婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン

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幕間 <中編>

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 報告書では調査官にアルベルトが嬉そうな様子で話したと言う、その妻となったブランカ男爵家の娘であるモニカが産む子は、当然だがアルベルトの実子ではない。調査官が事実調査を行ったところ、彼女は婚約式の後、両親の厳しい監視の元で花嫁修業を受けさせられていたが、アルベルトと結婚し両親と家を分かつと、すぐに一人で怪しげな夜会をあちこち巡り、そこで見つけたとある伯爵の愛人の座を勝ち取ったそうだ。モニカ自身はアルベルトと離縁して金持ちである伯爵と結婚し夫人として暮らすことを望んでいるようだが、遊び人として浮き名を流す独り身の伯爵はモニカと結婚するつもりは一切ない様子。そもそも伯爵は夜会でモニカからの接触を受けた後、ブランカ男爵家の当主に連絡を取り当主同士で話し合ってしっかりと愛人契約を交わしている。



 …実のところ、モニカはアルベルトと離縁する事は死別以外に許されない状態にある。その代わりにモニカが産む子は誰が親であっても、次期ブランカ男爵家の後継ぎとして認められるという取り決めを王家と交わしているのだ。それゆえブランカ男爵家はモニカの子を望んでおり、伯爵との愛人契約は渡りに船と言わんばかりに喜んで受け入れられたのだろう。伯爵の方もブランカ男爵家側の事情を事前に知っていて、モニカを愛人とした節が見受けられる。モニカの事はあくまでも『ブランカ男爵家の後継ぎを産むまでの期間限定の遊び相手』という認識のようだから、モニカを心から愛している訳ではないのだ。その事は、都合よく後継ぎがすぐ生まれるとは限らない為、モニカの子は全員ブランカ男爵家の子として扱う事も愛人契約内容にあり、子に関しては一切伯爵家とは無関係である事を徹底していることからも分かる。あの伯爵家は親族が多い為、養子にして後継ぎとする子は選び放題だからこその処置だろう。



 調査の発端となった嘆願書の内容も報告書には添えられていた。妊婦である妻を一方的に愛し監禁している悪質な伯爵から、夫である己の元へ取り戻してくれるよう願う嘆願書であったようだ。差出人の名は『アルベルト・ブランカ』とあったことも記されていた。アルベルトはブランカ男爵家の後継ぎでもないので、書面や正式な場でブランカの名を名乗る事は現当主から禁じられているはずなのだが、調査官にも名乗っている様子から貴族としての身分を利用しようという考えがあったのだろう。自身の過去を語ったのは王家さえも利用しようとしたのか。…婚約式のあの日に、自分の手で選び捨てたのだ。今更無かった事にはならないのに。



 愛人契約のことさえ知らされていないアルベルトの嘆願書には投函することになった経緯も丁寧に書かれていた。アルベルトは家に戻らない妻モニカを心配し独自に調べ、最初は妻であるモニカの事を義理の父親である当主に訴え出たそうだが、相手にしてくれなかったとあった。それも当然だろう、表立って働かせる訳にもいかない元王子と言う扱いに困る婿の勝手な願いを、ましてや正当な契約の元で伯爵家にいる娘を連れ戻すようなことを当主が認める訳がない。そこで相手が伯爵であるから男爵である当主が動いてくれないと考えたようで、かつての友人や知人達と連絡を取って妻モニカの救出と、一方的にモニカを愛人として監禁する悪質な伯爵本人を訴えようとしていたようだ。王子であった頃に付き合いのあった彼らはほとんどが伯爵以上の高位貴族。裕福な伯爵家とは言えど、彼らが動けばモニカを帰す必要が出てくるだろう。



 だがしかしそんな彼らと今のアルベルトでは、以前とは真逆の身分差がある。まともに連絡すら取れず、唯一連絡が取れたのは子爵家の乳母兄のみだったそうだ。…アルベルトの友人達には側近候補もいて、当然道理を外れたアルベルトの恋に対して何度も忠告していたが、全て無視される形となり、自ら側近候補の立場を降りた者も多くいる。今更、アルベルトと連絡を取り交わしたいと思う者はいまい。万が一いても、周囲が止めにかかるであろうし、高位貴族である立場故に個人的私情では簡単には動けないだろう。アルベルトをずっと支えてきた乳母兄ですらも、全ての言葉を無視された上にあからさまに距離を置かれ、最後は涙ながらに立場を降りた。…周囲がアルベルトを捨てたのではない、先にアルベルト自身が彼らを捨てたのだ。



 そんな乳母兄からはこれが最後のご奉仕ですと言われ、モニカへの手紙を伯爵家に届けてくれただけで、それ以降連絡が取れずにいるそうだ。…アルベルトの乳母兄は手紙を届けたその足で他国に出奔し、行方知れずとなっていることも知らないのだろう。私が知っているのは涙を堪える乳母から直接聞いたからだ。信頼している私の実家の分家筋で、責任感が強い私付きのメイドであった乳母。その息子が確実に届けただろう手紙。しかし肝心のモニカからの返事は何一つなかったらしく、最後の手段として国民であれば誰もが投函出来る目安箱に希望を託したようだ。


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