欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

ラスボス降臨

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俺は出来上がったばかりの真新しい建物をぽかんと見上げる。

しばらく来ないうちにギルド&酒場兼領地館の建物は完成し、とっくの昔に運営されていた。
酒場の入り口付近から中まで、数多くの冒険者で活気づいている。

何でも所在地政府離脱権限を施行し中央王国の危機を救うのに一役買ったマダムのギルドは、冒険者・探求者達の間で瞬く間に噂が広がり、今一番、ホットでクールなギルドとして持て囃されているらしい。

しかもギルド施設は新品で銭湯付き。

さらにマダム信者で冒険者達の技術を資源と考えたイグナスが、あれやこれやと政策を打ち出すもんだから無駄に福利厚生も厚いので、各所から冒険者達が移籍希望を持ってきたり、冒険者登録をしたいと言う新人で賑わっているらしい。

「……全く、アンタのせいで毎日の様に冒険者登録させてくれってバカが来て、商売上がったりだよ!!」

その声に振り向くと、マダムが気怠そうにキセルを吹かしていた。
やれやれとばかりにため息をつく。
俺はそれに苦笑いして応えた。

マダムはこうなっても自分のスタイルは変えず、見込みがないと思った者は決してうちのギルドでは登録させないし移籍も認めない。

そこがまた冒険者達の心をくすぐり、フライハイトのギルドに登録した・移籍したと言うのは、変なステイタスとして密かにブームになっているらしい。
それがさらなる呼び込みになってしまっているのだから、俺に責任はないと思う。

ただここまで来ると、一人で適当にやっていたマダムも流石に手に負えなくなったようで、怪我で引退せざる負えなかった気心の知れた冒険者を雇い入れたらしい。
これにもイグナスが少し噛んでいて、引退を余儀なくされた冒険者の有効活用プログラムの試験運用の一環となっているそうだ。

「あの子は面白いね。他の者が無駄な物や邪魔なもの、厄介なものとみなす様なものを資源に変えちまおうとするんだから。金の事だけじゃなく、土地を、街を、人を、どう活かすか……そればかり考えてる。考え方が統治向きだ。」

「そうですか……。見えない部分を考えると何とも言えませんが、俺は彼が自分自身を生きている今がとても嬉しいです。」

イグナスの秘密を考えれば、彼にその才があるのは生まれ持ったものと言える。
だがそれは彼の望む言葉ではないだろう。
ずっと贖い続けていたその血こそが、死んだように生きてきた彼を活かす事になった。

何とも皮肉な話しだ。
表面上は明るく振る舞っているが、一番その事に気づき、葛藤しているのはイグナス本人だろう。

「勝手なお願いですが、イグナスを頼みます。」

「ふん。言われなくても。イギーはどっかの誰かと違って気品があり、その癖よく懐いて気も利いて素直な良い子だからね。そう簡単には手元から離さないつもりだよ。商売の利益が何たるかもよくわかっているし、目を離した隙に気の赴くままあちこちどっか行っちまってたりもしないし。」

「……それ、俺と比べてます??」

「他に誰がいるんだい?サーク??」

不服に思ってマダムを見たが、マダムも不服そうに俺を見ていた。

え??待って??
何か俺、皆に目を離すと勝手にどっかに行っちゃうイメージを持たれてるんだけど何でなの?!
別に勝手にどっか行ったりしてないじゃん!!

確かに子供の時のは勝手にどっか行ってたよ?!
でも今は仕事だったりと、いつだってちゃんと理由はあるし!
周りにもそれを説明してあるのに!!
何で知らないうちにどっか行っちゃうヤツのイメージなの?!

「サーク!久しぶりだね!!」

マダムの言葉に俺が混乱していると、そんな声が掛かった。
なかなか領地館の方に上がって来ない俺を、イグナスとガスパーが見に降りて来たようだ。
上品な仕草でイグナスが両手を広げたので、サクッとハグをする。

「久しぶり。何か任せっきりですまない。」

「そうだね。君は領主なのだからもう少しこちらにも興味を持ってもらえると嬉しいね?」

「……ごめん。」

「ふはは!冗談だよ!サーク!!僕は今、この仕事を任せてもらえてとても楽しいし、何となくそっちの事情もわかっている。君はいつでも起こり続ける問題の中心地にいるからね。」

「ありがとう。でも誤解しないで欲しいんだけど……別に俺が問題を起こしている訳じゃ……。」

「それは難しい問題だね。君が問題に引き寄せられるのか、君がいるから問題が引き起こされるのか……。卵が先か鶏が先か……。」

「いや!俺!問題起こしてないから!!」

「そうか??結構、起こしてると思うぜ??」

「ガスパー!!」

「はいはい、わかったわかった。とにかく中に入りな、若造共。どうせアレックが話して行った件だろ??とっとと済ませるよ!!」

わちゃわちゃしている俺達をマダムが一喝する。
まぁその話をしに来たんだし、話し合いのメンツも揃ったからいいんだけどさ。
何かメチャクチャ子供扱いされてるよな~。
それでもマダム信者のイグナスはニコニコ笑い、マダムのヤバさを察しているガスパーは大人しく従う。
俺はと言えば、今までさんざんマダムに高い買い物をさせられてきたので、奥の部屋に入るのに少しだけ二の足を踏んだ。

「サーク!!さっさとおし!!」

「はいはい~。」

は~、これからマダムとリース料の話をするとか、気が重い……。

だがやらねばならない。
俺は大きく深呼吸して、部屋の中に入って行った。













帰りの馬車の中、俺もガスパーも狐に摘まれた様な気分だった。
何だかよくわからないが、とりあえず借りるものは借りられたし、話し合いも思いの外上手く行った。

「……でも、どういう事?!」

「だな……何なんだ??あの条件は……??」

あの後、部屋に入るとマダムとイグナスが並んで座り、俺とガスパーが二人の向かいに座る事になった。
交渉は基本的にはガスパーとイグナスの話し合いで、所々で俺とマダムが話しに加わる感じで進んだ。

まず、向こうの希望リース料を聞き、当たり前だが法外な額を提示される。
それはこちらもわかっていたし、向こうもそれを下げる為にこちらがカードを切ってくるのをわかっているから、わざとはじめに若干法外な額を提示してきたのだ。
本当、商売交渉って、お互いわかった上での騙し合いみたいなところがあるよな。

で、ここから俺が交渉材料として持ってきた「外部委託事業をフライハイトのギルドに優先的持ちかける権利」、「一時的ではなく今後定期的に外部委託を依頼する提携契約」、そして「今回の試験的外部委託案件である処分貴族の財産鑑定のギルド側の取り分」を持ち出した。
細かい数字のやり取りなんかはイグナスとガスパーが話しをする。

マダムが途中途中「それは損じゃないか」とか言うが、イグナスが安定した冒険者の収入源の確保を考えた場合、このパイプは確実に確保した方がいい旨などを説明して説得してくれたりもした。
かと思えば処分貴族の財産鑑定の件ではふっかけて来て、渋るガスパーにさっきはこっちが条件を受け入れた事を盾に切り込んできたりと、なかなかの交渉をしてきた。

二人のやり取りは見ていてかなり面白かった。
これが自分の身を切るような仕事じゃなければ心置きなく二人の交渉を楽しめたと思うが、毒蛇宰相からやっとこさ許してもらえた予算を考えるとハラハラしすぎて胃が痛くもあった。

だが何とか話し合いは成立し、希望予算はオーバーしたが、コーディ書記長が言った最高でもこの金額と言うもの以内には収められた。
これには俺もガスパーも安堵のため息が漏れた。
怖い宰相閣下に睨まれなくて済む。

「……なるほど。これがアンタら若造達の交渉結果だね。よくわかった。」

安心していた俺達に、マダムはボソッとそう言った。
途端に青ざめる俺とガスパー。
マダムは気にせずキセルに火をつけくゆらせた。

「イギーの交渉もそっちのかわい子ちゃんの交渉も良かった。このアタシが言うんだから、自信を持っていい。だからこれが適正な価格だってのはわかっているよ。」

カンカンとキセルのカスを茶箱に叩き、マダムは言った。
イグナスとガスパーは顔を見合わせ、そして何故か俺を見る。
いや、俺も訳がわかんないから見ないでよ。

「良い交渉の上に成り立ったこの価格を適正と見るのに、マダムは何が言いたいんですか??」

仕方無しに俺はそうマダムに聞いた。
何で最後の最後に、一番厄介そうな部分が俺に回ってくるんだろう?泣きたい……。
マダムはまたキセルにタバコを詰め、火をつけた。

「商売の交渉はここまでって事さ。」

「……と言うと??」

「ここからはギルドの領域だ。そしてギルドの商業許可を持っているのは、ここではアタシとアンタだけって事だよ、サーク。」

ニヤッと笑ってマダムは言った。
俺は冷や汗を流すしかない。

ギルドの領域ってどういう事?!
イグナスとガスパーの交渉だけでは足りないって事かよ?!

意味がわからず警戒する俺の顔を見て、マダムは楽しそうに笑う。

「ふはは、いい顔だ、サーク。アンタのその顔を見れると楽しくなるよ。」

「グレイさんみたいな事、言わないでくれますか?!」

「人聞きが悪いね?!あんな変態と一緒にしないでおくれ。」

「似たようなもんでしょうが!!」

「……随分、生意気な口をきくね??ちょっとまけてやろうと思ったってのに??」

その言葉に、俺もガスパーもイグナスも固まった。
今、まけるって言いました??マダム??

「……はい??」

「だから、少しぐらいならまけてやっても良いかと思ったんだけどねぇ~。アンタがその気なら、別にいいさ。」

「まけるって……減額の事ですよね??」

「他に何がある?」

「え?!値段を釣り上げるんじゃなくて?!」

「お前さん……いい加減におしよ?!」

「いやいやいやいや!!だってマダムの口からまけるとか減額とか出ると思わないですよ?!」

「アタシを何だと思ってるんだい、サーク??」

「物凄い守銭奴。」

「ほ~う??ちょっと表に出な、サーク??」

「いやいや!!だって今までめちゃくちゃ売りつけてきたじゃないですか?!」

「それはそれ、これはこれ。」

「いやいやいやいや?!」

予想外も想定外もいいところだ。
まさかマダムの口から減額の申し出があるとは思わず、俺は混乱した。
イグナスでさえも驚きすぎて言葉が出なくなっている。

え?え??
どういう事??

半ばパニックになる。
そんなアワアワする俺の肩を、誰かがガシっと掴んだ。

ガスパーだった。
何故かガスパーだけは冷静で、静かにマダムを見つめていた。

「ガスパー……??」

「サーク、この話には乗るな。何か嫌だ。」

「へ??」

「交渉は終わっている。わざわざ少額の減額の為に、新たな交渉をする必要はない。」

「どういう事だ??」

「わからない。だが、今だけでいい。俺の勘を信じてくれ。」

ガスパーは冷静だった。
いつもと何か雰囲気が違う。

だが落ち着いて考えてみれば、マダムの口から減額何て出てきたんだ。
上乗せ増額ならまだしも、減額なんて怪しさ満点だ。
これは確かに断った方が安全だと思い、口を開こうとした時だった。

「やっぱりだね。ゼィーンの巫女の血を持つ者。」

マダムがニヤリと笑った。

ゼィーンの巫女??
何だそれは??

訳が解らない俺と違い、ガスパーはあからさまに嫌な顔をして舌打ちをした。

「今のアンタからはその血の匂いがするよ。」

「……だったら何だって言うんですか?」

「法定で会った時はそれどころじゃなかったし、ラティーマーの血が濃く出ていたからあんま確証が持てなくて突っ込まずにいたんだけどね。モナは元気かい?」

そう言われガスパーは言葉に詰まり、諦めたように額を押さえた。
俺とイグナスは話が見えなくて顔を見合わせるしかない。

「ゼィーンとモナの名で母さんを呼ぶって事は……そうか……広天目……なるほど、話が見えた。アンタが紅蓮のルビー……スカーレット・ティファーニか……。」

「は?!ティファーニ?!」

俺は思わず叫んだ。
その瞬間、小石のような物が俺とガスパー目掛けて飛んでくる。

まずいとガスパーに気を取られた俺は対応が遅れ、スカンッとそれが額にブチ当たった。
しかしガスパーの方は、いつぞやつけた血の魔術の蛇がまだ残っていたようで、それが防いでくれたもんだから何でもなかった。

うぅ、気にかけ損だ~。
一人、被害を受けた俺は頭を押さえてジタバタする。

「二度と口にするんじゃないよ、小僧。好きでそんな名字を貰った訳じゃないんだからね。」

笑顔で怒りを表したマダムがそう言った。
酷い、俺、何もしてないのに……。

涙目になる俺に、イグナスが小さく笑いながらおしぼりを渡してくれる。
俺はお礼を言って受け取ると、それで額を押さえた。
痛かった……血は出てないみたいだけど、とんだとばっちりだ……。

それにしてもマダム、名字もあったんだ……。

まぁ王様との旅の後にボーンさんもマディソンって名字をもらったって言ってたからマダムだってもらっていておかしくない。
でもティファーニって……スカーレットって名前なのも驚いたけど、貰った名字がティファーニって……。

王様、本気でマダムの事、女神かアイドルだと思ってたんだろうな……。

無理やり直訳すると「輝く緋色」だよ…どんだけ美女だった訳?!若い時?!
こりゃ、マダムが本名名乗らずにマダムで通している訳だよ……。

スカーレットは名前だしまだ良いとして、ティファーニって……。
貴族でも富豪でもないんだし、一般人の冒険者がこんなのつけられても対応に困るよな……。
俺がマダムでも絶対使わない。
ただ様々な手続きをする時に名字があると便利というか相手の対応が変わる事も多いから、一応、貰ったままになってるんだろう。

「母はお陰様で元気にやってます。」

「そうかい。」

マダムの言っている事がガスパーの中では繋がったらしく、少し警戒しながらも普段通りに戻った。
しかし俺の方はよくわからない。

「え??何??どういう事だ??」

「うるせぇなぁ、サークには関係ねぇよ。」

「まぁ話す話さないはアンタの好きにしな。」

「それで??」

「だから減額の条件だよ。アンタ、たまにアタシんとこに来な。軽く鍛えてやるよ。イグナスとの話し合いや北の筋肉坊やの付き添いなんかのついでで良い。」

「筋肉坊や……。」

「あれも変わってるね。爽やかイケメンの面をして、ゴリゴリの男達と意気投合しちまってうるさいのなんの。」

「え~と、すみません……。」

「ともかくガスパー、その能力、アタシがちょいと鍛えてやる。それが一つ目の条件さ。」

マダムの意外な言葉に俺は耳を疑った。
減額の条件がガスパーの能力を鍛える??
そもそもガスパーの能力って何??
母親が関係しているみたいだけど……ゼィーンの巫女って何だ??

「え?え?!どういう事?!ガスパー!?」

混乱してそう聞くと、ガスパーは面倒くさいと言わんばかりに頭を掻くと、苛々しながら答えた。

「俺の母方が占い師の家系なのは知ってんだろ?!紛い物の占い師も多いせいで胡散臭がられっから普通は人に話さねぇけど!母方のは本物なんだよ!!昔から権力者に秘密裏に囲われる様な!!今の時代それをやると人権問題になるから表向きは祖母一族は開放されてっけど!母さんの頃はまだ法律があっても危うかったんだよ!!で!攫われて危なかった母さんを助けてくれたのが!千里眼の女盗賊だったんだよ……。盗賊ってずっと聞いてたから、まさかギルドの冒険者とは俺自身も思ってなかった……。」

「盗賊……。」

確かにマダムの強欲さは盗賊並みだよな。
俺は妙に納得した。
そんな俺をギロッとマダムが一睨みしてくる。

「まぁ、あの頃は冒険者のシーフと本物の盗賊の区別がハッキリしてなかったからね。アタシがシーフって名乗ったから盗賊だと思ってたんだね、モナは。」

「昔、母を助けて頂いた事は感謝しています。この件は両親に伝え、改めてお礼に伺います。ただ俺を鍛えると言うのは結構です。そう言うのは母と違ってよくわかりません。」

「わかんないだろうから鍛えるんだろ??」

「俺は霊感とかよくわかりませんし、信じてもいません。そもそも占い師になるつもりはないです。」

「アンタは見込みありだと思うんだけどね。」

「……一応俺も母さんの血筋に入るからそう言っているんでしょうけど、占い師の血を操れんのは基本、女性体に生まれた場合だけですよ。男性体で能力を引き出せるのは、よっぽどの感性と勘と霊力がある奴だけです。」

「知ってるさ。だから試してみないかって言ってんだよ。」

「ないですね。」

「その能力が今後、サークの役に立つとしてもかい??」

「!!」

俺の役に立つと言われ、それまでそんなものは必要ないとはっきり態度に出していたガスパーがピクリとする。
急に迷うように言葉を詰まらせた。

それにしても、ガスパーと占いかぁ。
何か真逆の様な気もするが、政治家はゲン担ぎとか大事にする部分もあるしなぁ。

とはいえ確かにガスパーのお母さんがめちゃくちゃ美人な事と占いがよく当たる事は有名みたいだけど、ガスパーと占いって何か繋がらないなぁ~。

占い師と呼ばれる者は二通りあって、一つは魔法か魔術から派生し魔力を用いる者と、生まれつき千里眼の亜種みたいな神通力に近い能力を持っている者だ。

前者が一般的で、そんなに魔力もないのに適当にやってる人もいるから「占い師はインチ」って印象がついてしまっている。
もちろん魔力系占い師にだってちゃんとした人はいて、そこいらの魔術師なんか敵わない様な人もいる。

後者は魔力でなくて神通力。
マダムの千里眼やグレイさんの接触透視、グレゴリウスの魔力を匂いで感じとる、五感の超常的発達によるものだ。

ただ占い師の場合、マダムの「見る力」と違い、霊力を使うと言われている。
だから占いだけでなく霊媒師的な事もできるらしい。

霊力ってのは俺にはあまりよくわからない。
少なくとも今の俺にはよくわからない。
人間にはない精霊にのみ存在する感覚器官なのだと言われている。
その為、第六感という言われ方をする。
それによって何が見え、何を感じ、何ができるかというのは精霊にしかわからないのだ。
精霊の方も、見える聞こえると同じように生まれた時から当たり前にある感覚の為、精霊師や神仕えが聞いても上手い事説明できないらしい。

そんな第六感と言われる霊力。
希にだが神通力同様、わずかばかり持って生まれる人間が出る。
それは精霊に備わっている感覚器官よりとても弱いらしいのだが、もともと人間にはない感覚器官がついているのだからとても特殊だ。

また他の神通力と違って何故かその家系の女性に引き継がれていく傾向があるから、本当にそう言った力のある家系の場合「巫女」や「聖女」と呼ばれる事が多い。
ただ神通力が稀な能力であるので、そんな家系がある事は知られていても、一般的には隠されているしわかっていても眉唾みたいに扱われている。

とにかく、聞いた事はあってもおとぎ話や噂話の域を出ない話なのだ。

聞いた感じだとガスパーは後者に当たる。
確かにガスパーのお母さんが占い師の家系と言われていて占いがよく当たるらしいとは聞くが、それが魔力系なのか神通力系なのかは誰も知らないだろうし、そこまで掘り下げるほど皆、占い師を信じてはいない。
ガスパーのお母さんだって占い師として生活されてない訳で、たまにお茶会などで淑女の皆様の話題になるってだけだし。

だが、マダムが知っていて「ゼィーンの巫女」と言う通り名前がある事から、古くからかなり力のある神通力系占い師の家系なのだろう。
そうなるとめちゃくちゃレアな血筋と言える。

俺はそんな事を思いながら、チラリとガスパーの顔を見た。
かなり困惑してるっぽい。
そこにマダムは畳み掛ける。

「この先この男に必要なのは、何をどうしようと変える事のできない確定事項の未来なんかじゃない。血反吐を吐けば変えられる未来だ。そして回避する為の危険予測。それはアンタの身も守ってくれるだろう。」

内容が内容だけに俺は半信半疑な上、どう捉えていいのかわからない。
ガスパーの方はその気はないと言いながら、マダムの言葉に気持ちが揺れている。
現実的にそれを否定する気持ちと、その能力があれば確かにある程度役に立つと言う思いから戸惑った表情をしている。

「でも……俺……多少、嫌な感じとかはわかるけど、本格的には全くわからないですし……。」

それまで完全に断る気満々だったガスパーがボソボソ小声でそう言った。

と言うか、多少はわかるんだ。
何か意外。

でもギルの件で煮詰まってた時も、ウィルを探す為に戻って来ないつもりでいた時も、コイツは俺の心情をある程度見透かしてたよな??
そう言われてみれば、あんまり良くない心情の時、ガツンとぶつかってくれたのは全部ガスパーだったかもしれない。

色々な可能性を考えつつも迷いのあるガスパーに、マダムはあっけらかんと言い放つ。

「別にそんなに気にしなくていいだろ??基本的には男のアンタがそれを使える事はないんだしさ?もっと気楽に考えな。第一、千里眼と違って占いは100%現実になる訳じゃない。可能性を見通すもんだ。失せ物探しや危険性なんかを察知して回避する為のもんだろ?サークの脳みそをやってる今のアンタにあっても損はない。だったらとりあえず軽くやってみるだけやってみて、それで開花しない様なら才能がないって事でアタシも諦めるさ。」

難しく考えるほどの事じゃないと言われてしまえばその通りで、ガスパーは考え込んでいる。
確かにあって損はない能力だし、できるかできないかわからないからとりあえずやってみたっていい事だ。

でもな??
俺は占いの能力を使えるようになったガスパーを想像してみた。

え??それ、ヤバくないか?!
ただでさえ優れたガスパーの政治的能力に、占いの察知能力や回避能力が加わったら、それこそ人知を超えた天才政治家にならないか?!

何か考えるだけで恐ろしいんですけど?
そんな事を思っていた俺を、ギロリとマダムが見据える。

「それからサーク。」

「……はい??」

「アンタに出す条件は、次に西の国に行く事があったら、そこで見つけた秘宝を寄こしな。」

「……は?西の国とは国境閉鎖してますけど?」

「だから次に行く事があったらだよ。この先ずっと閉鎖されてるとは限らないだろ?10年先だろうと20年先だろうと、西の国に行って秘宝を見つけたら、アタシに寄こしな。それがニつめの条件。それを確約できるならこんぐらいまでまけてやってもいい。」

そう言って、マダムは紙に金額を書いて見せてきた。
希望金額はオーバーしている事には変わりないが、さっき決まった金額に比べれば、毒蛇宰相に報告しやすいお値段にはなっている。

俺とガスパーは顔を見合わせた。
どう判断すべきか俺達にはよくわからなかった。

片やガスパーが占いの能力が開花するかちょっとマダムの教えを受けるだけ。
片や何年後になるかはわからないが西の国に行って秘宝を手に入れたらマダムに譲るだけ。

秘宝の場合それが何かによってはちょっと判断が難しくはあるが、ガスパーの方はとりあえず教えを受ければ良くて、駄目なら今まで通り、能力が開花したなら鬼に金棒を与えるようなもので、そうなったからと言って本人にも周りにも不利益は全く無い。

そんな訳で俺達は、とりあえず条件を受ける方向で検討すると返事をして帰路についた。
マダムが何を考えてそんな条件を提示してきたのか全くわからない。

俺達にとってもそこまで悪い条件ではない。
だが意味不明すぎて即答する事はできなかった。

「俺の西の国に行って秘宝を見つけたら寄こせってのはまだわかるんだよ……。あの人、千里眼だから何か見たんだろうし……。」

「だよな……。そっちはわかるが、何で俺に占い師の能力をつけさせたいんだ??全く意味訳がわかんねぇ……。」

「だな~。俺の為ってのは口実だろうし……。でもあの人、千里眼持ってんだから占いに頼る必要全く無いんだよなぁ……??」

「だったら何なんだよ??いったい……??」

「俺も全くマダムの考えが読めない……。」

帰りの馬車の中、俺とガスパーはとにかく訳がわからず、頭に疑問符を浮かべるしかなかった。

ともかく、これで計画に必要な物は揃った。
後はノルの装置の完成と、俺の仮想精神空間を作る為の精神世界側の調整だけだ。

決戦の時はもう目の前まで迫っていた。
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