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第九章「海神編」
兄弟盃?
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「ぴっぴっぴっぴぃ~っ♪」
アレックから借りたピアが、物凄く楽しそうにベッドの上を跳ねまわっている。
深紅のベルベット生地にスリスリしてみたり、見ていて可愛い。
「こらピア。おとなしくしてな?」
パジャマに着替えた俺はそう言って布団に入り、ふと我に返った。
あれ??
俺、ウィルに絶対にベッドルームには何人たりとも入れない事って言われてたよな?!
そう思ってサーッと血の気が引いた。
「ぴぃ??」
トテトテ近づいてきたピアが不思議そうに俺を見上げる。
いや、大丈夫だろう……。
ピアは精霊だし、こんなに小さいんだし……。
それに空いている部屋もない。
別のベッドを使おうにも場所がないのだ。
はぁ、気にしなくていいだろうけど、ちゃんと報告はしよう。
会えないせいでめちゃくちゃ気にしてしまう俺。
と言うか、綺麗にしたとはいえこのベッドでドロドロに愛し合った訳で……。
いやいやいやいや!!
ちゃんと洗濯したし!魔術でもクリーニングしてあるし!!
痕跡とかは今更残ってないんだけど!!
あ~~っ!!
意識しちゃうと!!
あのエロティックな光景が!!
俺、よく今までこのベッドで普通に一人で寝てたな?!
腹の奥の方で微かに何かがチリチリした。
何かウィル本人がいないのに、思い出しただけで欲情を感じるとか……。
どんだけウィルに飢えてるんだ?!俺……。
とにかく落ち着こう。
俺は一度ベッドを出て水差しの水を飲む。
それにしても俺も随分、進化したな?
ウィルとの夜を思い出して悶々とする日が来るとは思わなかった。
一般的な性欲がない俺ですらこう言う事が起こるんだから、普通に性欲がある人間はさぞかし日々大変だろうな……。
そりゃ、様々なエログッズが売れる訳だよ。
皆、そうやって発散して何とか自分を抑えてるんだから。
出会った頃、発情期のシルクがアホな呪文を唱えまくっていたのに引いたけど、普通の人の何倍もの衝動を感じる発情期ならアレでも物凄く辛抱してたんだろうな、アイツ。
何だか今更、申し訳なくなった。
とりあえず落ち着きを取り戻し、ベッドに戻る。
そしてピアをつまみ上げた。
「ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢してな??」
「ぴぃ??」
「この鍵とピアを繋いどかないと、目的の場所に連れていけないからさ。」
俺はそう言って、鍵をつけている紐をピアの首に巻着付けた。
不思議そうにする様子が面白い。
ウニはこの方法で精霊であるピアも図書館に連れていけると言っていたけれど、大丈夫だろうか?
鍵に引っ付けて一緒に寝れば、俺の夢に引っ張りこまれるからと言っていたけれども……。
だいたい精霊というのは精神体だ。
人は眠って精神体だけが肉体を離れて夢という自分自身の精神空間に落ちるのだけれども、生まれつき精神体の精霊は夢を見るのだろうか??
それとも別の形で精神世界と繋がっているのだろうか??
今ひとつ、精神世界と現実と精霊の関係性がよくわからない。
まぁピアの場合は精霊である精神体がぬいぐるみに入っているから、人間の精神体が夢を通して精神世界に行くのとあまり変わらないだろうけど。
鍵を首元に巻きつけられたピアを、寝転んだまま俺がまた首から下げる。
理屈はわからないが、ひとまずこれで準備完了だ。
「何だかよくわかんないだろうけどさ、これから夢の中に入るんだよ。そこのある場所にピアを連れて行かないと行けなくて。」
「ぴぃ。」
「準備はできたから寝ていいよ、ピア。……と言うか、ピアって寝るのか??」
「ねる、違う。」
「お、喋った。」
「ピア、活動、止まる。動かなくなる。」
「そっかそっか。」
その喋り方が、来たばかりの頃のリリとムクに似ていて何か懐かしくなった。
胸元で小さなピアが丸まりながら大あくびするのを見つめる。
俺が指先でそっと背中を撫でつけてやると、やがて寝入ったように動かなくなった。
「ふふふっ、多分これを寝るって言うんだけどね、ピア?」
まだピアには日常の些細な事でも知らない事だらけなのだろう。
実際のところ、本当に精霊が寝るかどうかは俺にはわからない。
義父さんが言うには、多くの精霊は本当にそうしているというより、人や動物の真似をしているだけである事も多いらしい。
「さてと、俺も寝ないとピアとはぐれるな……。」
さっき、悩ましいウィルの姿を思い出した事もあり、若干脳が覚醒状態にある。
すぐには寝付けないと判断した俺は、自分に眠りの魔術を施して夢の中に落ちて行った。
「変なとこ!変なとこ!!」
「ピア、落ち着いて……。」
眠った、いや、ピア的には活動を停止したら、見知らぬ場所にいたものだから、めちゃくちゃ興奮してしまっているようだった。
無事にピアを連れてフーボーさんの図書館に来れたのはいいが、初めて体験する不思議な事に興奮してしまって動き回るものだから、ウニのところまで連れていけない。
ピア的には活動を停止したはずなのに見知らぬ場所にいて、しかも普段より凄く身軽に動けるものだから、いつもの数倍の勢いでチョロチョロ動き回っていた。
これがまた、すばしっこいのなんの。
普段のどちらかというとおどおどしてるような大人しいピアしか見た事がなかったので、俺はめちゃくちゃびっくりしてしまった。
どうしちゃったんだ?!ピア?!
ピアってこんな活発な性格だったっけ?!
これが今までは抑えられていた生まれつきの素なのか、アレックと一緒にいたせいで性格形成に影響が出なのかよくわからない。
「だあぁぁぁっ!!うっせぇ!!新入り!!」
小さいピアがいつもの倍の速度でチョロチョロするものだから対応に手間どって捕まえ損ねていた俺をよそに、本棚から何かが矢のように飛んできてピアをすっ飛ばした。
絵に描いたように中を舞うピア。
「ぴいぃぃぃぃ~っ!!」
「うわぁ~っ!!ピアぁ~っ!!」
「うっせぇ!!チョロチョロすんな!!図書館ではお静かにっての知らねぇのかっ!!」
ウニちゃんロケットをモロに食らい、吹っ飛んだピアを慌てて拾う。
案の定「タシケテ…タシケテ…タシケテ……」とトラウマモードに入っていた。
「ウニ!!いきなりピアを虐めるなよ!!」
「何だと?!図書館で騒ぐ方が悪りぃんだろうが!!」
「それは最もなんだけど!!話した通り!ピアは生まれたばかりで何も知らない子なんだって!!図書館自体、見た事も行った事もないのに、図書館ではお静かになんてお決まりのお約束、知る訳ないだろ?!」
「なら今覚えろ!!新入り!!」
「ぴいぃぃぃぃっ!!」
俺の手の中で耳を押さえ、小さく縮まってガタガタ震えるピア。
あ~もう!!
せっかくアレックがピアをイジメなくなったってのに!新たなるいじめっ子の登場だよ!!
ピアをパジャマのポケットに入れると、俺はふんぞり返っているウニをつまみ上げた。
「何しやがる!!サーク!!」
「ウニちゃん??随分偉そうだね??魔術本部の資料館の本棚を、フーボーさんが本に夢中で構ってくれないからって、倒した子は誰だったかな?!」
「!!な、何でそれを?!」
「可愛いウニちゃんコレクションに載ってたよ。確かあの後、お仕置きとしてフーボーさんが……。」
「うわぁ~!!言うな!!思い出したくないっ!!」
そう言ってピンク色の全身を青ざめさせるウニ。
ピア同様、縮まってカタカタ震えている。
まぁ、あれはな??
俺も子供の時、義父さんにそんなお仕置きされてたらトラウマだったと思うわ。
フーボーさんてのどかなようで本当に面白く、そんでもって容赦ない事を素でやるよなぁ。
本人はちょっとしたお仕置きのつもりだったから、ウニが今でもこんなに怖がると本気で思ってなかったって所がある意味恐ろしい。
とは言え、小動物(?)ニ匹がこんな状態では話が進まない。
俺はため息をつきながら二人をテーブルの上に置き、落ち着くまで撫でてやった。
やっと落ち着きを取り戻したウニとピア。
お互いに謝って和解して握手を交わす。
それからウニがピアの観察に入った。
「どうだ?ウニ?」
「思ったより、情報量があるな……しかもマジでこんな記憶ばっかなのかよ……。お前、よく頑張ったなぁ~。」
俺にはわからないが、ピアの記憶を情報として測ったウニが気の毒そうにピアを見つめ、ぽんぽんと頭を撫でた。
「辛かったよなぁ~。よしよし。」
「ぴ……ぴいぃぃぃぃっ!!」
初めて似たような存在に出会い、慰められた事でピアの気が緩んだらしい。
ヒシッとウニに引っついて、ぼろぼろ泣き出した。
はじめはびっくりして固まっていたウニだったが、戸惑いながらもピアの背中を擦る。
「大丈夫、大丈夫。兄ちゃんがな?その辛いの、ほとんど失くしてやるからな?!だから大丈夫だからな?!」
「兄ちゃん……。」
ピアに兄ぶるウニを俺はニマニマと見下ろす。
ムキッと睨まれたが、いつものように悪態をついてこない。
ピアは顔を上げ、そんなウニを泣きながら見つめた。
「……痛い??」
「痛くない、痛くない!!シュルっとなくなるだけだ!!痛くない!!」
「全部、ダメ。辛いの、痛いの、全部はダメ。」
「え??」
「あ~。ピアな?たとえそれが痛くて辛い記憶でも、自分が人の為に頑張ってきた記憶だし、自分が生まれるきっかけだったものだから、全部は取らないで欲しいんだってさ。」
「まぁ……全部取ったら、情報量が減った分、存在も虚ろになりやすいし、ここで存在を保てなくなるしな。ちゃんと今後もここに来れる程度は残してやるよ。」
何故か偉そうにそう言うウニ。
ちゃんとここに来れる程度って……それって私情が絡んでないか??
要するにピアがまたここに来れるようにって事だよな?
そう思うと、ちょっとぷぷぷっと笑ってしまった。
「何笑ってんだ!サーク!!」
「いや~別に~??」
「ムカつく!!」
プンスカ怒りながらも、泣いているピアをなだめている。
うんうん。
今までフーボーさんに甘えるだけだったウニが、慣れないながら新米お兄ちゃんを頑張ってる訳だ。
まぁ、ウニもずっとここでひとりぼっちだったんだし、たまにはアレックに借りてピアをここに連れてきてやってもいいかなぁなんて思う。
ピアの方も考えてみれば、自分以外の精霊とコミュニケーションを取ったのは初めてだろうし、ウニはなんだかんだ面倒みもいいやつだから、今後もピアの力になってれるだろう。
「……お兄、ちゃん………?」
「!!」
「ウニ、ピアの…お兄ちゃん……??」
「え、あ、うん……まぁ、何だ!!俺もお前もちょっと枠から外れた特殊な精霊だし??仲間っていうか……、な?!」
照れ臭そうに意気がりながらウニは言った。
ピアは泣いていたのに、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね始める。
「……お兄ちゃん!ウニ、ピアのお兄ちゃん!ピア!覚えた!!」
「オウ!任せときな!!」
何を任せるのかわからないが、ウニは得意満面だ。
まぁ、今まで弟でしかなかったから、お兄ちゃんになれて嬉しいんだろう。
ピアもアレックがいたとはいえ、自分と同じ精霊とは触れ合ってこなかったのだから、ウニに受け入れてもらえ親身になってもらえて嬉しいのだろう。
う~ん、微笑ましい……。
幼児の集まりや公園で、初めて同い年の子供と出会って仲良くなるのを見守る気分だ。
何となくワチャワチャしている二人を見守り、そんな事を思う。
「で、楽しんでいるところ悪いんだけど、ウニ。ピアの情報はどういうタイミングでどうやってこちらに持ち込めばいいんだ??」
「ああ、そういや、装置にお前を噛ませる方法もまだ教えてなかったよな?」
「あ~、それもあったか~。」
「とりあえずピアは鍵でここに来てれば俺が何とかすっから。ここにいれば海神とも仮想精神空間とも直接は繋がんないから安全だしな。お前が装置と繋がって、お前を通じて俺が仮想精神空間の方の調整をつける。その際、フーの図書館にいるピアから情報を引っ張ってきて、俺を通して送り込む。お前は海神付きの人間に潜る精神魔術師ともリンクして、仮想精神空間を繋げる。」
「ふむふむ。」
「でもって、お前が装置と繋がる方法なんだけどよ~??」
ウニはそう言うと、また俺の頭に引っついて手を突っ込んできた。
これは夢の中だとわかっているが、やはり反射的に悲鳴を上げてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!ウニ!!それ二度とやるなって!!」
「うっせぇなぁ~、これが手っ取り早いんだよ!!」
そう言って離れたウニの手には、例の論文が掴まれている。
その他にも真新しい紙。
何かと思ったら、ノルが描いた設計図と完成予想図だった。
「ウニ~っ!!お前!俺の記憶を勝手に漁るな!!」
「何でだよ?!必要な部分だけしか漁ってないし、取り出してないだろうが?!」
「そういう問題じゃないっ!!」
俺は手を突っ込まれたのが気持ち悪くて頭を押さえた。
そんな俺を見上げながら、ピアが不思議そうに首を傾けた。
「図書館、静かに??お約束??」
「………あ、うん。そうだね……。」
さっき、ウニに図書館では静かにするのが決まり事だと教えられたので、繰り返しているようだ。
そうなんだけど、そうなんだけどね?!
だが、ここはイレギュラーな場だとピアに言ったらかえって混乱するだろう。
何しろピアは本当に生まれたてで何も知らない状態なのだから……。
仕方無しに俺の方が黙るしかない。
そんな俺をニヤニヤとウニが見ている。
こいつ!!
明日、ピンセットで髭を抜いてやる!!
俺は素知らぬ顔でテーブルに論文と設計図を広げるウニを睨みつけた。
俺がウニから装置に繋がる方法の説明を受けている間、ピアはおとなしくその様子を眺めていた。
アレックから借りたピアが、物凄く楽しそうにベッドの上を跳ねまわっている。
深紅のベルベット生地にスリスリしてみたり、見ていて可愛い。
「こらピア。おとなしくしてな?」
パジャマに着替えた俺はそう言って布団に入り、ふと我に返った。
あれ??
俺、ウィルに絶対にベッドルームには何人たりとも入れない事って言われてたよな?!
そう思ってサーッと血の気が引いた。
「ぴぃ??」
トテトテ近づいてきたピアが不思議そうに俺を見上げる。
いや、大丈夫だろう……。
ピアは精霊だし、こんなに小さいんだし……。
それに空いている部屋もない。
別のベッドを使おうにも場所がないのだ。
はぁ、気にしなくていいだろうけど、ちゃんと報告はしよう。
会えないせいでめちゃくちゃ気にしてしまう俺。
と言うか、綺麗にしたとはいえこのベッドでドロドロに愛し合った訳で……。
いやいやいやいや!!
ちゃんと洗濯したし!魔術でもクリーニングしてあるし!!
痕跡とかは今更残ってないんだけど!!
あ~~っ!!
意識しちゃうと!!
あのエロティックな光景が!!
俺、よく今までこのベッドで普通に一人で寝てたな?!
腹の奥の方で微かに何かがチリチリした。
何かウィル本人がいないのに、思い出しただけで欲情を感じるとか……。
どんだけウィルに飢えてるんだ?!俺……。
とにかく落ち着こう。
俺は一度ベッドを出て水差しの水を飲む。
それにしても俺も随分、進化したな?
ウィルとの夜を思い出して悶々とする日が来るとは思わなかった。
一般的な性欲がない俺ですらこう言う事が起こるんだから、普通に性欲がある人間はさぞかし日々大変だろうな……。
そりゃ、様々なエログッズが売れる訳だよ。
皆、そうやって発散して何とか自分を抑えてるんだから。
出会った頃、発情期のシルクがアホな呪文を唱えまくっていたのに引いたけど、普通の人の何倍もの衝動を感じる発情期ならアレでも物凄く辛抱してたんだろうな、アイツ。
何だか今更、申し訳なくなった。
とりあえず落ち着きを取り戻し、ベッドに戻る。
そしてピアをつまみ上げた。
「ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢してな??」
「ぴぃ??」
「この鍵とピアを繋いどかないと、目的の場所に連れていけないからさ。」
俺はそう言って、鍵をつけている紐をピアの首に巻着付けた。
不思議そうにする様子が面白い。
ウニはこの方法で精霊であるピアも図書館に連れていけると言っていたけれど、大丈夫だろうか?
鍵に引っ付けて一緒に寝れば、俺の夢に引っ張りこまれるからと言っていたけれども……。
だいたい精霊というのは精神体だ。
人は眠って精神体だけが肉体を離れて夢という自分自身の精神空間に落ちるのだけれども、生まれつき精神体の精霊は夢を見るのだろうか??
それとも別の形で精神世界と繋がっているのだろうか??
今ひとつ、精神世界と現実と精霊の関係性がよくわからない。
まぁピアの場合は精霊である精神体がぬいぐるみに入っているから、人間の精神体が夢を通して精神世界に行くのとあまり変わらないだろうけど。
鍵を首元に巻きつけられたピアを、寝転んだまま俺がまた首から下げる。
理屈はわからないが、ひとまずこれで準備完了だ。
「何だかよくわかんないだろうけどさ、これから夢の中に入るんだよ。そこのある場所にピアを連れて行かないと行けなくて。」
「ぴぃ。」
「準備はできたから寝ていいよ、ピア。……と言うか、ピアって寝るのか??」
「ねる、違う。」
「お、喋った。」
「ピア、活動、止まる。動かなくなる。」
「そっかそっか。」
その喋り方が、来たばかりの頃のリリとムクに似ていて何か懐かしくなった。
胸元で小さなピアが丸まりながら大あくびするのを見つめる。
俺が指先でそっと背中を撫でつけてやると、やがて寝入ったように動かなくなった。
「ふふふっ、多分これを寝るって言うんだけどね、ピア?」
まだピアには日常の些細な事でも知らない事だらけなのだろう。
実際のところ、本当に精霊が寝るかどうかは俺にはわからない。
義父さんが言うには、多くの精霊は本当にそうしているというより、人や動物の真似をしているだけである事も多いらしい。
「さてと、俺も寝ないとピアとはぐれるな……。」
さっき、悩ましいウィルの姿を思い出した事もあり、若干脳が覚醒状態にある。
すぐには寝付けないと判断した俺は、自分に眠りの魔術を施して夢の中に落ちて行った。
「変なとこ!変なとこ!!」
「ピア、落ち着いて……。」
眠った、いや、ピア的には活動を停止したら、見知らぬ場所にいたものだから、めちゃくちゃ興奮してしまっているようだった。
無事にピアを連れてフーボーさんの図書館に来れたのはいいが、初めて体験する不思議な事に興奮してしまって動き回るものだから、ウニのところまで連れていけない。
ピア的には活動を停止したはずなのに見知らぬ場所にいて、しかも普段より凄く身軽に動けるものだから、いつもの数倍の勢いでチョロチョロ動き回っていた。
これがまた、すばしっこいのなんの。
普段のどちらかというとおどおどしてるような大人しいピアしか見た事がなかったので、俺はめちゃくちゃびっくりしてしまった。
どうしちゃったんだ?!ピア?!
ピアってこんな活発な性格だったっけ?!
これが今までは抑えられていた生まれつきの素なのか、アレックと一緒にいたせいで性格形成に影響が出なのかよくわからない。
「だあぁぁぁっ!!うっせぇ!!新入り!!」
小さいピアがいつもの倍の速度でチョロチョロするものだから対応に手間どって捕まえ損ねていた俺をよそに、本棚から何かが矢のように飛んできてピアをすっ飛ばした。
絵に描いたように中を舞うピア。
「ぴいぃぃぃぃ~っ!!」
「うわぁ~っ!!ピアぁ~っ!!」
「うっせぇ!!チョロチョロすんな!!図書館ではお静かにっての知らねぇのかっ!!」
ウニちゃんロケットをモロに食らい、吹っ飛んだピアを慌てて拾う。
案の定「タシケテ…タシケテ…タシケテ……」とトラウマモードに入っていた。
「ウニ!!いきなりピアを虐めるなよ!!」
「何だと?!図書館で騒ぐ方が悪りぃんだろうが!!」
「それは最もなんだけど!!話した通り!ピアは生まれたばかりで何も知らない子なんだって!!図書館自体、見た事も行った事もないのに、図書館ではお静かになんてお決まりのお約束、知る訳ないだろ?!」
「なら今覚えろ!!新入り!!」
「ぴいぃぃぃぃっ!!」
俺の手の中で耳を押さえ、小さく縮まってガタガタ震えるピア。
あ~もう!!
せっかくアレックがピアをイジメなくなったってのに!新たなるいじめっ子の登場だよ!!
ピアをパジャマのポケットに入れると、俺はふんぞり返っているウニをつまみ上げた。
「何しやがる!!サーク!!」
「ウニちゃん??随分偉そうだね??魔術本部の資料館の本棚を、フーボーさんが本に夢中で構ってくれないからって、倒した子は誰だったかな?!」
「!!な、何でそれを?!」
「可愛いウニちゃんコレクションに載ってたよ。確かあの後、お仕置きとしてフーボーさんが……。」
「うわぁ~!!言うな!!思い出したくないっ!!」
そう言ってピンク色の全身を青ざめさせるウニ。
ピア同様、縮まってカタカタ震えている。
まぁ、あれはな??
俺も子供の時、義父さんにそんなお仕置きされてたらトラウマだったと思うわ。
フーボーさんてのどかなようで本当に面白く、そんでもって容赦ない事を素でやるよなぁ。
本人はちょっとしたお仕置きのつもりだったから、ウニが今でもこんなに怖がると本気で思ってなかったって所がある意味恐ろしい。
とは言え、小動物(?)ニ匹がこんな状態では話が進まない。
俺はため息をつきながら二人をテーブルの上に置き、落ち着くまで撫でてやった。
やっと落ち着きを取り戻したウニとピア。
お互いに謝って和解して握手を交わす。
それからウニがピアの観察に入った。
「どうだ?ウニ?」
「思ったより、情報量があるな……しかもマジでこんな記憶ばっかなのかよ……。お前、よく頑張ったなぁ~。」
俺にはわからないが、ピアの記憶を情報として測ったウニが気の毒そうにピアを見つめ、ぽんぽんと頭を撫でた。
「辛かったよなぁ~。よしよし。」
「ぴ……ぴいぃぃぃぃっ!!」
初めて似たような存在に出会い、慰められた事でピアの気が緩んだらしい。
ヒシッとウニに引っついて、ぼろぼろ泣き出した。
はじめはびっくりして固まっていたウニだったが、戸惑いながらもピアの背中を擦る。
「大丈夫、大丈夫。兄ちゃんがな?その辛いの、ほとんど失くしてやるからな?!だから大丈夫だからな?!」
「兄ちゃん……。」
ピアに兄ぶるウニを俺はニマニマと見下ろす。
ムキッと睨まれたが、いつものように悪態をついてこない。
ピアは顔を上げ、そんなウニを泣きながら見つめた。
「……痛い??」
「痛くない、痛くない!!シュルっとなくなるだけだ!!痛くない!!」
「全部、ダメ。辛いの、痛いの、全部はダメ。」
「え??」
「あ~。ピアな?たとえそれが痛くて辛い記憶でも、自分が人の為に頑張ってきた記憶だし、自分が生まれるきっかけだったものだから、全部は取らないで欲しいんだってさ。」
「まぁ……全部取ったら、情報量が減った分、存在も虚ろになりやすいし、ここで存在を保てなくなるしな。ちゃんと今後もここに来れる程度は残してやるよ。」
何故か偉そうにそう言うウニ。
ちゃんとここに来れる程度って……それって私情が絡んでないか??
要するにピアがまたここに来れるようにって事だよな?
そう思うと、ちょっとぷぷぷっと笑ってしまった。
「何笑ってんだ!サーク!!」
「いや~別に~??」
「ムカつく!!」
プンスカ怒りながらも、泣いているピアをなだめている。
うんうん。
今までフーボーさんに甘えるだけだったウニが、慣れないながら新米お兄ちゃんを頑張ってる訳だ。
まぁ、ウニもずっとここでひとりぼっちだったんだし、たまにはアレックに借りてピアをここに連れてきてやってもいいかなぁなんて思う。
ピアの方も考えてみれば、自分以外の精霊とコミュニケーションを取ったのは初めてだろうし、ウニはなんだかんだ面倒みもいいやつだから、今後もピアの力になってれるだろう。
「……お兄、ちゃん………?」
「!!」
「ウニ、ピアの…お兄ちゃん……??」
「え、あ、うん……まぁ、何だ!!俺もお前もちょっと枠から外れた特殊な精霊だし??仲間っていうか……、な?!」
照れ臭そうに意気がりながらウニは言った。
ピアは泣いていたのに、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね始める。
「……お兄ちゃん!ウニ、ピアのお兄ちゃん!ピア!覚えた!!」
「オウ!任せときな!!」
何を任せるのかわからないが、ウニは得意満面だ。
まぁ、今まで弟でしかなかったから、お兄ちゃんになれて嬉しいんだろう。
ピアもアレックがいたとはいえ、自分と同じ精霊とは触れ合ってこなかったのだから、ウニに受け入れてもらえ親身になってもらえて嬉しいのだろう。
う~ん、微笑ましい……。
幼児の集まりや公園で、初めて同い年の子供と出会って仲良くなるのを見守る気分だ。
何となくワチャワチャしている二人を見守り、そんな事を思う。
「で、楽しんでいるところ悪いんだけど、ウニ。ピアの情報はどういうタイミングでどうやってこちらに持ち込めばいいんだ??」
「ああ、そういや、装置にお前を噛ませる方法もまだ教えてなかったよな?」
「あ~、それもあったか~。」
「とりあえずピアは鍵でここに来てれば俺が何とかすっから。ここにいれば海神とも仮想精神空間とも直接は繋がんないから安全だしな。お前が装置と繋がって、お前を通じて俺が仮想精神空間の方の調整をつける。その際、フーの図書館にいるピアから情報を引っ張ってきて、俺を通して送り込む。お前は海神付きの人間に潜る精神魔術師ともリンクして、仮想精神空間を繋げる。」
「ふむふむ。」
「でもって、お前が装置と繋がる方法なんだけどよ~??」
ウニはそう言うと、また俺の頭に引っついて手を突っ込んできた。
これは夢の中だとわかっているが、やはり反射的に悲鳴を上げてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!ウニ!!それ二度とやるなって!!」
「うっせぇなぁ~、これが手っ取り早いんだよ!!」
そう言って離れたウニの手には、例の論文が掴まれている。
その他にも真新しい紙。
何かと思ったら、ノルが描いた設計図と完成予想図だった。
「ウニ~っ!!お前!俺の記憶を勝手に漁るな!!」
「何でだよ?!必要な部分だけしか漁ってないし、取り出してないだろうが?!」
「そういう問題じゃないっ!!」
俺は手を突っ込まれたのが気持ち悪くて頭を押さえた。
そんな俺を見上げながら、ピアが不思議そうに首を傾けた。
「図書館、静かに??お約束??」
「………あ、うん。そうだね……。」
さっき、ウニに図書館では静かにするのが決まり事だと教えられたので、繰り返しているようだ。
そうなんだけど、そうなんだけどね?!
だが、ここはイレギュラーな場だとピアに言ったらかえって混乱するだろう。
何しろピアは本当に生まれたてで何も知らない状態なのだから……。
仕方無しに俺の方が黙るしかない。
そんな俺をニヤニヤとウニが見ている。
こいつ!!
明日、ピンセットで髭を抜いてやる!!
俺は素知らぬ顔でテーブルに論文と設計図を広げるウニを睨みつけた。
俺がウニから装置に繋がる方法の説明を受けている間、ピアはおとなしくその様子を眺めていた。
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だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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