34 / 42
34話
しおりを挟む
あれから一週間、驚くほど早く、新しい従業員が見つかりました。
その知らせを受けて店へ向かうと、ご主人と女将さんはいつも通りの笑顔で私を迎えてくれます。
「済まないねえ、本当に今までありがとよ。店をこんなに繁盛させてくれて、私たちは感謝してるよ」
おふたりの優しい表情に、胸の奥が温かくなります。
私は深く頭を下げました。
「いえ、こちらこそ、本当にお世話になりました。あの時、女将さんが声を掛けてくださらなかったら、今の私はありません。感謝しているのは私の方です」
そして、寂しい気持ちを抑えながら伝えました。
「それに、遠くへ行くわけではありませんから。またいつでもお会いできます」
そう言って、私は名残惜しさを胸に店を後にしました。
ーーーー
別宅へ戻ると、ナタリーとカリンに店を辞めたことを伝えました。
ここ最近は二人のおかげで、驚くほど自由な時間が持てています。
食事の支度や湯浴みの準備、お掃除などはカリンが手際よくこなし、身の回りのことはナタリーがそつなく整えてくれる。
まるで、本物の貴族令嬢になったかのようです。
それに、お義母様から贈られた数々のドレス。
どれも私の寸法にぴったりで、手直しの必要すらいらないなんて驚きです。
お義母様が若い頃に身に着けていたという宝石類は息を呑むほど美しく、箱を開けるたびに緊張してしまう。
「こんなに頂いてしまって、本当にいいのかしら?」
思わずつぶやくと、ナタリーが微笑んでくれました。
「大奥様はむしろ、とても喜んでおいででしたよ。それに、大奥様と奥様の体型が驚くほど同じで、わたしもびっくりしました」
その言葉に胸がじんわりと温まった。
会ったことのないお義母様に、お礼の手紙を書こう。そう決めたのですが、まずは旦那様の許可をいただいた方がいいわね。
余った時間で、私は趣味のお料理を存分に楽しむことができました。
焼き上がった料理を二人に振る舞うと、カリンは目を輝かせて喜び
「奥様のお料理を教えていただけて、本当にありがたいです!」
と、何度も頭を下げてくれました。なんだか私も、とても幸せな気持ちになりました。
ーーーー
その日の午後、ランカスターさんが別宅に顔を出しました。
「奥様、何か不自由はありませんか?」
「いいえ。充分すぎるほどです」
私が笑って答えると、ランカスターさんは安堵したように頷いた。
「明日は、旦那様が定期的に行なっている寄付のため、教会へ向かわれるそうです」
寄付……子どもたちのあの笑顔が脳裏に浮かぶ。
久しぶりに、焼き菓子を届けてあげたい。
「カリン、一緒に焼き菓子を作りましょう?」
「はい、喜んで!」
そう言ってくれたカリンと並び、私は粉を練りはじめました。
甘い香りが、台所いっぱいに広がっていき、なんだかとても幸せな気分です。
その知らせを受けて店へ向かうと、ご主人と女将さんはいつも通りの笑顔で私を迎えてくれます。
「済まないねえ、本当に今までありがとよ。店をこんなに繁盛させてくれて、私たちは感謝してるよ」
おふたりの優しい表情に、胸の奥が温かくなります。
私は深く頭を下げました。
「いえ、こちらこそ、本当にお世話になりました。あの時、女将さんが声を掛けてくださらなかったら、今の私はありません。感謝しているのは私の方です」
そして、寂しい気持ちを抑えながら伝えました。
「それに、遠くへ行くわけではありませんから。またいつでもお会いできます」
そう言って、私は名残惜しさを胸に店を後にしました。
ーーーー
別宅へ戻ると、ナタリーとカリンに店を辞めたことを伝えました。
ここ最近は二人のおかげで、驚くほど自由な時間が持てています。
食事の支度や湯浴みの準備、お掃除などはカリンが手際よくこなし、身の回りのことはナタリーがそつなく整えてくれる。
まるで、本物の貴族令嬢になったかのようです。
それに、お義母様から贈られた数々のドレス。
どれも私の寸法にぴったりで、手直しの必要すらいらないなんて驚きです。
お義母様が若い頃に身に着けていたという宝石類は息を呑むほど美しく、箱を開けるたびに緊張してしまう。
「こんなに頂いてしまって、本当にいいのかしら?」
思わずつぶやくと、ナタリーが微笑んでくれました。
「大奥様はむしろ、とても喜んでおいででしたよ。それに、大奥様と奥様の体型が驚くほど同じで、わたしもびっくりしました」
その言葉に胸がじんわりと温まった。
会ったことのないお義母様に、お礼の手紙を書こう。そう決めたのですが、まずは旦那様の許可をいただいた方がいいわね。
余った時間で、私は趣味のお料理を存分に楽しむことができました。
焼き上がった料理を二人に振る舞うと、カリンは目を輝かせて喜び
「奥様のお料理を教えていただけて、本当にありがたいです!」
と、何度も頭を下げてくれました。なんだか私も、とても幸せな気持ちになりました。
ーーーー
その日の午後、ランカスターさんが別宅に顔を出しました。
「奥様、何か不自由はありませんか?」
「いいえ。充分すぎるほどです」
私が笑って答えると、ランカスターさんは安堵したように頷いた。
「明日は、旦那様が定期的に行なっている寄付のため、教会へ向かわれるそうです」
寄付……子どもたちのあの笑顔が脳裏に浮かぶ。
久しぶりに、焼き菓子を届けてあげたい。
「カリン、一緒に焼き菓子を作りましょう?」
「はい、喜んで!」
そう言ってくれたカリンと並び、私は粉を練りはじめました。
甘い香りが、台所いっぱいに広がっていき、なんだかとても幸せな気分です。
4,068
あなたにおすすめの小説
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
婚約破棄された公爵令嬢は心を閉ざして生きていく
おいどん
恋愛
「アメリアには申し訳ないが…婚約を破棄させてほしい」
私はグランシエール公爵家の令嬢、アメリア・グランシエール。
決して誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。
苦しみを胸の奥に閉じ込めて生きるアメリアの前に、元婚約者の従兄、レオナールが現れる。
「俺は、アメリアの味方だ」
「では、残された私は何のためにいるのですか!?」
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる