欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

里帰り

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「……どうしたんだい?その顔は??」

東の国に帰って、俺の顔を見た義父さんの第一声がそれだった。
あ、うん。
聞かないでください。
若干ハムスターみたいな顔で俺は苦笑いした。

「何でもないよ、義父さん。」

「……そうかい??なら良いんだけど??」

俺の後ろでウィルが少しだけ申し訳なさそうな顔をしている。
うん、俺が悪かったんだけど、何もグーの後に往復ビンタかまさなくても良くない??
歯止めが効かない俺も悪いけどさ~?
酷くしてって誘ってきたの、ウィルなんだし。
俺はちょっと涙目になっていた。

「……彼がウィル君かい?」

「うん。」

義父さんがほのかに笑ってそう言った。
俺が振り返ると、ウィルは少し緊張した面持ちで俺に並んだ。

「はじめまして、お義父さん。ウィリアムです。どうぞウィルと呼んでください。」

「うん、ありがとう。ウィル君。息子がとてもお世話になっているみたいだね。それより、風邪かい??声が少し掠れているね??」

そう言われた瞬間、ボンッという音でもしそうなほど、ウィルが瞬時に真っ赤になった。
あ~、義父さん、そこ、突っ込まないであげて。
回復かけたんだけど、完全には治らなかっただけだから。

ちょっとさすがに昨日はやり過ぎだったなぁと反省する。
ウィルは微かにワナワナ震えて、一瞬俺を睨みつけた。
だから悪かったって。

それを不思議そうに見ていた義父さんが、突然、ポンっと手を打った。

「ああ!なるほど!!」

そう言ってにこにこと俺とウィルを見つめる。
ちょっと義父さん??
何がなるほどなんですか??
意味がわからず惚ける俺。
そんな俺を気にも止めずに、義父さんは謎は解けたと言わんばかりの満面の笑みで、とんでもない事を言い出した。

「それでサクはそんな顔をしているのか。駄目だろう、伴侶は大切にしないと。愛し合う事は素晴らしい事だが、限度はわきまえなさい。大人なのだから。」

その言葉に、ボンッと俺もウィルも真っ赤になった。
ちょっと義父さん?!
何言っちゃってるんだよ?!
俺はあまりの事に言葉が出なかった。
しかし義父さんはまるで晩御飯の味噌汁の具の話をしているように平然としている。

「まぁ、若さゆえなのだろうけれど、ハッスルするのも大概にしなさい。」

「ハ?!ハッスル?!いつの言葉?!それ?!」

「おや??今はハッスルとは言わないのかい??ん~、時代の言葉には疎いからねぇ、義父さんは。」

のほほんと話す義父さんを、俺は目を瞬かせて見つめる。
え?!待って?!
ハッスルって……意味は何となくわかるけどさ?!
そんなド直球に言う事?!
しかし俺とウィルの動揺に気付くこともなく、マイペースに義父さんは続ける。

「それにしても、あのサクがねぇ……。」

「あの?!義父さん?!」

「……あれ??そうすると、お前、体の方は良くなったのかい??」

「義父さんっ!!」

思わず声を荒げた俺を、義父さんはきょとんとした顔で見ている。
何?!何なの?!義父さんっ!!
脳天気にも程があるだろ?!

「何をそんなに慌てているんだい??サク??」

「だから!そういう事は気づいてもおおっぴらに言うべきじゃないだろ!!」

「どうしてだい??神様だってまぐわうのだから、別に変な事ではないだろう??」

「まぐ……。」

それ以上何も言えず口をぱくぱくさせている俺を、義父さんは不思議そうに見ている。
いやもう本当、ちょっと待ってください……。
俺は泣きそうになった。
ウィルに至っては、赤くなりすぎて両手で顔を覆って俯いてしまっている。

マジか…マジなのか……。

確かに義父さんは天然入ってる人だけど、よもやここまで酷いとは思わなかった……。
それとも離れて暮らしているうちに悪化したのか?!

「さぁ、こんなところで立ち話をしていてもなんだ。家に帰ろう。お汁粉を作っておいたんだよ。ウィル君はあんこは食べられるかい?」

マイペースな義父さんは、にこにことそう言った。
こんなところ、と言うのは、雑木林の中にある開けた場所だ。

俺達ははじめから姿隠しをしてヴィオールで東の国に来るつもりだったので、家の近くに降りれそうな場所がないか先立って義父さんに確認していたのだ。
そうしたら、裏の雑木林の中の畑なんかをやっている場所が今は空いているからと言うのでそこに降りたのだ。

だいたいの時間は教えてあったので、義父さんはそこで俺達を待っていてくれた。
神仕えの義父さんはそれなりに変な生き物(?)を見慣れているので、ヴィオールを見ても「おやまぁ、可愛い神様だねぇ。」と言うだけでたいして驚かず、ウィルを介さずに笑顔で顔を撫でてやっていたので流石だなぁと思った。

雑木林の中、教会の敷地内にある母屋を目指してサクサクと枯れ葉を踏みしめながら歩く。

懐かしいな。

林の匂い。
土と枯れ葉の匂い。

小さい子供の頃はこの雑木林の中で1日中過ごした。
一人でいることもあったし、他の子供らと一緒の事もあった。
とにかく木々の中にいると安心したのだ。

「サク、どんぐりは拾わなくていいのかい??」

「……義父さん……俺をいくつだと思ってるんですか……??」

「ははは、ごめんよ。私にとったらいくつになっても、小さな息子で可愛いサクだからね。」

「小さくはないでしょう、小さくは。」

こんなに大きくなったのに、小さな可愛い息子だと言われ少し照れる。
他愛もない俺と義父さんとの会話にウィルがくすっと笑った。

「サークはどんな子供だったんですか?」

「うん。目を離すとすぐどこかに行ってしまう子で大変だったよ。大体はこの雑木林のどこかにいたから良かったけれど、一度は奥の御影山に入ってしまってね、地域総出で3日も探した事があったよ。」

「ちょっと!!義父さんっ!!」

「なのに本人はいつも飄々としていてね。」

「ふふふっ、サークらしいですね。」

「おや?この子は大人になってもまだ風来坊をしているのかい??」

「ええ、サークはすぐふらふらどこかに行ってしまうので、皆、苦労しています。」

「ちょっと!ウィルっ!!そんな事してないじゃんっ!!」

「してるよ。自覚がないだけで。」

「ははは、三つ子の魂百までだからね。おそらく一生、直らないよ。苦労をかけるね、ウィル君。」

「覚悟の上です。」

「ありがとう。サク、良い方が伴侶になってくれたね。こんないい子は中々捕まらないよ?ハッスルしてないで、もっと大事にしなさい。」

「……もう、ハッスルの話は忘れてよ……。」

俺はがっくりと肩を落とし項垂れた。

義父さんて、こんな人だったっけ??
まぁ俺の記憶にある義父さんは10年近く前の記憶だからなぁ。

俺はちらりと義父さんを見つめた。
小さなサークがとても大きいと思っていた義父さんは、東の国の標準体型で、中央王国の人に比べればむしろ小柄とも言える感じだ。

一緒に暮らしていたのはそんなにも昔の事なんだなと思う。
そんなに前の事のように思えない反面、それが本当の事だったかわからない感じにぼんやりもしている。

養子に行くって言っても名前を借りるだけで、そのまま義父さん達と暮らすんだと思っていたら、屋敷に連れて行かれて。
連れて行かれても気軽に帰れるものだと思っていたら、もうこの家の者になったのだからと例の親族たちに学校以外は敷地の外に出してもらえなくて……。

それで養子になるって言うのは、完全によそのうちの子になる事なんだと知った。

おじさんとおばさんは名前を貸すだけのつもりだったのに、貴族の家では一族の意見が優先されるから、俺はあれよあれよと言う感じで一族の家督争いに巻き込まれた。

「……義父さん。」

「ん??」

「手紙で話してた事なんだけど……。」

「ああ、今夜、おこしになるよ。」

「そっか……。」

「きちんとお礼を言いなさい。」

「はい……。」

俺も義父さんもそれ以上、その事については何も言わなかった。

逃げてばかりでは駄目なのだ。

俺はウィルを伴侶にする。
だから、俺について回る影はウィルにも影響しかねない。
ある程度はキチンと目処をつけないと。

複雑な顔をする俺の手を、ウィルが何も言わずに握ってくれた。
その温かさにほっとする。

「ウィルがいてくれて良かった。」

俺はそう言って、寄り添ってくれるウィルに甘えた。
そんな俺を見て義父さんがくすくす笑う。

「大きくなっても、サクは甘えん坊のままなんだね。」

「あ、これはその……っ!」

ちょっとかっこ悪くて慌てる。
ウィルには甘えたいけど、さすがに義父さんに見られるというのはこっ恥ずかしい……。
それをおかしそうに笑いながらウィルが言った。

「子供の頃からこんなに甘ったれなんですか?サークは??」

「うん。はじめはなかなか甘えて来ないけど、一度、この人は甘えて大丈夫だとわかるとべったりだったよ。それがまた可愛くてね。サクは甘やかしがいがあるだろ?ウィル君?」

「ええ。あんまりにも可愛いので、他の人に甘えないように凄く気をつけてます。」

「ちょっと!やめてよ!!俺!そんなに甘ったれじゃないよ?!」

「いや、サクは甘えん坊だよ??」

「うん、サークは甘えん坊だよ。そこが可愛いんだけど。」

何故か義父さんとウィルに甘えん坊認定されてしまい、俺はもがもがするしかなかった。
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