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第九章「海神編」
罪づくり再来
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義父さんが王様と話している間、俺はする事が無くなったので宮廷魔術師の職務部屋に顔を出した。
「あ!アズマ総括!お疲れ様です!!」
部屋に入った瞬間、凄く通るハキハキした声がそう言った。
途端、その場にいた魔術師全員がガタッと立ち上がり俺の方を向いた。
「お疲れ様です!総括!!」
「え……あ……お、お疲れ様です……。」
一斉に声をかけられ、俺はビックっとたじろいだ。
ひ~っ!!怖いよう!!
いつも思うけど、何なの?!この下手な軍隊よりぴっちりした規律は?!
魔術師ってもっと、のんべんだらりとした職業じゃなかったっけ?!
(それは俺個人の勝手な感想なんだけどさ~。)
あまりの真面目さと圧に負けて、逃げ腰になる。
そんな俺に駆け寄ってきて背中をバシッと誰かが叩いた。
「ヒャッ!!」
「総括!いつも言っておりますが!どうしてそう下手になられるのです?!あなたは我々、宮廷魔術師の総括なんですから!もっと胸を張っていて下さい!」
「あ……テレサさん、お疲れ様です。いつも皆をまとめてくれてありがとうございます。」
「……もう!私なんかにお疲れ様ですとかありがとうとかいちいち言わないで総括はもっと偉そうにしていてくれれば良いんです!」
「ご、ごめんなさい~。威厳がなくて~。」
「ですから~っ!!」
「おい、T・T!そうやってお前が言うから、アズマ総括が怖がって中々、こっちに顔出してくれないんだぞ~!!」
毎度お馴染みになってきた、俺とテレサさんのやり取りに、皆がどっと笑う。
そうだそうだとからかわれ、テレサさんは顔を真っ赤にしてふくれてしまった。
あちゃ~、参ったなぁ……。
テレサさんは人一倍真面目だからなぁ~。
俺は頭を掻きながら、労うようにテレサさんに微笑んだ。
「頼りない総括ですみません、テレサさん。」
「い、いえ。そんなつもりでは……。」
「いや、総括と言うからには皆の代表だ。頼りなかったら組織として不安を感じちゃうもんな。もっとビシッとできるよう、頑張るよ。」
「そんな!アズマ総括は確かに普段は頼りない感じですが!いざという時は我々を守って下さるとてもいい上官です!!」
「は、ははは……ありがとう……。」
サラッと普段は頼りないと言われてしまったが、聞かなかったことにしよう……。
俺がこんなに頼りない上、たまにしか顔を出さないのに総括として慕われているのは師匠の影響が大きい。
俺が逃亡中、やはり魔術師達は若干肩身の狭い思いをしていたらしく、そんな時に皆に慕われていた師匠が臨時総括として帰ってきてとても安心したらしい。
だがそれが実は俺の指示であり、人知れず魔術本部に宮廷魔術師達の生活を守ってやってくれとお願いに来たのだと師匠が尾びれ背びれつけて熱く皆に話したもんだから、それを信じた純粋な宮廷魔術師の皆さんはめちゃくちゃ俺を慕ってくれている。
なんかたいした仕事もしてないのに、物凄く申し訳ない。
テレサさんの本名は、テレサ・セリュ・トリメイン。
ただ、名前で呼ばれるのは好きではないようで、皆からはT・Tと呼ばれている。
俺は知らなくて初めからテレサさんと呼んでいて、後からこっそり周りからその事を教えられて謝ったのだが、何故かテレサのままで構わないと言われた。
何故かと聞いたら、上官に呼び方を強要するのはおかしいからだと言われた。
そうは言ってもと俺もT・Tと呼ぼうとしたら、かえって怒られたのでテレサさんのままにしている。
かなりの美人でしっかりしていて、仕事もきっちりこなす人なのだが、何というか真面目すぎるというか堅物というか、もっと肩の荷をおろして仕事をすればいいのになぁと思う。
ちゃんとどこかで息抜きができているのか、心配になってしまうくらいだ。
ちなみに彼女が宮廷魔術師総括補佐の一人で、実際のここの仕事でのトップの一人だ。
宮廷魔術師総括補佐は二人いて、もう一人はさっき茶々を入れてきた、ハッサン・G・チャニングだ。
「総括!」
「おう!ハッサン!何かまた日に焼けたな??」
ハッサンはテレサさんとは違い、程よくおちゃらけた感じの若者だ。
いい意味で遊び回っている感じの男で、大体、どっかに出かけて日焼けしている。
堀の深い顔と日焼けのせいで年上かと思っていたら、実は年下だとわかってびっくりした。
こいつはむしろ、テレサさんを見習ってもう少し緊張感を持って欲しい。
「はははっ!今回は遊んでた訳じゃないッスよ!この前まで領地入れ替えの測量チームに入ってたんで!」
「そうだったな!お疲れさん。」
「いやいや、俺はデスクにかじりついてるのは苦手なんで楽しかったッスよ。各地巡って飲んで食って~。」
「飲んで食ってはいいが、夜遊びはしなかっただろうな?!」
「そこは程々にしておきました~!!」
「はぁ?!ハッサン?!アンタ!出張任務だったのに!夜遊びしたのか?!」
「怒るなよ、T・T。ちゃんと勤務時間外だし、そこは文句言うなよ~。」
「貴方ね?!宮廷魔術師総括補佐の自覚はある?!時間外とはいえ!出張任務中だ!もしも問題が起きたら!アズマ総括の顔に泥を塗るのよ!!」
「まあまあ、テレサさん。時間外ですし、ハッサンの仕事が正確で早い事は俺よりテレサさんの方がよく知っているでしょう?今回、それで予定よりも測量が早く終わって助かったと領土管理のブース子爵も言っていました。」
「それは……そうなんですけれど……。」
「お?!さすが総括!!俺の事もちゃんと気にかけてくれてるんすね~!!愛を感じるなぁ~!!」
「お前の事っつーか、測量チームに駆り出されたメンバー全員な?それに魔術測量値を纏めてデータ化してわかりやすく提出したのは、テレサさん達だからな?!あのデータ、凄い分かりやすかったって言ってたよ。短時間でデータ化して、大変だったよね?本当にお疲れ様。」
「アズマ総括……っ!!」
「つか、ハッサン?仕事の疲れを遊んでリフレッシュすんのは良いけどよ?お前、新婚だろ?!伴侶を大事にする気がないなら言いつけんぞ?!コノヤロウ!!」
「うわぁ~!!ちょっと皆でそういう店で飲んだだけです~!!言いつけないでください~!!」
「はいはい。……皆も!通常業務に加え!領土測定や処分貴族の資産測定などに駆り出されて大変だと思う!!本当にお疲れ様です!!皆の仕事ぶりは色々な所から好評を受けています!頑張ってくれてありがとう!!」
俺がそう言うと、皆が照れ臭そうにしながら立ち上がり、お互いを称えるようにパチパチと拍手し始めた。
「それから俺の個人的な引っ越しに対して、お祝いありがとう!大切に使わせてもらいます!!」
それに対してさっきよりも大きな拍手が湧き上がり、何だか照れくさくなってしまう。
何か警護部隊とはまた違った暖かさがここにはあって、くすぐったくなる。
「そんな訳で!!今日の昼頃!!ギヴン通りの肉屋のフライドチキンが届きます!!一人一個はあると思うので!!お昼の足しにして下さい!!……以上!!」
フライドチキンが届くと告げると、部屋中にワッと歓声が上がった。
何だよ、皆、貴族なのに下町の肉屋のフライドチキンに喜び過ぎだから!!
俺は嬉しそうな皆の顔を見てホッと胸を撫で下ろした。
東の国から帰ってきて予約しに行った時は、いくら旨いからと言って、やっぱり相手は貴族だし、警護部隊の連中みたいに喜んでもらえるかなぁと不安だったが大丈夫そうで良かった。
嬉しそうな皆の顔を見て俺も嬉しくなる。
「もう!アズマ総括は!!仕事なのですから!いちいちその様な事をしてはいけません!!」
「良いじゃんか!これがアズマ総括なんだから!!な?総括??」
「肩を組んでくるな!寄りかかるな!重てえよ!!」
「でもフライドチキンも良いけど、俺はもっと顔を出して飲みに誘ってもらえた方が嬉しいんですけどね~。」
「悪いな。俺、同棲開始&結婚直前のラブラブ期なんでね。今は飲みに行く時間があったら、婚約者とイチャイチャしてたい時期なんで。……つか!お前も新婚だろ?!飲んでないで!家に帰れ!!」
俺がそんな事を言いながらハッサンとああだこうだと絡んでいると、テレサさんが難しい顔をして黙ってしまった。
「……何?T・T??もしかして羨ましいのか??」
「ちっ!違う!!」
それに対し、ニヤニヤしながらハッサンが聞いた。
二人は同期で宮廷魔術師になったらしく、下っ端の頃からの付き合いらしい。
だから歯に絹着せず、何気に言いたい事を遠慮なくいつも言い合っている。
それはそうと重たいから肩に寄りかかってくんなよ、ハッサン。
俺はヒョイッと肩を組んで来ていた腕を剥した。
「……あ、それで思い出したんだけど、テレサさんて恋人いるの??」
「へっ?!」
俺の問いに、テレサさんは素っ頓狂な声をあげた。
まぁ仕事中に聞く話じゃないよな?
ちょっと申し訳ない。
固まってしまったテレサさんに変わりハッサンが言った。
「いないッスよ。こいつ、仕事一筋だから。」
プライベートの事なのに悪びれもせずそう言ったハッサンを、テレサさんはキッと睨みつけた。
あ~これはいつもの軽い口喧嘩になりそうだ。
「別に一筋な訳じゃない!周りがハッサンみたいな奴しかいなかったからだ!!結婚しても遊んでばかりで!なおかつ夜遊びするなど信じられない!!私だって!アズマ総括の様に婚約者を大切にしてくれる様な方がいたら……!!」
「え??なら、真面目な奴なら、恋愛OK??」
話を振ってしまった手前、口喧嘩になったらどう収めようかと考えていた俺は、テレサさんの言葉に思わず言ってしまった。
そう聞かれてテレサさんはますます動揺して赤くなった。
「えっ?!そ、それは……どういう意味でしょうか……??アズマ総括……。」
「あ、うん。俺の知り合いに、テレサさんが好みのタイプだろうなって奴がいて……。凄い良い奴なんだけど、失恋してからとんと次に行こうとしなくてさ……。お節介なのはわかってるんだけど……。」
俺が事情を話し始めると、テレサさんは固まったままになり、何故かハッサンがまた肩を組んできて笑った。
「へぇ~、アズマ総括ってそう言う世話焼きもすんだ?!何か意外だなぁ~。」
「普通はしねぇよ!!お節介なのはわかってっから!!ただあいつはさぁ~本当に良い奴なのに、損な部分ばっか請け負っちまってさぁ~。なのにいつでも明るいし~。見てて泣けてくるっつーか……。そんな訳で、もし、テレサさんが興味があったら紹介したいと思って……。」
「そう……ですか……。」
ぼそっと小声でテレサさんが答えた。
いつもと違う口調に驚いて顔を見ると、完全に思考停止して固まっている。
俺はそこで我に返った。
「ハッ!!ごめん!テレサさん!!これってセクハラ?!セクハラになるよね?!すみません!!今のは忘れて下さいっ!!」
そうだ……生真面目なテレサさんから見れば、上司に恋愛事情を探られた上、いらぬ世話焼きをされているのだ。
これをセクハラと言わずに何というのか?!
何か自分の都合だけで突っ走って女性に不快な思いをさせるなんて取り返しがつかない。
俺は真っ青になってしまった。
「い、いえ!!セクハラとは思っていません!ちょっとびっくりしただけで!!」
真っ青になって固まってしまった俺に、今度はテレサさんが大慌てになった。
そしてテレサさんなりに一生懸命フォローしてくれる。
どうやら本当にびっくりしただけで、セクハラを受けたと思った訳ではないようだった。
「本当に?俺が目の前にいるから言いにくいだけじゃなくて?!」
「はい!びっくりしただけで!セクハラを受けたと思った訳ではありません!!……ですが、少し考えるお時間を頂いても良いですか?私も今は仕事の事ばかり考えていたので……。」
俺の顔色が戻ってきたので、テレサさんもほっとした顔になった。
何か気を使わせてしまって申し訳ない……。
「もちろんだよ。むしろ急に変なこと言って、本当、申し訳なかったです……。余計なお世話だったら、忘れてもらっていい話だからね?!本当、気にしなくて良いから!!……でもちょっと興味あるなぁって思ったら教えてくれると嬉しいです。」
「どっちなんスか?!総括?!」
肩を組んだままのハッサンがそう言ってゲラゲラ笑う。
つうか、何でさっきから肩組んで来るんだよ?!
重いんだっつーの!!
俺はまたもベリッとその腕を剥した。
「どっちって~!そりゃアイツも大事だけど!こう言うのは何よりテレサさんの気持ちが優先だろうが!!」
俺がそう言うとテレサさんはふふふっと笑った。
元々美人だし、こうやって肩の力を抜いて笑うと、本当、可愛いんだよな。
普段キリッと真面目一徹で通しているから、そのギャップもあって、絶対、イヴァンのツボにハマると思うんだよ。
「……ありがとうございます、総括。でもとりあえず今は抱えている仕事があるので、それを片付けてから考えさせて下さい。」
少し困ったような、でもふんわりとした笑みを浮かべてテレサさんは言った。
このたまに出る笑顔、多分イヴァンの好みに入ると思うんだよね~。
ちょっと儚げで綺麗だし可愛いし。
「仕事……あ~、そっか!処分貴族の財産目録かぁ~。山場だもんね……。」
「ええ。彼らは隠し資産が多いので、当然、隠匿の魔術等がかけられています。その為、派遣した魔術師だと価値測定や発見自体ができない事も多く、私が出向いているのですが、全てを回るにはもう少し掛かりそうでして。」
今、テレサさんは何の仕事を持っているのだろうと考えたら、処分貴族の資産測定と言う結構面倒くさい仕事を抱え込んでいた。
現状をを聞いて俺はふむと考える。
「……それってさ、魔術測定じゃなくても、資産価値が分かれば良いんだよね??」
「え??はい、そうですが……。」
「もし良ければ、ギルドに委託してみないか??彼らはクエストで隠匿の魔術をかけられたお宝を見慣れているし、物の価値を読み取る高いスキルを持っている人も多い。人によっては魔術解除なんかも可能だ。」
確かに宮廷魔術師が出向いて魔力探査して調べるのも手だが、そう言った物品の扱いは、古物商の目利きかダンジョン探索に精通している冒険者の方が向いている。
古物商だと人によっては隠匿述のかけられたものの見落としや価値の見間違いが起こり得るが、冒険者ならスキルレベルの指定もできるし、鑑定スキルを持っている者と魔力探査できる魔術師の二人がいる事を条件にすれば、二重チェックにもなる。
何より冒険者はダンジョンで一つでも多くのお宝を、少しでも価値のあるお宝を見つける事が生活の糧の一つになっているのだ。
常にそういう目で隠された財宝を探しているのだから、やはり見抜けるスキルの高さが違う。
「ギルドに委託か……面白い発想ッスね!!」
「確かに……我々より、冒険者の方が隠匿術については見慣れているし詳しいはず……。我々では見落としたり、価値を騙されたりするような物でも見破れるかもしれません……。」
唐突に何で俺がこんな発想ができたのかと言えば、自分が冒険者だからってのもあるけど、実はイグナスから手紙で地域活性のために冒険者のスキルをもっと活用すべきじゃないかと相談を受けていたのだ。
彼らは高いスキルを持っているのに、殆どの冒険者がそれをクエストの為にしか用いていない。
それは社会の方に彼らのスキルを利用する考え方等がない為だとイグナスは言っていた。
確かにその通りなのだ。
しかも精霊が人間との関わりをやめてしまった事が原因なのか、30年前辺りからダンジョンに変化が起きなくなり、高質な魔物も大幅に減ってきている。
だから冒険者は昔と違い、大きな収入を得られにくくなっているのだ。
一般の仕事でもスキルを活かせる活躍の場があれば、彼らの収入源にもなる。
テレサさんの話を聞いていて、急にその話と頭の中でリンクしたのだ。
俺の話にテレサさんもハッサンも目から鱗が落ちたかのような顔をしていた。
確かに貴族社会だけで生きてきたら、自由人の冒険者達と自分達の仕事を繋げるなんて発想は出てこないのかもしれない。
むしろ、そんな下賤に頼むなんてと言う考えの方が有り得そうだしな。
でもテレサさんもハッサンもギルドを否定する感じはなく、俺の提案を前向きに受け止めてくれたようで嬉しかった。
「だろ??わざわざ地方に行かなくても、その土地のギルドに依頼すればやってくれると思うよ。まぁ、依頼料と成功報酬を取られるから、予算との兼ね合いが出てくるけどな。近場は自分達で行くとかでもいいし、時間がないなら立会に一人ずつ出して鑑定自体は全部依頼すれば一気に終わるし。」
「さすがアズマ総括!!冒険者としての経験が光りますね!!」
またもハッサンが肩を組んで来ようとしたので、それをパシっと振り払った。
さっきから何なんだよ??ハッサンは??
「宮廷魔術総括になってみてわかったけどさ~。むしろ何でもかんでも魔術師や魔法師に頼り過ぎなんだよ、他の部署。何か困った事があると、魔法や魔術ならちょちょいってどうにかできるだろって思っててさぁ。そんな万能じゃないっての、魔法も魔術も。」
俺がそう言うと、一瞬言葉を失ってぷるぷる震えたハッサンが、今度は勢い良くガシっと俺の肩を両手で掴んできた。
またふざけてるのかと避けようとしたが、今回は目がマジだ。
あまりに真剣なので、思わず振り払えなかった。
俺はびっくりして目を白黒させる。
「……アズマ総括!!さすがです!!俺達がずっと思ってきた事を!すっぱり言ってくれるなんて……っ!!」
周りで聞いていた魔術師達も、そうだそうだと声を上げている。
なるほど……。
皆、ずっと大変な思いをしてきたんだなぁ……。
その苦労を思うと、何だかホロリとしてしまう。
そうだ。
頼りない総括かもしれないが、皆が働きやすい仕事環境やシステムを作るのが俺の仕事なんだ。
皆が困っているのなら、それが新しい試みであってもできる限りやるべきだろう。
「わかった。今後は別に魔術師でなくても対応できる事は、無理にうちの部署で抱え込む必要はない。俺達はその道の専門家でもないのに、あれもこれもって任されたってわかんないんだし。手がまわりきらない事や専門知識が必要なものは、外部に協力をしてもらう仕組みを作っていこう。王宮の仕事の特性上、秘密保持等も関わってくるから100%丸投げは駄目だが、外部のその道の専門家と交流する事でこちらも勉強になるし、今後対応できる仕事の幅が広がる。今後、何かあった時に協力を求められるパイプも作れる訳だしね。」
「なるほど……今まではとにかく言われるまま自分達で何とかしなければと思っていましたが……そうですよね……。」
「予算の問題と外部協力について王宮全体の理解や規則整備が必要になるけど、その為には外部協力によってどんな効果が得られるかって言う実績なんかもデータとして必要になってくる。なのでその為にも今回は試みとしてギルドに協力してもらおう。テレサさんはそのつもりで動いてもらえるかな?ひとまず俺の領土の管理をしているイグナスに連絡してみて。アイツも今、似たような事をやろうとしてるからいい意見交換ができると思う。その後イグナスを介してフライハイトのギルドマスターにこの試みについて相談し、ギルドの意見を聞いといてくれ。儲け話だから嫌とは言わないよ、少なくともあの人はね。ただ変に料金をふっかけられそうになったら俺とイグナスに相談してくれ。できる限り何とかするから。」
「わかりました!!」
「一人で抱え込まないでね?今の資産測定チームとは別に外部委託試験運用の数人のチームを作って対応してくれ。人選はテレサさんに任せます。」
「はい!」
「今回の試みについての王宮の許可は俺が取ってくる。とは言え、他の仕事もあるんで、ハッサン、テレサさんの手が回らない部分の通常業務等の管理のフォローを含め、並行して俺が手が回らないところの補佐に入ってくれるか??」
「もちろん。その為の宮廷魔術師総括補佐ッスからね。」
「必要ならお前も業務助手を選んで良いからな。あんま残業したりして伴侶を泣かすなよ?」
「ありがとうございます!大丈夫です!俺はT・Tと違って不真面目なんで!それにアイツを泣かすなら違う泣かせ方の方が好きなんでね。」
「あ~はいはい。ご馳走さん。」
下ネタを言い出したハッサンにテレサさんが真っ赤になってしまう。
悪いやつじゃないけど何事にも軽いよなぁコイツは。
テレサさんは真面目すぎて心配だから、足して2で割れればちょうど良いんだけど。
とりあえず大まかな話はまとまった。
専門外の大量の仕事を突然押し付けられる事の多い宮廷魔術師の部署は、その話に心なし雰囲気が明るくなった気がする。
それを感じ、少しは皆の役に立ててるのかなと俺も嬉しく思った。
話が終わり、テレサさんがパタパタと仕事に戻っていく。
それを見ていた俺の肩に、またハッサンが腕を回した。
「おい?!さっきから何だよ?!」
「ん~??総括は罪づくりな人だなぁ~と思って。」
「……は??」
「言われません??そういう事??」
違うと否定したいが、今までも散々、狡い男とか何とか言われてきた経験から言葉に詰まる。
「あ~、やっぱり。今までも泣かせてきたんだ~??」
「俺は何も邪な事も悪い事もしてない!!」
「うん、そういうタイプっすよね?無自覚系~。」
「だから何もしてない!!大体何なんだよ!お前は?!さっさと仕事に戻れよ!!」
「え~!だって中々、総括、顔出してくれないからさ~、今のうちに甘えておこうかと思って~。」
「甘えんのは自分の伴侶にしとけや!」
「伴侶は伴侶。マスコットはマスコット。」
「……はぁっ?!お前っ!!俺をこの部署のマスコットだと思ってたのかよ~っ!!」
「え?!違うんすか?!」
「違うわっ!!ボケェ~っ!!」
ハッサンの訳のわからない絡みを俺は思わず体術を使って懲らしめた。
ははんっ!いくら俺よりガッシリ体型だからってな!
こちとら冒険者としてモンク系魔術師で通ってんだ!!
しかも俺の体術の師匠は!演舞の使い手のシルクなんだからな!甘くみんなよ?!
俺があっさりハッサンをとっちめたもんだから、部署にどよめきと爆笑が起こった。
まぁ、なんだかんだ、宮廷魔術師総括としての仕事も馴染んできた気がする。
部署として新しい試みを行うんだから、一応、魔術本部にも連絡入れた方が良いかな??
俺はそんな事を思いながら、宮廷魔術師の部屋を後にした。
「あ!アズマ総括!お疲れ様です!!」
部屋に入った瞬間、凄く通るハキハキした声がそう言った。
途端、その場にいた魔術師全員がガタッと立ち上がり俺の方を向いた。
「お疲れ様です!総括!!」
「え……あ……お、お疲れ様です……。」
一斉に声をかけられ、俺はビックっとたじろいだ。
ひ~っ!!怖いよう!!
いつも思うけど、何なの?!この下手な軍隊よりぴっちりした規律は?!
魔術師ってもっと、のんべんだらりとした職業じゃなかったっけ?!
(それは俺個人の勝手な感想なんだけどさ~。)
あまりの真面目さと圧に負けて、逃げ腰になる。
そんな俺に駆け寄ってきて背中をバシッと誰かが叩いた。
「ヒャッ!!」
「総括!いつも言っておりますが!どうしてそう下手になられるのです?!あなたは我々、宮廷魔術師の総括なんですから!もっと胸を張っていて下さい!」
「あ……テレサさん、お疲れ様です。いつも皆をまとめてくれてありがとうございます。」
「……もう!私なんかにお疲れ様ですとかありがとうとかいちいち言わないで総括はもっと偉そうにしていてくれれば良いんです!」
「ご、ごめんなさい~。威厳がなくて~。」
「ですから~っ!!」
「おい、T・T!そうやってお前が言うから、アズマ総括が怖がって中々、こっちに顔出してくれないんだぞ~!!」
毎度お馴染みになってきた、俺とテレサさんのやり取りに、皆がどっと笑う。
そうだそうだとからかわれ、テレサさんは顔を真っ赤にしてふくれてしまった。
あちゃ~、参ったなぁ……。
テレサさんは人一倍真面目だからなぁ~。
俺は頭を掻きながら、労うようにテレサさんに微笑んだ。
「頼りない総括ですみません、テレサさん。」
「い、いえ。そんなつもりでは……。」
「いや、総括と言うからには皆の代表だ。頼りなかったら組織として不安を感じちゃうもんな。もっとビシッとできるよう、頑張るよ。」
「そんな!アズマ総括は確かに普段は頼りない感じですが!いざという時は我々を守って下さるとてもいい上官です!!」
「は、ははは……ありがとう……。」
サラッと普段は頼りないと言われてしまったが、聞かなかったことにしよう……。
俺がこんなに頼りない上、たまにしか顔を出さないのに総括として慕われているのは師匠の影響が大きい。
俺が逃亡中、やはり魔術師達は若干肩身の狭い思いをしていたらしく、そんな時に皆に慕われていた師匠が臨時総括として帰ってきてとても安心したらしい。
だがそれが実は俺の指示であり、人知れず魔術本部に宮廷魔術師達の生活を守ってやってくれとお願いに来たのだと師匠が尾びれ背びれつけて熱く皆に話したもんだから、それを信じた純粋な宮廷魔術師の皆さんはめちゃくちゃ俺を慕ってくれている。
なんかたいした仕事もしてないのに、物凄く申し訳ない。
テレサさんの本名は、テレサ・セリュ・トリメイン。
ただ、名前で呼ばれるのは好きではないようで、皆からはT・Tと呼ばれている。
俺は知らなくて初めからテレサさんと呼んでいて、後からこっそり周りからその事を教えられて謝ったのだが、何故かテレサのままで構わないと言われた。
何故かと聞いたら、上官に呼び方を強要するのはおかしいからだと言われた。
そうは言ってもと俺もT・Tと呼ぼうとしたら、かえって怒られたのでテレサさんのままにしている。
かなりの美人でしっかりしていて、仕事もきっちりこなす人なのだが、何というか真面目すぎるというか堅物というか、もっと肩の荷をおろして仕事をすればいいのになぁと思う。
ちゃんとどこかで息抜きができているのか、心配になってしまうくらいだ。
ちなみに彼女が宮廷魔術師総括補佐の一人で、実際のここの仕事でのトップの一人だ。
宮廷魔術師総括補佐は二人いて、もう一人はさっき茶々を入れてきた、ハッサン・G・チャニングだ。
「総括!」
「おう!ハッサン!何かまた日に焼けたな??」
ハッサンはテレサさんとは違い、程よくおちゃらけた感じの若者だ。
いい意味で遊び回っている感じの男で、大体、どっかに出かけて日焼けしている。
堀の深い顔と日焼けのせいで年上かと思っていたら、実は年下だとわかってびっくりした。
こいつはむしろ、テレサさんを見習ってもう少し緊張感を持って欲しい。
「はははっ!今回は遊んでた訳じゃないッスよ!この前まで領地入れ替えの測量チームに入ってたんで!」
「そうだったな!お疲れさん。」
「いやいや、俺はデスクにかじりついてるのは苦手なんで楽しかったッスよ。各地巡って飲んで食って~。」
「飲んで食ってはいいが、夜遊びはしなかっただろうな?!」
「そこは程々にしておきました~!!」
「はぁ?!ハッサン?!アンタ!出張任務だったのに!夜遊びしたのか?!」
「怒るなよ、T・T。ちゃんと勤務時間外だし、そこは文句言うなよ~。」
「貴方ね?!宮廷魔術師総括補佐の自覚はある?!時間外とはいえ!出張任務中だ!もしも問題が起きたら!アズマ総括の顔に泥を塗るのよ!!」
「まあまあ、テレサさん。時間外ですし、ハッサンの仕事が正確で早い事は俺よりテレサさんの方がよく知っているでしょう?今回、それで予定よりも測量が早く終わって助かったと領土管理のブース子爵も言っていました。」
「それは……そうなんですけれど……。」
「お?!さすが総括!!俺の事もちゃんと気にかけてくれてるんすね~!!愛を感じるなぁ~!!」
「お前の事っつーか、測量チームに駆り出されたメンバー全員な?それに魔術測量値を纏めてデータ化してわかりやすく提出したのは、テレサさん達だからな?!あのデータ、凄い分かりやすかったって言ってたよ。短時間でデータ化して、大変だったよね?本当にお疲れ様。」
「アズマ総括……っ!!」
「つか、ハッサン?仕事の疲れを遊んでリフレッシュすんのは良いけどよ?お前、新婚だろ?!伴侶を大事にする気がないなら言いつけんぞ?!コノヤロウ!!」
「うわぁ~!!ちょっと皆でそういう店で飲んだだけです~!!言いつけないでください~!!」
「はいはい。……皆も!通常業務に加え!領土測定や処分貴族の資産測定などに駆り出されて大変だと思う!!本当にお疲れ様です!!皆の仕事ぶりは色々な所から好評を受けています!頑張ってくれてありがとう!!」
俺がそう言うと、皆が照れ臭そうにしながら立ち上がり、お互いを称えるようにパチパチと拍手し始めた。
「それから俺の個人的な引っ越しに対して、お祝いありがとう!大切に使わせてもらいます!!」
それに対してさっきよりも大きな拍手が湧き上がり、何だか照れくさくなってしまう。
何か警護部隊とはまた違った暖かさがここにはあって、くすぐったくなる。
「そんな訳で!!今日の昼頃!!ギヴン通りの肉屋のフライドチキンが届きます!!一人一個はあると思うので!!お昼の足しにして下さい!!……以上!!」
フライドチキンが届くと告げると、部屋中にワッと歓声が上がった。
何だよ、皆、貴族なのに下町の肉屋のフライドチキンに喜び過ぎだから!!
俺は嬉しそうな皆の顔を見てホッと胸を撫で下ろした。
東の国から帰ってきて予約しに行った時は、いくら旨いからと言って、やっぱり相手は貴族だし、警護部隊の連中みたいに喜んでもらえるかなぁと不安だったが大丈夫そうで良かった。
嬉しそうな皆の顔を見て俺も嬉しくなる。
「もう!アズマ総括は!!仕事なのですから!いちいちその様な事をしてはいけません!!」
「良いじゃんか!これがアズマ総括なんだから!!な?総括??」
「肩を組んでくるな!寄りかかるな!重てえよ!!」
「でもフライドチキンも良いけど、俺はもっと顔を出して飲みに誘ってもらえた方が嬉しいんですけどね~。」
「悪いな。俺、同棲開始&結婚直前のラブラブ期なんでね。今は飲みに行く時間があったら、婚約者とイチャイチャしてたい時期なんで。……つか!お前も新婚だろ?!飲んでないで!家に帰れ!!」
俺がそんな事を言いながらハッサンとああだこうだと絡んでいると、テレサさんが難しい顔をして黙ってしまった。
「……何?T・T??もしかして羨ましいのか??」
「ちっ!違う!!」
それに対し、ニヤニヤしながらハッサンが聞いた。
二人は同期で宮廷魔術師になったらしく、下っ端の頃からの付き合いらしい。
だから歯に絹着せず、何気に言いたい事を遠慮なくいつも言い合っている。
それはそうと重たいから肩に寄りかかってくんなよ、ハッサン。
俺はヒョイッと肩を組んで来ていた腕を剥した。
「……あ、それで思い出したんだけど、テレサさんて恋人いるの??」
「へっ?!」
俺の問いに、テレサさんは素っ頓狂な声をあげた。
まぁ仕事中に聞く話じゃないよな?
ちょっと申し訳ない。
固まってしまったテレサさんに変わりハッサンが言った。
「いないッスよ。こいつ、仕事一筋だから。」
プライベートの事なのに悪びれもせずそう言ったハッサンを、テレサさんはキッと睨みつけた。
あ~これはいつもの軽い口喧嘩になりそうだ。
「別に一筋な訳じゃない!周りがハッサンみたいな奴しかいなかったからだ!!結婚しても遊んでばかりで!なおかつ夜遊びするなど信じられない!!私だって!アズマ総括の様に婚約者を大切にしてくれる様な方がいたら……!!」
「え??なら、真面目な奴なら、恋愛OK??」
話を振ってしまった手前、口喧嘩になったらどう収めようかと考えていた俺は、テレサさんの言葉に思わず言ってしまった。
そう聞かれてテレサさんはますます動揺して赤くなった。
「えっ?!そ、それは……どういう意味でしょうか……??アズマ総括……。」
「あ、うん。俺の知り合いに、テレサさんが好みのタイプだろうなって奴がいて……。凄い良い奴なんだけど、失恋してからとんと次に行こうとしなくてさ……。お節介なのはわかってるんだけど……。」
俺が事情を話し始めると、テレサさんは固まったままになり、何故かハッサンがまた肩を組んできて笑った。
「へぇ~、アズマ総括ってそう言う世話焼きもすんだ?!何か意外だなぁ~。」
「普通はしねぇよ!!お節介なのはわかってっから!!ただあいつはさぁ~本当に良い奴なのに、損な部分ばっか請け負っちまってさぁ~。なのにいつでも明るいし~。見てて泣けてくるっつーか……。そんな訳で、もし、テレサさんが興味があったら紹介したいと思って……。」
「そう……ですか……。」
ぼそっと小声でテレサさんが答えた。
いつもと違う口調に驚いて顔を見ると、完全に思考停止して固まっている。
俺はそこで我に返った。
「ハッ!!ごめん!テレサさん!!これってセクハラ?!セクハラになるよね?!すみません!!今のは忘れて下さいっ!!」
そうだ……生真面目なテレサさんから見れば、上司に恋愛事情を探られた上、いらぬ世話焼きをされているのだ。
これをセクハラと言わずに何というのか?!
何か自分の都合だけで突っ走って女性に不快な思いをさせるなんて取り返しがつかない。
俺は真っ青になってしまった。
「い、いえ!!セクハラとは思っていません!ちょっとびっくりしただけで!!」
真っ青になって固まってしまった俺に、今度はテレサさんが大慌てになった。
そしてテレサさんなりに一生懸命フォローしてくれる。
どうやら本当にびっくりしただけで、セクハラを受けたと思った訳ではないようだった。
「本当に?俺が目の前にいるから言いにくいだけじゃなくて?!」
「はい!びっくりしただけで!セクハラを受けたと思った訳ではありません!!……ですが、少し考えるお時間を頂いても良いですか?私も今は仕事の事ばかり考えていたので……。」
俺の顔色が戻ってきたので、テレサさんもほっとした顔になった。
何か気を使わせてしまって申し訳ない……。
「もちろんだよ。むしろ急に変なこと言って、本当、申し訳なかったです……。余計なお世話だったら、忘れてもらっていい話だからね?!本当、気にしなくて良いから!!……でもちょっと興味あるなぁって思ったら教えてくれると嬉しいです。」
「どっちなんスか?!総括?!」
肩を組んだままのハッサンがそう言ってゲラゲラ笑う。
つうか、何でさっきから肩組んで来るんだよ?!
重いんだっつーの!!
俺はまたもベリッとその腕を剥した。
「どっちって~!そりゃアイツも大事だけど!こう言うのは何よりテレサさんの気持ちが優先だろうが!!」
俺がそう言うとテレサさんはふふふっと笑った。
元々美人だし、こうやって肩の力を抜いて笑うと、本当、可愛いんだよな。
普段キリッと真面目一徹で通しているから、そのギャップもあって、絶対、イヴァンのツボにハマると思うんだよ。
「……ありがとうございます、総括。でもとりあえず今は抱えている仕事があるので、それを片付けてから考えさせて下さい。」
少し困ったような、でもふんわりとした笑みを浮かべてテレサさんは言った。
このたまに出る笑顔、多分イヴァンの好みに入ると思うんだよね~。
ちょっと儚げで綺麗だし可愛いし。
「仕事……あ~、そっか!処分貴族の財産目録かぁ~。山場だもんね……。」
「ええ。彼らは隠し資産が多いので、当然、隠匿の魔術等がかけられています。その為、派遣した魔術師だと価値測定や発見自体ができない事も多く、私が出向いているのですが、全てを回るにはもう少し掛かりそうでして。」
今、テレサさんは何の仕事を持っているのだろうと考えたら、処分貴族の資産測定と言う結構面倒くさい仕事を抱え込んでいた。
現状をを聞いて俺はふむと考える。
「……それってさ、魔術測定じゃなくても、資産価値が分かれば良いんだよね??」
「え??はい、そうですが……。」
「もし良ければ、ギルドに委託してみないか??彼らはクエストで隠匿の魔術をかけられたお宝を見慣れているし、物の価値を読み取る高いスキルを持っている人も多い。人によっては魔術解除なんかも可能だ。」
確かに宮廷魔術師が出向いて魔力探査して調べるのも手だが、そう言った物品の扱いは、古物商の目利きかダンジョン探索に精通している冒険者の方が向いている。
古物商だと人によっては隠匿述のかけられたものの見落としや価値の見間違いが起こり得るが、冒険者ならスキルレベルの指定もできるし、鑑定スキルを持っている者と魔力探査できる魔術師の二人がいる事を条件にすれば、二重チェックにもなる。
何より冒険者はダンジョンで一つでも多くのお宝を、少しでも価値のあるお宝を見つける事が生活の糧の一つになっているのだ。
常にそういう目で隠された財宝を探しているのだから、やはり見抜けるスキルの高さが違う。
「ギルドに委託か……面白い発想ッスね!!」
「確かに……我々より、冒険者の方が隠匿術については見慣れているし詳しいはず……。我々では見落としたり、価値を騙されたりするような物でも見破れるかもしれません……。」
唐突に何で俺がこんな発想ができたのかと言えば、自分が冒険者だからってのもあるけど、実はイグナスから手紙で地域活性のために冒険者のスキルをもっと活用すべきじゃないかと相談を受けていたのだ。
彼らは高いスキルを持っているのに、殆どの冒険者がそれをクエストの為にしか用いていない。
それは社会の方に彼らのスキルを利用する考え方等がない為だとイグナスは言っていた。
確かにその通りなのだ。
しかも精霊が人間との関わりをやめてしまった事が原因なのか、30年前辺りからダンジョンに変化が起きなくなり、高質な魔物も大幅に減ってきている。
だから冒険者は昔と違い、大きな収入を得られにくくなっているのだ。
一般の仕事でもスキルを活かせる活躍の場があれば、彼らの収入源にもなる。
テレサさんの話を聞いていて、急にその話と頭の中でリンクしたのだ。
俺の話にテレサさんもハッサンも目から鱗が落ちたかのような顔をしていた。
確かに貴族社会だけで生きてきたら、自由人の冒険者達と自分達の仕事を繋げるなんて発想は出てこないのかもしれない。
むしろ、そんな下賤に頼むなんてと言う考えの方が有り得そうだしな。
でもテレサさんもハッサンもギルドを否定する感じはなく、俺の提案を前向きに受け止めてくれたようで嬉しかった。
「だろ??わざわざ地方に行かなくても、その土地のギルドに依頼すればやってくれると思うよ。まぁ、依頼料と成功報酬を取られるから、予算との兼ね合いが出てくるけどな。近場は自分達で行くとかでもいいし、時間がないなら立会に一人ずつ出して鑑定自体は全部依頼すれば一気に終わるし。」
「さすがアズマ総括!!冒険者としての経験が光りますね!!」
またもハッサンが肩を組んで来ようとしたので、それをパシっと振り払った。
さっきから何なんだよ??ハッサンは??
「宮廷魔術総括になってみてわかったけどさ~。むしろ何でもかんでも魔術師や魔法師に頼り過ぎなんだよ、他の部署。何か困った事があると、魔法や魔術ならちょちょいってどうにかできるだろって思っててさぁ。そんな万能じゃないっての、魔法も魔術も。」
俺がそう言うと、一瞬言葉を失ってぷるぷる震えたハッサンが、今度は勢い良くガシっと俺の肩を両手で掴んできた。
またふざけてるのかと避けようとしたが、今回は目がマジだ。
あまりに真剣なので、思わず振り払えなかった。
俺はびっくりして目を白黒させる。
「……アズマ総括!!さすがです!!俺達がずっと思ってきた事を!すっぱり言ってくれるなんて……っ!!」
周りで聞いていた魔術師達も、そうだそうだと声を上げている。
なるほど……。
皆、ずっと大変な思いをしてきたんだなぁ……。
その苦労を思うと、何だかホロリとしてしまう。
そうだ。
頼りない総括かもしれないが、皆が働きやすい仕事環境やシステムを作るのが俺の仕事なんだ。
皆が困っているのなら、それが新しい試みであってもできる限りやるべきだろう。
「わかった。今後は別に魔術師でなくても対応できる事は、無理にうちの部署で抱え込む必要はない。俺達はその道の専門家でもないのに、あれもこれもって任されたってわかんないんだし。手がまわりきらない事や専門知識が必要なものは、外部に協力をしてもらう仕組みを作っていこう。王宮の仕事の特性上、秘密保持等も関わってくるから100%丸投げは駄目だが、外部のその道の専門家と交流する事でこちらも勉強になるし、今後対応できる仕事の幅が広がる。今後、何かあった時に協力を求められるパイプも作れる訳だしね。」
「なるほど……今まではとにかく言われるまま自分達で何とかしなければと思っていましたが……そうですよね……。」
「予算の問題と外部協力について王宮全体の理解や規則整備が必要になるけど、その為には外部協力によってどんな効果が得られるかって言う実績なんかもデータとして必要になってくる。なのでその為にも今回は試みとしてギルドに協力してもらおう。テレサさんはそのつもりで動いてもらえるかな?ひとまず俺の領土の管理をしているイグナスに連絡してみて。アイツも今、似たような事をやろうとしてるからいい意見交換ができると思う。その後イグナスを介してフライハイトのギルドマスターにこの試みについて相談し、ギルドの意見を聞いといてくれ。儲け話だから嫌とは言わないよ、少なくともあの人はね。ただ変に料金をふっかけられそうになったら俺とイグナスに相談してくれ。できる限り何とかするから。」
「わかりました!!」
「一人で抱え込まないでね?今の資産測定チームとは別に外部委託試験運用の数人のチームを作って対応してくれ。人選はテレサさんに任せます。」
「はい!」
「今回の試みについての王宮の許可は俺が取ってくる。とは言え、他の仕事もあるんで、ハッサン、テレサさんの手が回らない部分の通常業務等の管理のフォローを含め、並行して俺が手が回らないところの補佐に入ってくれるか??」
「もちろん。その為の宮廷魔術師総括補佐ッスからね。」
「必要ならお前も業務助手を選んで良いからな。あんま残業したりして伴侶を泣かすなよ?」
「ありがとうございます!大丈夫です!俺はT・Tと違って不真面目なんで!それにアイツを泣かすなら違う泣かせ方の方が好きなんでね。」
「あ~はいはい。ご馳走さん。」
下ネタを言い出したハッサンにテレサさんが真っ赤になってしまう。
悪いやつじゃないけど何事にも軽いよなぁコイツは。
テレサさんは真面目すぎて心配だから、足して2で割れればちょうど良いんだけど。
とりあえず大まかな話はまとまった。
専門外の大量の仕事を突然押し付けられる事の多い宮廷魔術師の部署は、その話に心なし雰囲気が明るくなった気がする。
それを感じ、少しは皆の役に立ててるのかなと俺も嬉しく思った。
話が終わり、テレサさんがパタパタと仕事に戻っていく。
それを見ていた俺の肩に、またハッサンが腕を回した。
「おい?!さっきから何だよ?!」
「ん~??総括は罪づくりな人だなぁ~と思って。」
「……は??」
「言われません??そういう事??」
違うと否定したいが、今までも散々、狡い男とか何とか言われてきた経験から言葉に詰まる。
「あ~、やっぱり。今までも泣かせてきたんだ~??」
「俺は何も邪な事も悪い事もしてない!!」
「うん、そういうタイプっすよね?無自覚系~。」
「だから何もしてない!!大体何なんだよ!お前は?!さっさと仕事に戻れよ!!」
「え~!だって中々、総括、顔出してくれないからさ~、今のうちに甘えておこうかと思って~。」
「甘えんのは自分の伴侶にしとけや!」
「伴侶は伴侶。マスコットはマスコット。」
「……はぁっ?!お前っ!!俺をこの部署のマスコットだと思ってたのかよ~っ!!」
「え?!違うんすか?!」
「違うわっ!!ボケェ~っ!!」
ハッサンの訳のわからない絡みを俺は思わず体術を使って懲らしめた。
ははんっ!いくら俺よりガッシリ体型だからってな!
こちとら冒険者としてモンク系魔術師で通ってんだ!!
しかも俺の体術の師匠は!演舞の使い手のシルクなんだからな!甘くみんなよ?!
俺があっさりハッサンをとっちめたもんだから、部署にどよめきと爆笑が起こった。
まぁ、なんだかんだ、宮廷魔術師総括としての仕事も馴染んできた気がする。
部署として新しい試みを行うんだから、一応、魔術本部にも連絡入れた方が良いかな??
俺はそんな事を思いながら、宮廷魔術師の部屋を後にした。
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