❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫

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86.剣術大会③

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「カレンさん!」

私は声がしたほうを振り返る。

「レコ君!?」

見れば目もとを赤くさせたレコが、真っ直ぐな眼差しでこちらを見つめていた。
そんな力強い目もできるようになったのね。
前髪もばっさり切って、以前のレコと比べると見違えるよう。
レコも騎士服、似合ってるわ。濃い色の髪に藍色の目。肌が白いから、騎士服の濃い緑色の中にあって、清々しい雰囲気が漂う。かっちりとした騎士服姿がちょっと大人びて、絵に書いたような好青年姿。他の攻略対象者と違って、派手さはないけど、ちょっと中性的な感じが優しそうで、また違う魅力を放っている。
文学少女が幾人も木の陰から見守ってそう。

「どうしたの? もう行く時間じゃ――」

「試合が始まる前にどうしても、カレンさんに会っておきたくてっ!」

レコが思いの丈を吐き出すような勢いで言うと、背筋を真っ直ぐにして見つめてくる。

「今日までずっと剣の特訓を頑張ってきました。少しでも強くなってると信じて、今日頑張ります。応援してくれますか?」

その返事がイエスかノーかによって、まるで人生が左右されるかのような真剣な面持ちだ。「いいえ」と答えたら、もう二度と彼が立ち上がれないほどショックを受けそうな気がした。
そんな強い目で見てくるほど、頑張ったのね。
ゲームでは剣術大会に出てこなかったレコ。
園芸が得意の優しい印象の子だったのに、今は特訓の成果か、体つきもなんだか逞しくなったみたい。剣術を通して、自分に自信を持てるように変わったなら嬉しい。
私は微笑んだ。

「もちろん。応援してるわ」

レコの目がぱっと輝いた。

「ありがとうございます!!」

「ふふ。頑張ってね」

私はにこにこ笑う。本当、初々しくて可愛いわ~。

「あっ、じゃ、じゃあ、ご利益貰っても良いですか!!」

レコがぎゅっと目を瞑った勢いで言う。

「ご利益?」

「はい。それがあれば、戦ってる時、力も勇気も何百倍もみなぎるような気がして……」

ちょっと顔を下に向けて、顔を赤くして言う。
必勝祈願のお守りのことかしら? 残念だけど、あれ買ってないのよね。ゲームでは必ず買ってたのに、今回バルタザールの件で忙しくて失念してたのよ。気づいた時には当日だったわ。
でも、何百倍もみなぎるなら、あげたかったな。

「私もあげたいんだけど――」

持ってないのよね、と言おうとしたところで――。

「本当ですか!! ありがとうございます!」

ぱっと顔を輝かせたレコに遮られた。

「そ、それじゃあ――」

ぎゅっと目を瞑った真っ赤になったレコの顔が近づいてきたと思ったら、「チュッ」と軽い音がほっぺたから鳴った。

「えっ!?」

私は柔らかい何かがあたった頬に手をあてる。

「やった」

レコの顔が離れ、赤い顔で恥ずかしそうに下を向いてはにかむ。

「そ、それじゃ、僕行きますね!」

恥ずかしさで耐えきれなくなったのか、レコが慌てて走り去っていく。
私が頬に手を当てたまま、しばらく呆然と突っ立っていると――

「カレンさん」

「先生っ!」

ラインハルトが現れた。

「もうほとんどの生徒は向こうに行ってるよ。カレンさんも行かないと。僕も今から行くところだから、一緒に行こう」

「は、はい!」

立て続けの攻略対象者からのキスで、頭がパンク状態のまま歩き出す。
裏庭を抜け、会場へ向かう木立のなか、ラインハルトが口を開いた。

「なんだが、男子が白熱してるみたいだね」

「え、ええ、そうですね」

年に一回しかない大会だから、攻略対象者初め男士たちが夢中になるのも頷ける。
でも、今はそれよりキスのことを考えたい――

「僕も参加したかったな」

ぽつりと呟かれた意外な言葉に、今度はそっちに意識が持ってかれた。

「えっ! 先生、剣操れるんですか?」

「これでも学園の生徒だっだからね。授業では剣術を選択していたよ。意外?」

ラインハルトが私の反応に可笑しそうに笑いながら、首を傾げて尋ねてくる。

「はい」

ラインハルトは肉体派っていうイメージがなかったから、剣を操る姿が想像できない。
でも、学園時代のラインハルトも格好良かったんだろうな。

「じゃあ、先生も剣術大会出たことがあるんですね。もしかして、優勝したりなんか?」

「優勝は流石に出来なかったよ。一番最高が三位かな」

「すごいじゃないですか!」

やっぱり攻略対象者は伊達じゃなかった。

「大したことじゃないよ。僕より上がいたし」

そうやって、謙遜するラインハルト、本当好き! 自分を押し出さない、余裕がある大人の雰囲気がいつも漂ってる。

「じゃあ、きっとモテたでしょうね」

「どうだったかな? でも一番よくモテるのはやっぱり優勝者だよ」

「強いからですね」

「ううん。実はこの学園、ジンクスがあってね。優勝者の人が卒業式に告白して結ばれた二人はずっと幸せでいられるって話だよ。それにあやかりたい女子が多かったんだよね」

「知りませんでした。素敵ですね」

ゲームだと好感度『好き』以上、かつ必勝祈願のお守りをあげた攻略対象者は必ず優勝してた。そして攻略がうまくいってれば最後にはその攻略対象者から告白される筋書きだった。
じゃあ優勝できたのは愛の力だったのかしら。

「優勝者が僕の親友でね。その親友からどうやって卒業式の日告白すればいいか、相談されたよ」

「へえ。どういうアドバイスしたんですか」

ラインハルトが突然立ち止まった。

「先生?」

私も倣って立ち止まる。
向きなおったラインハルトがその綺麗な指で、すっと私の髪をとった。手を腰にやり、片足をひいて身を屈めると、下目遣いで私を見つめた。長身で均整のとれた体つきのラインハルトがやると、どんな格好も様になる。

「『あなたのことを生涯かけて守ると誓います。どうか僕の運命の人になって頂けますか』」

そのままチュッと髪に唇を落とした。

「だったかな?」

ラインハルトが私の髪を手にとったまま、微笑んだ。
――ボンッ! 頭が破裂した。
なんという紳士的で気障な台詞を考えたんですか!!
ああ、こんな何人もの攻略対象者から口付けを受けるなんて、運を全部使いきって、今日私死ぬんじゃないかしら。

「会場に着いたね。僕は教師の席に行くから。カレンさんはあっちだね。――剣術大会、楽しんで」

ラインハルトのその緑色の目が、なんだかいたずらっぽい少年のような目をしたまま笑うと、長い足で階段を登っていった。



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