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第九話 元第一王子は……
しおりを挟む僕は賑わう王都の街中をフラフラうろついていた。目的地は特にない。ただ、あの家に居たくないから外に居る、それだけだ。ヨレヨレの服と擦り切れそうな靴のまま、中心通りにある食堂から漂う美味しそうな匂いを嗅ぎつつ、空腹を感じながらも足を止めることなく、ただ歩く。人通りが多いこの道では立ち止まると返って危険なのだ。そうやってただ歩きながら、何度も何度も考える。何故、こんな事になったのか、と。
――あの調査官を名乗る男たちに僕の全てを話し、父への伝言を託した数日後。彼らは騎士を伴い、再び僕の元を訪ねて来た。僕は喜んだ。王宮に仕える騎士がいるという事は今度こそあの伯爵家に乗り込んで、妻であるモニカを取り戻してくれるのだろうと思って。だが、実際は違った。僕は彼らからとんでもない話を聞かされたのだ。『モニカの愛人契約のこと』、『僕の身体では子を作れないこと』、『モニカの腹の子は伯爵の子であること』、『モニカがお金も身分もない僕と離縁し、伯爵と結婚したがっていること』。僕は信じられず僕とモニカに対する侮辱だと思い、怒りのままに立ち上がって調査官の男を殴りつけようとした。だが、僕の動きよりも早く反応した騎士にあっさり抑えこまれた。離せと命じても僕の命に従わないばかりか、次に僕が調査官に対し乱暴を働こうとした場合、このまま捕縛し暴行の罪で牢屋に連行すると冷たく告げられた。鍛え上げられた騎士に反抗する力のない僕は、無理矢理椅子に座り直されたまま続く話を黙って聞くしかなかった。彼らは一方的に僕に話すだけ話した後、これ以上問題を起こさぬように忠告だと言い置いて用事は終わったとばかりにあっけなく立ち去った。
嵐のようなあまりの出来事に茫然としていたら、気が付くと日が暮れていた。慌てて僕はブランカ男爵家に向かった。うっかり夜に押し入った形になったが、事情を話せば許されるだろう。あんなバカげた話を聞かされたのだ、こうなればすぐに王宮に直接訴え出る必要があると義理の父に理解してもらわなければならない。家令によって通された部屋に現れた義理の父に全てを伝えた。あり得ない出鱈目な話に対して、一緒に怒ってくれると思っていた。だが反応はまるで逆。呆れたかのように僕を見て嘆息し、彼らから聞いた話が真実であると言ってきたのだ。おまけに証拠として愛人契約の契約書まで見せられた。モニカが望んだとかそんなはずはないと掴みかかれば、待機していた家令に引き離され抑え込まれて、頭を冷やせとそのまま外へ追い出された。本日二度に渡って抑え込まれた身体は痛みと疲れを僕に伝えて来たので、仕方なく家に帰ることにした。
灯りの節約で暗く寒い家で、一人きり。僕には何がどうなっているのか分からないし、信じられない想いでいっぱいだった。僕はモニカを愛しているし、モニカも僕を愛している。真実の愛で繋がった僕達。子供が出来て愛に溢れた幸せな生活になる…そのはずなのに。
僕は信じているけれど、何が本当の事なのかモニカに会って話せば、皆すぐに理解してくれる。そう思ったけど、それからの僕は動きを監視されていた。監禁されている訳ではないので、モニカに会う為伯爵家の家に向かおうとすれば、通いのメイドが僕の足を阻む。雇い主の義理の父に命じられているようだ。女性を殴れないし、走って振り切ろうにも王都の治安を守る巡回兵を呼ばれる始末。捕まって行き先を問われて伯爵家だと答えれば怖い顔付きで詰め所に連れて行かれ、男爵家の家令が迎えに来るまで狭い拘置所で拘束される。それを何度か繰り返せば、さすがに僕も諦めた。
――『待っていれば、ブランカ男爵の娘は必ず帰って来る』。
あのあり得ない話の中で調査官も義理の父も同じことを言っていたのを思い出す。その言葉を信じるしか、もう僕には何も出来なかった。
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