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第九章「海神編」
一路順風
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俺の家で起きた一番大きな変化は、実はこれなんじゃないかと顔を少し青くしてそれを見ていた。
何をか、と言えば……。
「あ!旦那様!!おはようございます!!」
「カレンさん、感情はもう少し控えめです。でも笑顔は大変よろしかったです。それから挨拶の角度をもう少し気をつけなさって?」
「はい!師匠!!」
「師匠はおよしなさい。メイド長とお呼びなさい。」
「はい!!メイド長!!」
尊敬を宿したキラキラした目でメイド長のバーバラさんを見つめるカレン……。
バーバラさんもそっけない態度で厳しく数々の小言をカレンに言っているが、手塩にかけ面倒を見て可愛がっているのがにじみ出すを通り越してダダ漏れである。
そう、カレンがバーバラさんに弟子入りした……。
始め見た時はぎょっとして、カレンはメイド服だけれども、家守りの精霊でメイドではないとバーバラさんに説明したのだけれども、カレン本人が宮廷で鍛え上げられた最高品質のバーバラさんのメイド技術に惚れ込んでしまい、懇願されて教えていると打ち明けられた。
当初はバーバラさんも、ここでの仕事を少し手伝ってもらえる程度で考えていたようだが、一目で優れたメイドの素質がある事がわかっていた事やカレンの熱烈さと可愛らしさにだんだん熱が入り、今では美しい師弟関係を築いている。
「何か、ラブラブ……。」
「あ、うん……。カレンは長い事、ママであるこの家とも離れていたから、母親恋しさもあってバーバラさんに惹かれるのかもなぁ……。」
風呂場の方にある洗面所から出てきたリアナと思わず顔を見合わす。
何か、海神対策で殿下とその御一行がうちに来る事になったのに、あちこちで様々な形の愛が育まれつつあって流石にビビっている。
「そう言えば、猫耳少年はどうよ??」
「上手く寝付けないんでしょ?面白いくらいやつれてるわよ。」
ニヤッと笑ってリアナは言った。
純情だなぁ、アレック。
アイツは冒険者なんだから、場所を選ばず野宿だって寝られるはずなのに……。
穢を知らない恋って眩しい。
これがもう少し年齢が上がってしまって、好きな人と同じ部屋で寝れる=チャンス!みたいな感じになってくると俺も心配なんだが、今回においてはむしろアレックの胃に穴が開かないかを心配した方がいいかもしれない。
今も顔を洗うのにシャワー室の簡易洗面台を二人が譲り合っていて、付き合っていられなくてリアナはこっちの洗面台に来たみたいだ。
アレックはさっき凄い慌ててニ階に上がって行ったから、多分、ニ階のシャワー室の簡易洗面台を使ってるんだろう。
別に順番に使えばいいのに、突然の初恋に落ちてパニック気味の少年の心は複雑らしい。
まぁ俺もレオンハルドさんへ恋に落ちた時、かなりヤバい人だったから気持ちはわかるけどな。
あの後、子供部屋を少し改装してアレックの簡易ベッドスペースと、リアナのプライベートスペースを作った。
家具を動かし、部屋の片側にパーテーションと簡易カーテンで仕切れる場所にアウトドア用の簡易ベッドを置き、そこをアレックのスペースにする。
宿屋のタコ部屋の1区画みたいな感じだ。
はじめはラニの希望で簡易ベッドを二段ベッド脇に設置しようとしたが、アレックが過呼吸気味になってしまったので流石に可哀想になってやめた。
敷物は合うものがなかったのでアウトドアマットレスを敷いて、俺がひとり暮らしの時に使っていた枕と掛け布団をクリーニングの魔術で綺麗にしておいた。
何か適当な寝具になって申し訳ないと言ったら、冒険者育ちだから王宮の客室ベッドよりこの方がいいと言われた。
「どうせ眠れるかわかんないし」とかブツブツ呟いていたのは聞かなかった事にしておこう。
後、可哀想に思ったのか何なのか布団代わりにイヴァンがシロクマを敷いてやろうとして、アレックに蹴っ飛ばされてた。
どうも微かな獣臭でもアレックの鼻は拾ってしまい、無意識に戦闘モードのスイッチが入りかけてしまってかえって寝れないらしい。
と言うか、イヴァンの何がなんでもうちにシロクマを置こうとするのは本当、何なんだろう??(もちろん持って帰らせたけど)
それから逆側の二段ベッド付近を一律にしきれるように簡易カーテンをつけ、さらにリアナのクローゼット付近にはパーテーションを立てた。
これで簡易カーテンとパーテーションで、リアナのプライベートスペースを作る。
寝て起きて着替えが終わるまではカーテンが閉まっているので、リアナとラニのプライベートスペースになるようにした。
アレックも同じ部屋とはいえ、寝て起きて着替え終わるまではお互い仕切られた空間ならば少しは気が楽だろうし。
で、朝の支度が終わって簡易カーテンを開けば広いスペースができる感じだ。
リアナとラニは勉強机が別にあるので個人的な事をしたい時はそこで一人で作業しているし、俺の独身時代のテーブルが真ん中らへんにあるのでそれをアレックが使っていたり、三人で遊んでいたりもする。
不思議な事に子供同士で集めると、あのクソ生意気だったアレックもちょっと大人ぶった小生意気程度になってごく普通に子供だった。
昨夜は学生旅行の晩みたいに三人でトランプをしていて盛り上がり、中々寝ないもんだからいい加減時間を見て無理やりベッドに追い立て明かりを消してやった。
アレックもリアナも大人ぶったところがあるから多少は衝突するんじゃないかと思っていたが、何だかんだ言いつつ、歳の近い子供らで楽しくやっているのは意外だったし衝撃だった。
「……出かけるの?」
そんな事を考えている俺の横で、リアナが控えめに聞いてきた。
多分、俺が警護部隊の正装制服を着ていたからだと思う。
無意識なのか、ぎゅっと俺の制服の裾を掴んだ。
俺は笑ってリアナを抱き上げる。
「夜までには戻るよ。色んな人が出入りして落ち着かないだろうけど、ごめんな?」
「……平気。」
そう言いながら、リアナは俺の首に腕を回して抱きついた。
返事とは裏腹に本当は不安なんだと思う。
俺はキュッとハグし返し、トントンと背中を叩いてやる。
「カレンやラニにも言っとくけど、ノルの事、頼むな?放っとくと本当に何も食べないからね。無理に食べさそうとしなくていいから、たまに様子見て、ミルクとかココアとかスープとか差し入れてやって。」
「ん。わかった。」
「ノルの荷物が届いたら、ニ階のサブダイニングまで運んでもらってな?王宮関係者を通さず直接業者が持ってきて玄関に置いていった時は、外の警護部隊の奴に声を掛ければ運んでくれるから。」
「うん。」
「なんか嫌な事があったら、我慢しないで言えよ?できる限りの事はするからさ。」
「……うん。」
あの喧嘩(?)以降、俺もできるだけリアナの気持ちに寄り添うようにしているせいか、リアナも結構、素直に感情を見せてくれるようになった。
何気にラニとリアナだと、リアナの方が繊細なんだなぁと最近わかった。
そんなリアナをラニが「パンが焼けたよ~」とダイニングから呼んでいる。
弟の声にマズイって顔で少し慌てたリアナを、俺は笑って下ろしてやった。
「サークは朝ご飯食べたの?」
「うん、もう食べてあるよ。」
「ふ~ん??」
実はもふもふ補充で森の街の家に帰っていたから、リリとムクの作った朝ご飯を食べてきたのだ。
お土産に二人の作ったジャムをもらってきたのを思い出す。
「あ、そうそう。ブラックベリーのジャムがあるから食べるといいよリアナ。凄く美味しいから。」
「本当?!なら急がなきゃ!!」
さすがは女の子と言うか、甘い物には目がないのか急にスイッチが切り替わってパタパタとダイニングに走っていく。
慌てなくても誰も取らないのに、そんなリアナがちょっと面白い。
微笑ましくリアナを見送っていると、ニ階からいかにも寝不足ですって顔のアレックが降りて来た。
その顔を見て俺は思わず笑ってしまう。
「……笑ってんじゃねぇ!!」
「うぷっ、失礼失礼~。いや~、でもあのアレックがなぁ~。ぷぷぷっ。」
「うるせぇ!!何が言いたいんだよ?!」
「いや別に~??と言うか、朝飯食い終わったらいったん王宮に行ったらどうだ??殿下の様子も見てきてくれると助かるし。」
「……そうだな。」
「ついでに一眠りしてくるといいよ。」
「う!うるさい!!サークの癖に!!」
真っ赤になってジタバタするアレックがおかしくて、俺はとうとう大笑いしてしまった。
笑い転げる俺を悔しそうにアレックが睨みつける。
「おぼえてろ!!」
「俺の婚約者に不埒な真似をした罰だよ。」
「あれはそんなんじゃねえって言ってんだろうが!!」
「ん~、でも、ラニが知ったらどうなるかなぁ~??」
「!!」
途端に青ざめアワアワしだすアレック。
う~ん、生意気猫耳少年も立つ瀬ないなぁ~。
ブハッと吹き出した俺を見てからかわれた事に気づいたアレックが殴りかかってくるが軽くかわす。
ついでに頭をもしゃもしゃ撫でてやったら、真っ赤になって地団駄踏んでいた。
も~、このネタ面白すぎる。
「あ、そうだ。今夜、ピアを貸してな?」
ふと我にかえり、俺は言った。
そう言われ、アレックは自分の胸ポケットで寝ぼけているピアを見つめる。
俺の話を聞いた後、義父さんとしばらく話してアレックとピアはトラウマになっている痛みの記憶を使っていいと俺に言ってきた。
ただピアはそれを全部取られるのは嫌だと言った。
辛い記憶だけれども、自分が生まれた理由であり、人の為に自分が頑張ってきた記憶だから全部なくなるのは嫌だと。
たとえそれがトラウマの原因でも、ピアにとっては大事なものなのだ。
俺もはじめから全部取るつもりはなかった。
ピアの存在に影響を与える可能性があるからある程度は残し、トラウマになるほど蓄積されている部分のみを使うつもりだったからそう伝えた。
ピアは納得してくれた。
これをする事でピアの痛みに対する異様な恐怖心は削減できるだろうし、俺も情報を使う事ができる。
仮想精神空間を作る為の材料は揃った。
上手く行くかは半ば賭けだが、フーボーさんの知識とウニがついているのだ。
きっと上手くいく。
「……ピアは痛くないんだよな?それ?」
情報、つまり記憶を使われると言う事がピンとこないアレックが複雑な顔で言った。
何だかんだピアが辛くないか気にかける辺り、アレックの優しさだと思う。
「う~ん?精神世界で情報を使うって言う事がどういう事なのか、俺自身もあんまりよくわからないからなんとも言えないけど……。痛くはないって聞いてるよ。記憶がごっそり抜け落ちて、何らかの違和感は感じると思うけどね。」
そう、俺は精神世界で情報を使うという事がどういう事なのかまではよくわかっていない。
とにかく今夜、ウニとピアの情報を調べなければわからない。
本当、俺が精神系魔術師でもなければ研究者でもないので、精神世界の事はウニに頼りっきりになる。
時を超えてフーボーさんと出会えた事も凄い事だが、フーボーさんの残してくれた知識とウニに出会えた事も凄い事だと思う。
「使うのは本番だけなんだよな??」
「そりゃね。ただぶっつけ本番になるから、ピアとも連携を取っておかないとならないんだ。」
「なるほど、そうだよな……。わかった。いいな?ピア??」
「ぴぃ!!」
話を聞いていたピアは元気よくそう返事をしてきた。
怯えてばかりだったピアも、だんだん色々な感情表現が多くなってきた気がする。
昨夜も子供らに混ざって遊んでいたし。
そんな様子を見ていると、義父さんがピアをアレックに任せた判断は間違いなかったんだなぁと思う。
朝食をとるアレックとダイニングに行き出かける事をラニとキッチンにいたバーバラさんとカレンに伝え、俺は時間を確認して家を出た。
家と住宅街を繋ぐ小道を抜けると、目の前に結構立派な馬車が止まっていた。
降りて待っていた御者さんが扉を開けてくれたので、お礼を言って乗り込んだ。
「おはよ、ガスパー。」
「おう。」
ちょっと照れくさそうなのは何なんだろう??
よくわからないままドアを閉められ、狭い空間に二人で閉じ込められる。
あからさまにガスパーが俺と目を合わせないように外に顔を向けた。
………………。
そういう事か……。
ガスパーも悪ぶってる割に純情タイプだから困る。
俺は意識しなくていい事を意識させられてしまい、ちょっと対応に困った。
「何か、馬車とか乗り慣れてないからどうしていいのかわかんなくなるなぁ~。」
「いつもは馬で行ってたのか?」
「いや??基本は歩きだ。」
「歩き?!フライハイトまで?!」
「一般庶民は普通歩きだよ。日の出前から歩けば頑張れば夜にはつくし。普通は途中で一泊するけどさ。運良く荷馬車とかに同乗させてもらったりすると早くつけるかな??あ、でもウィルと一緒の時は、姿隠ししながらヴィオールで行ったりもしてたけど。」
「……さいで。」
何故かブスッとした顔をされ、空間が狭いだけあってどうしていいのか困惑する。
それにしてもこの馬車。
結構、良いやつだな??
王族用の物よりは高級感は感じさせないけれど、ベンチ部分のふかふかさ加減も、揺れの吸収をするサスペンションもかなり良いやつを使っていると思う。
俺がそんな事を思いながら色々観察していると、急にブホッと吹かれた。
「え??えっ?!」
「いや……マジか、お前?!ふ、ふははっ!!馬車乗って構造に興味を示すなんて……バンクロフト博士だけだと思ってたのに……っ!!」
そこから爆笑される。
どうやら俺は馬車に乗った時のノルと全く同じ反応をしていたらしい。
「い、いや!だってこの馬車!いい振動吸収装置をつけているみたいだし!!軋み音がしにくいようになってるから!!どうなってるのかと思って!!」
「うははははっ!!言う事も一緒とか!!何?!申し合わせてんのかよ?!」
「違うって!!純粋にどうなってるのかなぁって思って……!!」
とにかくツボにはまってしまったらしいガスパーが腹を抱えて笑う。
そんな事、言われてもなぁ~。
俺は困って頭を掻いた。
しかしその笑いが車内を穏やかな雰囲気にしてくれた。
それによって俺達はフライハイトまでの道程、これからの作戦会議をリラックスして話し合う事が出来たのだった。
何をか、と言えば……。
「あ!旦那様!!おはようございます!!」
「カレンさん、感情はもう少し控えめです。でも笑顔は大変よろしかったです。それから挨拶の角度をもう少し気をつけなさって?」
「はい!師匠!!」
「師匠はおよしなさい。メイド長とお呼びなさい。」
「はい!!メイド長!!」
尊敬を宿したキラキラした目でメイド長のバーバラさんを見つめるカレン……。
バーバラさんもそっけない態度で厳しく数々の小言をカレンに言っているが、手塩にかけ面倒を見て可愛がっているのがにじみ出すを通り越してダダ漏れである。
そう、カレンがバーバラさんに弟子入りした……。
始め見た時はぎょっとして、カレンはメイド服だけれども、家守りの精霊でメイドではないとバーバラさんに説明したのだけれども、カレン本人が宮廷で鍛え上げられた最高品質のバーバラさんのメイド技術に惚れ込んでしまい、懇願されて教えていると打ち明けられた。
当初はバーバラさんも、ここでの仕事を少し手伝ってもらえる程度で考えていたようだが、一目で優れたメイドの素質がある事がわかっていた事やカレンの熱烈さと可愛らしさにだんだん熱が入り、今では美しい師弟関係を築いている。
「何か、ラブラブ……。」
「あ、うん……。カレンは長い事、ママであるこの家とも離れていたから、母親恋しさもあってバーバラさんに惹かれるのかもなぁ……。」
風呂場の方にある洗面所から出てきたリアナと思わず顔を見合わす。
何か、海神対策で殿下とその御一行がうちに来る事になったのに、あちこちで様々な形の愛が育まれつつあって流石にビビっている。
「そう言えば、猫耳少年はどうよ??」
「上手く寝付けないんでしょ?面白いくらいやつれてるわよ。」
ニヤッと笑ってリアナは言った。
純情だなぁ、アレック。
アイツは冒険者なんだから、場所を選ばず野宿だって寝られるはずなのに……。
穢を知らない恋って眩しい。
これがもう少し年齢が上がってしまって、好きな人と同じ部屋で寝れる=チャンス!みたいな感じになってくると俺も心配なんだが、今回においてはむしろアレックの胃に穴が開かないかを心配した方がいいかもしれない。
今も顔を洗うのにシャワー室の簡易洗面台を二人が譲り合っていて、付き合っていられなくてリアナはこっちの洗面台に来たみたいだ。
アレックはさっき凄い慌ててニ階に上がって行ったから、多分、ニ階のシャワー室の簡易洗面台を使ってるんだろう。
別に順番に使えばいいのに、突然の初恋に落ちてパニック気味の少年の心は複雑らしい。
まぁ俺もレオンハルドさんへ恋に落ちた時、かなりヤバい人だったから気持ちはわかるけどな。
あの後、子供部屋を少し改装してアレックの簡易ベッドスペースと、リアナのプライベートスペースを作った。
家具を動かし、部屋の片側にパーテーションと簡易カーテンで仕切れる場所にアウトドア用の簡易ベッドを置き、そこをアレックのスペースにする。
宿屋のタコ部屋の1区画みたいな感じだ。
はじめはラニの希望で簡易ベッドを二段ベッド脇に設置しようとしたが、アレックが過呼吸気味になってしまったので流石に可哀想になってやめた。
敷物は合うものがなかったのでアウトドアマットレスを敷いて、俺がひとり暮らしの時に使っていた枕と掛け布団をクリーニングの魔術で綺麗にしておいた。
何か適当な寝具になって申し訳ないと言ったら、冒険者育ちだから王宮の客室ベッドよりこの方がいいと言われた。
「どうせ眠れるかわかんないし」とかブツブツ呟いていたのは聞かなかった事にしておこう。
後、可哀想に思ったのか何なのか布団代わりにイヴァンがシロクマを敷いてやろうとして、アレックに蹴っ飛ばされてた。
どうも微かな獣臭でもアレックの鼻は拾ってしまい、無意識に戦闘モードのスイッチが入りかけてしまってかえって寝れないらしい。
と言うか、イヴァンの何がなんでもうちにシロクマを置こうとするのは本当、何なんだろう??(もちろん持って帰らせたけど)
それから逆側の二段ベッド付近を一律にしきれるように簡易カーテンをつけ、さらにリアナのクローゼット付近にはパーテーションを立てた。
これで簡易カーテンとパーテーションで、リアナのプライベートスペースを作る。
寝て起きて着替えが終わるまではカーテンが閉まっているので、リアナとラニのプライベートスペースになるようにした。
アレックも同じ部屋とはいえ、寝て起きて着替え終わるまではお互い仕切られた空間ならば少しは気が楽だろうし。
で、朝の支度が終わって簡易カーテンを開けば広いスペースができる感じだ。
リアナとラニは勉強机が別にあるので個人的な事をしたい時はそこで一人で作業しているし、俺の独身時代のテーブルが真ん中らへんにあるのでそれをアレックが使っていたり、三人で遊んでいたりもする。
不思議な事に子供同士で集めると、あのクソ生意気だったアレックもちょっと大人ぶった小生意気程度になってごく普通に子供だった。
昨夜は学生旅行の晩みたいに三人でトランプをしていて盛り上がり、中々寝ないもんだからいい加減時間を見て無理やりベッドに追い立て明かりを消してやった。
アレックもリアナも大人ぶったところがあるから多少は衝突するんじゃないかと思っていたが、何だかんだ言いつつ、歳の近い子供らで楽しくやっているのは意外だったし衝撃だった。
「……出かけるの?」
そんな事を考えている俺の横で、リアナが控えめに聞いてきた。
多分、俺が警護部隊の正装制服を着ていたからだと思う。
無意識なのか、ぎゅっと俺の制服の裾を掴んだ。
俺は笑ってリアナを抱き上げる。
「夜までには戻るよ。色んな人が出入りして落ち着かないだろうけど、ごめんな?」
「……平気。」
そう言いながら、リアナは俺の首に腕を回して抱きついた。
返事とは裏腹に本当は不安なんだと思う。
俺はキュッとハグし返し、トントンと背中を叩いてやる。
「カレンやラニにも言っとくけど、ノルの事、頼むな?放っとくと本当に何も食べないからね。無理に食べさそうとしなくていいから、たまに様子見て、ミルクとかココアとかスープとか差し入れてやって。」
「ん。わかった。」
「ノルの荷物が届いたら、ニ階のサブダイニングまで運んでもらってな?王宮関係者を通さず直接業者が持ってきて玄関に置いていった時は、外の警護部隊の奴に声を掛ければ運んでくれるから。」
「うん。」
「なんか嫌な事があったら、我慢しないで言えよ?できる限りの事はするからさ。」
「……うん。」
あの喧嘩(?)以降、俺もできるだけリアナの気持ちに寄り添うようにしているせいか、リアナも結構、素直に感情を見せてくれるようになった。
何気にラニとリアナだと、リアナの方が繊細なんだなぁと最近わかった。
そんなリアナをラニが「パンが焼けたよ~」とダイニングから呼んでいる。
弟の声にマズイって顔で少し慌てたリアナを、俺は笑って下ろしてやった。
「サークは朝ご飯食べたの?」
「うん、もう食べてあるよ。」
「ふ~ん??」
実はもふもふ補充で森の街の家に帰っていたから、リリとムクの作った朝ご飯を食べてきたのだ。
お土産に二人の作ったジャムをもらってきたのを思い出す。
「あ、そうそう。ブラックベリーのジャムがあるから食べるといいよリアナ。凄く美味しいから。」
「本当?!なら急がなきゃ!!」
さすがは女の子と言うか、甘い物には目がないのか急にスイッチが切り替わってパタパタとダイニングに走っていく。
慌てなくても誰も取らないのに、そんなリアナがちょっと面白い。
微笑ましくリアナを見送っていると、ニ階からいかにも寝不足ですって顔のアレックが降りて来た。
その顔を見て俺は思わず笑ってしまう。
「……笑ってんじゃねぇ!!」
「うぷっ、失礼失礼~。いや~、でもあのアレックがなぁ~。ぷぷぷっ。」
「うるせぇ!!何が言いたいんだよ?!」
「いや別に~??と言うか、朝飯食い終わったらいったん王宮に行ったらどうだ??殿下の様子も見てきてくれると助かるし。」
「……そうだな。」
「ついでに一眠りしてくるといいよ。」
「う!うるさい!!サークの癖に!!」
真っ赤になってジタバタするアレックがおかしくて、俺はとうとう大笑いしてしまった。
笑い転げる俺を悔しそうにアレックが睨みつける。
「おぼえてろ!!」
「俺の婚約者に不埒な真似をした罰だよ。」
「あれはそんなんじゃねえって言ってんだろうが!!」
「ん~、でも、ラニが知ったらどうなるかなぁ~??」
「!!」
途端に青ざめアワアワしだすアレック。
う~ん、生意気猫耳少年も立つ瀬ないなぁ~。
ブハッと吹き出した俺を見てからかわれた事に気づいたアレックが殴りかかってくるが軽くかわす。
ついでに頭をもしゃもしゃ撫でてやったら、真っ赤になって地団駄踏んでいた。
も~、このネタ面白すぎる。
「あ、そうだ。今夜、ピアを貸してな?」
ふと我にかえり、俺は言った。
そう言われ、アレックは自分の胸ポケットで寝ぼけているピアを見つめる。
俺の話を聞いた後、義父さんとしばらく話してアレックとピアはトラウマになっている痛みの記憶を使っていいと俺に言ってきた。
ただピアはそれを全部取られるのは嫌だと言った。
辛い記憶だけれども、自分が生まれた理由であり、人の為に自分が頑張ってきた記憶だから全部なくなるのは嫌だと。
たとえそれがトラウマの原因でも、ピアにとっては大事なものなのだ。
俺もはじめから全部取るつもりはなかった。
ピアの存在に影響を与える可能性があるからある程度は残し、トラウマになるほど蓄積されている部分のみを使うつもりだったからそう伝えた。
ピアは納得してくれた。
これをする事でピアの痛みに対する異様な恐怖心は削減できるだろうし、俺も情報を使う事ができる。
仮想精神空間を作る為の材料は揃った。
上手く行くかは半ば賭けだが、フーボーさんの知識とウニがついているのだ。
きっと上手くいく。
「……ピアは痛くないんだよな?それ?」
情報、つまり記憶を使われると言う事がピンとこないアレックが複雑な顔で言った。
何だかんだピアが辛くないか気にかける辺り、アレックの優しさだと思う。
「う~ん?精神世界で情報を使うって言う事がどういう事なのか、俺自身もあんまりよくわからないからなんとも言えないけど……。痛くはないって聞いてるよ。記憶がごっそり抜け落ちて、何らかの違和感は感じると思うけどね。」
そう、俺は精神世界で情報を使うという事がどういう事なのかまではよくわかっていない。
とにかく今夜、ウニとピアの情報を調べなければわからない。
本当、俺が精神系魔術師でもなければ研究者でもないので、精神世界の事はウニに頼りっきりになる。
時を超えてフーボーさんと出会えた事も凄い事だが、フーボーさんの残してくれた知識とウニに出会えた事も凄い事だと思う。
「使うのは本番だけなんだよな??」
「そりゃね。ただぶっつけ本番になるから、ピアとも連携を取っておかないとならないんだ。」
「なるほど、そうだよな……。わかった。いいな?ピア??」
「ぴぃ!!」
話を聞いていたピアは元気よくそう返事をしてきた。
怯えてばかりだったピアも、だんだん色々な感情表現が多くなってきた気がする。
昨夜も子供らに混ざって遊んでいたし。
そんな様子を見ていると、義父さんがピアをアレックに任せた判断は間違いなかったんだなぁと思う。
朝食をとるアレックとダイニングに行き出かける事をラニとキッチンにいたバーバラさんとカレンに伝え、俺は時間を確認して家を出た。
家と住宅街を繋ぐ小道を抜けると、目の前に結構立派な馬車が止まっていた。
降りて待っていた御者さんが扉を開けてくれたので、お礼を言って乗り込んだ。
「おはよ、ガスパー。」
「おう。」
ちょっと照れくさそうなのは何なんだろう??
よくわからないままドアを閉められ、狭い空間に二人で閉じ込められる。
あからさまにガスパーが俺と目を合わせないように外に顔を向けた。
………………。
そういう事か……。
ガスパーも悪ぶってる割に純情タイプだから困る。
俺は意識しなくていい事を意識させられてしまい、ちょっと対応に困った。
「何か、馬車とか乗り慣れてないからどうしていいのかわかんなくなるなぁ~。」
「いつもは馬で行ってたのか?」
「いや??基本は歩きだ。」
「歩き?!フライハイトまで?!」
「一般庶民は普通歩きだよ。日の出前から歩けば頑張れば夜にはつくし。普通は途中で一泊するけどさ。運良く荷馬車とかに同乗させてもらったりすると早くつけるかな??あ、でもウィルと一緒の時は、姿隠ししながらヴィオールで行ったりもしてたけど。」
「……さいで。」
何故かブスッとした顔をされ、空間が狭いだけあってどうしていいのか困惑する。
それにしてもこの馬車。
結構、良いやつだな??
王族用の物よりは高級感は感じさせないけれど、ベンチ部分のふかふかさ加減も、揺れの吸収をするサスペンションもかなり良いやつを使っていると思う。
俺がそんな事を思いながら色々観察していると、急にブホッと吹かれた。
「え??えっ?!」
「いや……マジか、お前?!ふ、ふははっ!!馬車乗って構造に興味を示すなんて……バンクロフト博士だけだと思ってたのに……っ!!」
そこから爆笑される。
どうやら俺は馬車に乗った時のノルと全く同じ反応をしていたらしい。
「い、いや!だってこの馬車!いい振動吸収装置をつけているみたいだし!!軋み音がしにくいようになってるから!!どうなってるのかと思って!!」
「うははははっ!!言う事も一緒とか!!何?!申し合わせてんのかよ?!」
「違うって!!純粋にどうなってるのかなぁって思って……!!」
とにかくツボにはまってしまったらしいガスパーが腹を抱えて笑う。
そんな事、言われてもなぁ~。
俺は困って頭を掻いた。
しかしその笑いが車内を穏やかな雰囲気にしてくれた。
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そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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