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第九章「海神編」
可愛い人
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思いの外やる事が多かったのと女神祭壇に寄ったせいで、帰りはすっかり遅くなってしまった。
暗くなった帰路を早足で歩く。
「ただいま~!!遅くなってごめんっ!!」
玄関を入って思い切り叫ぶ。
考えてみれば、家に待っている人がいるからと急ぎ、玄関でただいまと叫ぶなんて一人暮らしではあり得ないことだ。
婚姻前だけど、何か本当に家を持ったんだな、家庭を持ったんだなと実感した。
「あ!旦那様!お帰りなさい!!」
「ただいま、カレン。どうしたの?何かあった??」
俺が叫ぶと、パタパタとカレンがキッチンの方から顔を出した。
その慌てた様子にちょっと驚いた。
「大旦那様が~!」
ぴよぴよと焦った様子でカレンは言った。
え?!義父さんが何だって?!
俺はカレンに導かれるまま、ニ階に上がった。
「……義父さ~~んっ?!」
俺が義父さんが使っている一番隅の部屋のドアを開けると、義父さんがベッドにうつ伏せに倒れていた。
寄り添っていたウィルが顔を上げる。
「おかえり、サーク。」
「ただいま、どうしたの?!義父さん?!」
「あ~、サク、おかえり~。」
「ただいま。大丈夫?!どうしたの?!」
俺はそう言って寝ている義父さんに近づいた。
義父さんは明るく声を出したものの、うつ伏せのまま動かなかった。
これって……もしや……。
「ごめんよ~サク~。ウィル君とカレンと作業するのが楽しくて~。調子に乗ったらこのざまだよ~。歳には勝てないねぇ~。」
「つまり……やっちゃったんですね……?ぎっくり腰……。」
俺はホッとして上を見上げた。
何か大きな病気がここで発覚したとかじゃなくて良かった。
心配そうにしながら、濡れタオルで義父さんの腰を冷やしていたウィルに微笑む。
「大丈夫、後は俺が見るよ。」
「わかった。なら、カレンと夕飯の準備をしとくよ。」
「ありがと、ウィル。」
そう言って挨拶のキスを交わす。
何かニヤけちゃうなぁ~。
このやり取り。
可愛いウィルの後ろ姿を見送っていると、義父さんの声がした。
「ん~??……見えないけど、ラブラブだね。二人とも。」
突っ伏している義父さんにツッコまれ、俺は苦笑いした。
多分、俺には感知できないレベルの精霊に教えてもらったのだろう。
「俺らの事聞いてるのも良いけど、ぎっくり腰になる前にも教えてくれてたんじゃないの??」
「あはは、面目ない。言われてたんだけど浮かれててね?大丈夫!大丈夫!ってやってたら、駄目だったよ。」
「はいはい、意外にお調子者なんだね、義父さん。ちょっと触るよ??」
俺は手桶で手を洗ってから、義父さんの腰に触れた。
くすぐったいのか、義父さんはブフッと変な音を立てた。
俺はとりあえず回復をかけていく。
「義父さん、冷やすのと温めるの、どっちが良い?」
「ん~??どっちの方が良くなるんだっけ??」
「成りたての時は炎症が起こってるから、はじめのうちは冷した方が良いかな?でも回復かけてるし、温めた方が気持ちいいなら温めるよ。」
「ん~大丈夫、冷やしてもらえるかな?サク。」
「了解。」
俺は回復と冷却の魔術の2つを使ってぎっくり腰を治療した。
はじめはちょっと動いたり大きく息をするのも痛そうだったが、そのうち顔を横にしても痛くなくなったようで、俺を見上げた。
「すっかり、立派な魔術師だね、サク。」
「お陰様で。」
「はは、義父さんは何もしていないよ。色々あってもサクが頑張ったからだよ。」
「魔術師にはなれたけど、義父さんの跡継ぎにはなれなかったね。」
「そりゃ仕方ないさ。誰にだって得意不得意、そして適性がある。お前は精霊の気が強いから、良い神仕えにもなれたかもしれないけどねぇ~。むしろお前は魔術師向きだった。それだけだよ。」
義父さんは笑った。
そして体を起こそうと身をよじった。
「義父さんっ!!」
「おお!捻っても何ともない!!」
「だからって無理しないでよ!!一度なると癖がついてるんだから!!」
「ふふふっ、わかったよサク。気をつけるよ。」
義父さんがそう言って起き上がって服を整えていると、カレンが様子を見に来た。
「大旦那、大丈夫ですか?!」
「ああ、びっくりさせてごめんね、カレン。サクが治してくれたからね、もう大丈夫だよ。」
「お食事ですけど、こちらにお持ちしますか?」
「いや、大丈夫。下に降りるよ。」
俺はそう言って立ち上がる義父さんをサポートした。
どうやらもう、なんともないようだ。
ちょっとおっかなびっくり動く義父さんに微笑みながら、俺は一緒に普段遣いのダイニングに向かったのだった。
何か、幸せってこういう事だなぁと俺は噛み締めていた。
立ち上がる湯気。
両手を広げ足を伸ばしても余裕の浴槽。
何なら寝転んだって平気だ。
「あああぁぁ~~。生きてて良かった~。」
広々とした浴室と浴槽。
たっぷりの湯船。
あ~生き返る~。
俺はお湯に浸かって蕩けていた。
お湯を汲んでとりあえずぎっくり腰が完治したばかりの義父さんに入ってもらい、ウィルに先にどうぞって言ったんだけど、やる事があるからと言われ先に入らせてもらった。
それにしてもこれは極楽だ。
アパートの時は銭湯に毎日行くのは面倒だし金がかかるから、外壁警備の時はテント小屋の井戸で水をかぶるか家で体を拭くかが多かったし、別宮勤務になってからは帰る前にシャワー浴びて済ませる事も多かった。
独身寮では大浴場もあったけど、皆が入るのは無理だから1日おきに入れる日と入れない日があって、時間も決められてたから、結局シャワーで済ませる事も多かった。
でもこれからは、湯を汲めば入りたい時に風呂にはいれる。
お湯がもったいないとかもあるが、湯沸かしシステムも最新のものに変えられているので、浴槽のお湯は排水後濾過・浄化され再利用されてそこまで無駄にならない。
お湯を沸かすのは火炎魔結石を用いたシステムだが、落ち着いたら魔力電池と併用したものに作り変えよう。
「あ~。持ち家って良いなぁ~。幸せだなぁ~。」
かぽ~んとばかりにお湯に浸かり、俺はホクホクと満足な時間を過ごしていた。
すると、脱衣所の方で音がした。
何だろう?ウィルが着替えかタオルでも持ってきてくれたのかな??
そんな事を思っていると、ガラリと浴室の扉が開いた。
「……えっ?!ええええぇぇぇぇ~っ?!」
「何だ?嫌なのか??」
そこにはウィルがいて、悪戯な笑みを浮かべている。
もちろん、生まれたままの姿でだ。
タオルで一応大事な所は隠されてはいるけれど、完全に風呂に入る状態なのだ。
え?!ちょっと待って?!
初日からそんなサービスありなんですか?!
「……マジで?!」
「ふふふっ。だって、東の国では一緒に入って温めてやれなかっただろ??」
ウィルはそう言うと軽くかけ湯をした後、俺に背を向けて体を洗い始めた。
綺麗な背中のラインに、目が釘付けになる。
「……………。」
マジか……自宅、最高……。
こんな夢のような展開、ありなんですね?!
だってそうだよ!!
俺達夫婦になるんだから、一緒に風呂に入っても良いのだ!!
「のはぁ~っ!!」
「何、その変な叫び声?!」
おかしそうに笑いながら、体を洗い終えたウィルが湯船に入ってくる。
クスッと笑って俺の横にひっつく。
「ウィル~っ!!サービス過剰!!まだ初日なのに~!!」
俺はドギマギがピークに達して手で顔を覆った。
そんな俺を不思議そうにウィルは見つめてくる。
「初日って言っても……。俺、明日にはボーンさんの所に行くから、今日しか一緒に入れないぞ??」
「ハッ!!そうだった!!」
何か幸せすぎて忘れていたが、明日、ウィルはボーンさんの所に行ってしまう。
今夜が終わったらしばらく会えないのだ。
「え~!寂しい!寂しいよ~ぅ!!」
「はいはい、良い子良い子。」
「ウィル~っ!!」
俺は湯船の中でウィルを抱きしめた。
完全にお互い何も身に着けてないのだから、当たり前だが肌が触れ合う。
その途端、俺もウィルも当然、意識してしまった。
「……サーク……寂しいのは俺だって一緒だ……。」
「うん……。ウィル、前に来て……?」
俺はそう言ってウィルに動いてもらい、バックハグをする形で抱きしめた。
ウィルも俺に体を預けてくれる。
後ろから抱きしめて、耳の後ろあたりにキスをする。
ウィルが恥ずかしそうに身をよじった。
「サーク……まだダメ……。」
「どうして??」
「のぼせるだろ……。」
「ちょっとだけ……ちょっとだけだから……。」
ちょっとだけっていうか!!
このシチュエーションで何もしないなんてあるか?!
あるわけ無いだろう?!
回した手をお湯の中で滑らせ、ウィルの身体を撫でる。
お湯のせいかはたまた別の原因か、赤らんだ肌にキスを落とす。
「ダメ……サーク……。」
「嘘。本当に駄目なら、ウィルは入ってこなかったでしょ??」
「だって……。」
だってと言うウィルは色っぽい。
お湯か汗かで髪が濡れて肌に貼り付いてる。
「ウィル、エッチな顔してる。可愛い。」
「エッチな顔はお前だ、サーク……。そんな顔で俺を見ないでくれ……。」
「どうして??」
「……たまらなくなるから……。」
そう言って振り向いたウィルが、俺に腕を絡めてキスしてくる。
湯船の中、肌を絡ませあって濡れた口づけを交わす。
ウィルの雄がやんわりと反応している。
う~ん。
これはどこまでしちゃっていいんだろう?!
と言うか、自宅風呂、最高!!
二人でこんなイチャイチャしながらエッチな雰囲気を満喫できるとか!もう興奮が凄い!!
腰を抱き寄せて臀部をやわやわ揉みしだくと、ウィルが抗議する様に唇を噛んでくる。
「痛っ!!」
「駄目って言ってるだろ??悪い子だな??」
そう言って笑って俺を見下ろしたウィルが、唐突に真顔になった。
真顔というか、キョトンとびっくりが混ざった様な表情をしている。
そして次の瞬間、爆笑しだした。
浴槽内に、ウィルの笑い声が響く。
「え?!えぇっ?!何で?!」
物凄く濃厚ないい雰囲気だったのに、それをウィルの笑い声がかき消してしまった。
もう本当、爆笑していて涙まで浮かべている。
「サ、サーク……っ!!お前……っ!!」
ウィルはゲラゲラ笑いながら、意味がわからず固まる俺の顔にタオルを押し当てた。
へっ?!何?!何なの?!
よくわからないまま、押し当てられたタオルを手にして俺は愕然とした。
あ、うん……。
これは爆笑されても仕方がない……。
俺はがっくりと項垂れた。
「こら、下を向くな。湯船に落ちるだろ?!」
くすくす笑いながら、ウィルがまた、タオルを俺の顔に押し当てる。
顔っていうか、口元っていうか……
鼻の下に。
「……嘘だろ~っ!!」
俺は叫んだ。
タオルは俺の鼻から垂れた血液で赤く染まっている。
そう、俺は鼻血を吹いた。
何で?!何で今?!
めちゃくちゃいい雰囲気だったのにっ!!
もう自分が情けないやら恥ずかしいやら!!
「結構、長く湯船に浸かってたもんな、サーク?」
「それにしだって……!!何で今なんだよ~!!」
「だからのぼせるって言ったんだよ。立てるか?」
「……立てます。」
俺はウィルに気遣われながら、立ち上がった。
めちゃくちゃかっこ悪い……。
ウィルが慰めるように頭を撫でてくれた。
「うぅ。かっこ悪い……。」
「ふふふっ。かっこ悪いけど、ちょっと可愛い。」
「可愛い?!物凄くいい雰囲気だったのに!のぼせて鼻血吹いたんよ?!俺?!」
「そんな所が可愛い。」
ウィルがチュッと瞼にキスしてくれる。
あ~、穴があったら入りたい。
いやエッチな意味じゃなくてね。
物凄く落ち込んできたけど、ウィルが呆れないでくれたからまぁいいや……。
「ふふっ。出たら水を飲んで、涼みながらベッドでゆっくりしてるんだよ?」
「うん……。」
「良い子で待ってられたら、ご褒美上げるから……。」
「!!!!」
ウィルがっくりと色っぽく耳元で囁いた。
俺は慌てて鼻にしっかりタオルを当てる。
その様子を見て、ウィルがまたプッと吹き出した。
「笑わないでよ~!!」
「ごめんごめん、だって可愛くて……。」
めちゃくちゃかっこ悪い所が思うんだけど、ウィルには可愛く見えるようだ。
ウィルがそう思ってくれるなら、とりあえずいいや……。
俺はくすくす笑うウィルに見送られながら、浴室を後にした。
そしてキッチンに行き、コップに水を汲んで1杯飲んだ。
あ~もう!!
マジでかっこ悪いっ!!
せっかくのお風呂でイチャイチャエッチのチャンスだったのに!!
初めて一緒にお風呂に入ったのに!!
だが、ここで項垂れてても仕方がない。
夜はこれからなのだ!!
このカッコ悪さはベッドで挽回しよう……。
俺はそう心に決めて、もう一、杯水を飲んだ。
暗くなった帰路を早足で歩く。
「ただいま~!!遅くなってごめんっ!!」
玄関を入って思い切り叫ぶ。
考えてみれば、家に待っている人がいるからと急ぎ、玄関でただいまと叫ぶなんて一人暮らしではあり得ないことだ。
婚姻前だけど、何か本当に家を持ったんだな、家庭を持ったんだなと実感した。
「あ!旦那様!お帰りなさい!!」
「ただいま、カレン。どうしたの?何かあった??」
俺が叫ぶと、パタパタとカレンがキッチンの方から顔を出した。
その慌てた様子にちょっと驚いた。
「大旦那様が~!」
ぴよぴよと焦った様子でカレンは言った。
え?!義父さんが何だって?!
俺はカレンに導かれるまま、ニ階に上がった。
「……義父さ~~んっ?!」
俺が義父さんが使っている一番隅の部屋のドアを開けると、義父さんがベッドにうつ伏せに倒れていた。
寄り添っていたウィルが顔を上げる。
「おかえり、サーク。」
「ただいま、どうしたの?!義父さん?!」
「あ~、サク、おかえり~。」
「ただいま。大丈夫?!どうしたの?!」
俺はそう言って寝ている義父さんに近づいた。
義父さんは明るく声を出したものの、うつ伏せのまま動かなかった。
これって……もしや……。
「ごめんよ~サク~。ウィル君とカレンと作業するのが楽しくて~。調子に乗ったらこのざまだよ~。歳には勝てないねぇ~。」
「つまり……やっちゃったんですね……?ぎっくり腰……。」
俺はホッとして上を見上げた。
何か大きな病気がここで発覚したとかじゃなくて良かった。
心配そうにしながら、濡れタオルで義父さんの腰を冷やしていたウィルに微笑む。
「大丈夫、後は俺が見るよ。」
「わかった。なら、カレンと夕飯の準備をしとくよ。」
「ありがと、ウィル。」
そう言って挨拶のキスを交わす。
何かニヤけちゃうなぁ~。
このやり取り。
可愛いウィルの後ろ姿を見送っていると、義父さんの声がした。
「ん~??……見えないけど、ラブラブだね。二人とも。」
突っ伏している義父さんにツッコまれ、俺は苦笑いした。
多分、俺には感知できないレベルの精霊に教えてもらったのだろう。
「俺らの事聞いてるのも良いけど、ぎっくり腰になる前にも教えてくれてたんじゃないの??」
「あはは、面目ない。言われてたんだけど浮かれててね?大丈夫!大丈夫!ってやってたら、駄目だったよ。」
「はいはい、意外にお調子者なんだね、義父さん。ちょっと触るよ??」
俺は手桶で手を洗ってから、義父さんの腰に触れた。
くすぐったいのか、義父さんはブフッと変な音を立てた。
俺はとりあえず回復をかけていく。
「義父さん、冷やすのと温めるの、どっちが良い?」
「ん~??どっちの方が良くなるんだっけ??」
「成りたての時は炎症が起こってるから、はじめのうちは冷した方が良いかな?でも回復かけてるし、温めた方が気持ちいいなら温めるよ。」
「ん~大丈夫、冷やしてもらえるかな?サク。」
「了解。」
俺は回復と冷却の魔術の2つを使ってぎっくり腰を治療した。
はじめはちょっと動いたり大きく息をするのも痛そうだったが、そのうち顔を横にしても痛くなくなったようで、俺を見上げた。
「すっかり、立派な魔術師だね、サク。」
「お陰様で。」
「はは、義父さんは何もしていないよ。色々あってもサクが頑張ったからだよ。」
「魔術師にはなれたけど、義父さんの跡継ぎにはなれなかったね。」
「そりゃ仕方ないさ。誰にだって得意不得意、そして適性がある。お前は精霊の気が強いから、良い神仕えにもなれたかもしれないけどねぇ~。むしろお前は魔術師向きだった。それだけだよ。」
義父さんは笑った。
そして体を起こそうと身をよじった。
「義父さんっ!!」
「おお!捻っても何ともない!!」
「だからって無理しないでよ!!一度なると癖がついてるんだから!!」
「ふふふっ、わかったよサク。気をつけるよ。」
義父さんがそう言って起き上がって服を整えていると、カレンが様子を見に来た。
「大旦那、大丈夫ですか?!」
「ああ、びっくりさせてごめんね、カレン。サクが治してくれたからね、もう大丈夫だよ。」
「お食事ですけど、こちらにお持ちしますか?」
「いや、大丈夫。下に降りるよ。」
俺はそう言って立ち上がる義父さんをサポートした。
どうやらもう、なんともないようだ。
ちょっとおっかなびっくり動く義父さんに微笑みながら、俺は一緒に普段遣いのダイニングに向かったのだった。
何か、幸せってこういう事だなぁと俺は噛み締めていた。
立ち上がる湯気。
両手を広げ足を伸ばしても余裕の浴槽。
何なら寝転んだって平気だ。
「あああぁぁ~~。生きてて良かった~。」
広々とした浴室と浴槽。
たっぷりの湯船。
あ~生き返る~。
俺はお湯に浸かって蕩けていた。
お湯を汲んでとりあえずぎっくり腰が完治したばかりの義父さんに入ってもらい、ウィルに先にどうぞって言ったんだけど、やる事があるからと言われ先に入らせてもらった。
それにしてもこれは極楽だ。
アパートの時は銭湯に毎日行くのは面倒だし金がかかるから、外壁警備の時はテント小屋の井戸で水をかぶるか家で体を拭くかが多かったし、別宮勤務になってからは帰る前にシャワー浴びて済ませる事も多かった。
独身寮では大浴場もあったけど、皆が入るのは無理だから1日おきに入れる日と入れない日があって、時間も決められてたから、結局シャワーで済ませる事も多かった。
でもこれからは、湯を汲めば入りたい時に風呂にはいれる。
お湯がもったいないとかもあるが、湯沸かしシステムも最新のものに変えられているので、浴槽のお湯は排水後濾過・浄化され再利用されてそこまで無駄にならない。
お湯を沸かすのは火炎魔結石を用いたシステムだが、落ち着いたら魔力電池と併用したものに作り変えよう。
「あ~。持ち家って良いなぁ~。幸せだなぁ~。」
かぽ~んとばかりにお湯に浸かり、俺はホクホクと満足な時間を過ごしていた。
すると、脱衣所の方で音がした。
何だろう?ウィルが着替えかタオルでも持ってきてくれたのかな??
そんな事を思っていると、ガラリと浴室の扉が開いた。
「……えっ?!ええええぇぇぇぇ~っ?!」
「何だ?嫌なのか??」
そこにはウィルがいて、悪戯な笑みを浮かべている。
もちろん、生まれたままの姿でだ。
タオルで一応大事な所は隠されてはいるけれど、完全に風呂に入る状態なのだ。
え?!ちょっと待って?!
初日からそんなサービスありなんですか?!
「……マジで?!」
「ふふふっ。だって、東の国では一緒に入って温めてやれなかっただろ??」
ウィルはそう言うと軽くかけ湯をした後、俺に背を向けて体を洗い始めた。
綺麗な背中のラインに、目が釘付けになる。
「……………。」
マジか……自宅、最高……。
こんな夢のような展開、ありなんですね?!
だってそうだよ!!
俺達夫婦になるんだから、一緒に風呂に入っても良いのだ!!
「のはぁ~っ!!」
「何、その変な叫び声?!」
おかしそうに笑いながら、体を洗い終えたウィルが湯船に入ってくる。
クスッと笑って俺の横にひっつく。
「ウィル~っ!!サービス過剰!!まだ初日なのに~!!」
俺はドギマギがピークに達して手で顔を覆った。
そんな俺を不思議そうにウィルは見つめてくる。
「初日って言っても……。俺、明日にはボーンさんの所に行くから、今日しか一緒に入れないぞ??」
「ハッ!!そうだった!!」
何か幸せすぎて忘れていたが、明日、ウィルはボーンさんの所に行ってしまう。
今夜が終わったらしばらく会えないのだ。
「え~!寂しい!寂しいよ~ぅ!!」
「はいはい、良い子良い子。」
「ウィル~っ!!」
俺は湯船の中でウィルを抱きしめた。
完全にお互い何も身に着けてないのだから、当たり前だが肌が触れ合う。
その途端、俺もウィルも当然、意識してしまった。
「……サーク……寂しいのは俺だって一緒だ……。」
「うん……。ウィル、前に来て……?」
俺はそう言ってウィルに動いてもらい、バックハグをする形で抱きしめた。
ウィルも俺に体を預けてくれる。
後ろから抱きしめて、耳の後ろあたりにキスをする。
ウィルが恥ずかしそうに身をよじった。
「サーク……まだダメ……。」
「どうして??」
「のぼせるだろ……。」
「ちょっとだけ……ちょっとだけだから……。」
ちょっとだけっていうか!!
このシチュエーションで何もしないなんてあるか?!
あるわけ無いだろう?!
回した手をお湯の中で滑らせ、ウィルの身体を撫でる。
お湯のせいかはたまた別の原因か、赤らんだ肌にキスを落とす。
「ダメ……サーク……。」
「嘘。本当に駄目なら、ウィルは入ってこなかったでしょ??」
「だって……。」
だってと言うウィルは色っぽい。
お湯か汗かで髪が濡れて肌に貼り付いてる。
「ウィル、エッチな顔してる。可愛い。」
「エッチな顔はお前だ、サーク……。そんな顔で俺を見ないでくれ……。」
「どうして??」
「……たまらなくなるから……。」
そう言って振り向いたウィルが、俺に腕を絡めてキスしてくる。
湯船の中、肌を絡ませあって濡れた口づけを交わす。
ウィルの雄がやんわりと反応している。
う~ん。
これはどこまでしちゃっていいんだろう?!
と言うか、自宅風呂、最高!!
二人でこんなイチャイチャしながらエッチな雰囲気を満喫できるとか!もう興奮が凄い!!
腰を抱き寄せて臀部をやわやわ揉みしだくと、ウィルが抗議する様に唇を噛んでくる。
「痛っ!!」
「駄目って言ってるだろ??悪い子だな??」
そう言って笑って俺を見下ろしたウィルが、唐突に真顔になった。
真顔というか、キョトンとびっくりが混ざった様な表情をしている。
そして次の瞬間、爆笑しだした。
浴槽内に、ウィルの笑い声が響く。
「え?!えぇっ?!何で?!」
物凄く濃厚ないい雰囲気だったのに、それをウィルの笑い声がかき消してしまった。
もう本当、爆笑していて涙まで浮かべている。
「サ、サーク……っ!!お前……っ!!」
ウィルはゲラゲラ笑いながら、意味がわからず固まる俺の顔にタオルを押し当てた。
へっ?!何?!何なの?!
よくわからないまま、押し当てられたタオルを手にして俺は愕然とした。
あ、うん……。
これは爆笑されても仕方がない……。
俺はがっくりと項垂れた。
「こら、下を向くな。湯船に落ちるだろ?!」
くすくす笑いながら、ウィルがまた、タオルを俺の顔に押し当てる。
顔っていうか、口元っていうか……
鼻の下に。
「……嘘だろ~っ!!」
俺は叫んだ。
タオルは俺の鼻から垂れた血液で赤く染まっている。
そう、俺は鼻血を吹いた。
何で?!何で今?!
めちゃくちゃいい雰囲気だったのにっ!!
もう自分が情けないやら恥ずかしいやら!!
「結構、長く湯船に浸かってたもんな、サーク?」
「それにしだって……!!何で今なんだよ~!!」
「だからのぼせるって言ったんだよ。立てるか?」
「……立てます。」
俺はウィルに気遣われながら、立ち上がった。
めちゃくちゃかっこ悪い……。
ウィルが慰めるように頭を撫でてくれた。
「うぅ。かっこ悪い……。」
「ふふふっ。かっこ悪いけど、ちょっと可愛い。」
「可愛い?!物凄くいい雰囲気だったのに!のぼせて鼻血吹いたんよ?!俺?!」
「そんな所が可愛い。」
ウィルがチュッと瞼にキスしてくれる。
あ~、穴があったら入りたい。
いやエッチな意味じゃなくてね。
物凄く落ち込んできたけど、ウィルが呆れないでくれたからまぁいいや……。
「ふふっ。出たら水を飲んで、涼みながらベッドでゆっくりしてるんだよ?」
「うん……。」
「良い子で待ってられたら、ご褒美上げるから……。」
「!!!!」
ウィルがっくりと色っぽく耳元で囁いた。
俺は慌てて鼻にしっかりタオルを当てる。
その様子を見て、ウィルがまたプッと吹き出した。
「笑わないでよ~!!」
「ごめんごめん、だって可愛くて……。」
めちゃくちゃかっこ悪い所が思うんだけど、ウィルには可愛く見えるようだ。
ウィルがそう思ってくれるなら、とりあえずいいや……。
俺はくすくす笑うウィルに見送られながら、浴室を後にした。
そしてキッチンに行き、コップに水を汲んで1杯飲んだ。
あ~もう!!
マジでかっこ悪いっ!!
せっかくのお風呂でイチャイチャエッチのチャンスだったのに!!
初めて一緒にお風呂に入ったのに!!
だが、ここで項垂れてても仕方がない。
夜はこれからなのだ!!
このカッコ悪さはベッドで挽回しよう……。
俺はそう心に決めて、もう一、杯水を飲んだ。
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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