たらなかった。……だから、私が立候補することにしたよ」
「却下ですわ! 婚約破棄! 私たちはつい先日、生クリームとともに婚約を解消したばかりではありませんこと!」
「解消したからこそ、新しい出会いが必要だろう? クロードという名の新しい男と、ラブリーという名の自由な女性。……これは、運命の再会なんだ」
「名前が変わっていませんわよ! 都合よく記憶喪失のフリをしないでくださいまし!」
ラブリーが絶叫しますが、クロードは動じません。彼は懐から、一通の書類を取り出しました。
「これを見てくれ。君の再婚相手に求める条件……『私の悪行を許してくれること』『私のことを一番に考えてくれること』『私のために世界を敵に回せること』。……すべて、私が最高得点でクリアしている」
「それは、あなたが他の候補者を物理的に排除したからですわ!」
「結果がすべてだよ、ラブリー。……ミリー嬢、判定を」
振られたミリーは、口の中のクッキーを飲み込み、真顔でメモ帳を掲げました。
「判定……『他に選択肢が絶滅したため、暫定優勝』ですわ。おめでとうございます、殿下」
「ミリー様!? あなたまで裏切りますの!?」
「だってラブリー様、考えてもみてください。殿下以外の男と結婚したら、その旦那様、三日で殿下に『消去』されてしまいますわよ? そんな物騒な生活に耐えられる男性、もうこの星には生存しておりませんわ」
ミリーの言葉は、残酷なまでに真実でした。
クロードはこの一週間で、ラブリーに関わろうとする全男性に対し、「私という壁を越えられないなら死あるのみ」という恐怖政治を徹底させてしまったのです。
「さあ、ラブリー。お見合いの儀式は終了だ。君は自由だと言ったね。……私の腕の中という、世界で一番安全で、逃げ場のない自由を謳歌するといい」
クロードが優しく、しかし有無を言わせぬ力強さでラブリーの手を取りました。
「……殿下。私、悪役令嬢として嫌われたかっただけなんですのよ。……どうして、より深く愛される結果になってしまいましたの?」
「それが君の天性であり、私の宿命だからだよ。……さて、お見合いが終わったところで、次は『婚約発表パーティー』の準備だね。今度はクリームではなく、本物のダイヤモンドを降らせる予定なんだ」
「やめてくださいまし! 怪我人が出ますわ!」
ラブリーの叫びは、もはや殿下の耳には心地よいBGMとしてしか届いていませんでした。
自由への道。それは、クロードという名の深淵へと続く一本道だったのです。
「……ミリー様。私、もう一度だけ、婚約破棄をやり直してもよろしいかしら?」
「無理ですわね、ラブリー様。次やったら、殿下、たぶん地球を二つに割ってでもあなたを繋ぎ止めますわよ」
ラブリーは天を仰ぎ、自分が仕掛けた「愛ゆえの計画」が、あまりにも完璧に自分を追い詰めてしまったことを悟るのでした。
ラブリーは、公爵邸の自室でベッドにダイブしました。
十人の候補者。騎士、文官、豪商、詩人、王子、司祭、発明家、暗殺者、そして勇者。
世界中から集まった(あるいは殿下が無理やり連れてきた)精鋭たちが、ことごとく「クロードという名の災害」によって再起不能にされる様を見届けた一週間でした。
「ミリー様、お疲れ様でしたわ。あのリスト、もう全部斜線で埋まりましたわね?」
「ええ、ラブリー様。私のメモ帳も、もはや『殿下の異常行動記録』という名の黒歴史ノートと化しましたわ。……でも、おかしいですわね。殿下が仰っていた最後の一人、まだお見えになりませんわ」
ミリーが首を傾げながら、クッキーを齧りました。
その時です。部屋の扉が、かつてないほどエレガントに、かつ重厚に開かれました。
「お待たせしたね。……最後の一人の、入場だ」
現れたのは、もはや変装も潜伏もしていない、正真正銘の第一王子クロード・ド・マニフィークでした。
彼はタキシードの襟を正し、バラの花束……ではなく、これまで彼がラブリーのために開発した「過保護技術の目録」を抱えていました。
「……殿下。もういい加減にしてくださいまし。最後の一人はどこにいらっしゃいますの? 早く連れてきて、さっさと粉砕して終わらせましょう」
「何を言っているんだい、ラブリー。君の目の前にいるじゃないか」
クロードは、流れるような動作でラブリーの前に膝をつきました。
その瞳には、一国の王子としての威厳と、それを完全に上回る「狂おしいほどの執着」が同居しています。
「最終候補、エントリーナンバー十一番。クロード・ド・マニフィークだ。職業、第一王子。特技、君の健康管理と二十四時間体制の監視。趣味、君の幸せを科学と魔術で捏造すること」
「……はい?」
ラブリーの思考が、一秒ほど停止しました。
「殿下。……あなた、自分で自分をリストに入れたんですの?」
「当たり前じゃないか。世界中を探したが、君を私以上に愛し、君の我儘を全肯定し、君のために床暖房を敷き詰め、宇宙に衛星を飛ばせる男は、私以外に見当たらなかった。……だから、私が立候補することにしたよ」
「却下ですわ! 婚約破棄! 私たちはつい先日、生クリームとともに婚約を解消したばかりではありませんこと!」
「解消したからこそ、新しい出会いが必要だろう? クロードという名の新しい男と、ラブリーという名の自由な女性。……これは、運命の再会なんだ」
「名前が変わっていませんわよ! 都合よく記憶喪失のフリをしないでくださいまし!」
ラブリーが絶叫しますが、クロードは動じません。彼は懐から、一通の書類を取り出しました。
「これを見てくれ。君の再婚相手に求める条件……『私の悪行を許してくれること』『私のことを一番に考えてくれること』『私のために世界を敵に回せること』。……すべて、私が最高得点でクリアしている」
「それは、あなたが他の候補者を物理的に排除したからですわ!」
「結果がすべてだよ、ラブリー。……ミリー嬢、判定を」
振られたミリーは、口の中のクッキーを飲み込み、真顔でメモ帳を掲げました。
「判定……『他に選択肢が絶滅したため、暫定優勝』ですわ。おめでとうございます、殿下」
「ミリー様!? あなたまで裏切りますの!?」
「だってラブリー様、考えてもみてください。殿下以外の男と結婚したら、その旦那様、三日で殿下に『消去』されてしまいますわよ? そんな物騒な生活に耐えられる男性、もうこの星には生存しておりませんわ」
ミリーの言葉は、残酷なまでに真実でした。
クロードはこの一週間で、ラブリーに関わろうとする全男性に対し、「私という壁を越えられないなら死あるのみ」という恐怖政治を徹底させてしまったのです。
「さあ、ラブリー。お見合いの儀式は終了だ。君は自由だと言ったね。……私の腕の中という、世界で一番安全で、逃げ場のない自由を謳歌するといい」
クロードが優しく、しかし有無を言わせぬ力強さでラブリーの手を取りました。
「……殿下。私、悪役令嬢として嫌われたかっただけなんですのよ。……どうして、より深く愛される結果になってしまいましたの?」
「それが君の天性であり、私の宿命だからだよ。……さて、お見合いが終わったところで、次は『婚約発表パーティー』の準備だね。今度はクリームではなく、本物のダイヤモンドを降らせる予定なんだ」
「やめてくださいまし! 怪我人が出ますわ!」
ラブリーの叫びは、もはや殿下の耳には心地よいBGMとしてしか届いていませんでした。
自由への道。それは、クロードという名の深淵へと続く一本道だったのです。
「……ミリー様。私、もう一度だけ、婚約破棄をやり直してもよろしいかしら?」
「無理ですわね、ラブリー様。次やったら、殿下、たぶん地球を二つに割ってでもあなたを繋ぎ止めますわよ」
ラブリーは天を仰ぎ、自分が仕掛けた「愛ゆえの計画」が、あまりにも完璧に自分を追い詰めてしまったことを悟るのでした。
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