王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン

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6、私達が去った後のこと。(王子視点)

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 公爵家の者が去り、控えていた王妃付きの女官が私の前にお茶の用意をし始める。出されたカップの中の茶に映る私の顔はとても情けなく見えた。

 私は王子で第二王位継承者だった。しかし今日でそれが一変した。王子であることは変わりないが、王位継承権が第二と第八では立場が全く異なることぐらい誰でもわかる。これからどうしたら良いだろう。今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前では無かった。兄の控えどころか、私自身、ヴィオラのオマケのようなモノだったなんて…。

 過去を振り返ってみると確かに王妃に呼ばれたお茶席で、ヴィオラは特別で、ヴィオラが居るから、等と口うるさく言われていた。その中に『特例』のことや、ヴィオラの立場についてもあった…と思う。ほとんど聞き流して居たからはっきり覚えていない。

 王妃の言葉に嘘はなかったなんて信じられない…いや、今更信じたくない。私は王妃の実子ではないから、デタラメを私に吹き込んで私を嘲笑い貶めようとしている、実子の控えだからこそ兄より上にはなれないように仕向けているのだと、ずっとそう思っていたのに。


 ――ジオルド殿下は、ジオルド殿下です。誰かの控えなんかじゃありません! だってこうして私と一緒に居てくれるのは、貴方自身じゃないですか。


 ふと、ある少女の言葉が私の頭をよぎった。所詮は兄の控えだからと自嘲し力なく笑った私にそう言ってくれたのは、亜麻色の髪を持つ、男爵令嬢だけ。

 サリー、君なら今の私になんて言ってくれるだろう。…きっと、オマケなんかじゃないって怒ってくれただろうな。自分のことには怒らないのに、私のことには怒ってくれる。そんな心優しい少女に私は恋をした。サリーの事を思い浮かべれば、不思議と力が湧いてくる。

 そうだ、第八だろうと私は私だ。当初の予定とは異なるが、ヴィオラとは婚約者ではなくなったのだし、王位継承権も下がった分、男爵令嬢と結婚しても問題ないはずだ。サリーの為にもこれからの事をしっかり考えねば。



「部屋に戻ります」


 まずは彼女に会おう。婚約破棄の準備の為にしばらく会っていない。今日、私の両親に紹介するべく連れてこようと従者に迎えを頼んだのだが、王妃の手の者に邪魔されて上手く行かなかったのだ。

 もはや用のないこの場を立ち去ろうと立ち上がる。しかし、



「お前の退出は許可しておらん」


 父上の冷たい声が私の動きを止めさせる。――は? 許可?


「ジオルド、この場は何だったか分かるか」

「? 公爵家を招いたいつものお茶会では?」

「…ほう。余は昨日、お前に、直接そう伝えたのだったか。茶の席であると?」

「それは…」


 確かに今日の呼び出しは、珍しく父上に直に言われたな。何と言われたのだったか。…そうだ、『公爵家との面会の場を設ける。使いの者が来るまで部屋に居るように』だったな。……茶の席、とは言われてないな。だが、使いの者が案内した場所は中庭だ。ここはお茶会でよく利用される場所。だから今回もそのようなものだと思っていたが……。


「余は、面会の場を設ける、と伝えたな。つまり公爵家とお前を公式に呼び出したのだ、なのに最初からお前は父上呼びだったな。末の子でさえ、公式の場では陛下と呼ぶよう教えられその教えを守っているというのに。その上、余の許可もなく勝手に退出しようとした子はお前が初めてだ」

「ですが、場所が」

「あら、ここは私の庭と呼ばれていますが、外交などの公式の場として利用することもありますのよ? 以前に貴方もここで外交に参加したことがあるでしょう」


 王妃に言われて思い出した。隣国の外交官とここで顔合わせをしたことがあったのだ。その場は確かに公式なもので、私は不慣れで無難な対応をしていたが反面ヴィオラは完璧な対応だったことも思い出す。


「お、教えて頂ければ」

「いつ気付くかとお前を試しておったが、注意されてようやくとはな」


 思わず出た私の言葉に、父上の顔が一層険しくなる。――まずいまずいまずい!

 相手は実の父であっても、国のトップこくおうなのだ。私が考えていたようなある程度の無礼講が許される私的の場ではなく、公式の場として用意されていたのであったなら、先程までの私の態度は国王を敬っていないと捉えられ、例え王子であっても不敬だと罪に問われてもおかしくない。


「申しわけありませんでした!」


 立ったまま頭を下げ、胸に手を当てて謝罪をする。

 今日はもう泣いてしまいそうだ。何で私ばかり怒られなければならないのか。本当はこの場でヴィオラの謝罪を聞くはずだったのに、何故私が謝罪をしているのだろうか。ヴィオラだってサリーに酷いことをしていたのに…王妃のお気に入りだから見逃されたのか。婚約破棄の申し出と共にヴィオラについての報告書も提出したから、父上もは知っているはずだ。


「今更謝罪しても手遅れですわ。本来、貴方が謝罪すべき相手はヴィオラと公爵夫妻なのですからね」


 グッと唇を噛み締めて、王妃の心無い言葉に耐えた。王妃を睨みつけたかったが、父上の言葉がない以上、頭を上げるわけにはいかない。
 
 王妃は私の天敵だった。幼い頃、味方だと信じていた者きょういくがかりは王妃の手によって別の者に替えられた。従者もそうだ。数こそ増えはしたが、殆どが王妃の手配によるモノだから王妃の手先だろう。第三側妃ははうえに訴えても、母上は王妃と仲が良くまともに私の話を聞いてくれなかった。味方も母上も奪われた私は、それからずっと王妃を憎み敵だと認識して来たのだ。とは言え相手は父である国王の正妃、権力も影響力も圧倒的に私なんかより上だ。せめてもの反抗で、王妃から用意された教育係や一部の従者モノを遠ざけるくらいしか私には出来なかった。

 ヴィオラについても王妃の手先だと思っていた。王妃が親友と言って憚らないほどヴィオラの母親と昔から仲が良く、ヴィオラ自身のことも気に入っていたからだ。婚約者という立場で私の行動を縛ってくるヴィオラも私の敵だと認識し、まともに相手にしたくないと心底思っていたのだ。

 …なのにそのヴィオラを大事にしていれば、私は王配になれたらしい。王ではないのが残念だがそれでも王に最も近い存在と言える。王妃と同等かそれ以上の権力を手に出来る可能性があったなんて、話を聞いた今でも信じられない。王妃のこれまでのことも、私の将来を見越して準備であっただなんて。……王妃のこともヴィオラのことも…全部、全部私の誤解で思い込みだったなんて。今までずっと信じてきたを覆されたところで、簡単に意識を切り替えられるはずもない。

 今でも私の中で王妃は、敵のままだった。


「もう良い。頭を上げよ」


 父上の言葉で私は頭を上げる。許されたことにホッとしたが、


「ジオルドからあった、婚約破棄の申し出の件と新たな婚約者候補の件について話がある」


 父上の表情は険しいままであることに気が付いた。


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