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第九章「海神編」
やはり最後は勇気(物理)がモノを言う
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力の差は歴然。
海神は片手間に楽しんでいるに過ぎないが、サークは必死にそれに食らいつくので精一杯だった。
ギリギリで豪撃を避ける為に跳ね上がる。
人工的に作られた精神空間。
海神の激しい猛攻にそれは部屋という形を留めていない。
そうして見えた景色は、ウニに突き落とされた夢の無意識層に通じる穴をどこか思い出させた。
そうだ……ここ……精神世界だった……。
急にふとその事を思い出す。
ここで歩けたり普通に行動できるのは、「そういう意識」に縛られているからだ。
自分や養父、そしてラニの意識が無意識にここに現実と同じような法則を持たせている。
だったらそれをすり抜ければいい。
現実世界の道理に縛られる必要はない。
移動だって足で動く必要はないし、上とか下とかそう思い込んでるからそう見えるだけで、空間に浮けないという常識に囚われているから浮けないだけで……そもそも浮くとか沈むとかすらここには存在しないのだ。
サークは目を閉じて覚悟を自分に叩き込んだ。
願え。
いつだってそうしてきたじゃないか?
そしてそれを成してきた。
血の魔術を使う時も、現実で藻掻いている時も。
強く願え。
死ぬ気で願え。
そしてそれを信じろ。
その信念の強さで、いつだって無茶な状況もぶっ壊してきたじゃないか?!
それは浮遊している僅かな時間だった。
だがここは精神世界。
時間だって形をなさない場所だ。
ふ……っと、自分の中で何かが切り替わった。
そして力が湧いてくるような感覚。
自分でも自分の動きが変わったのがわかった。
望む事でサークは瞬時に海神の目の前に移動した。
「なっ?!」
驚く海神にサークはニヤッと笑った。
そしてそのまま大きな鼻先に片手を起き、壁の一部(それが床なのか壁なのかは感覚になかったけれど)に一瞬の内に叩きつけ、めり込ませた。
「?!」
頭をすっぽり壁に飲み込まれ、海神が困惑して体をばたつかせる。
その隙に体に衝撃波を流し込んだ。
硬い鱗で守られた海神の体はちょっとやそっとの攻撃は受け付けないが、直接鱗の下に衝撃波を撃ち込めばかなりのダメージになるはずだ。
「~~~~~っ!!」
壁の中に埋まった海神が何か叫び声を上げたようだが、撓む壁はその音の振動すら飲み込んでしまったようで何も聞こえなかった。
「……おのれ!小僧っ!!」
先程のサークの様に、ボヨンと海神の頭が壁から吐き出される。
手加減していたとはいえ流石にこんな小童にいいようにやられて頭にきたのか、お灸を据えようと海神が本気モードで魔力を集め始めた。
サークはそれを冷静に見ていた。
おそらく海神は、その一撃でサークを黙らせ終わりにしようと思っている。
ならばこちらもそのつもりで迎え撃たねばならない。
思わずニヤッと笑う。
楽しくて仕方のない感覚が戻ってきた。
そしてその感覚に飲まれていく事に気づかなかった。
自分の形が崩れる。
マズい、と神仕えは思った。
『おじさん!!』
ラニが焦ったように声を上げる。
まさかここまでなんの前触れもなく突然変化するとは思わなかった。
それが息子の持つ才であり、危うさでもある。
「ラニ!!サクに呼び掛けて!!名を!!名を思い出させないと!!」
今の息子は己の名を忘れかけている。
そのせいでそれで固定したモノが外れかけているのだ。
『お兄ちゃん!!サークお兄ちゃん!!』
ラニが必死に呼びかけた。
しかし聞こえていないのか反応がない。
神の勝負に横槍を入れるのは本来は禁忌だ。
だがそうも言っていられない。
一度、その存在を縛ってでも、声をその耳に届けなければならない。
自分が何者か思い出させなければならない。
空間が軋んだ。
サークの存在の形が変わり始めたせいで、仮想精神空間が持たなくなってきたのだ。
切羽詰まった状況が一気に押し寄せた。
サークをどうにかしなければならない。
同時にこの空間もどうにかしなければならない。
どうする?!
流石の名を持たぬ神仕えも、精霊の力を借りられない精神空間で追い詰められた。
だがやるしかない。
使えるものは自分の精神力……そして自分を自分としているもの……魂だけだ。
息子を失うか自分を失うかなら、親は迷い無くそれを選ぶ。
そういうものだ。
そう覚悟を決めた時だった。
「俺らを使え!!サークの父ちゃん!!」
目の前に銃弾みたいに凄い勢いで何かが飛んできた。
びっくりして見ると、そこには毛の生えてないイタチの赤子みたいなものと、寝ぼけたように顔を洗っているピアがいた。
「……君は?」
「俺はウニ!!訳あって今、サークの精神世界にくっついた場所にいる元精霊だったもんだ!!」
イタチの赤子みたいなのがそう啖呵を切った。
そして抱えていた寝ぼけ眼のピアの面倒を見出す。
「ほら!ピア!!しっかりしろ!!欠片やるから!!」
ウニはそう言うと胸の中から欠片を取り出し、ピアの口に押し込んだ。
「ピィ……。」
「起きろ!!ピア!!あのバカが暴走したせいて、このままじゃ図書館が壊れちまう!!お前だってアイツと繋がってんだ!!ぼんやりしてたら壊れちまうぞ!!しっかりしろ!!」
その様子を神仕えはふむふむと見守る。
こんなところで精霊に出くわすとは思わなかった。
ピアは今回の件にその記憶の一部を使うと聞いていたのでいるのはわかるが、この威勢のいいハゲネズミは何なのだろう?
状況が切迫しているのに思わず観察してしまった。
「……随分と面倒見が良いんだね?ウニくん??」
「しゃーねぇだろ?!ピアはまだ生まれたばっかで精霊のイロハも知んねぇような奴なんだから!!」
やっと飲み込ませた欠片が効いてきたのか、ピアもしゃんとし始めた。
ウニが偉そうにふんぞり返り、そんなピアの寝癖を直してやっている。
それをふふふっと神仕えは笑った。
思わぬ出会いだが、とても小さな心強い味方ができた。
これでどうにかなると思った。
「うん。ピアの事は知っているから何ができるかわかるんだけど……君は何ができるのかな?ウニくん??」
「俺は頭脳派だ!精神世界の知識なら負けねぇ!!」
「……んとね、ウニお兄ちゃんはロケットができるの。」
二人が同時に答えた。
え?!とばかりにウニがピアを振り返る。
「ふふっ、ピアはこっちだとだいぶお喋りできるんだね?ロケットってなんだい?」
「ちがっ!!」
「うんとね、ウニお兄ちゃんはね、ビューンて飛んで、ドーンてできるの。」
「あ~!!今の!!それは心強い!!」
「違~う!!俺は頭脳派だぁ~!!」
ジタバタ暴れるウニと、それを不思議そうに眺めるピア。
どうやらいい義兄弟コンビのようだ。
『おじさん!!お兄ちゃん気付かない!!……って?!ピア?!ウニ?!』
焦った様子のラニが二人に気づきて驚いている。
『え?!何でこっちに?!』
「サークのバカが暴走したせいで、あっちも影響受けてんだよ!!小部屋は完全に壊れちまって!!そのせいでもろに影響が図書館にも来んだよ!!守りを固める為に塊にしたんでピアも出すしかなかったんだよ!大体、ピアはサークが自分の夢を通して連れてきたんだ!別の人間の中に入れない限り、サークがこのまま暴走したら押しつぶされちまう!!」
『図書館??』
「俺が本来存在してる場所だよ!とりあえず今はそれどころじゃねぇ!!あのバカを何とかしねぇと!!」
随分と口の悪い毛のないネズミだが、話は一貫してる。
これはおそらく、息子も相当手を焼いて……いや、世話になっている事だろう。
「うん。その通りだね、ウニくん。ラニ、君はこの空間を保つ事に集中してくれるかい?サクの事は私達に任せておくれ。強い味方が二人も来てくれたんで、どうにかできそうだよ。」
『はい!!ここもかなり限界だからどうしようかと思ってたので助かります!お兄ちゃんをお願いします!何かあったら声をかけて下さい!!』
ラニはそう言うと意識を空間維持に集中し始める。
神仕えはそれを確認するとにこりと小さな味方に微笑んだ。
かがんで二人を手の上に乗せる。
「さて、では私に協力してくれるかな?小さくとも偉大な精霊さんたち??」
「任せとけ!!」
「ピア、何したら良い??」
神仕えは微笑むとウニとピアに作戦を聞かせる。
ふむふむと聞いていた小さな二人の顔が、だんだんと驚愕の表情に変わる。
「ピ、ピィ~~ッ!!」
「え……?それ、マジでやんの?!」
ピアは頭を押さえて縮こまり、カタカタ震えだす。
ウニは飽きれたようにサークの養父を見上げた。
それにニッコリと笑いかける。
「大丈夫だよ、ピア。ちょっと術にピアの力を借りるだけで、ピアは何もしなくていいんだ。」
「……地味に嫌な攻撃考えんな、アンタ……。」
「そうでないと、ウニくんが近づけないだろう??」
「まぁ……そうなんだけどよ……。」
丸まるピアをよそに、神仕えとウニは視線を海神の方に移した。
そこに映る信じがたい光景に表情を一瞬、固くする。
「……私の術の事より、ウニくん、全ては君にかかっている。よろしく頼むよ。」
「……おう、任せとけ。」
ウニはそう返事をすると神仕えの手から飛び降りる。
神仕えは術の準備に入り、祝詞を口ずさみ始めた。
「リアナ!!もう止めとけ!!ぶっ倒れるぞ!!」
精神世界に潜り全ての調整をつけているラニのホメオスタシス管理を行いながら、アレックはリアナを止めた。
確かに魔力を与える方法を教えたが、自分の生命に危険が及ぶところまで送ろうとするとは思わなかった。
と言うより、そこまで送れるとは思っていなかったのだ。
アレックと姉のサーニャの場合、姉弟であり歳も離れているせいか、限界まで送ったとしても送る側の生命維持に関わるレベルが近づくと送れなくなる。
だが、リアナとラニは双子だ。
存在がアレックとサーニャよりも近いのだ。
だから本人が望めば、生命維持に関わるレベルまで魔力を送り続けられるようだった。
「リアナ!マジでもうよせ!!」
「うるさい!!今回、私は何にも出来ないの!!ラニを守ってあげる事も!!サークの力になってあげる事も!!これぐらい……これぐらいやらせなさいよ!!」
リアナはそう叫んで、自分にある限りの魔力、全てをラニに送り込んだ。
その瞬間、魔力切れを起こしてフッと意識を失う。
アレックは慌てて片手を伸ばしてそれを支えた。
「おい!!シロクマ!!」
「え……?もしかしなくても私の事を言っているのかな?!アレック君?!」
「お前以外にシロクマがいんのかよ?!」
怒鳴るように呼ばれ、イヴァンは苦笑いしながらそこに駆け寄る。
そして状況を見てすぐ様リアナを抱き抱えた。
「頼んだ!!シロクマ!!」
「頼まれましたけど……。シロクマじゃなくてイヴァンです。できれば覚えて下さいね……。」
そして粗相の無い様にリアナを抱え、カレンに案内してもらいながら子供部屋のベッドに運ぶ。
冷蔵庫の次は小さなレディを運ぶ事になるとは……。
次は何を運べばいいんだろうと苦笑した。
「……フン、やはり森の君かえ……。遊び甲斐があるわけよ……。」
存在を変え始めたサークに、海神はそう言った。
森ノ君……?
モリノキミってナンダ……??
そんな事はとうでもいい。
目の前に巨大な力がある。
それをどう押し返してやろうかと思うと楽しくて仕方がない。
体の奥から力が湧き上がってくる。
こんなにも力が出せたっけと少し不思議に思う。
多分、精神世界だからだ……。
だがそんな事はどうでもいい……。
ニヤ……ッと口元が歪んだ。
さあ来い。
力が湧き上がってきて止まらないんだ……。
何故だか負ける気がしない。
海神もサークも自制心を忘れ始めていた。
ここが人工的に作られた小さな仮想精神空間である事を忘れ、流れ出るままに力をため始めていた。
楽しくて仕方がなかった……。
が……。
「?!」
「……痛っ?!……イタタタタタタッ?!」
突然、サークと海神は鈍い痛みを覚えた。
そしてそれはどんどん強くなる。
「何をする?!小僧?!」
「私じゃない!!イタタタタタタッ!!」
海神はその痛みに体をくねらせ、丸く縮こまった。
サークは頬を抑え蹲る。
歯が……歯が痛い……。
物凄く痛い。
何事かと海神とサークは辺りを見渡した。
気づけば周りに簡単な結界が張られ、そこから呪が放たれている。
何で?
何で??義父さん?!
……義父さん??
サークは自分の意識が混沌としている事に気づいた。
何かおかしくなっていると、養父がそれを止めようとしていると理解する反面、楽しい戦いに水をさされ、物凄く腹立たしくなっていた。
何で?
ナンデ邪魔スル?!
いや……何かあって義父さんは……。
トウさんテナンダ?
誰ダ??
オマエハダレダ……??
俺は……?
俺は誰だ……?!
「しっかりしやがれ!!サークッ!!」
その瞬間、乱暴な言葉と共にサークはガツン!と下から思い切り殴られた。
……サーク??
サーク!!
俺の名だ!!
ハッとする。
「……ウニッ!!」
「目ぇ覚めたか!!アホンダラ!!」
急に視界が変わる。
それまでどうやって世界を見ていたのかよくわからない。
ただ、いつも見ている視界に戻った。
びょ~んとばかりに飛び跳ねてきたウニを抱きしめる。
「サーク……!!良かった……!!」
「よくわからないけど……なんかありがとう……。と言うか?!何でウニがここにいるんだ?!」
「テメェが暴走しやがったせいで!!図書館まで壊されそうになったからだ!!ボケ!!」
「ええぇぇぇぇ?!よくわかんないけど、ごめん?!」
ギャーギャーとウニに怒られ、サークは目を白黒させる。
そんな二人に大きな影が差し込んだ。
「……何だか知らぬが……我の遊びを邪魔しおって……どう償わせてやろうか……。」
見上げると、静かに青筋を立てている海神と目が合う。
ヤバいと思いつつ、サークは腕の中のウニをチラ見した。
ウニも強く頷く。
どうやら必殺技を使う時が来たようだ。
サークは構えた。
海神は怒りに任せて魔力を集めている。
その集めた魔力を攻撃力に変換する僅かな瞬間に無防備な隙ができる。
「間違うなよ?!サーク?!」
「おう……一発勝負だしな……。」
一歩間違えば大惨事だ。
だが、この力比べを一撃で終わらせる為にはそこを狙うしかない。
全意識をその瞬間に集中させる。
その一瞬が訪れる瞬間に意識の全てを掛けた。
フォン……と音もなく海神の魔力が別の方向に流れ出す。
サークは全てをそこに掛けた。
タイミングを逃したら一撃で終わらせられない。
教えを受けたのは一度きりだが、それは何度も体に受けた。
だから体か知っている。
ザッと深く構えそれを繰り出した。
「……ウニ直伝!人間ロケット~ッ!!!」
ビュンッとばかりにその体が飛ぶ。
弾丸のように。
ただ真っ直ぐに。
ガツン……ッ!!!
サークの意識体が、物凄い勢いで海神の顎にクリーンヒットする。
喉元にめり込んだサークの意識体は、海神が仰け反りぐにゃりと意識を弱める事で勢い余ってそこから滑り出し、仮想精神空間の壁にめり込んだ。
仮想精神空間の壁は激しく撓んでサークを飲み込み、さらに部屋全体は、ダダーンッと大きく音を立てて倒れ込んだ海神の影響で大きく形を変え大変な事になった。
見届けた神仕えは懐にピアを入れ、何とかその振動を乗り切る。
「あはは!!楽しいね!ピア?!」
「ピィィ~~。」
楽しそうに笑う神仕えに反し、ピアは半泣きてぷるぷる震えていたのだった。
海神は片手間に楽しんでいるに過ぎないが、サークは必死にそれに食らいつくので精一杯だった。
ギリギリで豪撃を避ける為に跳ね上がる。
人工的に作られた精神空間。
海神の激しい猛攻にそれは部屋という形を留めていない。
そうして見えた景色は、ウニに突き落とされた夢の無意識層に通じる穴をどこか思い出させた。
そうだ……ここ……精神世界だった……。
急にふとその事を思い出す。
ここで歩けたり普通に行動できるのは、「そういう意識」に縛られているからだ。
自分や養父、そしてラニの意識が無意識にここに現実と同じような法則を持たせている。
だったらそれをすり抜ければいい。
現実世界の道理に縛られる必要はない。
移動だって足で動く必要はないし、上とか下とかそう思い込んでるからそう見えるだけで、空間に浮けないという常識に囚われているから浮けないだけで……そもそも浮くとか沈むとかすらここには存在しないのだ。
サークは目を閉じて覚悟を自分に叩き込んだ。
願え。
いつだってそうしてきたじゃないか?
そしてそれを成してきた。
血の魔術を使う時も、現実で藻掻いている時も。
強く願え。
死ぬ気で願え。
そしてそれを信じろ。
その信念の強さで、いつだって無茶な状況もぶっ壊してきたじゃないか?!
それは浮遊している僅かな時間だった。
だがここは精神世界。
時間だって形をなさない場所だ。
ふ……っと、自分の中で何かが切り替わった。
そして力が湧いてくるような感覚。
自分でも自分の動きが変わったのがわかった。
望む事でサークは瞬時に海神の目の前に移動した。
「なっ?!」
驚く海神にサークはニヤッと笑った。
そしてそのまま大きな鼻先に片手を起き、壁の一部(それが床なのか壁なのかは感覚になかったけれど)に一瞬の内に叩きつけ、めり込ませた。
「?!」
頭をすっぽり壁に飲み込まれ、海神が困惑して体をばたつかせる。
その隙に体に衝撃波を流し込んだ。
硬い鱗で守られた海神の体はちょっとやそっとの攻撃は受け付けないが、直接鱗の下に衝撃波を撃ち込めばかなりのダメージになるはずだ。
「~~~~~っ!!」
壁の中に埋まった海神が何か叫び声を上げたようだが、撓む壁はその音の振動すら飲み込んでしまったようで何も聞こえなかった。
「……おのれ!小僧っ!!」
先程のサークの様に、ボヨンと海神の頭が壁から吐き出される。
手加減していたとはいえ流石にこんな小童にいいようにやられて頭にきたのか、お灸を据えようと海神が本気モードで魔力を集め始めた。
サークはそれを冷静に見ていた。
おそらく海神は、その一撃でサークを黙らせ終わりにしようと思っている。
ならばこちらもそのつもりで迎え撃たねばならない。
思わずニヤッと笑う。
楽しくて仕方のない感覚が戻ってきた。
そしてその感覚に飲まれていく事に気づかなかった。
自分の形が崩れる。
マズい、と神仕えは思った。
『おじさん!!』
ラニが焦ったように声を上げる。
まさかここまでなんの前触れもなく突然変化するとは思わなかった。
それが息子の持つ才であり、危うさでもある。
「ラニ!!サクに呼び掛けて!!名を!!名を思い出させないと!!」
今の息子は己の名を忘れかけている。
そのせいでそれで固定したモノが外れかけているのだ。
『お兄ちゃん!!サークお兄ちゃん!!』
ラニが必死に呼びかけた。
しかし聞こえていないのか反応がない。
神の勝負に横槍を入れるのは本来は禁忌だ。
だがそうも言っていられない。
一度、その存在を縛ってでも、声をその耳に届けなければならない。
自分が何者か思い出させなければならない。
空間が軋んだ。
サークの存在の形が変わり始めたせいで、仮想精神空間が持たなくなってきたのだ。
切羽詰まった状況が一気に押し寄せた。
サークをどうにかしなければならない。
同時にこの空間もどうにかしなければならない。
どうする?!
流石の名を持たぬ神仕えも、精霊の力を借りられない精神空間で追い詰められた。
だがやるしかない。
使えるものは自分の精神力……そして自分を自分としているもの……魂だけだ。
息子を失うか自分を失うかなら、親は迷い無くそれを選ぶ。
そういうものだ。
そう覚悟を決めた時だった。
「俺らを使え!!サークの父ちゃん!!」
目の前に銃弾みたいに凄い勢いで何かが飛んできた。
びっくりして見ると、そこには毛の生えてないイタチの赤子みたいなものと、寝ぼけたように顔を洗っているピアがいた。
「……君は?」
「俺はウニ!!訳あって今、サークの精神世界にくっついた場所にいる元精霊だったもんだ!!」
イタチの赤子みたいなのがそう啖呵を切った。
そして抱えていた寝ぼけ眼のピアの面倒を見出す。
「ほら!ピア!!しっかりしろ!!欠片やるから!!」
ウニはそう言うと胸の中から欠片を取り出し、ピアの口に押し込んだ。
「ピィ……。」
「起きろ!!ピア!!あのバカが暴走したせいて、このままじゃ図書館が壊れちまう!!お前だってアイツと繋がってんだ!!ぼんやりしてたら壊れちまうぞ!!しっかりしろ!!」
その様子を神仕えはふむふむと見守る。
こんなところで精霊に出くわすとは思わなかった。
ピアは今回の件にその記憶の一部を使うと聞いていたのでいるのはわかるが、この威勢のいいハゲネズミは何なのだろう?
状況が切迫しているのに思わず観察してしまった。
「……随分と面倒見が良いんだね?ウニくん??」
「しゃーねぇだろ?!ピアはまだ生まれたばっかで精霊のイロハも知んねぇような奴なんだから!!」
やっと飲み込ませた欠片が効いてきたのか、ピアもしゃんとし始めた。
ウニが偉そうにふんぞり返り、そんなピアの寝癖を直してやっている。
それをふふふっと神仕えは笑った。
思わぬ出会いだが、とても小さな心強い味方ができた。
これでどうにかなると思った。
「うん。ピアの事は知っているから何ができるかわかるんだけど……君は何ができるのかな?ウニくん??」
「俺は頭脳派だ!精神世界の知識なら負けねぇ!!」
「……んとね、ウニお兄ちゃんはロケットができるの。」
二人が同時に答えた。
え?!とばかりにウニがピアを振り返る。
「ふふっ、ピアはこっちだとだいぶお喋りできるんだね?ロケットってなんだい?」
「ちがっ!!」
「うんとね、ウニお兄ちゃんはね、ビューンて飛んで、ドーンてできるの。」
「あ~!!今の!!それは心強い!!」
「違~う!!俺は頭脳派だぁ~!!」
ジタバタ暴れるウニと、それを不思議そうに眺めるピア。
どうやらいい義兄弟コンビのようだ。
『おじさん!!お兄ちゃん気付かない!!……って?!ピア?!ウニ?!』
焦った様子のラニが二人に気づきて驚いている。
『え?!何でこっちに?!』
「サークのバカが暴走したせいで、あっちも影響受けてんだよ!!小部屋は完全に壊れちまって!!そのせいでもろに影響が図書館にも来んだよ!!守りを固める為に塊にしたんでピアも出すしかなかったんだよ!大体、ピアはサークが自分の夢を通して連れてきたんだ!別の人間の中に入れない限り、サークがこのまま暴走したら押しつぶされちまう!!」
『図書館??』
「俺が本来存在してる場所だよ!とりあえず今はそれどころじゃねぇ!!あのバカを何とかしねぇと!!」
随分と口の悪い毛のないネズミだが、話は一貫してる。
これはおそらく、息子も相当手を焼いて……いや、世話になっている事だろう。
「うん。その通りだね、ウニくん。ラニ、君はこの空間を保つ事に集中してくれるかい?サクの事は私達に任せておくれ。強い味方が二人も来てくれたんで、どうにかできそうだよ。」
『はい!!ここもかなり限界だからどうしようかと思ってたので助かります!お兄ちゃんをお願いします!何かあったら声をかけて下さい!!』
ラニはそう言うと意識を空間維持に集中し始める。
神仕えはそれを確認するとにこりと小さな味方に微笑んだ。
かがんで二人を手の上に乗せる。
「さて、では私に協力してくれるかな?小さくとも偉大な精霊さんたち??」
「任せとけ!!」
「ピア、何したら良い??」
神仕えは微笑むとウニとピアに作戦を聞かせる。
ふむふむと聞いていた小さな二人の顔が、だんだんと驚愕の表情に変わる。
「ピ、ピィ~~ッ!!」
「え……?それ、マジでやんの?!」
ピアは頭を押さえて縮こまり、カタカタ震えだす。
ウニは飽きれたようにサークの養父を見上げた。
それにニッコリと笑いかける。
「大丈夫だよ、ピア。ちょっと術にピアの力を借りるだけで、ピアは何もしなくていいんだ。」
「……地味に嫌な攻撃考えんな、アンタ……。」
「そうでないと、ウニくんが近づけないだろう??」
「まぁ……そうなんだけどよ……。」
丸まるピアをよそに、神仕えとウニは視線を海神の方に移した。
そこに映る信じがたい光景に表情を一瞬、固くする。
「……私の術の事より、ウニくん、全ては君にかかっている。よろしく頼むよ。」
「……おう、任せとけ。」
ウニはそう返事をすると神仕えの手から飛び降りる。
神仕えは術の準備に入り、祝詞を口ずさみ始めた。
「リアナ!!もう止めとけ!!ぶっ倒れるぞ!!」
精神世界に潜り全ての調整をつけているラニのホメオスタシス管理を行いながら、アレックはリアナを止めた。
確かに魔力を与える方法を教えたが、自分の生命に危険が及ぶところまで送ろうとするとは思わなかった。
と言うより、そこまで送れるとは思っていなかったのだ。
アレックと姉のサーニャの場合、姉弟であり歳も離れているせいか、限界まで送ったとしても送る側の生命維持に関わるレベルが近づくと送れなくなる。
だが、リアナとラニは双子だ。
存在がアレックとサーニャよりも近いのだ。
だから本人が望めば、生命維持に関わるレベルまで魔力を送り続けられるようだった。
「リアナ!マジでもうよせ!!」
「うるさい!!今回、私は何にも出来ないの!!ラニを守ってあげる事も!!サークの力になってあげる事も!!これぐらい……これぐらいやらせなさいよ!!」
リアナはそう叫んで、自分にある限りの魔力、全てをラニに送り込んだ。
その瞬間、魔力切れを起こしてフッと意識を失う。
アレックは慌てて片手を伸ばしてそれを支えた。
「おい!!シロクマ!!」
「え……?もしかしなくても私の事を言っているのかな?!アレック君?!」
「お前以外にシロクマがいんのかよ?!」
怒鳴るように呼ばれ、イヴァンは苦笑いしながらそこに駆け寄る。
そして状況を見てすぐ様リアナを抱き抱えた。
「頼んだ!!シロクマ!!」
「頼まれましたけど……。シロクマじゃなくてイヴァンです。できれば覚えて下さいね……。」
そして粗相の無い様にリアナを抱え、カレンに案内してもらいながら子供部屋のベッドに運ぶ。
冷蔵庫の次は小さなレディを運ぶ事になるとは……。
次は何を運べばいいんだろうと苦笑した。
「……フン、やはり森の君かえ……。遊び甲斐があるわけよ……。」
存在を変え始めたサークに、海神はそう言った。
森ノ君……?
モリノキミってナンダ……??
そんな事はとうでもいい。
目の前に巨大な力がある。
それをどう押し返してやろうかと思うと楽しくて仕方がない。
体の奥から力が湧き上がってくる。
こんなにも力が出せたっけと少し不思議に思う。
多分、精神世界だからだ……。
だがそんな事はどうでもいい……。
ニヤ……ッと口元が歪んだ。
さあ来い。
力が湧き上がってきて止まらないんだ……。
何故だか負ける気がしない。
海神もサークも自制心を忘れ始めていた。
ここが人工的に作られた小さな仮想精神空間である事を忘れ、流れ出るままに力をため始めていた。
楽しくて仕方がなかった……。
が……。
「?!」
「……痛っ?!……イタタタタタタッ?!」
突然、サークと海神は鈍い痛みを覚えた。
そしてそれはどんどん強くなる。
「何をする?!小僧?!」
「私じゃない!!イタタタタタタッ!!」
海神はその痛みに体をくねらせ、丸く縮こまった。
サークは頬を抑え蹲る。
歯が……歯が痛い……。
物凄く痛い。
何事かと海神とサークは辺りを見渡した。
気づけば周りに簡単な結界が張られ、そこから呪が放たれている。
何で?
何で??義父さん?!
……義父さん??
サークは自分の意識が混沌としている事に気づいた。
何かおかしくなっていると、養父がそれを止めようとしていると理解する反面、楽しい戦いに水をさされ、物凄く腹立たしくなっていた。
何で?
ナンデ邪魔スル?!
いや……何かあって義父さんは……。
トウさんテナンダ?
誰ダ??
オマエハダレダ……??
俺は……?
俺は誰だ……?!
「しっかりしやがれ!!サークッ!!」
その瞬間、乱暴な言葉と共にサークはガツン!と下から思い切り殴られた。
……サーク??
サーク!!
俺の名だ!!
ハッとする。
「……ウニッ!!」
「目ぇ覚めたか!!アホンダラ!!」
急に視界が変わる。
それまでどうやって世界を見ていたのかよくわからない。
ただ、いつも見ている視界に戻った。
びょ~んとばかりに飛び跳ねてきたウニを抱きしめる。
「サーク……!!良かった……!!」
「よくわからないけど……なんかありがとう……。と言うか?!何でウニがここにいるんだ?!」
「テメェが暴走しやがったせいで!!図書館まで壊されそうになったからだ!!ボケ!!」
「ええぇぇぇぇ?!よくわかんないけど、ごめん?!」
ギャーギャーとウニに怒られ、サークは目を白黒させる。
そんな二人に大きな影が差し込んだ。
「……何だか知らぬが……我の遊びを邪魔しおって……どう償わせてやろうか……。」
見上げると、静かに青筋を立てている海神と目が合う。
ヤバいと思いつつ、サークは腕の中のウニをチラ見した。
ウニも強く頷く。
どうやら必殺技を使う時が来たようだ。
サークは構えた。
海神は怒りに任せて魔力を集めている。
その集めた魔力を攻撃力に変換する僅かな瞬間に無防備な隙ができる。
「間違うなよ?!サーク?!」
「おう……一発勝負だしな……。」
一歩間違えば大惨事だ。
だが、この力比べを一撃で終わらせる為にはそこを狙うしかない。
全意識をその瞬間に集中させる。
その一瞬が訪れる瞬間に意識の全てを掛けた。
フォン……と音もなく海神の魔力が別の方向に流れ出す。
サークは全てをそこに掛けた。
タイミングを逃したら一撃で終わらせられない。
教えを受けたのは一度きりだが、それは何度も体に受けた。
だから体か知っている。
ザッと深く構えそれを繰り出した。
「……ウニ直伝!人間ロケット~ッ!!!」
ビュンッとばかりにその体が飛ぶ。
弾丸のように。
ただ真っ直ぐに。
ガツン……ッ!!!
サークの意識体が、物凄い勢いで海神の顎にクリーンヒットする。
喉元にめり込んだサークの意識体は、海神が仰け反りぐにゃりと意識を弱める事で勢い余ってそこから滑り出し、仮想精神空間の壁にめり込んだ。
仮想精神空間の壁は激しく撓んでサークを飲み込み、さらに部屋全体は、ダダーンッと大きく音を立てて倒れ込んだ海神の影響で大きく形を変え大変な事になった。
見届けた神仕えは懐にピアを入れ、何とかその振動を乗り切る。
「あはは!!楽しいね!ピア?!」
「ピィィ~~。」
楽しそうに笑う神仕えに反し、ピアは半泣きてぷるぷる震えていたのだった。
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