❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫

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87.剣術大会④

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円形闘技場の中にはいると、観客席はほぼ満席に近い状態だった。席は段になって高さが作られ、上から試合を眺めるようにできている。向こうの世界のコロッセオみたいな形。
上は吹き抜けになっていて、爽やかな青空が覗いている。観客席のほうは一応日差しよけの屋根がついていた。
学園の中にこんな大掛かりな建物を作るなんて、流石貴族の学校である。
観客席は前側は生徒、後ろ側は保護者と決まっているようだ。保護者の席にお父様とお兄様も座っているはずだけど、今はごちゃごちゃしていて、判然がつかない。今日は一緒にお昼をとる約束をしているから、あとで探しに行かなくちゃ。でも一応席は一年生、二年生、三年生と別れていて、保護者もそんな感じで別れているみたいだからすぐに見つかるだろう。
一年生の生徒のいる観客席に足を向けると、向こうから手をぶんぶんと振る人物がいた。

「あ、こっち、こっち! カレンちゃん!」

ピンク頭のジュリアだ。ひとつ席をあけた所にはヴェロニカも座っている。
私は席の間を縫うようにして、ふたりの近くにいく。

「良かった。来ないかと思って心配しちゃった」

「ごめんなさい。ちょっと遅れちゃった。席とっといてくれて、ありがとう」

私はふたりの間にある空いた席に腰を下ろした。今日は前々からふたりと一緒に観戦する約束をしていた。
試合を見ながら、わいわいきゃいきゃい騒げる友達ができて、本当嬉しい。実は今日、それも楽しみだったんだよね。
このふたりが友達になってくれて、本当良かった。

「カレンちゃんは誰が優勝すると思う?」

呼び方も「ちゃん」呼び。当初、様付けだったけど、友達だから様はやめてって言ったら、この呼び方になったんだよね。
ゲームと全く同じ呼び方に、ふたりとは随分前から友達だったような気がしてくるから、おかしなものだ。まだ出会ってから、一月しか経っていないのに。

「そうね。同じクラスメイトのよしみとして、エーリックかな」

さっき、優勝するわって太鼓判押しちゃったし。

「あ、仲良い友達やっぱ、応援したいよね」

ヴェロニカが同意する。
本当は婚約者であるイリアスの名を出すのが、普通なんだろうけど、このふたり、イリアスの名が出ると、途端にニマニマしだすんだよね。
お昼を一緒にとってるせいか、私たちの間に何かあるんじゃないかって勘ぐってるみたい。まあ、実際あるんだけど。
イリアスを応援してる子はたくさんいるから、私が口に出しても変じゃないのはわかってはいるんだけど、なんだかためらってしまうのよね。からかわれるのが恥ずかしいっていうか、照れくさいっていうか。
前はイリアスの名を出すのも怖かったのに。なんだろ、この気持ち。
もうちょっと仲良くなったら、このふたりに婚約者って打ち明けてみようかな。ヒロインが現れてイリアスと恋に落ちた時、どっちの味方になってくれるのかわからないけど、でもできるならこのふたりとはずっと仲良くなれたらいいな。

「ふたりは誰が優勝すると思う?」

「私は三年の先輩かな。その人、去年の剣術大会で優勝してるんだって」

そっか。攻略対象者にばっかり目がいってたけど、他の学年も参加するんだもんね。

「でも、一番の注目株はやっぱりあのふたりだよね」

「あのふたり?」

私が首を傾げると、途端にふたりがにやにやしだす。

「ほら、公爵家のあのふたり。さっきトーナメント表見たら、ブロックが別れてたの。ふたりがもし勝ち進めば、明日の決勝戦はそのふたりになるんだよ!」

「そしたらカレンちゃんはどっちを応援するのかなー?」

「かなー?」

両脇から小突かれる。

「やめてよ。まだ決まってもないじゃない」

私は顔を赤くさせて、反論する。どうしても、あのふたりと私を結びつけたいらしい。
でもそっか。あのふたりが勝ち進めば、決勝にあたるのね。さっき「勝負は明日」って言ってたのはこのことね。っていうか、あのふたり完全に決勝まで進む気でいるわね。まあ、強いから自信もって当然なんだけど。
誰が優勝するのか、正直予測は難しい。誰がなってもおかしくないものね。
ちなみに優勝者には剣が与えられる。ただの剣ではなく、匠の才と技巧を極めた素晴らしい名剣らしい。騎士を目指すものなら、一度は手にしたいと願う垂涎物。
エーリックの告白シーンにおける『君のために、この剣を捧げるよ』の『この剣』とは剣術大会で優勝した際に手に入れた剣のことを言っている。ヒロインの愛があったからこそ手にできた、いわば愛の結晶である。
私たちはそのあと夏休みの予定の話に移っていった。
夏休みは一ヶ月半の長期の休み。その間、攻略対象者たちと顔を合わせずに済むことに、ちょっと安心する。さっきのキスの件もそうだけど、みんなからの告白を今一度距離をおいて、じっくり考えたい。それは攻略対象者にも言えることで、私とすこし離れれば「なんで俺、あの女に告白したんだろう?」って冷静になるはず。今はお互いの距離が近いせいで、勘違いしてるだけかもしれない。で、夏休みが終わってまだ正気に戻っていなかったら、だしに使って悪いけど、「イリアスと婚約してるからお断りします」って言おう。これが一番丸く収まる方法だよね。ヒロインが現れたら、きっとみんなそっちに行くだろうし、そうなった時、「あの時、フラレといて良かった」って逆に喜ぶはず。
あ、いけない。自分で思ってて悲しくなってきた。
痛みを訴える胸を無視して、ふたりと遊びの約束をしているうちに、開会式を告げる合図が鳴り響いた。
闘技が行われる下の会場から、騎士服姿の男子たちが現れる。途端に歓声がわき起こった。
私の周りは黄色い声で埋め尽くされる。剣術大会は強制じゃないけど、体が弱かったり、剣の腕にまるっきり自信がない男子たちを除いて、男子生徒のそのほとんどがプライドをかけて、参加している。そのため、生徒の観客席にいるほとんどが女子ばかりなのだ。
女子生徒たちは好きな人の名前だったり、婚約者の名前を叫んでいる。まるでコンサート会場みたい。
参加者たちが整列し終わると、学園長が壇上にあがり、開会を宣言した。
とうとう剣術大会の幕開けだ。 
下のコートは三つに別れており、試合が同時に行われる方式。
一旦参加者たちは闘技場内の控室に下がり、トーナメント表にそって名前が呼ばれると、出てきて戦っていく。
名前が呼ばれると、ひときわ歓声が大きくあがるのはやはり攻略対象者たち。
私は三つの試合を目で追いながら、ジュリアとヴェロニカと一緒に声援を送った。
イリアスは流れるような剣技で、相手の剣を躱しながら、一瞬できた隙を逃さず突いていく。
ユーリウスは小手先の技に頼らず、最初から急所を狙って、一息で相手を打ち落としていく。
フェリクスは緩急併せ持った技で、相手を手のひらで転がし、冷静さを失ったところで一気に片を付けていく。
エーリックは力、速さ、正確さがバランスよく配置された技で、最初から最後まで落ち着いた動きで確実に倒していく。まさに心技体の技。もちろん、エーリックの相方、ハーロルトも参加していて、こっちはエーリックの技をもっと豪快にした感じ。
レコは他の五人と比べると、すこし不安定さはあるものの、剣を握って一月とは思えないくらいの上達ぶりで、最後まで諦めず、相手に食らいつき、切り込んでいく。
みんな、すごい。
ゲームでは試合の場面はひとりのスチルしか見れなかったけど、こんなに一度に見られるなんて、なんて贅沢なの。
画面では味わえなかった迫力や緊張感がびりびり伝わってくる。
これは一見の価値があるわと、感嘆している間に午前中の試合が終わった。









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過去にエーリックが「夏には剣術大会がある」って言ったとき、そのときは春だったため、まあ夏でも大丈夫だろと思って夏にしたんですが、この日本の暑い夏を体感するにいたって、みんな、熱中症にならならきゃいいなと心配します。(^_^;)

まあ、攻略対象者は若さも体力も筋肉もあるから大丈夫だと思いますが(熱中症は筋肉が少ないとなりやすいそうです)


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