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第九章「海神編」
翳を曳く足音
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「それじゃ、サーク、行ってくる。浮気するなよ?」
「むしろウィルこそよそ見しないでね?!絶対だよ?!俺をウィル無しじゃ生きてけないくらい骨抜きにしたんだから!今更捨てないでよ?!」
「あはは、捨てない捨てない。……多分。」
「多分って何~っ?!」
出掛け、ウィルがそう言って俺をからかった。
不穏な返答に俺が発狂すると、皆がゲラゲラ笑っていた。
もう!笑い事じゃないんだよ!!
俺にとったら生きるか死ぬかぐらいの事なんだよ!!
からかわれてるだけだとわかってるけど、物凄く不安になる……。
だってウィル、こんなに美人なんだよ?!
こんなにこんなに可愛いんだよ?!
しかもウィルってば!!
あんなにエッチな体なんだよ~っ!!(絶叫)
会わない間にムラムラしちゃって!
何か間違いが起きたらどうしたらいいの?!
あまりに不安で「寂しくなったらこれを俺だと思って?」と言って、前までペニスバンドにつけてたディルドをそっと渡したら、赤面してグーで殴られた。
でも俺は知ってる。
滅茶苦茶厳重にぐるぐる巻きにして袋にしまって紐で固く封印してたけど、ウィルがこっそり俺の元偽ちんぽをカバンにしまった事を。
もう♡素直じゃないな~♡照れ屋なんだから♡
「奥様~、寂しいです~。」
カレンがそう言ってウィルに抱きついた。
ウィルもギュッとハグを返す。
「ごめんね、カレン~!俺も寂しいよ~!頑張ってできるだけ早く帰ってくるからね~っ!!」
「わかりました~!!私も頑張って、奥様が帰って来られる時までに、いっぱいできる事を増やしておくので!その時は褒めてくださいね~!!」
「カレン~!!いい子すぎる~っ!!」
ムギュムギュし合うウィルとカレンは本当に仲良しだ。
ウィルって妹がいるって言ってたもんな?
そういうのも思い出して、カレンが可愛くて仕方ないんだろうなぁ。
と言うか、ウィルっていつの間にか「奥さん」と言われても否定しなくなったよな??
散々、周りから言われているうちに、抵抗がなくなっちゃったみたいだ。
俺が最初にプロポーズした時は、結婚してもいいけど奥さんになるのはヤダって言ってたのにな??
「おお~い、おめぇ、行くのか?行かねぇのか?!」
「すみません、行きます。師匠。」
いつまでも出かけられず、ボーンさんが困惑してそう声をかけてきた。
カレンから体を離すと、ウィルはとても真面目な顔をして、ボーンさんに頭を下げた。
ウィルの言葉に、ボーンさんが慌てふためいている。
「しっ?!師匠?!」
「はい。アレック君……いや、兄弟子さんから、修行するならちゃんと師匠って呼ぶようにって言われましたので、ここからは師匠と呼ばせていただきます。」
「はぁ?!アイツ、おめぇにそんな事言いやがったのか?!全く……。師匠だの先生だの、勝手に呼びやがってあの姉弟はよぉ~。別にそう呼ばないとなんねぇなんて決まりはねぇから気にすんな、ウィル。多分、おめぇの場合、たいして教えられる事なんざねぇだろうし、俺にもどうすんのが良いのかよくわかんねぇからなぁ。」
「それでも師匠は師匠です。」
「……まぁいい。好きに呼べばいいさ。全く……。」
ちょっと照れたようにツンっとボーンさんは顔を反らせた。
本当、ボーンさんてツンデレで可愛いよなぁ。
ムサイ髭面のちっこいドワーフのオッサン(正確にはおじいさん??)が可愛く見えるとか、ちょっと自分でも感覚ヤバイのかなってたまに思う。
皆が俺の事を小動物って言うけど、俺よりボーンさんの方が小動物って表現は合ってると思うんだけどなぁ~。
「気をつけて行っておいで。」
「ありがとうございます。お義父さん。また遊びに来て下さい。」
「うん。ウィル君もまた東の国においで。子どもたちも喜ぶから。」
「はい、ぜひ。」
「それじゃ、サーク。」
「うん、気をつけて。」
そう言ってウィルとハグをする。
そしたらウィルが耳元でこそっと囁いた。
「……帰ったら、昨夜の続きをしような?」
「!!!!」
唐突なエロ発言!!
その上、チュッと耳たぶにキスしてくる。
ウィル~~っっ!!
何てエロい事をするんですかぁ~っ!!
俺はボンッと発火してしまった。
そんな俺に、ウィルは悪戯な笑みを見せる。
「浮気すんなよ?」
「は、はひ……。」
俺……多分、一生、ウィルには勝てないんだと思う。
そんな事を思い知らされながら、俺はウィルを見送ったのだった。
「ねぇ、義父さん。あれって何だったの??」
「あれ??」
俺は午前中の休みを使って、義父さんに街を案内しがてら、買い出しをしていた。
買い出しなんで商店街の他、朝市とかにも寄ったのだが、東の国にはなかったり高かったりするものが安く売られているものだから、義父さんが大興奮して買い溜めしていた。
いや義父さん、今は俺の異空間付きバッグがあるからたくさん買っても大丈夫だけど、どうやって持って帰るつもりなの??
悪いけどこのカバンは貸さないからね??
まぁ、子どもたちとかの服は腐らないし配達してもらえば良いけど……。
義父さんは俺の質問にきょとんとした顔をした。
まぁいきなりあれじゃわからないよな。
「ボーンさんとのやり取り。急に畏まった挨拶しだしたじゃん??」
「あ~、あれかい?ふふふっ、ボーンさんも面白い人だね。今時、あの挨拶をされるとは思わなくて義父さんもびっくりしたよ。」
「あの挨拶??」
「うん。アイノウだったかな??私は貴方を知っていますって挨拶なんだ。古くは初めてお目にかかった目上の人にした挨拶だよ。」
「へ~??」
「ただ義父さんの場合、名前がないだろ??だからちょっと変な感じになっちゃったけどね。初めに相手の名前を言って挨拶するんだ。そこで相手が違いますって言ったら、挨拶を断られたって事でそれ以上は何も言わずに引き下がる。相手が答えてくれたら、こういう理由で貴方を知っているのでお近づきになりたいですって意思を示すんだよ。」
「あ~、だから西の海で見かけたって言ってたのか、ボーンさん。って言うか、西の海で何があったの??」
「大したことじゃないよ。いつも通り、神様と揉めてるから私が話しに行っただけだよ。」
「でも各国の王様が絡んでたなんて、大事だったんでしょ??」
「さぁ??義父さんは王様達の事は知らなかったし……。いつも通り教会会議で、ちょっとお前、揉めてるらしいから行ってきてくれって言われたから行ってきただけで、あれがそんな大事だったなんて義父さんは知らなかったよ。それよりも唐揚げを食べ損ねたのがショックだったなぁ~。」
「まぁ、月一イベントだしね、唐揚げ。」
うちの教会では基本的に質素な食事をするのだが、それでは育ち盛りの子どもたちには物足りない。
だから月に一度だけ、唐揚げの日がある。
唐揚げの日は数日前から準備をして、鶏を買ってきたり飼っているものを間引いたりして下処理を自分たちで行う。
だからうちの教会育ちの子は皆、鶏くらいは捌ける。
そうやって生きる為には命を頂くのだと、自分が口にするものがどれだけ尊いものなのかを自分の命の中に刻むのだ。
大昔は命を奪う事は教会では禁忌とされていたみたいだし、数は少ないけれど今でもそれを表向きは守っている教会もある。
でも神様自身色々食べちゃう方も多いし、禁忌としてそういう事を覆い隠してしまうと、食べるだけ食べて本当の意味では命の重さを忘れてしまうから、今は禁止するよりも命の循環を意識させる事に重きを置かれている。
だから無駄に殺生をしてはいけないんだと、だから食べ物は大切に無駄なく食べなければならないんだと学ぶのだ。
それ以外にも食べる為にはたくさんの工程があって、目の前に出される食べ物の全てが誰かが色々手をかけてくれて食べれる状態になって今ここにあるのだと学ぶ。
貰った命と食べる為の加工をしてくれた全ての人に感謝して「いただきます」って言うんだって、俺も言われて育った。
「俺さ、東の国を出て一番びっくりしたのが、他の国の人がいただきますって言わない事だったよ~。」
「あ~わかるよ。義父さんも初めて仕事で東の国の外に出た時、びっくりしたよ~。」
「お祈りする人はたまにいるけどさ~。一人でいただきますって言ってたら、それってどういう意味なんだって聞かれてさ?当たり前の事だと思ってたから、なんて説明していいのかわかんなくて困ったもん。」
「あはは、そうだね。」
「でも生活してたら、他の人たちもいただきますって言わなくても、そう言う気持ちは持ってるのがわかってちょっと安心した。」
「うん。生きる為には命をもらっている。誰もが忘れているようで、ちゃんとそれはそれぞれの魂に刻まれている事なんだよ。それを表す言葉がなくても、多くの人はちゃんとどこかに感謝の気持ちを持っているね。」
「そうなんだよね。シルクなんてめちゃくちゃがっつくからそう言うのわかんないのかと思ったら、むしろ物凄く命に対する感謝が凄くてさぁ。聞いたら遊牧民と深いつながりがあった村で暮らしてたから、そんなの当たり前だって怒られたもん。」
「ああ、お前の片腕になってくれた子だっけ??」
「うん。今は修行の旅に出てるから会わせられないけど、今度、連れて行くよ。」
「楽しみにしているよ。」
そんな話をしながら買い出しを終えて歩いていると、街道が何やら騒がしくなった。
ふと見ると、奥から馬に乗った制服の騎士が走ってくるのが見えた。
あれって……?!
よく見れば警護部隊の制服で、襷がうちの隊のものだ。
遠くてはっきりしないがカーターじゃないか?!
俺は慌てて異空間付きバッグを外して義父さんに渡した。
「義父さん、ごめん!何かあったみたいだ!一人で帰れる?!」
俺からカバンを受け取った義父さんは頷いた。
「大丈夫だよ。行っておいで。」
俺は義父さんに頷くと、人をかき分けて前に進む。
やはりカーターで、少しだけ胸がざわついた。
「カーターっ!!」
「サーク!!良かった!!見つかった!!」
俺を確認したカーターは馬を降りると、引きながら早足で俺に近づいてくる。
俺も小走りにそちらに向かう。
「俺を探していたのか?!」
「ああ、すぐに王宮に向かってくれ!馬を使って良いから!」
その様子にただ事ではないなと思う。
手綱を受取り、詳しい事を聞く為に顔を寄せる。
その耳元に注意深くカーターが囁いた。
「……ライオネル殿下が倒れられた。すぐ行ってくれ。」
「!!」
通りでこんな人があふれる街道を無理矢理馬で走ってくる訳だ。
俺は表情を固くした。
無理がたたったのだろう。
ライオネル王子は元々、そんなに体が丈夫な方じゃない。
だから跡継ぎレースからも外されていたのだ。
なのに今回の件でかなり全面に立って動いていた。
裁判後も古参貴族が処分されて不安定な王宮内を落ち着けるために、ガブリエル皇太子と共に奮闘されていた。
「容態は?」
「わからない。でもお前を呼んでいる。」
「……わかった。すぐ向かう。」
「頼んだ。」
カーターはバンバンッと俺の背中を叩いた。
すぐに馬に跨り、無言で頷く。
カーターが俺が走り出しやすいように、道を開けるよう歩く人たちに声をかけている。
俺は馬に合図を出し走り出した。
何か妙な胸騒ぎがあった。
だがその時の俺は、これがまさか、あの後ろ暗い旅の始まりの合図になるなんて思いもしなかったのだ。
「むしろウィルこそよそ見しないでね?!絶対だよ?!俺をウィル無しじゃ生きてけないくらい骨抜きにしたんだから!今更捨てないでよ?!」
「あはは、捨てない捨てない。……多分。」
「多分って何~っ?!」
出掛け、ウィルがそう言って俺をからかった。
不穏な返答に俺が発狂すると、皆がゲラゲラ笑っていた。
もう!笑い事じゃないんだよ!!
俺にとったら生きるか死ぬかぐらいの事なんだよ!!
からかわれてるだけだとわかってるけど、物凄く不安になる……。
だってウィル、こんなに美人なんだよ?!
こんなにこんなに可愛いんだよ?!
しかもウィルってば!!
あんなにエッチな体なんだよ~っ!!(絶叫)
会わない間にムラムラしちゃって!
何か間違いが起きたらどうしたらいいの?!
あまりに不安で「寂しくなったらこれを俺だと思って?」と言って、前までペニスバンドにつけてたディルドをそっと渡したら、赤面してグーで殴られた。
でも俺は知ってる。
滅茶苦茶厳重にぐるぐる巻きにして袋にしまって紐で固く封印してたけど、ウィルがこっそり俺の元偽ちんぽをカバンにしまった事を。
もう♡素直じゃないな~♡照れ屋なんだから♡
「奥様~、寂しいです~。」
カレンがそう言ってウィルに抱きついた。
ウィルもギュッとハグを返す。
「ごめんね、カレン~!俺も寂しいよ~!頑張ってできるだけ早く帰ってくるからね~っ!!」
「わかりました~!!私も頑張って、奥様が帰って来られる時までに、いっぱいできる事を増やしておくので!その時は褒めてくださいね~!!」
「カレン~!!いい子すぎる~っ!!」
ムギュムギュし合うウィルとカレンは本当に仲良しだ。
ウィルって妹がいるって言ってたもんな?
そういうのも思い出して、カレンが可愛くて仕方ないんだろうなぁ。
と言うか、ウィルっていつの間にか「奥さん」と言われても否定しなくなったよな??
散々、周りから言われているうちに、抵抗がなくなっちゃったみたいだ。
俺が最初にプロポーズした時は、結婚してもいいけど奥さんになるのはヤダって言ってたのにな??
「おお~い、おめぇ、行くのか?行かねぇのか?!」
「すみません、行きます。師匠。」
いつまでも出かけられず、ボーンさんが困惑してそう声をかけてきた。
カレンから体を離すと、ウィルはとても真面目な顔をして、ボーンさんに頭を下げた。
ウィルの言葉に、ボーンさんが慌てふためいている。
「しっ?!師匠?!」
「はい。アレック君……いや、兄弟子さんから、修行するならちゃんと師匠って呼ぶようにって言われましたので、ここからは師匠と呼ばせていただきます。」
「はぁ?!アイツ、おめぇにそんな事言いやがったのか?!全く……。師匠だの先生だの、勝手に呼びやがってあの姉弟はよぉ~。別にそう呼ばないとなんねぇなんて決まりはねぇから気にすんな、ウィル。多分、おめぇの場合、たいして教えられる事なんざねぇだろうし、俺にもどうすんのが良いのかよくわかんねぇからなぁ。」
「それでも師匠は師匠です。」
「……まぁいい。好きに呼べばいいさ。全く……。」
ちょっと照れたようにツンっとボーンさんは顔を反らせた。
本当、ボーンさんてツンデレで可愛いよなぁ。
ムサイ髭面のちっこいドワーフのオッサン(正確にはおじいさん??)が可愛く見えるとか、ちょっと自分でも感覚ヤバイのかなってたまに思う。
皆が俺の事を小動物って言うけど、俺よりボーンさんの方が小動物って表現は合ってると思うんだけどなぁ~。
「気をつけて行っておいで。」
「ありがとうございます。お義父さん。また遊びに来て下さい。」
「うん。ウィル君もまた東の国においで。子どもたちも喜ぶから。」
「はい、ぜひ。」
「それじゃ、サーク。」
「うん、気をつけて。」
そう言ってウィルとハグをする。
そしたらウィルが耳元でこそっと囁いた。
「……帰ったら、昨夜の続きをしような?」
「!!!!」
唐突なエロ発言!!
その上、チュッと耳たぶにキスしてくる。
ウィル~~っっ!!
何てエロい事をするんですかぁ~っ!!
俺はボンッと発火してしまった。
そんな俺に、ウィルは悪戯な笑みを見せる。
「浮気すんなよ?」
「は、はひ……。」
俺……多分、一生、ウィルには勝てないんだと思う。
そんな事を思い知らされながら、俺はウィルを見送ったのだった。
「ねぇ、義父さん。あれって何だったの??」
「あれ??」
俺は午前中の休みを使って、義父さんに街を案内しがてら、買い出しをしていた。
買い出しなんで商店街の他、朝市とかにも寄ったのだが、東の国にはなかったり高かったりするものが安く売られているものだから、義父さんが大興奮して買い溜めしていた。
いや義父さん、今は俺の異空間付きバッグがあるからたくさん買っても大丈夫だけど、どうやって持って帰るつもりなの??
悪いけどこのカバンは貸さないからね??
まぁ、子どもたちとかの服は腐らないし配達してもらえば良いけど……。
義父さんは俺の質問にきょとんとした顔をした。
まぁいきなりあれじゃわからないよな。
「ボーンさんとのやり取り。急に畏まった挨拶しだしたじゃん??」
「あ~、あれかい?ふふふっ、ボーンさんも面白い人だね。今時、あの挨拶をされるとは思わなくて義父さんもびっくりしたよ。」
「あの挨拶??」
「うん。アイノウだったかな??私は貴方を知っていますって挨拶なんだ。古くは初めてお目にかかった目上の人にした挨拶だよ。」
「へ~??」
「ただ義父さんの場合、名前がないだろ??だからちょっと変な感じになっちゃったけどね。初めに相手の名前を言って挨拶するんだ。そこで相手が違いますって言ったら、挨拶を断られたって事でそれ以上は何も言わずに引き下がる。相手が答えてくれたら、こういう理由で貴方を知っているのでお近づきになりたいですって意思を示すんだよ。」
「あ~、だから西の海で見かけたって言ってたのか、ボーンさん。って言うか、西の海で何があったの??」
「大したことじゃないよ。いつも通り、神様と揉めてるから私が話しに行っただけだよ。」
「でも各国の王様が絡んでたなんて、大事だったんでしょ??」
「さぁ??義父さんは王様達の事は知らなかったし……。いつも通り教会会議で、ちょっとお前、揉めてるらしいから行ってきてくれって言われたから行ってきただけで、あれがそんな大事だったなんて義父さんは知らなかったよ。それよりも唐揚げを食べ損ねたのがショックだったなぁ~。」
「まぁ、月一イベントだしね、唐揚げ。」
うちの教会では基本的に質素な食事をするのだが、それでは育ち盛りの子どもたちには物足りない。
だから月に一度だけ、唐揚げの日がある。
唐揚げの日は数日前から準備をして、鶏を買ってきたり飼っているものを間引いたりして下処理を自分たちで行う。
だからうちの教会育ちの子は皆、鶏くらいは捌ける。
そうやって生きる為には命を頂くのだと、自分が口にするものがどれだけ尊いものなのかを自分の命の中に刻むのだ。
大昔は命を奪う事は教会では禁忌とされていたみたいだし、数は少ないけれど今でもそれを表向きは守っている教会もある。
でも神様自身色々食べちゃう方も多いし、禁忌としてそういう事を覆い隠してしまうと、食べるだけ食べて本当の意味では命の重さを忘れてしまうから、今は禁止するよりも命の循環を意識させる事に重きを置かれている。
だから無駄に殺生をしてはいけないんだと、だから食べ物は大切に無駄なく食べなければならないんだと学ぶのだ。
それ以外にも食べる為にはたくさんの工程があって、目の前に出される食べ物の全てが誰かが色々手をかけてくれて食べれる状態になって今ここにあるのだと学ぶ。
貰った命と食べる為の加工をしてくれた全ての人に感謝して「いただきます」って言うんだって、俺も言われて育った。
「俺さ、東の国を出て一番びっくりしたのが、他の国の人がいただきますって言わない事だったよ~。」
「あ~わかるよ。義父さんも初めて仕事で東の国の外に出た時、びっくりしたよ~。」
「お祈りする人はたまにいるけどさ~。一人でいただきますって言ってたら、それってどういう意味なんだって聞かれてさ?当たり前の事だと思ってたから、なんて説明していいのかわかんなくて困ったもん。」
「あはは、そうだね。」
「でも生活してたら、他の人たちもいただきますって言わなくても、そう言う気持ちは持ってるのがわかってちょっと安心した。」
「うん。生きる為には命をもらっている。誰もが忘れているようで、ちゃんとそれはそれぞれの魂に刻まれている事なんだよ。それを表す言葉がなくても、多くの人はちゃんとどこかに感謝の気持ちを持っているね。」
「そうなんだよね。シルクなんてめちゃくちゃがっつくからそう言うのわかんないのかと思ったら、むしろ物凄く命に対する感謝が凄くてさぁ。聞いたら遊牧民と深いつながりがあった村で暮らしてたから、そんなの当たり前だって怒られたもん。」
「ああ、お前の片腕になってくれた子だっけ??」
「うん。今は修行の旅に出てるから会わせられないけど、今度、連れて行くよ。」
「楽しみにしているよ。」
そんな話をしながら買い出しを終えて歩いていると、街道が何やら騒がしくなった。
ふと見ると、奥から馬に乗った制服の騎士が走ってくるのが見えた。
あれって……?!
よく見れば警護部隊の制服で、襷がうちの隊のものだ。
遠くてはっきりしないがカーターじゃないか?!
俺は慌てて異空間付きバッグを外して義父さんに渡した。
「義父さん、ごめん!何かあったみたいだ!一人で帰れる?!」
俺からカバンを受け取った義父さんは頷いた。
「大丈夫だよ。行っておいで。」
俺は義父さんに頷くと、人をかき分けて前に進む。
やはりカーターで、少しだけ胸がざわついた。
「カーターっ!!」
「サーク!!良かった!!見つかった!!」
俺を確認したカーターは馬を降りると、引きながら早足で俺に近づいてくる。
俺も小走りにそちらに向かう。
「俺を探していたのか?!」
「ああ、すぐに王宮に向かってくれ!馬を使って良いから!」
その様子にただ事ではないなと思う。
手綱を受取り、詳しい事を聞く為に顔を寄せる。
その耳元に注意深くカーターが囁いた。
「……ライオネル殿下が倒れられた。すぐ行ってくれ。」
「!!」
通りでこんな人があふれる街道を無理矢理馬で走ってくる訳だ。
俺は表情を固くした。
無理がたたったのだろう。
ライオネル王子は元々、そんなに体が丈夫な方じゃない。
だから跡継ぎレースからも外されていたのだ。
なのに今回の件でかなり全面に立って動いていた。
裁判後も古参貴族が処分されて不安定な王宮内を落ち着けるために、ガブリエル皇太子と共に奮闘されていた。
「容態は?」
「わからない。でもお前を呼んでいる。」
「……わかった。すぐ向かう。」
「頼んだ。」
カーターはバンバンッと俺の背中を叩いた。
すぐに馬に跨り、無言で頷く。
カーターが俺が走り出しやすいように、道を開けるよう歩く人たちに声をかけている。
俺は馬に合図を出し走り出した。
何か妙な胸騒ぎがあった。
だがその時の俺は、これがまさか、あの後ろ暗い旅の始まりの合図になるなんて思いもしなかったのだ。
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