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「……ちょっと、殿下。このパレード、規模がおかしくありませんこと?」
王都のメインストリート。
豪華絢爛なオープン馬車に揺られながら、ラブリーは引き攣った笑顔を沿道の群衆に向けていました。
空からは七色の紙吹雪が舞い、楽団が勇壮なマーチを奏で、至る所に『祝・自由な聖女ラブリー様、再出発!』という巨大な横断幕が掲げられています。
「おかしいなんてとんでもない。これでも予算の都合で、空を飛ぶクジラの魔導船を三隻ほどキャンセルしたくらいなんだよ」
隣で颯爽と手を振るクロードが、心底惜しそうに答えました。
彼は今日のために、ラブリーの美しさを最大限に引き立てる、白銀とサファイアを散りばめた「清純すぎるドレス」を彼女に着せました。
「殿下! 私は婚約破棄された身ですわよ? 普通なら石を投げられたり、罵声を浴びせられたりして、ひっそりと修道院へ向かうのが様式美というものではありませんか!」
「そんな野蛮なことをさせるわけがないだろう。……見ろ、沿道の国民たちの目を。彼らは君という慈悲深い令嬢が、王子のために身を引いた真実に、涙しているんだよ」
「「「ラブリー様ーっ! 愛の殉教者ーっ!」」」
「「「生クリームパック、最高でしたーっ!」」」
沿道から上がる歓声に、ラブリーは眩暈を覚えました。
彼女の「嫌がらせ」は、今や王都中の美容トレンドとして定着し、美肌を求める女性たちの間で『聖女の生クリーム』として神格化されていたのです。
「……ダメだわ。このままでは、私の『悪役』としてのプライドが完全に粉砕されてしまいます。……こうなったら最終手段ですわ!」
ラブリーは、足元に隠し持っていた袋から、あるものを取り出しました。
それは、彼女が内職で夜なべして作った『呪いの藁人形(の形をしたサシェ)』でした。
「これでもくらいなさい! 私の呪いを受け取って、不幸のどん底に落ちるがいいわ!」
ラブリーは、禍々しい形をしたその人形を群衆に向かって力一杯投げつけました。
これこそは、誰もが「不気味だ」と顔を顰めるはずの暴挙。
しかし、人形が空を舞った瞬間、クロードがパチンと指を鳴らしました。
「……おっと、君は相変わらず謙虚だね、ラブリー。あんなに高価な『安眠と魔除けの香油』を染み込ませたラッキーアイテムを、惜しげもなく市民に振る舞うなんて」
「えっ、香油……?」
「ああ、私がさっき中身をすり替えておいたよ。ついでに、人形の表情も魔法で『満面の笑み』に変えておいた」
空飛ぶ人形は、いつの間にかキラキラとした光を放つ、愛くるしいテディベアのような姿に変化していました。
それを受け取った市民たちは、歓喜の声を上げて人形を掲げました。
「「「おおっ、ラブリー様から『幸福の守護獣』を賜ったぞーっ!」」」
「「「家宝にするぞーっ! 一生付いていきますーっ!」」」
「な、なんですってーっ!? 私の呪いが、幸福の守護獣に!? 殿下、余計なことをしないでくださいまし!」
「余計なことだなんて。君の愛を正確に国民へ翻訳するのが、私の務めだからね」
馬車の後方で、山のような「お見合いリストの残りカス」を処分しながら付いてきていたミリーが、がっくりと肩を落としました。
「……ラブリー様、もう諦めてくださいまし。殿下がいる限り、あなたの投げたゴミはダイヤモンドに、吐いた毒言は神託に、放った屁は花の香りに変換されますわ、きっと」
「ミリー様、最後のは乙女として許容できませんわよ!」
パレードは最高潮に達し、ついには国王陛下までもがバルコニーから身を乗り出して手を振る始末。
『元・悪役令嬢』による再出発の行進は、歴史に名を残す『聖女凱旋パレード』へと完全に書き換えられてしまいました。
「ふふふ、見てごらん、ラブリー。世界が君を祝福している。……私の言った通りだろう? 君にふさわしいのは、静かな追放などではなく、この輝かしい光の中なんだ」
クロードが、ラブリーの腰を力強く抱き寄せました。
沿道の歓声はさらに大きくなり、ラブリーの反論はすべて熱狂の渦に飲み込まれて消えていきました。
「……殿下。私、もう疲れましたわ。……どこか、誰も私を『聖女』と呼ばない場所に連れて行ってくださる?」
「ああ、いいよ。二人きりの『特別な隔離施設(という名の新居)』へ行こうか」
「(……結局、檻の中ですのね……)」
ラブリーは天を仰ぎ、降り注ぐ紙吹雪の中で、幸せすぎて死にそうな……もとい、絶望的に愛されすぎている自分の運命を、ようやく受け入れ始めるのでした。
ミリーのメモ帳には、『第20話:パレード、完勝。ラブリー様、聖女として国民的アイドルへ。殿下の独裁体制、盤石』と、震える文字で刻まれました。
王都のメインストリート。
豪華絢爛なオープン馬車に揺られながら、ラブリーは引き攣った笑顔を沿道の群衆に向けていました。
空からは七色の紙吹雪が舞い、楽団が勇壮なマーチを奏で、至る所に『祝・自由な聖女ラブリー様、再出発!』という巨大な横断幕が掲げられています。
「おかしいなんてとんでもない。これでも予算の都合で、空を飛ぶクジラの魔導船を三隻ほどキャンセルしたくらいなんだよ」
隣で颯爽と手を振るクロードが、心底惜しそうに答えました。
彼は今日のために、ラブリーの美しさを最大限に引き立てる、白銀とサファイアを散りばめた「清純すぎるドレス」を彼女に着せました。
「殿下! 私は婚約破棄された身ですわよ? 普通なら石を投げられたり、罵声を浴びせられたりして、ひっそりと修道院へ向かうのが様式美というものではありませんか!」
「そんな野蛮なことをさせるわけがないだろう。……見ろ、沿道の国民たちの目を。彼らは君という慈悲深い令嬢が、王子のために身を引いた真実に、涙しているんだよ」
「「「ラブリー様ーっ! 愛の殉教者ーっ!」」」
「「「生クリームパック、最高でしたーっ!」」」
沿道から上がる歓声に、ラブリーは眩暈を覚えました。
彼女の「嫌がらせ」は、今や王都中の美容トレンドとして定着し、美肌を求める女性たちの間で『聖女の生クリーム』として神格化されていたのです。
「……ダメだわ。このままでは、私の『悪役』としてのプライドが完全に粉砕されてしまいます。……こうなったら最終手段ですわ!」
ラブリーは、足元に隠し持っていた袋から、あるものを取り出しました。
それは、彼女が内職で夜なべして作った『呪いの藁人形(の形をしたサシェ)』でした。
「これでもくらいなさい! 私の呪いを受け取って、不幸のどん底に落ちるがいいわ!」
ラブリーは、禍々しい形をしたその人形を群衆に向かって力一杯投げつけました。
これこそは、誰もが「不気味だ」と顔を顰めるはずの暴挙。
しかし、人形が空を舞った瞬間、クロードがパチンと指を鳴らしました。
「……おっと、君は相変わらず謙虚だね、ラブリー。あんなに高価な『安眠と魔除けの香油』を染み込ませたラッキーアイテムを、惜しげもなく市民に振る舞うなんて」
「えっ、香油……?」
「ああ、私がさっき中身をすり替えておいたよ。ついでに、人形の表情も魔法で『満面の笑み』に変えておいた」
空飛ぶ人形は、いつの間にかキラキラとした光を放つ、愛くるしいテディベアのような姿に変化していました。
それを受け取った市民たちは、歓喜の声を上げて人形を掲げました。
「「「おおっ、ラブリー様から『幸福の守護獣』を賜ったぞーっ!」」」
「「「家宝にするぞーっ! 一生付いていきますーっ!」」」
「な、なんですってーっ!? 私の呪いが、幸福の守護獣に!? 殿下、余計なことをしないでくださいまし!」
「余計なことだなんて。君の愛を正確に国民へ翻訳するのが、私の務めだからね」
馬車の後方で、山のような「お見合いリストの残りカス」を処分しながら付いてきていたミリーが、がっくりと肩を落としました。
「……ラブリー様、もう諦めてくださいまし。殿下がいる限り、あなたの投げたゴミはダイヤモンドに、吐いた毒言は神託に、放った屁は花の香りに変換されますわ、きっと」
「ミリー様、最後のは乙女として許容できませんわよ!」
パレードは最高潮に達し、ついには国王陛下までもがバルコニーから身を乗り出して手を振る始末。
『元・悪役令嬢』による再出発の行進は、歴史に名を残す『聖女凱旋パレード』へと完全に書き換えられてしまいました。
「ふふふ、見てごらん、ラブリー。世界が君を祝福している。……私の言った通りだろう? 君にふさわしいのは、静かな追放などではなく、この輝かしい光の中なんだ」
クロードが、ラブリーの腰を力強く抱き寄せました。
沿道の歓声はさらに大きくなり、ラブリーの反論はすべて熱狂の渦に飲み込まれて消えていきました。
「……殿下。私、もう疲れましたわ。……どこか、誰も私を『聖女』と呼ばない場所に連れて行ってくださる?」
「ああ、いいよ。二人きりの『特別な隔離施設(という名の新居)』へ行こうか」
「(……結局、檻の中ですのね……)」
ラブリーは天を仰ぎ、降り注ぐ紙吹雪の中で、幸せすぎて死にそうな……もとい、絶望的に愛されすぎている自分の運命を、ようやく受け入れ始めるのでした。
ミリーのメモ帳には、『第20話:パレード、完勝。ラブリー様、聖女として国民的アイドルへ。殿下の独裁体制、盤石』と、震える文字で刻まれました。
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