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第九章「海神編」
三人目
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「何だ~!まだ結婚はしてないのね~。」
リアナが二段ベッドの上で足をパタパタさせながら上機嫌に笑っている。
いや、正式に結婚してないだけで、すでに俺とウィルは事実婚状態にはなってっから。
何しろ王様に一緒に住む家まで与えられてんだから、国が認めた事実婚と言っても過言じゃないんだぞ?
「お姉ちゃんも懲りないなぁ~。」
結局、気の強い姉に上のベッドを取られたラニが、そう言ってくすくす笑っている。
俺はそれを独り暮らしの時に使っていたダイニングテーブルの椅子に座って眺めていた。
「だってまだわからないじゃない!今までは一緒にいれなかったけど!ここからが勝負よ!!」
「あ~、はいはい。とにかく今日はもう寝ろって。」
鼻息荒く、ガバッと起き上がって力説したリアナをたしなめる。
立ち上がって横になるよう促し、掛布団をかけ直す。
小さな手が俺の手に触れた。
「……寝るまでここにいてよ。サーク。」
「ちゃんと寝るならね。」
俺はつっけんどんと言い返したけれど、その手を握り返しそっと髪を撫でてやった。
リアナの顔は、強気なのが引っ込んで不安そうだったからだ。
そうしてやると、黙って目を閉じる。
その目から涙がぽろりと溢れた。
何が二人にあったのかは知らない。
本当に何もなくて抜け出してきたのか、何かあって逃げてきたのか。
でもどちらであっても、二人は俺を頼って小さな体で頑張ってここに来たのだ。
「お休み、リアナ。」
俺はトントンと布団の上からお腹の辺りを少し叩いてやった。
それからしゃがんで下のベッドを覗き込んだ。
「お兄ちゃん……。押しかけてごめんね。」
「いいって。話は明日に聞くから、今日はもう寝ろって。疲れてるだろ?」
リアナと同じように伸ばしてきた小さな手を握りそう諭す。
ラニはコクリと頷くと目を閉じた。
お腹の辺りをトントンしていると、やがて寝息を立て始める。
立ち上がってリアナも確認したが、やはり何だかんだ疲れていたようで、こちらもストンと眠りに落ちていた。
「全く……いつも度肝を抜かれる登場の仕方をするよなぁ、お前達は……。」
あどけない寝顔を見つめ、ちょっと笑う。
しばらくそれを眺めてから俺はその部屋を後にした。
ウィルへの手紙には何て書けば良いだろう?
まだどうしてここに来たかわからないけど、俺はウィルの故郷から二人が来たことを伝えなければと思った。
書き終えた手紙は、血の魔術で作ったフクロウの足に結んで夜空に放つ。
ウィルが気づかなくても、サーニャさんかボーンさんがそれが普通のフクロウではないと気づくだろう。
夜空を飛び去って行くフクロウを、俺は見えなくなるまで寝室のバルコニーから黙って眺めていた。
「サク!変じゃないか?!変じゃないか?!」
朝食の後、着替えた義父さんがしきりに聞いてくる。
それをカレンがくすくす笑って見ている。
「だから!変じゃないって!」
「旦那様の言う通り、とてもお似合いですよ?大旦那様。」
もう何度も何度も聞くから、さすがの俺もぐったりしてきてしまった。
変どころか、滅茶苦茶似合ってるっての!!
俺の親父ですって自慢して回りたいくらい格好良いっての!!
なのに何がそんなに不安なのか、義父さんは鏡の前でそわそわしながら何度もそう聞いてくる。
そんなに聞かなくても!似合ってるから!格好良いから!!
もう~何なの、このイケオジ~!!
三揃えのスーツに小粋な帽子をかぶって、アイロンきっちりかかった傘とか持っちゃって!!
どこの紳士ですか?!
と言うか!何を着ても顔は平凡と言われる俺の親父がこんなにイケオジとか!!
隊の連中が見たら、は??とか言われるっての!!
そして血は繋がってないって言ったら、滅茶苦茶納得されるっての!!
「もう!義父さん!!イケオジ自慢はやめろよ!!平凡顔の俺が悲しくなる!!それから今日は雨は降らないから!!傘は置いて行きなさい!!」
「傘は雨とは関係なく持つものだよ。ステッキ代わりだから。」
「いいから!」
「何騒いでるの~??」
「朝からうるさいわよ!サーク!!」
ごちゃごちゃ騒いでいると、寝ぼけた感じでリアナとラニが起きてきた。
疲れているだろうからと今朝は起こさず、そのまま寝かせておいたのだ。
「サークがうるさいから、目が覚めちゃったじゃない!!」
「俺のせい?!」
プンスカ怒りながらリアナが言った。
何で俺のせいなんだよ?!
唖然とする俺をよそに、義父さんはにこにこと二人を見つめた。
「おはよう、二人とも。」
「おはようございます。お義父様。」
「おはようございます。おじさん。カレンお姉ちゃんもおはよう。」
「おはようございます。お嬢様、お坊ちゃま。」
「おはよう~カレン~。」
「……おい、二人とも??俺には挨拶抜きか??」
ちょっとムッとして、まだジンベエ姿の二人をとっ捕まえて抱き上げる。
リアナとラニは朝っぱらだと言うのに、キャーキャー騒いで元気いっぱいだ。
「あはは!うそうそ!ごめん、お兄ちゃん!!おはよう!!」
「おはよう、ラニ。リアナ。」
「おはよう、サーク!!」
「……って!!ギャーっ!!何すんだっ?!」
リアナは調子に乗って俺の頬にキスしてきた。
思わず声を上げるが、抱き上げてる手前、逃げようがない。
それを義父さんとカレンがおかしそうに笑って見ている。
「何って、おはようのキスよ?サーク??」
「せんでいい!せんで!!」
「何?照れてるの??」
「あ~もう!!」
俺は二人を降ろすと、ゴシゴシと頬を擦る。
それを不満げにリアナがほっぺたを膨らませた。
「何よ!!レディーに対して失礼よ!!」
「レディーは寝間着のままうろつかないし!いきなりキスとかして来ない!!」
「ふふふっ、そうですねリアナお嬢様。キスはともかく、まずは顔を洗って髪を梳き、お着替えをいたしましょうか?」
「そうね、わかったわよ~。」
カレンに諭され、渋々と言った感じでリアナは黙った。
それをラニがおかしそうにケラケラ笑っている。
なんか、ラニ、暫く会わない間に雰囲気変わったな??
前は何でも俺やリアナの後ろに隠れてもじもじしてたのに、とてもしっかりしたように思える。
「……どこかに出かけるの?」
でもやっぱりラニはラニで、つんつんと俺の服の裾を引っ張って控えめにそう聞いてきた。
その頭を撫でながら俺は答える。
「ちょっと仕事だよ。義父さんも一緒に行ってくる。ラニとリアナはゆっくりしてて?昼には一度帰って来るつもりだけど、状況によるから昼飯は待たずに食べてな。暇ならカレンに庭を案内してもらってな。でもまだ勝手に街には行くんじゃないぞ?」
「わかった。」
「カレン、悪いけど二人を頼むな。」
「承知しました。旦那様。」
「え~、サーク、行っちゃうの~?!」
「仕事だっての!!それから!話は帰ったら聞かせてもらうからな?!」
「はいはい~。本当に何もないって言ってるのにしつこいわね??」
「しつこいだとぉ~っ?!」
俺が出かけるのが気に入らないのか、ツンツンとそう言ったリアナに俺がムキーッとなっていると、義父さんがまあまあと肩を叩いた。
「そろそろ出かけないとまずいんじゃないか?サク?」
「ハッ!!そうだった!!」
双子のペースに巻き込まれうっかりしていた。
王様に会うんだから遅れたりとかは厳禁だ。
俺は慌てて自分の服を整えカバンを持つ。
「それじゃ!行ってきます!!」
「行ってらっしゃいませ、旦那様、大旦那様。」
「行ってきますね。」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。おじさん。」
「行ってらっしゃい、お義父様。……後、サーク。待っててあげるから、さっさと帰ってきなさいよ?!」
「あ~はいはい。ちなみにリアナ、ツンデレも間に合ってるから。」
「はぁっ?!ツンデレ枠も埋まってるの?!」
「埋まってる埋まってる。」
「もう~!何なら空いてるのよ~っ!!」
ギャンギャン騒ぐリアナを放ったらかし、俺と義父さんは笑いながら家を出る。
住むはずのウィルもシルクもいない家は、リアナとラニの登場で一気に騒がしくなった。
なんか思っていたのと違うけど、自分が帰る家の匂いみたいなものが、日に日に強くなって来ている気がする。
「……いい家だね、本当。」
「うん。何だかんだ色々あるけど、いい家だよ、俺ん家……。」
穏やかに義父さんにそう言われ、俺は温かくもちょっとこそばゆい気持ちを感じながら素直に頷いた。
「……ほえ~。」
義父さんの第一声に、俺はブッと吹き出した。
通された謁見待合室。
恐る恐る高級なソファーに座った義父さんが、まず発した言葉がそれだった。
王宮に着いた義父さんはまず、東の国では見られない立派な王宮城に目を丸くしていた。
東の国にも宮殿はあるけど作りが全然違うし、何というか東の国の宮殿は平べったくて細長い顔つきをしている。
それに対して中央王国の城は上に長い。
しかもそれが石造りなもんだから、俺もはじめはどうやってこんなに高く大きな石を積んだんだろうとびっくりした。
多分、同じ事を義父さんも思ったんじゃないかなと思う。
そして中に入ってそのきらびやかさにまた目を丸くする。
もうキョロキョロ辺りを見回す余裕もなくて、ただただびっくりしていたのがよくわかって、ここまで来る間、義父さんの様子が面白くて仕方なかった。
それであの第一声である。
思い切り笑いたいのを堪え、俺は気を紛らわす為に話しかけた。
「……義父さんてさ?教会から国の命令受けたりして東の国だけじゃなく他の国にも行ったりしてたのに、王宮とか入った事なかったの??」
「無いよ~。基本、現地直行だからね。問題が起きてる所に行って神様とお話して、それで帰って来るだけだからね。直接王様などにお会いするのは初めてだよ~。」
「……そうなの?!」
「うん。だって義父さん、東の国の総理とかにもお会いしたことないよ??」
「え?!嘘?!そうなの?!」
「そうだよ~??教会会議に呼ばれて、国とかからどこそこに行って欲しいって言われたから行ってこいって言われて行くだけだからね??」
「……それは……なんか……凄いね……。」
東の国の教会組織ってどうなってるんだろう??
つまり神仕えを呼ぶには教会組織に依頼して、そこから誰か派遣されるって形な訳だよな??
そうなると国なんかの依頼をこなしても、それは個人の功績と言うより教会の功績になる訳だ。
とりあえず、神仕えって思っていたよりサラリーマン的な側面が強い事に俺はびっくりしてしまった。
「失礼いたします。」
そんな話をしていると、とても物腰の柔らかな声がした。
見るとグレイさんが気品と穏やかさを溢れさせながら、俺達に一礼した。
義父さんはすぐさま立ち上がって一礼を返した。
「アズマ男爵の養父の神仕え様ですね?」
「はい。」
「はじめまして。私、国王陛下の執事長を努めております、グレイ・タガートと申します。本日のご案内を国王陛下から任されております。どうぞ宜しくお願い致します。」
グレイさんは親しみやすく柔らかく微笑んで、義父さんに手を差し伸べた。
うわ~、俺もこれに引っかかったんだよなぁ~。
この人のパッと見の気品や親しみやすさに、いったい何人の人が騙されて来たんだろう??
グレイさんの素を知っているだけに、握手を交わす二人を俺は乾いた笑みで見つめるしかなかった。
「……ブッっ!」
「??」
「……し、失礼致しました。急にクシャミが……。」
いや、クシャミじゃないよね?
明らかに吹いたよね?グレイさん??
この展開は予想できなかった訳ではない。
何しろ義父さんは天然だ。
おそらくそれが見事に炸裂したんだと思う。
手を離しながら、グレイさんは慌てて胸からハンカチを取り出し、横を向いて咽ている。
「おや、大丈夫ですか?」
「……大変、失礼致しました。ご心配下さり、ありがとうございます。」
そんなグレイさんを義父さんは素で心配しているが、それ、クシャミじゃないから。
どう考えても笑いそうになったのを誤魔化してるだけだからね。
グレイさんが義父さんを信用に足る人物だと判断したかどうかは気になったが、それより表面上、鉄壁の優良執事面を崩さないグレイさんを笑わせてしまった義父さんの考えていた事が物凄く気になる……。
「失礼致しました。ではご案内致します。」
それでもさすがはこの国の国王の執事長。
すぐに完璧な笑顔を義父さんに向ける。
義父さんは何も考えていないのか、ドアを開けてくれるグレイさんに丁寧にお礼を言いながら、促されるままついていく。
俺もその後をついて行った。
隣の謁見室のドアをグレイさんがノックして開ける。
そのまま一礼して、中にいた王様に挨拶した。
「国王陛下、アズマ男爵の養父の神仕え様をお連れしました。」
「ご苦労。」
「……お入り下さい。」
グレイさんにそう言われ、義父さんは少し固くなりながら部屋に入る。
俺も一緒に入ろうとしたが止められた。
「え?」
「お父上が信頼に足りる方なのはよくわかりました。ここから先は、陛下とお父上のみでお話されて大丈夫だと判断しました。」
俺が止められた事に義父さんも少し驚いていた。
王様の方は、満面の笑みでグレイさんに手で合図している。
グレイさんはそのまま一礼してドアを閉めた。
パタン、と言う音と共に静寂が訪れる。
「…………。あの~、そんなに笑わなくても……。」
「す、すまない……でも我慢できなくて……。」
ドアを閉めた途端、グレイさんはドアに手をついたまま背中を丸めぷるぷると肩を震わせた。
何とか一度は気力を取り戻し、ドア前のロイヤルガード達に会釈してその場を離れる。
しかしそれも角を曲がって周囲に誰もいなくなると速攻崩れた。
壁に向かってしゃがみこんで、声を出さずに爆笑している。
う~ん……。
王様と二人、中に一人で残された義父さんも心配だが、鉄壁の執事面を保てなくなっているグレイさんも心配だ。
一応、こんな人でも外面は王様の執事長として威厳を保っているんだ。
誰かにこんなところ見られたらどうするんだろう?この人??
「……ちょっと待ってくれ……君のお父上は何者だい?!サーク?!……あり得ないだろう?!今時、あんな純粋無垢な同年代がいるなんて……っ!!」
ぷるぷる震えながら、グレイさんがヒーヒー言っている。
何となくわかるようなわからないような……。
「あの~、義父さん、何、考えてたんですか……??」
聞くのが怖いような気がしながらも、好奇心に勝てなかった。
ぼそっと聞くと、グレイさんが立ち上がって俺の方を向いた。
けれど涙を浮かべながらヒックヒック言ってる。
笑いを堪え過ぎて、ヒヤックリが止まらなくなってしまったようだ。
義父さん、どんだけ天然ぶちかましたんだよ??
あのグレイさんが笑いすぎて瀕死状態だよ……。
さすがに息が苦しそうで可哀想だったので、俺は回復をかけてあげた。
「すまない……ありがとう……。でも……んふふ……っ。なんか……さすがは君のお父上って感じだね……サーク……。」
「俺は関係ないでしょうが。」
「いやだって……あまりにも……可愛すぎる……。今時、あんな純粋無垢な人、子供だって見つけにくいってのに……。」
「はぁ……。」
マジで義父さん、何を考えていた訳??
笑いすぎて半分ラリってる感じのグレイさんを見ながら、俺は自分の父親の思考回路を恐ろしく思った。
「もうね!思考が純粋すぎるんだよ!!薄汚い裏表のある人間しか普段相手にしないから!癒やされ感が半端ない!!何なの?!あの人?!信用できるかできないかって言うより!むしろこの人を信用できなかったら、世の中の人間なんて全員、極悪人だから!!誰一人信用できないよ!!」
「それは……ありがとうございます……。」
よくわからないが、義父さんはグレイさん的にめちゃくちゃ信用のおけるタイプだった様だ。
その理由がアホみたいに純粋無垢な思考をしていたからのようなのだが、まぁ……そうかもしれない。
思えば義父さんの天然っぷりには俺も散々、振り回されてきたからね。
むしろそれぐらいじゃないと、神仕えとして神様たちに話をしてもらう事ができないんじゃないかなぁと思う。
なるほどそうか……。
神仕えになるには人間どころか、人間でないものから信頼を得て詳しく話を聞かなければならないのだから、裏表があったりしたら駄目なのだろう。
どんなに隠したって、神様達には人間の浅はかな思惑なんて筒抜けなのだろうから。
そう考えると、義父さんは普段からグレイさんの様に自分の考えを読むようなものを相手にしているのかもしれない。
だとしたら、俺はやっぱり神仕えにはなれなかっただろうなぁと思う。
裏表のないまっさらな性格でなんていられないし、嫉妬ややっかみを持たずに生きていれるほど俺は純真じゃない。
やっぱり人それぞれ適性があるんだな……。
何だかんだ俺はやはり魔術師が一番あっていたのだろう。
「こんなに純粋な思考を持ってる人!めちゃくちゃ久しぶりに会ったよ!!」
「へぇ、そうなんですか??」
そんな事を考えている俺の前で、グレイさんはめちゃくちゃ楽しそうだ。
ちょっとネジが外れてるっぽくて心配になる。
それでも笑いが止まらないみたいだった。
「もうね……ぷぷぷっ……ネガティブな思考が殆どないどころかさ~!うわぁ~お城大きいなぁ~!とか!!うわぁ~豪華絢爛~!とか!素で考えてるんだよ?!ほのぼの過ぎるだろ?!しかもそれが嘘や上辺なんかじゃないんだ!頭の殆どを占めてるんだよ!!可愛すぎるでしょう?!」
「……あ、はい……。なんかすいません……。」
天然だ……やっぱり義父さんは天然だ……。
そんな事をぽわぽわ考えていたとか、どんな大人だよ?!本当……。
あの時、義父さんが何を考えていたのか聞かされ、俺は何か恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになって、ちょっといたたまれなかった。
「こんな純粋無垢な人、三人目だよ!!」
「三人目??」
「ああ。一人目はジョッシュ。ニ人目がエアーデ。君のお父上が三人目だよ。サーク。」
ん??
なんかその並び、あんまり嬉しくない。
俺は嫌な予感しかしなくて、青ざめた顔でグレイさんを見つめた。
グレイさんはにこ~とキラキラした笑顔で俺に言い放った。
「なぁ、サーク??お父上、泣かせてもいい??」
「はっ?!やめてくださいっ!!」
いいわけ無いだろうが!!
この鬼畜!!
「……あ、でも、あそこまで純真だと泣いても変わらないなぁ。だから泣かす必要もないなぁ~。」
「グレイさん……とりあえず気に入った人は泣かしてみようとする癖、直した方が良いですよ……。グレイさんは好意を持っているんだとしても、嫌われますから……。」
「そうなんだよなぁ~。それでエアーデには避けられるようになっちゃったからなぁ~。」
しゅんとしてますが、悪いのは完全にグレイさんですよ?
まぁ、ボーンさんは何となくからかいたくなるタイプでもあるから、抑えが効かなかったんだろうけど。
「言っときますけど、俺の義父さんに変なことしたら、容赦しませんからね?!」
「ん~しないよ。しないというか、したくてもできないと言うか……。」
「……したくてもできない??」
唐突に妙な事を言われ、俺は首を傾げた。
したくてもできないってどういう意味だろう??
「そ、人のものには手を出さないのは鉄則だからね。」
「??」
人のものってどういう事だろう??
俺の義父さんって言っているから、結婚してると思われたのかな??
義父さんは神職だし、何より名前がないから結婚とかできないんだけどな??
でもわざわざそれを教えて義父さんがグレイさんにちょっかい出されると困るので、俺は気になりながらも黙っている事にしたのだった。
リアナが二段ベッドの上で足をパタパタさせながら上機嫌に笑っている。
いや、正式に結婚してないだけで、すでに俺とウィルは事実婚状態にはなってっから。
何しろ王様に一緒に住む家まで与えられてんだから、国が認めた事実婚と言っても過言じゃないんだぞ?
「お姉ちゃんも懲りないなぁ~。」
結局、気の強い姉に上のベッドを取られたラニが、そう言ってくすくす笑っている。
俺はそれを独り暮らしの時に使っていたダイニングテーブルの椅子に座って眺めていた。
「だってまだわからないじゃない!今までは一緒にいれなかったけど!ここからが勝負よ!!」
「あ~、はいはい。とにかく今日はもう寝ろって。」
鼻息荒く、ガバッと起き上がって力説したリアナをたしなめる。
立ち上がって横になるよう促し、掛布団をかけ直す。
小さな手が俺の手に触れた。
「……寝るまでここにいてよ。サーク。」
「ちゃんと寝るならね。」
俺はつっけんどんと言い返したけれど、その手を握り返しそっと髪を撫でてやった。
リアナの顔は、強気なのが引っ込んで不安そうだったからだ。
そうしてやると、黙って目を閉じる。
その目から涙がぽろりと溢れた。
何が二人にあったのかは知らない。
本当に何もなくて抜け出してきたのか、何かあって逃げてきたのか。
でもどちらであっても、二人は俺を頼って小さな体で頑張ってここに来たのだ。
「お休み、リアナ。」
俺はトントンと布団の上からお腹の辺りを少し叩いてやった。
それからしゃがんで下のベッドを覗き込んだ。
「お兄ちゃん……。押しかけてごめんね。」
「いいって。話は明日に聞くから、今日はもう寝ろって。疲れてるだろ?」
リアナと同じように伸ばしてきた小さな手を握りそう諭す。
ラニはコクリと頷くと目を閉じた。
お腹の辺りをトントンしていると、やがて寝息を立て始める。
立ち上がってリアナも確認したが、やはり何だかんだ疲れていたようで、こちらもストンと眠りに落ちていた。
「全く……いつも度肝を抜かれる登場の仕方をするよなぁ、お前達は……。」
あどけない寝顔を見つめ、ちょっと笑う。
しばらくそれを眺めてから俺はその部屋を後にした。
ウィルへの手紙には何て書けば良いだろう?
まだどうしてここに来たかわからないけど、俺はウィルの故郷から二人が来たことを伝えなければと思った。
書き終えた手紙は、血の魔術で作ったフクロウの足に結んで夜空に放つ。
ウィルが気づかなくても、サーニャさんかボーンさんがそれが普通のフクロウではないと気づくだろう。
夜空を飛び去って行くフクロウを、俺は見えなくなるまで寝室のバルコニーから黙って眺めていた。
「サク!変じゃないか?!変じゃないか?!」
朝食の後、着替えた義父さんがしきりに聞いてくる。
それをカレンがくすくす笑って見ている。
「だから!変じゃないって!」
「旦那様の言う通り、とてもお似合いですよ?大旦那様。」
もう何度も何度も聞くから、さすがの俺もぐったりしてきてしまった。
変どころか、滅茶苦茶似合ってるっての!!
俺の親父ですって自慢して回りたいくらい格好良いっての!!
なのに何がそんなに不安なのか、義父さんは鏡の前でそわそわしながら何度もそう聞いてくる。
そんなに聞かなくても!似合ってるから!格好良いから!!
もう~何なの、このイケオジ~!!
三揃えのスーツに小粋な帽子をかぶって、アイロンきっちりかかった傘とか持っちゃって!!
どこの紳士ですか?!
と言うか!何を着ても顔は平凡と言われる俺の親父がこんなにイケオジとか!!
隊の連中が見たら、は??とか言われるっての!!
そして血は繋がってないって言ったら、滅茶苦茶納得されるっての!!
「もう!義父さん!!イケオジ自慢はやめろよ!!平凡顔の俺が悲しくなる!!それから今日は雨は降らないから!!傘は置いて行きなさい!!」
「傘は雨とは関係なく持つものだよ。ステッキ代わりだから。」
「いいから!」
「何騒いでるの~??」
「朝からうるさいわよ!サーク!!」
ごちゃごちゃ騒いでいると、寝ぼけた感じでリアナとラニが起きてきた。
疲れているだろうからと今朝は起こさず、そのまま寝かせておいたのだ。
「サークがうるさいから、目が覚めちゃったじゃない!!」
「俺のせい?!」
プンスカ怒りながらリアナが言った。
何で俺のせいなんだよ?!
唖然とする俺をよそに、義父さんはにこにこと二人を見つめた。
「おはよう、二人とも。」
「おはようございます。お義父様。」
「おはようございます。おじさん。カレンお姉ちゃんもおはよう。」
「おはようございます。お嬢様、お坊ちゃま。」
「おはよう~カレン~。」
「……おい、二人とも??俺には挨拶抜きか??」
ちょっとムッとして、まだジンベエ姿の二人をとっ捕まえて抱き上げる。
リアナとラニは朝っぱらだと言うのに、キャーキャー騒いで元気いっぱいだ。
「あはは!うそうそ!ごめん、お兄ちゃん!!おはよう!!」
「おはよう、ラニ。リアナ。」
「おはよう、サーク!!」
「……って!!ギャーっ!!何すんだっ?!」
リアナは調子に乗って俺の頬にキスしてきた。
思わず声を上げるが、抱き上げてる手前、逃げようがない。
それを義父さんとカレンがおかしそうに笑って見ている。
「何って、おはようのキスよ?サーク??」
「せんでいい!せんで!!」
「何?照れてるの??」
「あ~もう!!」
俺は二人を降ろすと、ゴシゴシと頬を擦る。
それを不満げにリアナがほっぺたを膨らませた。
「何よ!!レディーに対して失礼よ!!」
「レディーは寝間着のままうろつかないし!いきなりキスとかして来ない!!」
「ふふふっ、そうですねリアナお嬢様。キスはともかく、まずは顔を洗って髪を梳き、お着替えをいたしましょうか?」
「そうね、わかったわよ~。」
カレンに諭され、渋々と言った感じでリアナは黙った。
それをラニがおかしそうにケラケラ笑っている。
なんか、ラニ、暫く会わない間に雰囲気変わったな??
前は何でも俺やリアナの後ろに隠れてもじもじしてたのに、とてもしっかりしたように思える。
「……どこかに出かけるの?」
でもやっぱりラニはラニで、つんつんと俺の服の裾を引っ張って控えめにそう聞いてきた。
その頭を撫でながら俺は答える。
「ちょっと仕事だよ。義父さんも一緒に行ってくる。ラニとリアナはゆっくりしてて?昼には一度帰って来るつもりだけど、状況によるから昼飯は待たずに食べてな。暇ならカレンに庭を案内してもらってな。でもまだ勝手に街には行くんじゃないぞ?」
「わかった。」
「カレン、悪いけど二人を頼むな。」
「承知しました。旦那様。」
「え~、サーク、行っちゃうの~?!」
「仕事だっての!!それから!話は帰ったら聞かせてもらうからな?!」
「はいはい~。本当に何もないって言ってるのにしつこいわね??」
「しつこいだとぉ~っ?!」
俺が出かけるのが気に入らないのか、ツンツンとそう言ったリアナに俺がムキーッとなっていると、義父さんがまあまあと肩を叩いた。
「そろそろ出かけないとまずいんじゃないか?サク?」
「ハッ!!そうだった!!」
双子のペースに巻き込まれうっかりしていた。
王様に会うんだから遅れたりとかは厳禁だ。
俺は慌てて自分の服を整えカバンを持つ。
「それじゃ!行ってきます!!」
「行ってらっしゃいませ、旦那様、大旦那様。」
「行ってきますね。」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。おじさん。」
「行ってらっしゃい、お義父様。……後、サーク。待っててあげるから、さっさと帰ってきなさいよ?!」
「あ~はいはい。ちなみにリアナ、ツンデレも間に合ってるから。」
「はぁっ?!ツンデレ枠も埋まってるの?!」
「埋まってる埋まってる。」
「もう~!何なら空いてるのよ~っ!!」
ギャンギャン騒ぐリアナを放ったらかし、俺と義父さんは笑いながら家を出る。
住むはずのウィルもシルクもいない家は、リアナとラニの登場で一気に騒がしくなった。
なんか思っていたのと違うけど、自分が帰る家の匂いみたいなものが、日に日に強くなって来ている気がする。
「……いい家だね、本当。」
「うん。何だかんだ色々あるけど、いい家だよ、俺ん家……。」
穏やかに義父さんにそう言われ、俺は温かくもちょっとこそばゆい気持ちを感じながら素直に頷いた。
「……ほえ~。」
義父さんの第一声に、俺はブッと吹き出した。
通された謁見待合室。
恐る恐る高級なソファーに座った義父さんが、まず発した言葉がそれだった。
王宮に着いた義父さんはまず、東の国では見られない立派な王宮城に目を丸くしていた。
東の国にも宮殿はあるけど作りが全然違うし、何というか東の国の宮殿は平べったくて細長い顔つきをしている。
それに対して中央王国の城は上に長い。
しかもそれが石造りなもんだから、俺もはじめはどうやってこんなに高く大きな石を積んだんだろうとびっくりした。
多分、同じ事を義父さんも思ったんじゃないかなと思う。
そして中に入ってそのきらびやかさにまた目を丸くする。
もうキョロキョロ辺りを見回す余裕もなくて、ただただびっくりしていたのがよくわかって、ここまで来る間、義父さんの様子が面白くて仕方なかった。
それであの第一声である。
思い切り笑いたいのを堪え、俺は気を紛らわす為に話しかけた。
「……義父さんてさ?教会から国の命令受けたりして東の国だけじゃなく他の国にも行ったりしてたのに、王宮とか入った事なかったの??」
「無いよ~。基本、現地直行だからね。問題が起きてる所に行って神様とお話して、それで帰って来るだけだからね。直接王様などにお会いするのは初めてだよ~。」
「……そうなの?!」
「うん。だって義父さん、東の国の総理とかにもお会いしたことないよ??」
「え?!嘘?!そうなの?!」
「そうだよ~??教会会議に呼ばれて、国とかからどこそこに行って欲しいって言われたから行ってこいって言われて行くだけだからね??」
「……それは……なんか……凄いね……。」
東の国の教会組織ってどうなってるんだろう??
つまり神仕えを呼ぶには教会組織に依頼して、そこから誰か派遣されるって形な訳だよな??
そうなると国なんかの依頼をこなしても、それは個人の功績と言うより教会の功績になる訳だ。
とりあえず、神仕えって思っていたよりサラリーマン的な側面が強い事に俺はびっくりしてしまった。
「失礼いたします。」
そんな話をしていると、とても物腰の柔らかな声がした。
見るとグレイさんが気品と穏やかさを溢れさせながら、俺達に一礼した。
義父さんはすぐさま立ち上がって一礼を返した。
「アズマ男爵の養父の神仕え様ですね?」
「はい。」
「はじめまして。私、国王陛下の執事長を努めております、グレイ・タガートと申します。本日のご案内を国王陛下から任されております。どうぞ宜しくお願い致します。」
グレイさんは親しみやすく柔らかく微笑んで、義父さんに手を差し伸べた。
うわ~、俺もこれに引っかかったんだよなぁ~。
この人のパッと見の気品や親しみやすさに、いったい何人の人が騙されて来たんだろう??
グレイさんの素を知っているだけに、握手を交わす二人を俺は乾いた笑みで見つめるしかなかった。
「……ブッっ!」
「??」
「……し、失礼致しました。急にクシャミが……。」
いや、クシャミじゃないよね?
明らかに吹いたよね?グレイさん??
この展開は予想できなかった訳ではない。
何しろ義父さんは天然だ。
おそらくそれが見事に炸裂したんだと思う。
手を離しながら、グレイさんは慌てて胸からハンカチを取り出し、横を向いて咽ている。
「おや、大丈夫ですか?」
「……大変、失礼致しました。ご心配下さり、ありがとうございます。」
そんなグレイさんを義父さんは素で心配しているが、それ、クシャミじゃないから。
どう考えても笑いそうになったのを誤魔化してるだけだからね。
グレイさんが義父さんを信用に足る人物だと判断したかどうかは気になったが、それより表面上、鉄壁の優良執事面を崩さないグレイさんを笑わせてしまった義父さんの考えていた事が物凄く気になる……。
「失礼致しました。ではご案内致します。」
それでもさすがはこの国の国王の執事長。
すぐに完璧な笑顔を義父さんに向ける。
義父さんは何も考えていないのか、ドアを開けてくれるグレイさんに丁寧にお礼を言いながら、促されるままついていく。
俺もその後をついて行った。
隣の謁見室のドアをグレイさんがノックして開ける。
そのまま一礼して、中にいた王様に挨拶した。
「国王陛下、アズマ男爵の養父の神仕え様をお連れしました。」
「ご苦労。」
「……お入り下さい。」
グレイさんにそう言われ、義父さんは少し固くなりながら部屋に入る。
俺も一緒に入ろうとしたが止められた。
「え?」
「お父上が信頼に足りる方なのはよくわかりました。ここから先は、陛下とお父上のみでお話されて大丈夫だと判断しました。」
俺が止められた事に義父さんも少し驚いていた。
王様の方は、満面の笑みでグレイさんに手で合図している。
グレイさんはそのまま一礼してドアを閉めた。
パタン、と言う音と共に静寂が訪れる。
「…………。あの~、そんなに笑わなくても……。」
「す、すまない……でも我慢できなくて……。」
ドアを閉めた途端、グレイさんはドアに手をついたまま背中を丸めぷるぷると肩を震わせた。
何とか一度は気力を取り戻し、ドア前のロイヤルガード達に会釈してその場を離れる。
しかしそれも角を曲がって周囲に誰もいなくなると速攻崩れた。
壁に向かってしゃがみこんで、声を出さずに爆笑している。
う~ん……。
王様と二人、中に一人で残された義父さんも心配だが、鉄壁の執事面を保てなくなっているグレイさんも心配だ。
一応、こんな人でも外面は王様の執事長として威厳を保っているんだ。
誰かにこんなところ見られたらどうするんだろう?この人??
「……ちょっと待ってくれ……君のお父上は何者だい?!サーク?!……あり得ないだろう?!今時、あんな純粋無垢な同年代がいるなんて……っ!!」
ぷるぷる震えながら、グレイさんがヒーヒー言っている。
何となくわかるようなわからないような……。
「あの~、義父さん、何、考えてたんですか……??」
聞くのが怖いような気がしながらも、好奇心に勝てなかった。
ぼそっと聞くと、グレイさんが立ち上がって俺の方を向いた。
けれど涙を浮かべながらヒックヒック言ってる。
笑いを堪え過ぎて、ヒヤックリが止まらなくなってしまったようだ。
義父さん、どんだけ天然ぶちかましたんだよ??
あのグレイさんが笑いすぎて瀕死状態だよ……。
さすがに息が苦しそうで可哀想だったので、俺は回復をかけてあげた。
「すまない……ありがとう……。でも……んふふ……っ。なんか……さすがは君のお父上って感じだね……サーク……。」
「俺は関係ないでしょうが。」
「いやだって……あまりにも……可愛すぎる……。今時、あんな純粋無垢な人、子供だって見つけにくいってのに……。」
「はぁ……。」
マジで義父さん、何を考えていた訳??
笑いすぎて半分ラリってる感じのグレイさんを見ながら、俺は自分の父親の思考回路を恐ろしく思った。
「もうね!思考が純粋すぎるんだよ!!薄汚い裏表のある人間しか普段相手にしないから!癒やされ感が半端ない!!何なの?!あの人?!信用できるかできないかって言うより!むしろこの人を信用できなかったら、世の中の人間なんて全員、極悪人だから!!誰一人信用できないよ!!」
「それは……ありがとうございます……。」
よくわからないが、義父さんはグレイさん的にめちゃくちゃ信用のおけるタイプだった様だ。
その理由がアホみたいに純粋無垢な思考をしていたからのようなのだが、まぁ……そうかもしれない。
思えば義父さんの天然っぷりには俺も散々、振り回されてきたからね。
むしろそれぐらいじゃないと、神仕えとして神様たちに話をしてもらう事ができないんじゃないかなぁと思う。
なるほどそうか……。
神仕えになるには人間どころか、人間でないものから信頼を得て詳しく話を聞かなければならないのだから、裏表があったりしたら駄目なのだろう。
どんなに隠したって、神様達には人間の浅はかな思惑なんて筒抜けなのだろうから。
そう考えると、義父さんは普段からグレイさんの様に自分の考えを読むようなものを相手にしているのかもしれない。
だとしたら、俺はやっぱり神仕えにはなれなかっただろうなぁと思う。
裏表のないまっさらな性格でなんていられないし、嫉妬ややっかみを持たずに生きていれるほど俺は純真じゃない。
やっぱり人それぞれ適性があるんだな……。
何だかんだ俺はやはり魔術師が一番あっていたのだろう。
「こんなに純粋な思考を持ってる人!めちゃくちゃ久しぶりに会ったよ!!」
「へぇ、そうなんですか??」
そんな事を考えている俺の前で、グレイさんはめちゃくちゃ楽しそうだ。
ちょっとネジが外れてるっぽくて心配になる。
それでも笑いが止まらないみたいだった。
「もうね……ぷぷぷっ……ネガティブな思考が殆どないどころかさ~!うわぁ~お城大きいなぁ~!とか!!うわぁ~豪華絢爛~!とか!素で考えてるんだよ?!ほのぼの過ぎるだろ?!しかもそれが嘘や上辺なんかじゃないんだ!頭の殆どを占めてるんだよ!!可愛すぎるでしょう?!」
「……あ、はい……。なんかすいません……。」
天然だ……やっぱり義父さんは天然だ……。
そんな事をぽわぽわ考えていたとか、どんな大人だよ?!本当……。
あの時、義父さんが何を考えていたのか聞かされ、俺は何か恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになって、ちょっといたたまれなかった。
「こんな純粋無垢な人、三人目だよ!!」
「三人目??」
「ああ。一人目はジョッシュ。ニ人目がエアーデ。君のお父上が三人目だよ。サーク。」
ん??
なんかその並び、あんまり嬉しくない。
俺は嫌な予感しかしなくて、青ざめた顔でグレイさんを見つめた。
グレイさんはにこ~とキラキラした笑顔で俺に言い放った。
「なぁ、サーク??お父上、泣かせてもいい??」
「はっ?!やめてくださいっ!!」
いいわけ無いだろうが!!
この鬼畜!!
「……あ、でも、あそこまで純真だと泣いても変わらないなぁ。だから泣かす必要もないなぁ~。」
「グレイさん……とりあえず気に入った人は泣かしてみようとする癖、直した方が良いですよ……。グレイさんは好意を持っているんだとしても、嫌われますから……。」
「そうなんだよなぁ~。それでエアーデには避けられるようになっちゃったからなぁ~。」
しゅんとしてますが、悪いのは完全にグレイさんですよ?
まぁ、ボーンさんは何となくからかいたくなるタイプでもあるから、抑えが効かなかったんだろうけど。
「言っときますけど、俺の義父さんに変なことしたら、容赦しませんからね?!」
「ん~しないよ。しないというか、したくてもできないと言うか……。」
「……したくてもできない??」
唐突に妙な事を言われ、俺は首を傾げた。
したくてもできないってどういう意味だろう??
「そ、人のものには手を出さないのは鉄則だからね。」
「??」
人のものってどういう事だろう??
俺の義父さんって言っているから、結婚してると思われたのかな??
義父さんは神職だし、何より名前がないから結婚とかできないんだけどな??
でもわざわざそれを教えて義父さんがグレイさんにちょっかい出されると困るので、俺は気になりながらも黙っている事にしたのだった。
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