殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ

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「……ミリー様。私、重大な事実に気づいてしまいましたわ」


深夜の公爵邸。ラブリーは、親友であり共犯者(という名の観客)であるミリーを無理やり泊めさせ、パジャマ姿で枕を抱えていました。


「……なんですの、藪から棒に。私、明日は殿下が主催する『ラブリー様称賛パレード』の警備計画のチェックに駆り出されるんですのよ? 早く寝かせてくださいまし」


ミリーは眠そうに目を擦りながら、ナイトキャップを直しました。


「私、殿下を自由にしてあげるために、婚約破棄を計画しましたわよね?」


「ええ。あなたが『私の愛は重すぎるから、殿下をもっとふわふわした可愛い子と結びつけてあげたいの!』って暴走したのが始まりですわね。……まぁ、私のことなんですけど」


「ええ。でも……今の状況を見てちょうだい。殿下、以前よりずっと楽しそうですわ。お見合い相手を物理的に排除している時のあの生き生きとした目……。あれは、自由を求めている男の顔ではありませんわ!」


ラブリーは枕に顔を埋め、悶絶するように足をバタつかせました。


「それに私……殿下にあんなに必死に追いかけられて、心のどこかで『最高ですわー!』って思ってしまっていますの! 悪女になって嫌われるはずが、愛の重さでマウントを取り合う泥仕合になっていますわ!」


「……今更ですわよ、ラブリー様。あなたたちの愛は、最初からベクトルが同じ方向を向いて暴走していただけなんですもの」


ミリーは呆れたように溜息をつき、温かいココアを一口飲みました。


「いいですか? 殿下は、あなたという『重い女』を御せるのは、自分という『さらに重い男』しかいないと確信してしまったんです。……これ、婚約破棄どころか、共依存の完成ですわよ」


「共依存……! なんて甘美で恐ろしい響きなのかしら! でも、それでは私の『悪役令嬢計画』が台無しですわ。私は、殿下に『あんな女と別れて正解だった』と思わせながら、陰で彼を支える薄幸の美女になりたかったのに!」


「設定が盛りすぎですわ。……大体、殿下が幸せなら、それで成功なんじゃないんですの?」


「それはそうですけれど! でも、私のプライドが許しませんわ! プロの悪役令嬢(自称)として、一度くらいは殿下に『本気で』引かれてみたいんですのよ!」


「……まだやる気なんですのね」


ミリーが戦慄した、その瞬間です。
バルコニーの窓が、外からコンコンと叩かれました。


「……こんな夜更けに、誰かしら。アンナ?」


ラブリーが窓を開けると、そこにはロープ一本で三階まで登ってきた、執念の塊のような王子が微笑んで立っていました。


「こんばんは、ラブリー。君が『本音』を語っていると聞いて、つい重力を無視して登ってきてしまったよ」


「殿下!? 今度は壁登りですの!? 警備兵は何をしていますの!」


「彼らには『今から愛の妖精が通るから、目を閉じていろ』と言ってある。……それよりラブリー、君は今、私に引かれたいと言ったね?」


クロードは軽やかに部屋へ飛び込むと、手にした奇妙な機械――無数のレンズと針がついた、発明家アクセルの試作品のようなもの――を差し出しました。


「これは『ドン引き・感応式・愛の測定器』だ。君が私にどれだけ嫌なことをしても、私の心拍数と精神汚染度を数値化してくれる。……さあ、試してみるといい。私が君に引くか、それとも愛が深まるか、科学的に決着をつけようじゃないか」


「……殿下。それを夜這い同然の状況で持ってくる時点で、引くのはこちらの方ですわよ」


ミリーのツッコミを無視し、クロードは測定器のスイッチを入れました。
ピー、という電子音が静かな部屋に響きます。


「さあ、ラブリー! 私を罵れ! 私のコレクションしている『君の抜け毛で作ったタペストリー』を燃やすと脅してもいいぞ!」


「待ってください、そんなものコレクションしていませんわよね!? あったら今すぐ私が引きますわよ!」


「……フフ、実はまだ制作途中なんだ。……さあ、どうだい? 私のこの『異常性』に、君は耐えられるかな?」


クロードが期待に満ちた目でラブリーを見つめます。
ラブリーは一瞬、言葉に詰まりましたが……その瞳を見て、顔を真っ赤にして叫びました。


「……っ、そんな気持ち悪いこと言う殿下なんて、……殿下なんて、世界で一番、愛おしいですわーっ!」


『ピピピピピ! 測定不能! 愛の出力が計測範囲を突破しました! 爆発します!』


機械が派手な火花を散らして爆発し、三人は煤だらけになりました。


「……ほら、ご覧なさい。引くどころか、逆効果ですわ」


ミリーが顔を拭きながら、冷めた声で言いました。
クロードは煤にまみれながらも、至福の表情でラブリーの手を取りました。


「……勝った。私の勝ちだ、ラブリー。君の『悪意』は、私の『愛』を燃料にして燃え上がるだけなんだよ。……さあ、明日はパレードだ。君を『世界一愛されている元・悪女』として披露する準備はできているよ」


「……もう、どうにでもなれですわ」


ラブリーは、殿下の胸に顔を埋めました。
嫌われたいのに愛される。突き放したいのに抱きしめられる。
この矛盾だらけの恋路は、もはや彼女一人の手には負えない、巨大な多幸感の渦へと飲み込まれていくのでした。


「……ミリー様。私、パレードで使う生クリーム、今度は最高級のやつを発注しておいてくださる?」


「……投げる気満々じゃないですか、ラブリー様」


深夜の公爵邸に、絶望的に噛み合っているバかっプルの笑い声が響くのでした。
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