王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン

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4、『特例』はジオルド殿下の為、『異例』は国の為でした。

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 国王陛下のお言葉は続きます。


「だが、これには『特例』としての法が存在する。その内容は、『王位継承権を持つ者の中で、他国の王位継承権を持つ者を婚約者並びに配偶者とする場合、第二以下の王位継承権から相応しい位、又は爵位を与えるものとする』こと。
 ここにおるヴィオラは、隣国であるマケルカ王国の王位継承権を持つ者。当然その婚約者となる者は相応の相手でなくてはならん。王家からその相手を決めることになったが女児の多い我が王家では、ヴィオラの年齢に見合う男児は一つ歳上となる第八のジオルドのみ。側妃の子であることも含めて、例え王の子であっても八番目では他国に軽んじられることも考えられる。故に、この『特例』が当てはまると考え、位を上げて第二王位継承者に据えることを決めたのだ。
 ジオルド、お前の尊厳と、その身の安全を守るために余が判断したことだったが、お前にとっては余計なことだったのだろうな…」

「ヴィオラに王位…? わたしの、ため…?」

「ここまで話せば理解しただろう。ヴィオラとの婚約が、お前が第二王位継承権者である条件であったのだ。しかし、此度のことで白紙となったので、本来の第八王位継承者に戻るわけだ」

「ジオルド、私は何度も貴方に伝えました。『特例』についても、それに伴いヴィオラの持つ王位継承権についても。本当に、覚えがないのですか?」

「そんな、そんなおかしな話は……話、は…」


 ジオルド殿下は呆然とされておりますが、私についてご存知なかったとは思いませんでした。私、白紙となったとはいえ先程まで列記とした婚約者だったのですよ? 更には王妃様より直々にお話があったのでしたら、知らないことこそがおかしいのですが。


「発言の許可を求めます」


 今度はお父様でした。
 国王陛下は頷き、許可をされます。あら、普段無表情のお父様が笑って…、あ、これは…。


「ジオルド殿下は随分と我がショーリー公爵家を軽んじておられるようですが、流石に私共のことだけでなく、周辺国の情勢についてもご存知ないとは思っておりませんでしたな。今まで一体何を学ばれておられたのか。まさか異性不純交遊を学ぶ為だけに学校に通われていたのですかな。おや、そのような目で見られましてもね、そう思われても仕方が無いほど、ジオルド殿下はご自身が無知であられると自覚がございませんでしたか。あぁそうでした、欠片もございませんでしたな。自覚があれば都合の良いことだけを聞く耳と都合の悪い事だけを忘れる頭を持ちはしませんでしょうからね、ある意味それも才能と呼べるかもしれません。ははは良かったですね、一つでも才能と呼べるものがありましたよ。そのような才能を持つ者よりいっそ無能の方がマシですが、我が娘の努力と才能を僻むだけの外道よりは良いのではないでしょうか。是非とも今後はその才能を伸ばされて、ジオルド殿下の都合の良い夢を見続けて下さい。夢見る場所は私共と関わらぬ場所であれば尚良いですね、ええそうして下さい、そうしましょう、そうして頂ければ――」


 貼り付けた笑顔で止まらない語り。冷酷と捉えられがちなお父様ですが、とても温厚な方なので、私は一度もお父様の怒声など聞いたことがありません。

 ただ、余りに怒りが溜まりますと、このように怒涛の如く淡々とした声で一方的に語り続けられるのです。この状態のお父様はお母様しか止められませんが、肝心なお母様に止める気はないようですし、長年の付き合いから慣れておられるのか国王夫妻もお茶の用意を指示され、一息入れるのに丁度良い機会だと思われたようですわ。

 勧められましたので私とお母様もお茶を頂きます。お父様にも用意されておりますが、冷めるまでまでに語り終わるかどうか……あの勢いでは冷める方が早いと思います。

 あらあら、ジオルド殿下には用意されないのですね。まぁ、飲めるような間はないでしょうからそれで良いのでしょう。


「――そうそう本題ですが、我が妻は、同盟国である隣国、マケルカ王国の現王の妹君なのですよ。
 本来ならば王女の王位継承権は他国に嫁いだ時点で永久的に失うものです。しかし、マケルカ王国側の事情により『異例』として王家の存続と王族の守護を理由に、王女である妻の王位継承権が認められたのです。
 何故と問われる前にそうなった経緯もお教えしましょうか。これもすでに学んでいるはずの事柄ですので詳細は省かせて頂きますよ。あぁ詳細をお知りになりたいのでしたら、是非ともご自身でお調べ下さい。学校の教科書にも記載されておりますし、王族でなくとも知っていて当然の内容ですので、誰にお尋ねになられてもすぐに答えを得られるでしょう。
 マケルカ王国は十五年前に起きたアリエン帝国による侵略戦争により、勝ちこそしたものの王を含めた目ぼしい王族がお亡くなりになりました。結果、厳しい戦争に逆転勝利をもたらしたヤッタルデ辺境伯が王位を継ぐ――かつて辺境伯に嫁入りして来た祖母が王家の娘だったので王家の血筋ではあった――こととなり、その妹である妻が王女と認定されることになったのです。
 結婚当時、妻は王女ではありませんでしたし王位継承権も持たなかったのですがね。遺された王家のまともな血筋は、今や現王と我が妻しかおりませんので仕方がありません。
 そういった諸々の国の事情がありまして、ヴィオラが王位継承権を持っている理由としましては私共の『娘』ですので、妻の持つマケルカ王国の王位継承権をそのまま受け継いだからなのですよ。それも第一王位継承権をね。この事は我が公爵家で公言こそしておりませんが一切隠しておりませんし、王族貴族では周知の事実です。先程も言いましたが、学校の教科書に記載されておりますからね」


 お父様がお茶に手を付けられました。ようやく存分に語り終えたのでしょう。その少し前に新しく淹れたお茶と交換されてましたから、温度も丁度良いはず。流石は王家に仕える一流の方々ですわね、タイミングが完璧ですわ。

 もちろん国王夫妻と私達はすでに一服を――お茶のおかわりも含めて――終えております。充分に時間がありましたもの。


「……公爵家が……隣国…、…ヴィオラが、王族に?……それも第一……いや、そんなはずがない! やはりその話はおかしい! ヴィオラには兄がいる。それで何故ヴィオラなどに王位として継承権が与えられるという話になる!? いくら公爵家と言えども王家を謀るとは何事だ!!」


 お父様がお茶をゆっくり飲み干され一息ついた頃に、ブツブツと呟いてまともに言葉を発しておられなかったジオルド殿下が、まさに閃いたと言わんばかりに叫ばれました。

 …お母様と王妃様の目がギラリと鋭く光ったように見えたのは、きっと気のせいですわよね。人の目は光るものではありませんもの。口元に扇子を添えておられますが……あの、扇子はミシミシと音を鳴らすような楽器ではないですわよね?!

 そんなお二人を視線で制し、国王陛下が先じて答えられます。


「公爵家は真実しか話しておらん。稀に見る『異例』であるのは確かだが、『娘』であればこそ、王位継承者ほけんとして成り立ったのだ。
 マケルカ王国側の立場となって考えてみよ。王家は現王と王女のみ。王女と言っても他国に嫁いでおる上に、その夫は外交も務めておるショーリー公爵なのだから、離縁させることは国家に不利益をもたらすだけで悪手だ。公爵家の嫡男も同じ理由で手が出せぬ。しかし、王家の血筋は保ちたいし万が一に備えて増やしたい。
 ジオルド、お前ならどのように対策を取る?」

「それは……王に正妃と側妃を娶らせ子を作らせるのが一番でしょう」

「ふむなるほど、確かにそれは正論だな」

「でしょう! やはりこの話は」

「だがな、余は言ったはずだ。『マケルカ王国側の立場となって考えてみよ』、と。
 我が国の法だけでなく、隣国についても一切知らぬとのたまう気か。
 隣国の法では王も一夫一婦制である。仮にこの法を一つ変えるとして、それだけでも多くの時間と資金が必要となるが、当時のマケルカ王国は戦後の損傷も激しく、国家の立て直しに国内の復興は勿論のことアリエン帝国敗戦国に対する交渉も同時に進める必要があり、物資の支援や援軍も送った我が国への礼や根回しも必要。国としての資金がどれだけあっても足らんし、人手も多くを失っているので維持するだけで大変だろうな。それだけではない、新しく王となったのだから改めて王家として相応しい教育を一から受け直す必要もある。それも短時間で王としての務めを果たしながらだ。当然、王妃となった者も同じだろうな。教育係探しから手配し、新たな王家に仕える者達の選別も必要であろう。そのような余裕のない状態で側妃やら後宮やら整える事が出来るはずもなし。
 更に言えば、子を作るには夫婦共にその為の時間も体力もいる上、子が産まれれば国としては予算も人手もより必要となるが……あると思うか、が?」

「…ヒッ!」


 まさに王威と呼ぶべきものでしょうか。国王陛下から発せられた低い声と共に息苦しくなるような重圧を感じました。それを真っ向から受けたジオルド殿下は委縮され、ガタガタと震えておられます。
 
 私も思わず身体を硬くしてしまいました。両親は平然としておりますのに…私がまだまだ未熟であることを痛感致しますわね…。そんな私の状態に気付かれたのか、すぐに陛下は元の様子に戻られました。


「そこで、公爵家の嫡男ではなく、王女の産んだ娘ヴィオラならば女王として或いは国母として確立出来るのではと考えるのは、国として当然の流れと言えような。
 …分からぬか? 極端に言ってしまえば、王女の娘であるヴィオラが誰の子を孕もうとその腹の子には、確実にマケルカ王国の王族の血が流れていることになるのだ。王家の血を遺すことを何より優先するならば、この点においては男児よりも女児の方が必要となろう。それに現王が余より歳上であることもあり、先行きの不安から万が一を考えねばならぬ。
 あぁ、現王については公爵夫人の方が詳しいな。話してくれるか?」

「はい。兄はすでに初老をとっくに越えた年齢です。辺境伯であられた頃はお義姉さまと嫡男を早くに亡くしており、養子を迎えて後妻を娶ることなく過ごしておられました。
 王となることが決まりましたので爵位を養子に譲られた後、急遽後妻おうひを娶られましたが、元々辺境にある領地の守りを担う軍人でしたので、軍の采配は出来ても政治には疎いが為に、その後妻おうひも政治面を支えてもらうことを目的とした方でした。お会いする機会がありましたが真面目そうな所が兄と似ておりましたね。実際にそういった面で気が合われたのでしょう。互いに子を作るよりも国の復興に全力を尽くすと宣言されまして、現在においても子がおりません。
 次代までに完全な復興とアリエン帝国との決着あとしまつを成し遂げてみせると気炎を吐いておりますので、子作りもその勢いで成して頂ければ、私として憂いはなかったのですけども…うふふふ。
 これまでは第一王位継承権を持つヴィオラが女王となるか、またはヴィオラの産む子が隣国の王となるかのどちらかというお話でしたが、現状では前者が有力となり、兄夫婦とはとお話させて頂いておりますわ」

「と、いうことだ。ヴィオラの婚約者であれば、マケルカ王国の王配となる可能性もあったのだ。白紙となった以上はもはや縁のない話だがな」


 お母様の話は私も当然聞いております。隣国の女王となる可能性がある以上、私には高位貴族の淑女としてだけでなく、王としても完璧であることが求められました。私に課せられた責任は重く、受けてきた教育も実に厳しいものでしたが、私の将来に必要であることは理解しておりましたので、必死に学んで来ましたわ。
 
 王立学校に通う歳となり入学致しましたが、すでに卒業までの課題を終えておりましたので、通っていた目的は交友関係を深める為と言っても過言ではありませんでした。私にとっては友人達と過ごせる良い息抜きになりましたしね。

 ただ、ジオルド殿下との関係に私は悩んでおりました。学校では学年が一つ上のジオルド殿下のお姿を良く見かけました。そのお隣に可憐な女生徒を連れて楽し気に笑って話されているお姿を、何度も。そうなって初めて、今のように硬い表情で、私のことをまともに見もしないジオルド殿下の姿しか知らないのだと、私は気付かされたのです。私はどうすればよいのか…その答えは――


「…私が、兄上と同じように、王になれたのですか?」

「貴方の耳は本当にどうなっているの。耳ではなくただの飾りなのかしらね。王ではなく、ですわ」


 少し物思いに沈んでいる間に、ジオルド殿下の耳が活躍されておられました。王と王配を聞き間違えるなんて、意味もその在り方も異なりますのに。

 釘を刺すように、きっぱりと王妃様が告げられます。


「もう一度言いますわね。王ではなく、王配です。
 私が王妃として陛下を支えるように、女王となったヴィオラを貴方が王配として支え、必要な時に王に代わり国を采配する。
 そんな将来を見越してマケルカ王国について特に学ぶよう手配していたはずですが、貴方には全く身について居なかったようですわね。そればかりかヴィオラに対して」

「王妃よ、その件は後でまとめて話そう」

「…分かりました。あぁそれとジオルド。貴方はいつまでヴィオラを愛称で呼ぶのですか。もう婚約者ではないのです。私と陛下は許される身ですが、貴方はヴィオラではなく、ショーリー公爵令嬢と敬意を持って呼ぶべきですよ」

「…ッ! 気を、付けます」


 注意されたことが悔しかったのか、それとも見下していた私がご自身で思っておられた以上に重要な立場にあることを不満に思われたのか。

 八つ当たりのように王妃様を睨みつけるのは流石に如何かと思いますわ。


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