欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

巡る運命

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いい案があります。

昼食時、今まで感知してこなかった感覚をどうやってつけさせれば良いかと愚痴ったら、意外にもサーニャが自信有りげにそう言って笑った。
よくわからないがボーンは任せてみる事にする。

「……これ、ですか??」

「はい!手始めにこれから始めましょう!!」

戸惑うウィルの前には、伏せられた木製のコップが三つ。
それをマジックでもする様に、サーニャがくるくると並べ替えた。

「この中に一つだけ、浄化された水晶球が入っています。他のものは浄化されてない水晶球です。さて、どれでしょう?!」

にこにこして何でもない遊びのようにサーニャは言った。
ウィルも笑いながらそれを当て始める。

ボーンは目から鱗が落ちる思いだった。

感覚というのは掴ませるのが難しい。
なぜかと言うと、感覚の大半は無意識に依存する部分が大きいからだ。
だから無理に教えこんでも、無意識部分にまで浸透する事はなかなかない。

しかしだ。
遊び感覚で覚えた場合、それがすんなり身につく。

学ぼうとしたものは知識であり、感覚的なものは身につき難いが、遊びとして行った事は感性で感じているものなので感覚として身につくのだ。
だから子供は何でも遊びにしてしまうし、そうやってたくさんの感覚を身につける。

「なるほどなぁ……。」

自分にはなかった発想で、あっさりサーニャはそのトレーニングを始めてしまった。
ボーンは小さくため息をついて椅子に座り、ゲームをする二人を見守った。

あの、自分に自信がなくて、いつもオドオドしてたサーニャがなぁ……。

楽しそうにウィルとゲームをする事で、サーニャは引き出したい感覚を掴ませている。

そう言えばトート遺跡の受付でも、いつもそれぞれのパーティーに合わせたアドバイスや注意をさり気なく言っている。
あまり深く気に留めた事はなかったが、それがおかしかった事は一度もない。

サーニャにはサーニャの得意な道があるのだと実感する。
ボーンは笑いながらゲームをする二人を眺めながら不思議な感覚を覚えた。

サーニャだけじゃない。
自分がいなくとも、アレックも咄嗟の場面で優れた行動ができる。

ここに二人が突然現れた時はあんなにちっこくて泣いてばかりだったのに、いつだって自分の後をくっついてきたのに、いつの間にか自分が手を差し伸べなくてもやっていけるほどに成長していた。
嬉しいような寂しいような感覚。

「……何か、歳くったなぁ~。俺も……。」

そのうちサーニャもアレックも、ここを離れ自分の道を歩き始めるだろう。
まだまだ先だと思っていた事が、急に現実として見えてきた。

本当に自分以外の生き物の時間はあっという間に過ぎていく。
言葉にできない何かがボーンの胸にはあった。
そんな中、サーニャとウィルのゲームは続いている。

「う~ん、流石にしてあるのとしてないのはわかっちゃいますねぇ~。」

「浄化されてるかされてないかは普通の人でもわかる人はいますからね。」

「なら!今度は全部浄化されてるもので、一番強く浄化されてる物を見つけて下さい!!」

「う~ん、頑張ります。」

難易度を上げられ、ウィルが苦笑する。
サーニャは木のコップの下から水晶球を取り出すと、ボーンの方に小走りでやってきた。
そして満面の笑みで笑う。

「先生!!これを全部浄化してください!!それで一つだけ強力に浄化してください!!」

その笑顔を見て何故か泣きたくなる。
だがそんな姿は見せたくなくて、ボーンはぶっきらぼうにその水晶球を受け取った。















その日の朝、俺は屋根に一人で座って朝日が登るのを見ていた。

この朝日が、明日も明後日もその先もずっと、世界に、この国に、この街に、静かに登り続ける事を願っていた。
大袈裟かもしれない。
でも本当にそう思ったのだ。

「うちの魔術師は随分センチメンタルだな……。」

「……俺がセンチメンタルだろうとなかろうと、それはどうでもいい。……何、勝手に人の家の屋根に登ってきてやがる、このストーカー。」

かけられた声に振り返ることなくそう答える。
そいつは俺の言葉を気にする事なく、隣に立った。
登ってきた朝日が街を照らす。

「……お前の長年には終止符が打てそうか?」

「さあな。恐らく何も変わる事はない。今後共、俺はリオに仕えるだけだ。」

「そっか。何も変わらない。それが一番だよなぁ。」

願わくばそうであって欲しい。
ギルの言葉も、俺の言葉も、そんなふうに聞こえた。

この時、俺達はわかっていたのかもしれない。

それが儚いものである事を。
そして一度変わってしまったものは、元に戻す事ができないのだという事を……。















「おはよう、サーク。」

「おはようございます。ブラハムさん。何か大規模ですね~。」

「家守りであるカレンがおるから大丈夫だとは思うがの。一応、こちらでも対策はしたという体を作らんとなぁ。」

「あはは。なるほど。」

俺は家の敷地の周りに張られた魔術障壁を魔力探査で確認し、思わず笑った。
目には見えないが、かなり大規模で強固な魔術障壁が張られている。
本当、見る人が見たら、俺の家は何と戦争をおっ始めようとしているんだと思うだろう。

「おはよう、サーク。元気かい?」

「ロイさん!!オービーさん!!」

俺は二人とハグをする。
頼れる先輩方がここにいてくれて本当に心強い。
家の敷地を囲むこの魔術障壁。
実は魔術本部が担当してくれている。

皆が来てくれる事を知った俺は凄く嬉しかったのだが、何しろもう人を泊める場所がない。
それを素直に言ったら気にしなくて良いと言われた。

森の小屋を使うから、と。

森の小屋というのが何かと言うと、俺の家の隣の国有地の中にある魔術本部所有の小さな家だ。
ギルの調べによって俺の家の隣の森は国有地で、しかも魔術本部の管轄になっている事がわかった。
でもそんな話は聞いた事がなかったし、その場にいたブラハムさんも知らなくて、報告を受けたロイさんが調べてくれた。
ナーバル議長にも聞いたらしいのだが、はて?何だったかのう??と言う感じで忘れていて訳がわからなかったのだが、それが数日前に判明した。

昔その森の中に、皆が魔術本部と王国を行き来する為の場所があったらしいのだ。
今は皆、それぞれの鍵でそれぞれの出入り口を持っているので、次第に使われなくなり忘れられてしまったようだ。

その話をナーバル議長にしたら、そうそう昔はそんな場所があったはずじゃと思い出したらしい。
ナーバル議長の記憶を元にブラハムさんと森の中を探してみると、結界の中に隠された小さな家が見つかった。
家の中は魔術が施されていて綺麗で、とても何十年も忘れられていた建物だとは思えないものだった。

「いやあ、良いものが見つかったよ。」

「そうそう。これで買い物も楽にできるの。」

「しかもサークの家の隣だしのう、色々、面倒な事を気にせんでええ。」

「いや、少しは気にしてください。」

魔術本部の皆はその森の小屋が見つかった事で、これからは面倒な事をせずとも気軽に買い物に来れるとほくほくしている。
俺としては隣の森から魔術の伝説的な重人達がホイホイ出入りするのかと思うと気が気ではない。

「これもサークがこの家を選んだからじゃ。」

「流石はサーク、引きの強さは相変わらずだね。」

「すべて巡りという訳じゃの。」

「そんな巡りはいりません~!!」

何なんだよ、もう……。
俺はウィルとこの隠れ家的な家でひっそりイチャイチャ暮らそうと思っていたのに、部隊の連中には場所を知られるし風呂は気に入られるし……。

ふたり暮らしのつもりが、いつの間にかシルクどころかリアナとラニまで住む事になって、カレンもいるから大所帯になってるし……。

いや、別に良いんだよ?!
シルクもリアナもラニもカレンも大事な家族だし!!

でも俺達、結婚前なのに、二人きりの新婚気分を味わう時間をすっ飛ばして、すでに大所帯って何なんだろう??
静かな隠れ家はどこに行ってしまったんだ?!

そしてその上!
隣の森は魔術本部のもので、王国と魔術本部を繋ぐ場所があって!!
これからはちょっと常世めいた魔術界の伝説的重鎮達が、るんるんのお買い物気分で出入りする事になるって……。

「も~、勘弁して~。」

浮かれポンチで楽しげな魔術本部メンバーをよそに、俺は頭を抱えた。
と言うか、こんなアホな事で頭を悩ませている場合ではないのだ。

今日はとうとう、ライオネル殿下が家に来る。
だから魔術障壁なんかを作ってくれているのだが、当の本人たちは浮世離れしているものだから、いつもの感じでふわふわしている。

「サーク、いいかしら??」

そこにピリッとスパイスの効いた声がかかる。
魔術本部の女帝、フレデリカさんだ。
前は森の街同様のどかだったフレデリカさんも、前回の件でマダムと張り合ってからは完全に女帝の風貌でキリキリ仕事をこなしている。

「おはようございます。フレデリカさん。」

「おはよう、フレデリカ。良い朝だね。」

「ええ、ロイ。いい朝ね。」

皆が口々に朝の挨拶をする。
森の街もとい魔術本部では見慣れた光景だが、それが中央王国の自分ちの庭だとちょっと不思議な感じだ。

「それで、何かありましたか?」

「ええ、紹介するわ。こちら私の仲間のリゼットよ。今回、清めの香を担当するわ。」

「はじめましてリゼットさん。わざわざお越し頂き、ありがとうございます。」

「ほぅ……この子が……。なるほどねぇ……。」

リゼットさんはナーバル議長ぐらいの年齢のおばあさんだった。
挨拶した俺をしげしげ眺め、握手しようとした手を両手で包んで撫でてくれた。

「大いなる運命と共にある子だ……苦労が多いね……。」

「いえ……。」

リゼットさんはそう言って涙ぐんでいる。
どう答えて良いのかわからない。
でも、俺はリゼットさんの手を両手で包み返し、微笑んだ。

「……運命の事はわかりませんが、確かに今回の事といい、大きな出来事には何かしら引っ張りこまれる性分みたいです。でもその分、俺は多くの人との良縁に恵まれています。だから大丈夫な気がします。」

「うんうん……そうだねぇ……そうだねぇ……。」

俺の手を包み、トントンと優しく叩く。
ちょっと引き込まれ、訳もなく泣きたくなる。

「リゼットは精霊師の両親から生まれた魔術師なの。だから普通の魔術師とは少し異なった感覚でものを見る事ができるの。」

「精霊師ですか?!」

「んや。両親がそうだっただけで、あたしゃその技を受け継いではおらん。だが、他の魔術師よりは精霊の事がわかる。ここはいい場所だね、サーク。こんな街の中にあるのに精霊に好かれる環境が整っている。家守りが生まれて居着くのもよくわかるよ。」

「う~ん?どうなんでしょう??多分それは父が……あ、父は東の国の神仕えなんですけど、今回の事で周囲を浄めたからだと思いますよ?」

俺の言葉にリゼットさんはただ静かに笑った。

「それもある。確かにそれもある。だが清めが保てるというのは、それ相応の場所であり、それ相応のものがそこに居るからなんじゃよ……。」

「それ相応のもの??」

「今にわかる。あんたにゃ、今に全てわかる。」

「??」

「辛いね、越えなければならんもんが、お前さんには多すぎる……。」

精霊師の血を引くせいなのか、リゼットさんの言う事はよくわからない。
俺は戸惑ってしまうばかりだった。

「リゼット、その辺で。サークが混乱しているわ。今はとにかく、計画を無事、終わらせる事に尽力しましょう。」

そんな俺達を見かねて、フレデリカさんが助け舟を出してくれた。
魔術本部の皆も変わっているけれど、リゼットさんはそれとも違う不思議な人だなぁと思う。
香の準備で場所がいると言われたのでどうしようかと思ったが、屋根裏部屋が空いている事を思い出し、そこを使ってもらう事にした。

なんか本当、家の中がギチギチだ。
カレンと彼女のママが疲れてしまわなければいいけど、なんて事を俺は少し考えていた。
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