ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

賭け

マリーの言葉を聞いてシャルルは
「そう。」
とだけ短く答えた。

マリーは心臓がばくばくした。

己の醜い嫉妬心がみなにバレたのではないかと、不安になる。

 シャルルは顔色一つ変えずにヨランドを見た。
「義母上とマリーが言うのなら。義母上、誰かあてがあるのですか？」

ヨランドは涼しい顔をして言った。

「シャルルに傾倒するものでなくてはならぬ。なるべく純粋な年齢のな。しかし、そなたは、マリー以外に女人をそばに近寄らせぬ。どうしたものよのう。のうマリー、そなた誰かあてはないか？」

マリーは息を呑んだ。

そんなの１人しかいない。

シャルルの近くに侍るのを許され
シャルルを真っ直ぐに熱い瞳で見つめるもの

ダークブラウンの豊かな髪が目の前にちらついた。

…ああ…じゃまだ…

心の中で髪を払う。

そうだ。シャルルが少女に心を許しているなら、止めるはずだ。

今のところシャルルは何も動揺していない。
聡いシャルルなら、母が言わんとすることはわかっているはずだ。

でも…

少女が乙女になったとき、あの美しさと激しい純粋さと情熱をシャルルは退けることができるだろうか？

シャルルとマリーの間に芽生えそうな不安要素は芽が出ないうちに、排除すべきだ。


これは賭けだ。
シャルルが心が動いているかどうかの。

マリーは小さく息を吸って、シャルルを見た。

「シャルル様、あの行儀見習いの少女は如何でしょうか？あの者は貴方様に忠誠を誓っているように見受けられます。」

シャルルは小さく頷いた。