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5、説明の終わりと面会の終わり。
しおりを挟む「これで王位継承権についての疑問は解けたな?
次は…住まいの移転についてだったな。誤解があったようだが、離宮は王女達だけが住まう場所ではないぞ。たまたま第四以降の子が王女だっただけなのだ。
と言うのも王宮に住まう王の子は、幼子か第四までの王位継承権持つ者だけと決まっておるのだ。いくら広い王宮と言えど部屋には限りがある故な。それ以降の位の者はどんなに遅くとも、王立学校に入学する十四歳までには離宮に移り住む。お前は現在十七だろう? 順当に行けば来年学校を卒業する歳となるのだから、位から言っても年齢から言っても早急に離宮へ移転せねばならぬのだ」
この点については誤解しても仕方が無い気もします。王の子は現在十二人おられますが、王子はその内の二人だけで、残りは王女なのです。ですので、今現在離宮に住まうのも王女ばかりとなり、まるで女の園のような雰囲気となっているのだとか。
「王妃よ、ジオルドの部屋は整ったか?」
「はい、もちろんですわ。ただ知っての通り、王宮に近い離宮は白の離宮と青の離宮がありますが、どちらも王女の住まいとして利用しております。同じ王の子ではありますが若い男女を共にするのは良くありませんので、やや離れますが黄の離宮の一室を整えました。ジオルドにはそこに移転してもらいますわ」
「黄…!? 確かそこは王宮どころか王都の外にある離宮では? それではとても学校に通えません!」
「では、寮生活を選ぶしかありませんわね? 王立学校寮は男女別に二人部屋か四人部屋制度。貴方は爵位を持たぬ王族ですから、下位貴族と四人部屋になるでしょう」
「え…、下位の貴族と王族である私が?」
「もし王都内にセカンドハウスを持ちたいのであれば、第三側妃と相談なさってご自身の資産で用意なさい」
厳しく聞こえますが、王家には王宮と離宮がありますので、王家として王都内に屋敷――セカンドハウスを持つことはありません。学校に通う王の子らは王宮または、離宮から通うことが通例です。ただ法で決まっている訳ではありませんので、セカンドハウスが欲しければ王家としてではなく、個人資産を使って用意するならば問題ないとされております。
一般的に領地を持つ高位貴族は王都内にセカンドハウスを持ち、学生はそこから通います。王立学校寮は王都内にセカンドハウスを持たない者の為にあるのです。私はもちろん、公爵家のセカンドハウスから通っております。
「あぁ、それと資産についても今までとは異なる故に、確認しておくのを忘れぬようにな。ジオルドの個人資産はそのままだが、第二王位継承者として用意していた資産は全て回収する。各王族に配当される公費は、第二と第八では宛行われる額が大きく変わる事も覚えておくように」
「……分かりました」
ご自身の生活がどこまで変わるのか想像なさっておられるのでしょう。ジオルド殿下の顔色は悪く、消沈しておられるようでした。
「これでジオルドの疑問に全て説明終えたな。さて、話を本筋に戻そうか。
どこまで話したか……あぁそうそう、白紙に至った理由についてどのように発表するか、だったな。ここはそのままの理由を発表しようと考えておる。ジオルドがヴィオラに相応しく無いと判断した、とな。皆もこれだけで納得するだろう」
ジオルド殿下の目が国王陛下に向けられます。何かを伝えようとなさいますが、それよりも国王陛下のお言葉が先でした。
「言っておくが、ジオルドが破棄を申し出る前から白紙の件は検討しておったのだ。でなければ白紙に至るまでにもっと時間が掛かっておる。婚約は契約と同じなのだぞ?
一度結んだ婚約を破棄するにせよ、白紙にするにせよ、行うには特別な配慮が必要だ。此度の件は特に隣国への配慮も当然ながら他国への政治的バランスも見直しが必要となり、公爵家への配慮は必須で、他の高位貴族の関係もまた見直さねばならず……それらの影響力にもまた気を配らねばならぬ。王族貴族の婚約は、決して個人の問題ではないのだからな」
国王陛下のおっしゃる通りです。婚約は単純に好きが嫌いかで、破棄出来るようなモノではないのです。特に私の場合、隣国の事情も深く関わっておりますし。それでも白紙に至った理由がありました。
スッと国王陛下の側に従者が現れ、紙束をお渡しになりました。
「ジオルド、余がこれまでに受けた報告がここに記載されておる。どれもお前の行動記録だ。
一つ、誕生日プレゼントは花束のみで数日遅れ。祝福の言葉もない。
二つ、婚約者として送ったドレスはどれもサイズ違いで着れる物ではなく、新品ではなく古着である。
三つ、周りに注意されてようやく贈った服飾品は何故か男物で、ジオルドが使用したことのある下げ渡し用の品である。
四つ、稀に呼びつけたお茶の席では書物を読み出し会話も成り立たず、時間より早く席を立つ。
五つ、夜会等のエスコートさえ始めだけで後は放置し、ファーストダンスも過去に二回しかしていない。
他にもたくさんあるが、その全てを口にしたくもない。ジオルド、コレらの報告を聞き目にした余の気持ちが分かるか? 娘を持つ親として、公爵夫妻の怒りが手に取るように分かり、情けなく不甲斐ない息子をどれだけ恥ずかしく思ったか。
この報告に異議があるならば申し出よ、ジオルド」
「お、贈った物に関しては知りません! 私は指示しただけで内容は関与しておりませんでした。 それに…、知らなかったのです! ヴィオラに王位継承権があることも、特例のことが本当のことだったなんて、知らなかった! 本当だと知っていれば」
「…異議がなくこの報告にあったことは全て事実であると認めるのだな」
「それは…ッ!ですから」
「もう良い、黙れ。異議があれば申し出よとは言ったが、お前の下らぬ話を誰が聞かせろと言った。まったく…婚約破棄の申し出をする前に、まずは己の行動を見つめ直すべきだろうに…」
国王陛下の最後の方のお言葉は呆れも怒りも通り越し、疲れ果てたかのように聞こえました。
プレゼント等の手配は、確かにジオルド殿下がなさった訳ではないでしょう。適当な者に、適当にしておけと指示をされただけ――指示を受けた者は、何も考えず適当にした者もいれば、安く済ませて予算を横領した者もいたようです――なのでしょう。
それはつまりジオルド殿下にとって私は、手間暇を掛ける必要もない、取るに足りない存在だったという事。
エスコート等は、私がジオルド殿下に嫌われていたのが理由でしょう。嫌われた理由は良く分かりませんが、『お前はうるさくて可愛げがない』と言われたことがありますので、私自身がジオルド殿下の好みでは無かっただけなのかも知れません。
それでも、私は婚約者でした。正式に、王家と公爵家を取り持つ為の、婚約だったのですよ、ジオルド殿下。
婚約者に対してのジオルド殿下の対応は、第三者から見ても有り得ないことばかりでした。隠す素振りもなく、婚約者自体をまるで邪魔者であるかのように扱うその様子は、国外問わず多くの貴族らに知られておりました。そのような方を、一体誰が信用し信頼出来ますか。将来の隣国の王配として誰が認め従いますか。その結論が、白紙と言う形になりました。破棄とも解消とも違います。婚約自体が無かった事になったのです。
「ヴィオラよ、最後にジオルドに伝える言葉はあるか」
「…少しお時間を頂いても宜しいでしょうか」
「構わぬ。どのような言葉であっても不敬は問わんぞ、余が許す」
「ありがとうございます」
…何だかお母様と王妃様がいつも以上ににこやかにされておられますが、私は別にジオルド殿下を責めるつもりはありませんのよ?
「ジオルド殿下」
私はジオルド殿下をまっすぐに見つめました。
「私は、貴方を恋慕うことは出来ませんでした。それでも、時間と共にいつかはと思っておりました。ですが、貴方は婚約者でない方と恋を知りました、愛すること愛されることを知りました。…もう知らなかった頃には戻れないでしょう。
正直に申しますと婚約が白紙となったことに、私は安堵致しました。もしも私達が結婚したとしても、貴方の想いは消えることがないでしょうから」
礼儀は別として、学校で寄り添う二人を見て、羨ましいと思ったのは事実です。
恋とはどんな気持ちでしょうか。愛とはどんな想いなのでしょう。先にそれらを知ることが出来たジオルド殿下を、羨ましいと思いました。
私は今後、その強い感情を抱くことなく生きていくことになるかもしれません。女王の座は、一時の感情に揺れていい程軽くはないのです。新たな婚約相手は慎重に選ばなければなりません。
でも、憧れるくらいは許して頂きたいのです。両親のように互いに想い合い、支え合う夫婦となるのが夢でしたもの。ジオルド殿下の恋愛を見て、ますます憧れが強まった気がしますわ。
だからこそ、私は願わずにはいられませんでした。
「ジオルド殿下。どうかその想いを大切になさって下さい。忘れないで下さい」
ジオルド殿下の恋の先がどうなるのか。…あまり良い想像は出来ませんが、それでも二人の恋は実り、確かに愛があったのだと信じたい。これから先どんな苦難があっても、きっとその想いが二人を支えてくれるはずですもの。
「…もう良いのか」
「はい」
ジオルド殿下からの返事はありませんでした。私も返事を求めたわけではありませんので、これで良いと思っております。
「では、話した予定通りに白紙の件について段取りを進めていく。ご苦労だったな、ヴィオラ、ショーリー公爵夫妻。この場を下がることを許可しよう」
私と国王夫妻の面会はこれで終わりのようです。両親と共にこの場を去ります。
去り際にお茶の用意をされているのがチラリと見えました。きっとこれから親子の時間なのでしょう。私もこれから両親と話し合わねばなりませんね。
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