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第九章「海神編」
僕のだいじなもの
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「だから~!!何で直ぐ殺そうとするんだよ?!アンタには愛情ってもんがないのか?!たった二人の生き残りなのに~っ!!」
「笑わせるな、この程度。長く生命力の一部を奪われていたとはいえ、これで演舞の踊り手を名乗るとは、片腹痛いわ!」
「うわ~ん!!主~!ギル~!!」
「それでカイナの名を背負って恥ずかしくないのか!!甘ったれるな!!」
「やだやだやだ!!俺は甘やかされる方が好きなの!!辛いのはヤダ~!!辛いのはもう要らない~!!主~!助けて~!!殺される~!!」
「黙れ!!愚弟子!!逆さに吊して生皮を剥がれたいのか?!」
「アンタが言うと冗談に聞こえないんだよ!!バカ師父~!!」
「ほほう……覚悟は良いようだな……??」
「ギャアァァァ~ッ!!」
人気のない岩場にシルクの悲鳴が木霊する。
シルクは間諜を請負っているレオンハルドに同行し、修業を行っていた。
間諜の仕事は基本単独行動だ。
それに同行が許されている時点でシルクの実力は師に認められているのだが、当の本人はそれと気付くこともなく、連れ回されてイビリ倒されていると思っていた。
任務自体は一人で行っているレオンハルドがいない間、シルクは一人荒野で修行を行い、ふらりと帰ってきた師にいきなり殺しに掛かられ攻防する日々を過ごしていた。
いつ帰ってくるとも知れない師匠の襲撃に気を配りながら修行をする毎日。
物凄くストレスが溜まりそうな話だが、この修行スタイルはシルクにとってはいつもの事だった。
演舞継承者として修行した幼い頃からこれなので、完全に感覚が麻痺している。
こういう事を幼い時から叩き込む事で、日常的に殺されそうになる事が当たり前であると無意識に刷り込まれているのだ。
おそらくシルクは、何だかんだ文句をつけども、それがかなり特殊である事すらあまり自覚がないだろう。
演舞と言う世界で最も恐れられた暗殺武術は、そうやって踊り手を育んだ。
己が特殊である事すら気づかせないほど、特殊である事がごく当たり前であるように。
結局、師に捕まって攻防虚しくけちょんけちょんにされたシルクは、自分が食べる為に作っていた食事がレオンハルドに食べられてしまうのを半泣きで眺めるしかなかった。
恨めしく眺めていても腹は膨れないので、仕方なく非常用に作って身につけていた干し肉と乾燥食品を噛って水で流し込む。
弱ければ食べる事もままならない。
それが師の教えであり、演舞を舞うものの常識だった。
とはいえ本来演舞は強き者からは奪い弱き者には与える事を重んじているので、レオンハルドがシルクから食べ物を奪うのはそれに反しているが、これは修行の一環であり、シルクも修行をつけてもらっているので文句は言えない。
「一眠りしておけ、シルク。」
「……移動するのか?俺も??」
「あぁ……。武器の手入れは怠るな。」
「……ふ~ん。」
移動だけでなく武器の手入れも指示された。
その事から次の移動先では、自分も多少、師の手足になる必要があるのだなとシルクは思った。
自分の師父が一人で応戦しきれない事を想定している所を見ると、場合によっては結構な戦いを視野に入れて動いているようだ。
シルクはそう思いながら、食事を終え寝転んでしまったレオンハルドを横目に食事の片付けを始めた。
「え??情報?!」
俺の言葉にアレックは怪訝な顔をした。
アレックの手の中で、人工精霊の黒猫の小さなぬいぐるみであるピアは不思議そうな顔をしている。
「ほう……それで、あの装置だけでは人工的に精神空間は作れないと言っておったんだね、サーク。」
「はい。それがフーボーさんが俺に残してくれた教えの一つです。」
「なるほど……我々の知識がそこまで及んでおらぬ事を、フーボーは見抜いておったんじゃな……。」
少ししんみりとブラハムさんは言った。
俺は今、アレックとピア、そしてブラハムさんとラニで俺の勉強部屋にいた。
仮想精神空間を作る為の精神世界側の話をする為だ。
もちろん部屋には音消しが施してある。
フーボーさんの知識はまだこの世界に出すには早すぎるからだ。
だが、今回はどうしても使わなくてはならない。
そしてそれにはピアの持っている情報がいる。
「え?!意味分かんないんだけど?!」
「そうだね、僕も驚いた。」
喧嘩腰に俺に突っかかってきたアレックだが、ラニの呟きにビクッとしている。
ご、ごめん、笑うところじゃないんだが、アレックの反応が露骨過ぎて笑える……。
アワアワするアレックとは真逆に、ラニは真剣な顔で考え込んでいる。
「そっか……精神世界では情報が力になるんだ……。うん……確かにそう考えると、精神世界の訳がわからなかった所が少しわかるような気がする……。」
竜の谷でどれだけ精神魔術を使っていたかはわからないが、ラニは竜の血の呪いの影響を受けていた俺の中に潜ってどうにか出来てしまう程の実力がある。
だから何度となく人の精神に潜っているのだろう。
そのラニが実体験として持っていた事と、情報が精神世界では力になるという理論が繋がったようだ。
そんなラニを見てしまえば、アレックも頭ごなしに否定してくる事ができない。
混乱に頭を掻き毟りながら大きく深呼吸し、ギロッと俺を睨んだ。
「俺にはよくわかんねぇけど!100歩譲ったとして!ピアの持ってる情報を使うって事は、ピアの記憶がなくなるって事だよな?!」
「そうなるな。」
「は?!訳分かんねぇ?!酷くないか?!それ?!」
「確かにそれがまともな記憶なら、俺も非人道的な事だと思うよ。でも、ピアの持っているそれは、ピアが生まれる事になるほど蓄積されたその記憶は何だ?アレック??」
「そ、それは……。」
アレックは言葉を詰まらせた。
キュッと両手でピアを包む。
「ぴぃ??」
「でも……それが無かったら……ピアは……。」
どうやらアレックは俺がピアの記憶を使ったら、ピアが消えてしまうと思っているらしい。
その方がピアは幸せかもしれない、でも、いなくなってしまうのは嫌だ、そんな心境のようだ。
う~ん、俺も言葉が足りなかったか。
確かにフーボーさんはあの空間を作る為に自分の全てを情報に変えてしまった。
それこそ本当に全てで、この前ちらっと見たら生まれてからの体重の記録とかもあった。
でも、今回はそこまで全て使わなくても良いのだ。
フーボーさんとウニの空間は、元々あった固定空間に無理矢理スペースを作った。
固く固定された場所、言うなれば岩の中を掘削してスペースを作ったのだ。
だからその為に物凄いエネルギーがいった。
だが今回の場合、何もない場所に魔力を送り込んで空間を作る。
簡単に言えば風船を膨らます感じで空間を作るのだ。
だからスペース自体は問題なくできる。
けれど何もない場所に作るからこそ、一度膨らませてもそれは元に戻ろうとする力によってすぐに消滅してしまう。
だからそれが潰されないように支える骨組みがいる。
膨らませた空間の中に骨組みを組んで維持させるだけでいいのだ。
ただし長時間維持させる為には、骨組みとなる情報の力と膨らませ続ける魔力がいる。
だからそれほど大変な方法ではない分、非常にエネルギー効率が悪いのだ。
情報と魔力の無駄遣いと言ってもいい。
フーボーさんとウニの空間は硬い岩の中にある。
一度空間を作ってしまえば、そこにがっしりした骨組みがあれば壊れる事はまず無い。
半永久的に存在し続けられる。
だが仮想精神空間は、作るのは簡単だが維持するのは難しい。
できなくはないがエネルギー効率を考えると物凄く無意味なのだ。
だからフーボーさんはその方法の研究の結論が出た時点でやめた。
一時的にならいいが、そうでないなら無意味だと判断したからだ。
だが今回はその方法を使う。
それしかまだこちらの世界では方法がないからだ。
エネルギーの無駄遣いであろうと、一時的にしか維持できずに消えてしまうと空間だろうと、そこまでの知識しかこの現実世界には存在していない。
その知識だって不完全なもので、こうして補わなければ使う事すらできない。
でもそれでいいのだ。
下手に精神空間を生み出す技術が発展しても、今の俺達に有益な使い方ができるとは思えない。
フーボーさんが魔術本部から決して出る事なく、限られた仲間以外と会う事なくその生涯を謎のまま終わらせたのは、そういう事なのだと思う。
自分と共に終わらせて良かったはずの知識。
でもそれが世界の大きな節目に関わると知って、フーボーさんはあの方法で自分の知識を残した。
この世の誰にも知られる事の無い場所に、自分の知識を残した。
必要な情報を必要になった相手にのみ渡す為に。
「アレック、ピアは消えないぞ?別に全部取ろうってんじゃないから。」
「え??」
「ただ、ピアもそんな記憶を持ってるのが、そんな記憶ばかりでできているのが辛いと思うんだよ。だって痛みに対して物凄いトラウマ抱えてんじゃん、ピア。お前が虐めててもたまにガタガタ震えてタシケテタシケテって呟くし。」
俺の言葉にアレックが呆けている。
そんなアレックをラニがキョトンと見つめた。
「え??アレック君、ピアに意地悪するの??」
そう言われてハッとしたアレックは、かぁ~っと赤くなるとブンブンと首を振る。
必死だなぁ、こいつ……。
俺は吹き出しそうになるのを堪えて見ていた。
「し!!しない!!サーク!!変な事言うなよ!!ちょっとはじめのうちは力加減がわかんなかっただけだから!!」
うわ~、何があってもラニには嫌われたくないんだなぁ~。
目が必死に言うなと俺に懇願している。
う~ん、生意気なアレックの思わぬ弱点、ゲットだなぁ~。
にや~と笑うと悔しそうに毛を逆立てて怒っている。
まぁ、おいおいこの弱点は攻めてやろう。
それにこれでアレックが本能で暴走してピアを虐める事もなくなるだろうし。
一石二鳥どころか三鳥プラスお釣りが来るくらいだ。
俺は薄ら笑いを浮かべながら、わかったわかったと手で合図した。
「だから減らしてやりたいんだよ、その記憶を。これからピアがお前やラニ達と楽しい事をいっぱい知れるように。痛い事にトラウマを抱えてたら、恐怖心の方が先立って思い切って楽しめない時だってあるだろ??」
俺が微笑みかけるとアレックは苦々しい顔をしたが、その横でラニが「そっか~、ピアの幸せに繋がるんだ~」と笑ったので、ちょっと嬉しそうだ。
単純だな猫耳少年。
「仮想精神空間を作る為には情報が必要だ。そしてピアにはトラウマになるほどたくさんの辛い治療の記憶がある。しかもそれは自分の痛みじゃない。人の痛みの身代わりになった記憶だ。だからそれを使わせて欲しい。」
俺がそう言うと、アレックは少し考え込んでいた。
手の中のピアを黙って見つめる。
「……おじさんと話したい。それからでもいいか?サーク?」
おじさんというのは義父さんの事だろう。
どうやらそれをしてピアにどの様な影響が出るのか確認しておきたいようだ。
何だかんだ、アレックにとってピアは大事な存在なのだろう。
意識的なのか無意識的なのか……。
アレックは人工精霊に「ピア」と名付けた。
ピアは古い言葉で、仲間や友人を表す言葉だ。
俺は穏やかに笑った。
「いいよ。アレックとピアが納得できたら俺に声をかけてくれ。もしやると決まったら、ピアの情報の調整をするから一晩貸して欲しい。」
「……わかった。」
複雑な表情で手の中のピアを見つめるアレックに、そっとラニが寄り添った。
無意識なんだろうけど、今のアレックには何よりの力添えだろう。
う~ん、何かもう甘酸っぱい。
でもラニを預かっている身としては、ちょっと複雑な気分でもあった。
次の日から本格的に準備が進み、家の中が慌ただしくなる。
警護部隊の連中も、何らの業者を装いながらうちに来ては荷物と共に森の中に消えていく。
設営地を見に行ったが、俺の土地かもしくは許可を得た国営地だってんで中々大規模に設営して、アイツら呑気に寛いでいるからちょっとムカついた。
まぁ、大半がライオネル殿下の事情を知らないからな……。
仕方ないんだけど……。
表向きはライオネル殿下の持病の治療の為、大掛かりな魔力治療を行う事から、外部への魔力の遮断ができる家守りの精霊が居る俺の家に極秘で殿下と治療メンバーが集まると言う話になっている。
だからこいつらにとったら、任務とはいえ俺の家を見に来た様な感覚になってしまっているのだ。
極秘警護とはいえ王宮都市を出る訳でもないので、別宮での一週間泊まり勤務ぐらいの感覚でしかないのだ。
だからって言ってもなぁ……。
俺はちょっと青筋を立てた。
「誰だ~っ!!お昼寝ハンモック作った奴はぁ~!!」
「あ、ごめんごめん、俺だわ。」
「あのな!遊びに来てんじゃねぇんだよ!!仕事だ!!」
「でもさ~?ここサークん家だしよ~?王宮都市の住宅街だし、何かそこまで気が張れないっていうか~。」
「そうそう、南の国に行ったのとは違うっていうか。」
「て言うかお前んち、デカイ風呂あるんだろ?!入っていいか?!」
「あ!!俺もそれ言おうと思ってた!!」
「俺も俺も!!」
勘弁してくれ。
俺は頭を抱えた。
お前らいくら何でも緊張感なさ過ぎ……。
何と言い返してやろうか頭を痛めていると、ヒッと皆が悲鳴を上げた。
何事かと思っていると、俺に馬鹿な事を言っていた連中が一応にして尻を押さえて縮こまっている。
「え~、皆さん。サークは一応、今、うちの部隊の副隊長代理ですよ~??いつまでそのノリで話してるんだ?!」
「ライル?!久しぶり!!」
その声に顔を向けると、ライルがスッとレイピアを鞘に収める所だった。
いつ来たのか気づかなかったが、今日はここに来ていたみたいだ。
バカを言っていた隊員達はどうやらライルのレイピアで尻を叩かれたらしい。
いったいいつの間に現れて、いつの間にこの人数にそんなお仕置きかましたんだよ?!
若干服や尻が切れたらしく恨めしそうにライルを見上げているが、ライルがにっこり笑っていつでも抜けるよう鞘を立てると、慌てて休憩テントの中に逃げて行った。
まぁ一撃必殺で突かれた訳じゃなく叩かれたんだから、尻が無事で良かったじゃんかと俺は思う。
それにしてもライルの実力ってたまに垣間見るけど、ちょっと計り知れなくて怖い。
普段とのギャップも相まって、本当、怖い。
でも俺と目が合うと、いつものようにニカッと笑ってくれた。
「久しぶり、サーク!色々大変そうだな?!」
そう言って俺達はハグを交わす。
多分、立場的に深い事情もわかっているんだろう。
ハグしたライルからは何となくミルクの匂いがした。
良いパパをやっているんだろうなぁと申し訳なくなる。
「ライルこそ大事な時期に、結局週に数日時短出勤させててゴメンな?」
「いや、状況が状況だしね。むしろ行かないって言ったらサムに怒られちゃうから。自分のもう一つの大事な家族である部隊が大変な時なのにってね。」
そう言ってライルを送り出すサムが想像できて俺はちょっと笑った。
流石は第三別宮警護部隊の肝っ玉母さんだよなぁ。
「サムとエステルちゃんは元気??家の方は大丈夫なのか?」
「ありがとう。母子ともに元気だし、うちはメイドもいるし、何かあったら執事が俺にすぐ伝えてくれるし、何より隊長が良い乳母を紹介してくれたから凄く助かってるよ。俺も育児の事めちゃくちゃ叩き込まれてる。手伝うじゃなくて!アンタの子なのよ!アンタが育てるの!わかってる?!っていつも怒られてるよ~。」
「おおぅ、サム以上の肝っ玉母さん……。」
「うん、凄くありがたいよ。」
ここでありがたいと言う言葉が普通に出てくるのがライルらしい。
そう言って笑うライルが凄く格好良かった。
「え?!何?!」
「何か……ライルが良い家庭を持って、良いパパしてるんだなぁって思ったら、感慨深くて……。」
「え??だからって、ハグしてスリスリされても俺、サム一筋だしそっちの趣味ないから困るんだけど?!」
「別にライルに変な気はねぇよ!!でも何か幸せな家庭の匂いがして~。」
「う~ん??婚約して結婚間際で同棲のはずが、婚約者はしばらく帰れないのに、新居が仕事でこうなってくると、幸せな家庭の匂いが恋しいよなぁ……。」
「せめてウィルがここにいてくれたら~!!でも頑張ってるウィルに帰ってきてなんて俺言えない~!!」
「あ~、はいはい。」
「うわぁ~ん!!ライル~!!ウィルに会いたいよ~!!」
「あ~、はいはい。どうどう、落ち着け~。」
「めっちゃ他人事!!」
「だって他人事だしね。俺は今、幸せだし。」
「酷い!!」
何だかんだ、お互い爆笑してしまう。
やっぱりライルはどこか落ち着かない心の拠り所になってくれる存在だなと思う。
今後部隊としては、別宮を時短のライルとガスパーが管理し、俺の家の極秘警護体制はギルが管理し、王宮及びライオネル殿下の警護を今まで通りイヴァンが指揮し、さらにガスパーは全体の連絡と戦略を調整する事になった。
俺はライオネル殿下の治療メンバーの方を担当するので、警護部隊の仕事からは独立して動く事になる。
「そう言えばガスパーがフライハイトに行くのは予定通りで良いのか確認してくれって言ってたんだけど?」
「あ、うん。予定通りで大丈夫。」
「その後トート遺跡によるなら、先に帰るってさ。」
「あ~……。」
俺は困ったように笑った。
ライルもまぁそうだよなと言う顔をする。
「行かないのか、やっぱり。」
「うん。迷宮に潜ってる事が多いみたいだから、いきなり行っても会えないだろうし……顔見ちゃうと、さ……。」
「だよなぁ。抑えが効かなくなるよなぁ。こんな時だし。」
「うん……。」
俺は胸の辺りを無意識に触った。
ウィルがくれた手紙の返事は、小さな袋に入れて森の街の家の鍵なんかと共に首から下げている。
本当は会いたい。
会って不安な俺の気持ちを全部受け止めて欲しい。
ただ、何も言わずに側にいてくれるだけでいい。
手を握ってお互いに寄りかかって、その熱を、吐く息の湿り気を感じたい。
あの深い青い瞳で俺を、その夜の中に閉じ込めて欲しい。
「ふわあぁァァァ~!!ウィル切れだよぉ~!!充電したいぃ~!!」
「落ち着け、サーク。」
「無理無理無理!!どこにいるかわかってるのに逢いに行けないとか辛すぎる!!」
「前から思ってたんだけど、サーク……。お前、ちょっとウィルに依存しすぎだぞ??他にも気を抜ける何かを作れよ?!」
「無理ぃ~!!ウィルしか駄目なんだよ~!!俺~っ!!」
「別に人じゃなくて良いだろ??何か気を抜ける趣味を持つとか、ペットを飼うとか……。」
「も、もふもふ?!もふもふ?!」
「いや、別にもふもふしてなくてもいいけど。」
いや、もふもふだろ?!
ウィル以外に癒やされるモノって言ったらもふもふだろう!!
美味しい食べ物と温泉とかもいいけど!
何よりもふもふだろう!!
そうだ!!
今日は森の街に帰ろう!!
リリとムクをぎゅっとして!可愛いお手手で作ったご飯を食べて!絵本も読んであげて一緒に眠ろう!!
「もふもふ~!!」
「あ~、はいはい。」
急に目を輝かせた俺を、ライルは遠い目で眺めていた。
「笑わせるな、この程度。長く生命力の一部を奪われていたとはいえ、これで演舞の踊り手を名乗るとは、片腹痛いわ!」
「うわ~ん!!主~!ギル~!!」
「それでカイナの名を背負って恥ずかしくないのか!!甘ったれるな!!」
「やだやだやだ!!俺は甘やかされる方が好きなの!!辛いのはヤダ~!!辛いのはもう要らない~!!主~!助けて~!!殺される~!!」
「黙れ!!愚弟子!!逆さに吊して生皮を剥がれたいのか?!」
「アンタが言うと冗談に聞こえないんだよ!!バカ師父~!!」
「ほほう……覚悟は良いようだな……??」
「ギャアァァァ~ッ!!」
人気のない岩場にシルクの悲鳴が木霊する。
シルクは間諜を請負っているレオンハルドに同行し、修業を行っていた。
間諜の仕事は基本単独行動だ。
それに同行が許されている時点でシルクの実力は師に認められているのだが、当の本人はそれと気付くこともなく、連れ回されてイビリ倒されていると思っていた。
任務自体は一人で行っているレオンハルドがいない間、シルクは一人荒野で修行を行い、ふらりと帰ってきた師にいきなり殺しに掛かられ攻防する日々を過ごしていた。
いつ帰ってくるとも知れない師匠の襲撃に気を配りながら修行をする毎日。
物凄くストレスが溜まりそうな話だが、この修行スタイルはシルクにとってはいつもの事だった。
演舞継承者として修行した幼い頃からこれなので、完全に感覚が麻痺している。
こういう事を幼い時から叩き込む事で、日常的に殺されそうになる事が当たり前であると無意識に刷り込まれているのだ。
おそらくシルクは、何だかんだ文句をつけども、それがかなり特殊である事すらあまり自覚がないだろう。
演舞と言う世界で最も恐れられた暗殺武術は、そうやって踊り手を育んだ。
己が特殊である事すら気づかせないほど、特殊である事がごく当たり前であるように。
結局、師に捕まって攻防虚しくけちょんけちょんにされたシルクは、自分が食べる為に作っていた食事がレオンハルドに食べられてしまうのを半泣きで眺めるしかなかった。
恨めしく眺めていても腹は膨れないので、仕方なく非常用に作って身につけていた干し肉と乾燥食品を噛って水で流し込む。
弱ければ食べる事もままならない。
それが師の教えであり、演舞を舞うものの常識だった。
とはいえ本来演舞は強き者からは奪い弱き者には与える事を重んじているので、レオンハルドがシルクから食べ物を奪うのはそれに反しているが、これは修行の一環であり、シルクも修行をつけてもらっているので文句は言えない。
「一眠りしておけ、シルク。」
「……移動するのか?俺も??」
「あぁ……。武器の手入れは怠るな。」
「……ふ~ん。」
移動だけでなく武器の手入れも指示された。
その事から次の移動先では、自分も多少、師の手足になる必要があるのだなとシルクは思った。
自分の師父が一人で応戦しきれない事を想定している所を見ると、場合によっては結構な戦いを視野に入れて動いているようだ。
シルクはそう思いながら、食事を終え寝転んでしまったレオンハルドを横目に食事の片付けを始めた。
「え??情報?!」
俺の言葉にアレックは怪訝な顔をした。
アレックの手の中で、人工精霊の黒猫の小さなぬいぐるみであるピアは不思議そうな顔をしている。
「ほう……それで、あの装置だけでは人工的に精神空間は作れないと言っておったんだね、サーク。」
「はい。それがフーボーさんが俺に残してくれた教えの一つです。」
「なるほど……我々の知識がそこまで及んでおらぬ事を、フーボーは見抜いておったんじゃな……。」
少ししんみりとブラハムさんは言った。
俺は今、アレックとピア、そしてブラハムさんとラニで俺の勉強部屋にいた。
仮想精神空間を作る為の精神世界側の話をする為だ。
もちろん部屋には音消しが施してある。
フーボーさんの知識はまだこの世界に出すには早すぎるからだ。
だが、今回はどうしても使わなくてはならない。
そしてそれにはピアの持っている情報がいる。
「え?!意味分かんないんだけど?!」
「そうだね、僕も驚いた。」
喧嘩腰に俺に突っかかってきたアレックだが、ラニの呟きにビクッとしている。
ご、ごめん、笑うところじゃないんだが、アレックの反応が露骨過ぎて笑える……。
アワアワするアレックとは真逆に、ラニは真剣な顔で考え込んでいる。
「そっか……精神世界では情報が力になるんだ……。うん……確かにそう考えると、精神世界の訳がわからなかった所が少しわかるような気がする……。」
竜の谷でどれだけ精神魔術を使っていたかはわからないが、ラニは竜の血の呪いの影響を受けていた俺の中に潜ってどうにか出来てしまう程の実力がある。
だから何度となく人の精神に潜っているのだろう。
そのラニが実体験として持っていた事と、情報が精神世界では力になるという理論が繋がったようだ。
そんなラニを見てしまえば、アレックも頭ごなしに否定してくる事ができない。
混乱に頭を掻き毟りながら大きく深呼吸し、ギロッと俺を睨んだ。
「俺にはよくわかんねぇけど!100歩譲ったとして!ピアの持ってる情報を使うって事は、ピアの記憶がなくなるって事だよな?!」
「そうなるな。」
「は?!訳分かんねぇ?!酷くないか?!それ?!」
「確かにそれがまともな記憶なら、俺も非人道的な事だと思うよ。でも、ピアの持っているそれは、ピアが生まれる事になるほど蓄積されたその記憶は何だ?アレック??」
「そ、それは……。」
アレックは言葉を詰まらせた。
キュッと両手でピアを包む。
「ぴぃ??」
「でも……それが無かったら……ピアは……。」
どうやらアレックは俺がピアの記憶を使ったら、ピアが消えてしまうと思っているらしい。
その方がピアは幸せかもしれない、でも、いなくなってしまうのは嫌だ、そんな心境のようだ。
う~ん、俺も言葉が足りなかったか。
確かにフーボーさんはあの空間を作る為に自分の全てを情報に変えてしまった。
それこそ本当に全てで、この前ちらっと見たら生まれてからの体重の記録とかもあった。
でも、今回はそこまで全て使わなくても良いのだ。
フーボーさんとウニの空間は、元々あった固定空間に無理矢理スペースを作った。
固く固定された場所、言うなれば岩の中を掘削してスペースを作ったのだ。
だからその為に物凄いエネルギーがいった。
だが今回の場合、何もない場所に魔力を送り込んで空間を作る。
簡単に言えば風船を膨らます感じで空間を作るのだ。
だからスペース自体は問題なくできる。
けれど何もない場所に作るからこそ、一度膨らませてもそれは元に戻ろうとする力によってすぐに消滅してしまう。
だからそれが潰されないように支える骨組みがいる。
膨らませた空間の中に骨組みを組んで維持させるだけでいいのだ。
ただし長時間維持させる為には、骨組みとなる情報の力と膨らませ続ける魔力がいる。
だからそれほど大変な方法ではない分、非常にエネルギー効率が悪いのだ。
情報と魔力の無駄遣いと言ってもいい。
フーボーさんとウニの空間は硬い岩の中にある。
一度空間を作ってしまえば、そこにがっしりした骨組みがあれば壊れる事はまず無い。
半永久的に存在し続けられる。
だが仮想精神空間は、作るのは簡単だが維持するのは難しい。
できなくはないがエネルギー効率を考えると物凄く無意味なのだ。
だからフーボーさんはその方法の研究の結論が出た時点でやめた。
一時的にならいいが、そうでないなら無意味だと判断したからだ。
だが今回はその方法を使う。
それしかまだこちらの世界では方法がないからだ。
エネルギーの無駄遣いであろうと、一時的にしか維持できずに消えてしまうと空間だろうと、そこまでの知識しかこの現実世界には存在していない。
その知識だって不完全なもので、こうして補わなければ使う事すらできない。
でもそれでいいのだ。
下手に精神空間を生み出す技術が発展しても、今の俺達に有益な使い方ができるとは思えない。
フーボーさんが魔術本部から決して出る事なく、限られた仲間以外と会う事なくその生涯を謎のまま終わらせたのは、そういう事なのだと思う。
自分と共に終わらせて良かったはずの知識。
でもそれが世界の大きな節目に関わると知って、フーボーさんはあの方法で自分の知識を残した。
この世の誰にも知られる事の無い場所に、自分の知識を残した。
必要な情報を必要になった相手にのみ渡す為に。
「アレック、ピアは消えないぞ?別に全部取ろうってんじゃないから。」
「え??」
「ただ、ピアもそんな記憶を持ってるのが、そんな記憶ばかりでできているのが辛いと思うんだよ。だって痛みに対して物凄いトラウマ抱えてんじゃん、ピア。お前が虐めててもたまにガタガタ震えてタシケテタシケテって呟くし。」
俺の言葉にアレックが呆けている。
そんなアレックをラニがキョトンと見つめた。
「え??アレック君、ピアに意地悪するの??」
そう言われてハッとしたアレックは、かぁ~っと赤くなるとブンブンと首を振る。
必死だなぁ、こいつ……。
俺は吹き出しそうになるのを堪えて見ていた。
「し!!しない!!サーク!!変な事言うなよ!!ちょっとはじめのうちは力加減がわかんなかっただけだから!!」
うわ~、何があってもラニには嫌われたくないんだなぁ~。
目が必死に言うなと俺に懇願している。
う~ん、生意気なアレックの思わぬ弱点、ゲットだなぁ~。
にや~と笑うと悔しそうに毛を逆立てて怒っている。
まぁ、おいおいこの弱点は攻めてやろう。
それにこれでアレックが本能で暴走してピアを虐める事もなくなるだろうし。
一石二鳥どころか三鳥プラスお釣りが来るくらいだ。
俺は薄ら笑いを浮かべながら、わかったわかったと手で合図した。
「だから減らしてやりたいんだよ、その記憶を。これからピアがお前やラニ達と楽しい事をいっぱい知れるように。痛い事にトラウマを抱えてたら、恐怖心の方が先立って思い切って楽しめない時だってあるだろ??」
俺が微笑みかけるとアレックは苦々しい顔をしたが、その横でラニが「そっか~、ピアの幸せに繋がるんだ~」と笑ったので、ちょっと嬉しそうだ。
単純だな猫耳少年。
「仮想精神空間を作る為には情報が必要だ。そしてピアにはトラウマになるほどたくさんの辛い治療の記憶がある。しかもそれは自分の痛みじゃない。人の痛みの身代わりになった記憶だ。だからそれを使わせて欲しい。」
俺がそう言うと、アレックは少し考え込んでいた。
手の中のピアを黙って見つめる。
「……おじさんと話したい。それからでもいいか?サーク?」
おじさんというのは義父さんの事だろう。
どうやらそれをしてピアにどの様な影響が出るのか確認しておきたいようだ。
何だかんだ、アレックにとってピアは大事な存在なのだろう。
意識的なのか無意識的なのか……。
アレックは人工精霊に「ピア」と名付けた。
ピアは古い言葉で、仲間や友人を表す言葉だ。
俺は穏やかに笑った。
「いいよ。アレックとピアが納得できたら俺に声をかけてくれ。もしやると決まったら、ピアの情報の調整をするから一晩貸して欲しい。」
「……わかった。」
複雑な表情で手の中のピアを見つめるアレックに、そっとラニが寄り添った。
無意識なんだろうけど、今のアレックには何よりの力添えだろう。
う~ん、何かもう甘酸っぱい。
でもラニを預かっている身としては、ちょっと複雑な気分でもあった。
次の日から本格的に準備が進み、家の中が慌ただしくなる。
警護部隊の連中も、何らの業者を装いながらうちに来ては荷物と共に森の中に消えていく。
設営地を見に行ったが、俺の土地かもしくは許可を得た国営地だってんで中々大規模に設営して、アイツら呑気に寛いでいるからちょっとムカついた。
まぁ、大半がライオネル殿下の事情を知らないからな……。
仕方ないんだけど……。
表向きはライオネル殿下の持病の治療の為、大掛かりな魔力治療を行う事から、外部への魔力の遮断ができる家守りの精霊が居る俺の家に極秘で殿下と治療メンバーが集まると言う話になっている。
だからこいつらにとったら、任務とはいえ俺の家を見に来た様な感覚になってしまっているのだ。
極秘警護とはいえ王宮都市を出る訳でもないので、別宮での一週間泊まり勤務ぐらいの感覚でしかないのだ。
だからって言ってもなぁ……。
俺はちょっと青筋を立てた。
「誰だ~っ!!お昼寝ハンモック作った奴はぁ~!!」
「あ、ごめんごめん、俺だわ。」
「あのな!遊びに来てんじゃねぇんだよ!!仕事だ!!」
「でもさ~?ここサークん家だしよ~?王宮都市の住宅街だし、何かそこまで気が張れないっていうか~。」
「そうそう、南の国に行ったのとは違うっていうか。」
「て言うかお前んち、デカイ風呂あるんだろ?!入っていいか?!」
「あ!!俺もそれ言おうと思ってた!!」
「俺も俺も!!」
勘弁してくれ。
俺は頭を抱えた。
お前らいくら何でも緊張感なさ過ぎ……。
何と言い返してやろうか頭を痛めていると、ヒッと皆が悲鳴を上げた。
何事かと思っていると、俺に馬鹿な事を言っていた連中が一応にして尻を押さえて縮こまっている。
「え~、皆さん。サークは一応、今、うちの部隊の副隊長代理ですよ~??いつまでそのノリで話してるんだ?!」
「ライル?!久しぶり!!」
その声に顔を向けると、ライルがスッとレイピアを鞘に収める所だった。
いつ来たのか気づかなかったが、今日はここに来ていたみたいだ。
バカを言っていた隊員達はどうやらライルのレイピアで尻を叩かれたらしい。
いったいいつの間に現れて、いつの間にこの人数にそんなお仕置きかましたんだよ?!
若干服や尻が切れたらしく恨めしそうにライルを見上げているが、ライルがにっこり笑っていつでも抜けるよう鞘を立てると、慌てて休憩テントの中に逃げて行った。
まぁ一撃必殺で突かれた訳じゃなく叩かれたんだから、尻が無事で良かったじゃんかと俺は思う。
それにしてもライルの実力ってたまに垣間見るけど、ちょっと計り知れなくて怖い。
普段とのギャップも相まって、本当、怖い。
でも俺と目が合うと、いつものようにニカッと笑ってくれた。
「久しぶり、サーク!色々大変そうだな?!」
そう言って俺達はハグを交わす。
多分、立場的に深い事情もわかっているんだろう。
ハグしたライルからは何となくミルクの匂いがした。
良いパパをやっているんだろうなぁと申し訳なくなる。
「ライルこそ大事な時期に、結局週に数日時短出勤させててゴメンな?」
「いや、状況が状況だしね。むしろ行かないって言ったらサムに怒られちゃうから。自分のもう一つの大事な家族である部隊が大変な時なのにってね。」
そう言ってライルを送り出すサムが想像できて俺はちょっと笑った。
流石は第三別宮警護部隊の肝っ玉母さんだよなぁ。
「サムとエステルちゃんは元気??家の方は大丈夫なのか?」
「ありがとう。母子ともに元気だし、うちはメイドもいるし、何かあったら執事が俺にすぐ伝えてくれるし、何より隊長が良い乳母を紹介してくれたから凄く助かってるよ。俺も育児の事めちゃくちゃ叩き込まれてる。手伝うじゃなくて!アンタの子なのよ!アンタが育てるの!わかってる?!っていつも怒られてるよ~。」
「おおぅ、サム以上の肝っ玉母さん……。」
「うん、凄くありがたいよ。」
ここでありがたいと言う言葉が普通に出てくるのがライルらしい。
そう言って笑うライルが凄く格好良かった。
「え?!何?!」
「何か……ライルが良い家庭を持って、良いパパしてるんだなぁって思ったら、感慨深くて……。」
「え??だからって、ハグしてスリスリされても俺、サム一筋だしそっちの趣味ないから困るんだけど?!」
「別にライルに変な気はねぇよ!!でも何か幸せな家庭の匂いがして~。」
「う~ん??婚約して結婚間際で同棲のはずが、婚約者はしばらく帰れないのに、新居が仕事でこうなってくると、幸せな家庭の匂いが恋しいよなぁ……。」
「せめてウィルがここにいてくれたら~!!でも頑張ってるウィルに帰ってきてなんて俺言えない~!!」
「あ~、はいはい。」
「うわぁ~ん!!ライル~!!ウィルに会いたいよ~!!」
「あ~、はいはい。どうどう、落ち着け~。」
「めっちゃ他人事!!」
「だって他人事だしね。俺は今、幸せだし。」
「酷い!!」
何だかんだ、お互い爆笑してしまう。
やっぱりライルはどこか落ち着かない心の拠り所になってくれる存在だなと思う。
今後部隊としては、別宮を時短のライルとガスパーが管理し、俺の家の極秘警護体制はギルが管理し、王宮及びライオネル殿下の警護を今まで通りイヴァンが指揮し、さらにガスパーは全体の連絡と戦略を調整する事になった。
俺はライオネル殿下の治療メンバーの方を担当するので、警護部隊の仕事からは独立して動く事になる。
「そう言えばガスパーがフライハイトに行くのは予定通りで良いのか確認してくれって言ってたんだけど?」
「あ、うん。予定通りで大丈夫。」
「その後トート遺跡によるなら、先に帰るってさ。」
「あ~……。」
俺は困ったように笑った。
ライルもまぁそうだよなと言う顔をする。
「行かないのか、やっぱり。」
「うん。迷宮に潜ってる事が多いみたいだから、いきなり行っても会えないだろうし……顔見ちゃうと、さ……。」
「だよなぁ。抑えが効かなくなるよなぁ。こんな時だし。」
「うん……。」
俺は胸の辺りを無意識に触った。
ウィルがくれた手紙の返事は、小さな袋に入れて森の街の家の鍵なんかと共に首から下げている。
本当は会いたい。
会って不安な俺の気持ちを全部受け止めて欲しい。
ただ、何も言わずに側にいてくれるだけでいい。
手を握ってお互いに寄りかかって、その熱を、吐く息の湿り気を感じたい。
あの深い青い瞳で俺を、その夜の中に閉じ込めて欲しい。
「ふわあぁァァァ~!!ウィル切れだよぉ~!!充電したいぃ~!!」
「落ち着け、サーク。」
「無理無理無理!!どこにいるかわかってるのに逢いに行けないとか辛すぎる!!」
「前から思ってたんだけど、サーク……。お前、ちょっとウィルに依存しすぎだぞ??他にも気を抜ける何かを作れよ?!」
「無理ぃ~!!ウィルしか駄目なんだよ~!!俺~っ!!」
「別に人じゃなくて良いだろ??何か気を抜ける趣味を持つとか、ペットを飼うとか……。」
「も、もふもふ?!もふもふ?!」
「いや、別にもふもふしてなくてもいいけど。」
いや、もふもふだろ?!
ウィル以外に癒やされるモノって言ったらもふもふだろう!!
美味しい食べ物と温泉とかもいいけど!
何よりもふもふだろう!!
そうだ!!
今日は森の街に帰ろう!!
リリとムクをぎゅっとして!可愛いお手手で作ったご飯を食べて!絵本も読んであげて一緒に眠ろう!!
「もふもふ~!!」
「あ~、はいはい。」
急に目を輝かせた俺を、ライルは遠い目で眺めていた。
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