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第十話
しおりを挟む僕は待った。ただ待つだけなのは思っていたより辛く、時間だけはたっぷりあるので僕とモニカの真実の愛の物語を書いてみたりもした。せっかくなので義理の父に書き上げた話を見てもらい、本を出版する商家にこの力作を送る考えを伝えた。僕が書いた話を本にして売りに出すのだ。その辺の物書きが書いた恋愛小説恋愛小説とは格が違う、本物の僕とモニカの物語。僕とモニカの真実の愛に皆が心を震わせ、すぐに人気が出るだろう自信作だった。義理の父はどこか呆れた様子だったが、ざっと原稿に目を通して僕の本名ではなくペンネームで発表するならば好きにして良いと言ってくれたので、モニカが僕を呼ぶ時の『アル』というペンネームで送ることにした。すると、僕が書いた物は『すでに流行遅れの話題の上、同系統の小説と内容もほぼ変わりなく今更面白みがない』と言った内容の手紙付きで送り返されてきた。どこの商家に送っても答えは皆同じ。腹立たしく思い躍起になって書いては送る行動を繰り返している内に半年以上の時が過ぎ、ようやくモニカが伯爵の元から帰って来た。ただし、僕達の家ではなく、ブランカ男爵家の方、つまりはモニカの実家にだった。
僕はモニカの帰宅を通いのメイドから話を聞いて、すぐに向かった。ブランカ男爵家の家令たちの出迎えも待たずに勢いのまま家の中を走って、飛び込むように入った居間にはモニカだけでなく、赤子が居た。赤髪と黒い瞳を持つ、二人の赤子。その柔肌を包むおくるみから見るに、男女の双子のようだった。だが、そのどちらも僕が持つ銀の髪や緑の瞳がなかった。母親似ではあっても父の色くらいは引き継ぐだろうに。僕に似てもいない赤子たちを見つめて、思い出すのは愛人契約などの話。それが本当の事ならこの赤子たちは、僕とモニカの子ではない…? …信じたくない事実を突き付けられた気がした。それでも信じられなくて、僕はモニカに問いかけた。この子達は僕の子ではないのか、僕を愛していたのでなかったのかと。モニカは疲れた様子であっさり答えた。
――嘘偽りなく、確かに私はアルを愛してたわ。でも愛だけじゃ、お腹が空くだけでしょ。私は愛も欲しいけど、お金はもっと欲しいのよ。おまけに身分と顔が良ければ更にいい。王子様だった頃はお金がなくても身分があったから、デートの際にお店でツケとかに出来たけど、結婚してからのアルは身分も何もないでしょ? あるとしたら見た目が私の好みってだけ。子供の事だって、アルでは作れないってちゃんと聞いてるわよ。医師の診断書まで見たもの。ナイナイ尽くしのそんなありさまで私からタダで愛されるなんて思わないでよね。私に愛されたいなら、まずは稼いで来なさいよ。…なぁに、その顔? アル、貴方分かってるの? 今まで私が稼いだお金と私の実家からのお金で生活出来ていたのよ? 頑張ってる私に文句があるなら、贅沢出来るくらいのお金かお金になるような物を持って来てから言ってよね。
伯爵とは結婚出来なかったから、次の相手を探さないと…そう言って、モニカは部屋から出て行った。その場で立ち尽くす僕を置いて、赤子たちもメイドと家令の手によって丁寧に運ばれて行くのが目の端に映る。
…モニカに会って話せば、本当の事が分かると思っていた。愛人契約なんて偽物で、モニカはきっと身籠った僕との子供を盾に脅されて無理矢理囲われているだけで、モニカは僕を愛しているのだと、そんな当たり前の事が分かると思っていた。それなのに、ようやく会えたモニカ本人から、調査官や義理の父に聞かされたあのバカげた話が、絶対に出鱈目だと思っていた話こそが、本当の事だと証明されてしまった。…気が付けば僕は一人で家に帰っていた。モニカと結婚してから暮らしてきた、二人の家。そこに新たな家族が増え、より愛に満ちた生活になると信じていた場所。愛は尊く大事なモノであるはずなのに…。
ふいに窓の外から笑い声が聞こえた。外で遊んでいたのだろう子供を家に帰るよう促す女性の声も聞こえてくる。普段は気にもしていなかったのに、他愛もないどこにでもある家庭の会話が、嫌に耳に残る。今の僕は一人きりだと実感させられた気がした。…僕とモニカの真実の愛とは、一体何だったのだろう? 日中であるにも関わらずどこか暗い家の中で、ぽつりと心に浮かんだ疑問。その答えが見つかるのは、僕が外へと出歩くようになってからのことだった。
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