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目撃者、生徒
元想い人の証言
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僕は庶民で向こうは貴族だから、学園内じゃ会える時間も限られる。だからせめて休み時間の間だけでも一緒にいたいと思って、話し合って中庭で会うようにしていた。
授業の終わりを知らせる鐘がなってすぐにお弁当を持って教室を飛び出す。貴重な休み時間だから少しでも長くいるために廊下を走った。ちょっと息を切らせて目的の場所を見てみると、その姿はすでにベンチに座っていた。
「セリオ! 待たせちゃってごめんね!」
「そこまで待ってないよ。いつも言ってるけど、そんな急いで来なくてもいいんだぞ?」
「だって少しでもセリオと一緒にいたくて」
会いたかったし、会えて嬉しかったから自然と顔は笑顔になる。急いでセリオの隣に座ってお弁当を広げた。
この学園には学食もあるけれど、一般学部の生徒はほぼお弁当だったり購買で買ったりしてる。学食は実は一般生徒にとっては少し値段が高くて、だから貴族たちだけがいるような現状になってる。
だから貴族であるセリオも本来なら学食で食べるはずなんだろうけど、僕に合わせてお弁当を持ってきてくれていた。
「セリオ、いつも思うんだけどそれだけで足りるの?」
「ああ、大丈夫だ」
庶民とは違って貴族側には色んな学部がある。セリオは将来騎士になるべく剣術を習う学部にいるって聞いた。剣術を習うということは、他の学部よりも体力を使うってこと。
だからいつも一緒に昼食食べる時に見るセリオのご飯の量を、僕はいつも心配していた。ちょっと少ないんじゃないかって。でもセリオは大丈夫って言うし、これ以上僕がどうこう言う問題じゃないのかもしれない。
色々と喋りながらご飯を食べて、食べ終わってからも時間の許す限り楽しくお喋りする。
でもここ最近、僕はずっと気になっていた。最初こそは、お互い無事付き合えるってことに喜んでものすごくはしゃいでいた。セリオもたくさん喋ってくれて、それが嬉しくて僕もたくさん喋った。でも最近だとセリオの口数が減ってきた。僕のお喋りを笑顔で聞いてくれるけど、ふと曇った表情をする。
「……セリオ」
それでも僕はセリオと一緒にいたいから、学園の休みの日も一緒にいたくてそっと距離を縮めて触れ合おうとした。
すると、明らかにセリオが肩を揺らして縮めた分の距離を取った。そんな行動を取るなんて思わなくて、グッと涙を堪えてセリオを見上げる。
「あ、悪い……」
「悪いって思うのなら、どうしてそんな行動するの?」
「……アドニス」
「ねぇ、僕のこと嫌いになった? 嫌なことがあるなら言ってよ、僕、直すから……だから」
顔を上げて、滲む視界でジッと見つめればバツの悪そうな顔をする。本当に、僕のこと嫌いになっちゃったの?
あの時僕の手を取ってくれたのに。
「違う。アドニスは悪くないんだ。悪いのは俺だ……」
「セリオに悪いところなんてないよ!」
「でもウェルスを傷付けた!」
少し大きな声でそんなことを言われて思わず固まった。どうして、今更そんなこと。だって、僕たちが付き合っていいって許してくれたのは王子なのに。
「ウェルスの気持ちを知っていて、それなのに俺は黙ってた。アドニスのことを好きだったから……ウェルスは確かに俺たちの交際を認めてくれた。でも、俺は見たんだ……暗い顔をして、落ち込んでいるウェルスを」
あれから王子とはまったく会ってない。僕が王子に会っていたのはセリオに会うためだったから。今はその必要がなくなったから、王子がどんな様子なのか僕はまったく知らない。
「アドニス、ウェルスが人を好きになるということは俺たちのものとは意味が違う。それなのに、俺は」
「でもその王子が認めてくれたでしょ⁈ それの何が悪いの⁈」
「俺が自分を許せないんだ……!」
王子のことを騙して裏切った自分が許せないんだって、俯いてそう呟くセリオに何も言えなくなってしまう。そんなに、セリオが自分のこと追い詰める必要はないのに。
ただ僕たちはお互いのことを好きになっただけなのに。それなのになんでそんな罪悪感を抱かなきゃいけないの?
「悪い、アドニス……少し、気持ちの整理をつく時間を俺にくれないか……」
「……うん、いいよ。僕はいつまでも、待つから」
きっとこのままだとセリオは僕に触れてくれない。セリオがそう言うのなら、僕は待つことしかできない。
僕たちが付き合っていることはある意味学園全体の公認だった。ああいう場所でお互い気持ちを伝えたから学園中に知れ渡ってしまうのはしょうがない。
だからといって今のセリオとの関係を誰かに相談する、ということを僕にはできない。そっと息を吐いて自分の席に戻る。
「ねぇねぇアドニス君、今日も騎士様に会って来たの?」
そう話しかけてきたのは同じクラスの女子たちだ。彼女たちは僕を囲ってにこにことしている。
「うん、そうだよ」
「きゃーっ、相変わらずラブラブなのね!」
「だって他の誰よりもアドニス君を選んでくれた騎士様よ! ものすっごくアドニス君を大切にしているに決まってるじゃない!」
「アドニス君可愛いから、きっと騎士様も他の誰にも取られたくないのよね~」
「あはは……」
彼女たちの言葉に上手く頷くことができなくて愛想笑いしか浮かばない。そもそもセリオはまだ護衛騎士候補であって、今はまだ騎士ですらないんだけど。
僕だって最初はそう思ってた。騎士を目指しているセリオが僕を選んでくれたことに喜んでいた。セリオも誰よりも大切にする、そう言ってくれた。
今はどうなんだろう。今のセリオの気持ちを聞くのが怖い。だって先に好きなったのは僕のほうだから。どんな手を使ってでもセリオの恋人になりたいって願ってたのは僕のほうだから。
でもそれを彼女たちに相談することはできない。彼女たちが僕に話しかけてくるのは僕の顔が他の男子に比べて可愛いと言われるものだからだ。だから彼女たちは男子に話しかけてるという感覚よりも、自分たちと同じ同性に話しかけているという感覚なんだと思う。
昔からこうだ。女の子とたくさん喋る機会はあったけれど、その反面男友達がほぼいなかった。話しかけてくる男の子は大体僕に告白してくる。この顔を好きになって話しかけてくる。僕の中身を見てくれる人は、わりと少なかった。
心が落ち込んだまま授業を受けて、次は移動教室のため廊下を一人で歩く。女子たちと一緒に行こうって誘われたけど、やんわりと断った。
「でも王子ってさ、自分のこと振った相手のこと応援してんだろ?」
「なんだか親近感湧いたよな。もし俺が失恋したら親身になって相談に乗ってくれそう」
「お前はまず誰かに恋しろよな?」
「うるせぇなー!」
同じクラスの男子たちがそんな会話をしているのを横目にトボトボと歩く。僕だって、なんでも話せる男友達が欲しい。普通に喋ってる男子たちが羨ましくてしょうがない。
もし、もし僕が普通の顔だったら。男友達できてたのかな。普通の顔でもセリオは僕のこと好きって言ってくれたかな。
王子が僕のことを好きになることはなくて、それでセリオが負い目に感じることはなかったのかな。
「今日どうする?」
「僕の新作食べてくれる? 実は力作なんだ! 二人の感想が聞きたくて!」
「おっ、いいな! そしたら今日はジャックの部屋でってことで!」
「それよりも先に勉強したほうがいいぞ。今度小テストがあるだろ」
「……そうだったね」
「……オリバー! 助けてオリバー! 全然わっかんねぇよぉ!」
「縋りつくな! アシエの馬鹿力だと俺の骨が折れるだろ‼」
なんだか楽しそうな会話が聞こえて思わず顔を上げる。廊下の向こうで男子生徒三人がお喋りしながら歩いてきていた。
「頼むよ勉強教えてくれ!」
「そうだな……このままだと居残り待ったなしだろうしな」
「見捨てないでぇ!」
「そしたらどうする? オリバーの部屋で勉強会やる?」
「でもジャックも新作作るんだろ?」
ここの学園の庶民たちは寮生活だ。きっと彼らは授業が終わったあと三人のうちの誰かの部屋で楽しく過ごす予定なんだろう。すごく楽しそうで、すごく賑やかでなんだかいいなって、無意識にこっちが笑顔になる。
「う~ん、そしたら僕の部屋でまず勉強会して、その後に僕が作ったお菓子を二人に食べてもらうってのはどうだろ?」
「いいじゃん! そうしよそうしよ!」
「頭を働かせたあとの糖分摂取はいいな。そうするか」
どうやら決まったらしくて、そんな楽しそうにしている三人とすれ違う。一般学部の生徒だけど誰も見たことのない顔だ。ということは他のクラスだ。
正直いいなぁって思った。僕にもああいう風に楽しくお喋りできる友達がいたら。そしたら色んなことを喋ってセリオのことも相談できたかもしれない。そんなこと思いながらとある一人の生徒とすれ違った時だ。
「え……」
びっくりして思わず振り返る。でも相手がそんな僕の反応に気付くことはない。一瞬だけで、勘違いかなってちょっと思ったけどそうじゃない。
すれ違った三人のうちの一人、勉強を教えてくれって喋っていた生徒。あの生徒から甘みの少ない爽やかな、王子が使っていたコロンと同じ香りがした。
もしかして同じものを使っているかもしれない、っていう考えは浮かんで一瞬で消える。だって前にセリオが王子が使っているものは一般的に販売されているものじゃないって言っていたから。だからこの学園であの香りを纏っているのは本来なら王子ただ一人のはず。
同じ香りを纏っていたということは、そういうことだ。
「あっ……」
僕は、とんでもない思い違いをしていた。とんでもない勘違いをしていた。王子の今の様子はまったくわからないけれど、どうして僕は今でも王子が僕のことを好きなんだって思ったんだろう。どうして僕が普通の顔でも僕のことを好きになるって思ったんだろう。流石に自意識過剰すぎる。
自分が自惚れていたことに気付いて顔が熱くなる。結局僕は自分のことしか考えてない。
自分のことしか考えてないから、王子が他の人を好きになったって気付いてモヤモヤしてるんだ。
授業の終わりを知らせる鐘がなってすぐにお弁当を持って教室を飛び出す。貴重な休み時間だから少しでも長くいるために廊下を走った。ちょっと息を切らせて目的の場所を見てみると、その姿はすでにベンチに座っていた。
「セリオ! 待たせちゃってごめんね!」
「そこまで待ってないよ。いつも言ってるけど、そんな急いで来なくてもいいんだぞ?」
「だって少しでもセリオと一緒にいたくて」
会いたかったし、会えて嬉しかったから自然と顔は笑顔になる。急いでセリオの隣に座ってお弁当を広げた。
この学園には学食もあるけれど、一般学部の生徒はほぼお弁当だったり購買で買ったりしてる。学食は実は一般生徒にとっては少し値段が高くて、だから貴族たちだけがいるような現状になってる。
だから貴族であるセリオも本来なら学食で食べるはずなんだろうけど、僕に合わせてお弁当を持ってきてくれていた。
「セリオ、いつも思うんだけどそれだけで足りるの?」
「ああ、大丈夫だ」
庶民とは違って貴族側には色んな学部がある。セリオは将来騎士になるべく剣術を習う学部にいるって聞いた。剣術を習うということは、他の学部よりも体力を使うってこと。
だからいつも一緒に昼食食べる時に見るセリオのご飯の量を、僕はいつも心配していた。ちょっと少ないんじゃないかって。でもセリオは大丈夫って言うし、これ以上僕がどうこう言う問題じゃないのかもしれない。
色々と喋りながらご飯を食べて、食べ終わってからも時間の許す限り楽しくお喋りする。
でもここ最近、僕はずっと気になっていた。最初こそは、お互い無事付き合えるってことに喜んでものすごくはしゃいでいた。セリオもたくさん喋ってくれて、それが嬉しくて僕もたくさん喋った。でも最近だとセリオの口数が減ってきた。僕のお喋りを笑顔で聞いてくれるけど、ふと曇った表情をする。
「……セリオ」
それでも僕はセリオと一緒にいたいから、学園の休みの日も一緒にいたくてそっと距離を縮めて触れ合おうとした。
すると、明らかにセリオが肩を揺らして縮めた分の距離を取った。そんな行動を取るなんて思わなくて、グッと涙を堪えてセリオを見上げる。
「あ、悪い……」
「悪いって思うのなら、どうしてそんな行動するの?」
「……アドニス」
「ねぇ、僕のこと嫌いになった? 嫌なことがあるなら言ってよ、僕、直すから……だから」
顔を上げて、滲む視界でジッと見つめればバツの悪そうな顔をする。本当に、僕のこと嫌いになっちゃったの?
あの時僕の手を取ってくれたのに。
「違う。アドニスは悪くないんだ。悪いのは俺だ……」
「セリオに悪いところなんてないよ!」
「でもウェルスを傷付けた!」
少し大きな声でそんなことを言われて思わず固まった。どうして、今更そんなこと。だって、僕たちが付き合っていいって許してくれたのは王子なのに。
「ウェルスの気持ちを知っていて、それなのに俺は黙ってた。アドニスのことを好きだったから……ウェルスは確かに俺たちの交際を認めてくれた。でも、俺は見たんだ……暗い顔をして、落ち込んでいるウェルスを」
あれから王子とはまったく会ってない。僕が王子に会っていたのはセリオに会うためだったから。今はその必要がなくなったから、王子がどんな様子なのか僕はまったく知らない。
「アドニス、ウェルスが人を好きになるということは俺たちのものとは意味が違う。それなのに、俺は」
「でもその王子が認めてくれたでしょ⁈ それの何が悪いの⁈」
「俺が自分を許せないんだ……!」
王子のことを騙して裏切った自分が許せないんだって、俯いてそう呟くセリオに何も言えなくなってしまう。そんなに、セリオが自分のこと追い詰める必要はないのに。
ただ僕たちはお互いのことを好きになっただけなのに。それなのになんでそんな罪悪感を抱かなきゃいけないの?
「悪い、アドニス……少し、気持ちの整理をつく時間を俺にくれないか……」
「……うん、いいよ。僕はいつまでも、待つから」
きっとこのままだとセリオは僕に触れてくれない。セリオがそう言うのなら、僕は待つことしかできない。
僕たちが付き合っていることはある意味学園全体の公認だった。ああいう場所でお互い気持ちを伝えたから学園中に知れ渡ってしまうのはしょうがない。
だからといって今のセリオとの関係を誰かに相談する、ということを僕にはできない。そっと息を吐いて自分の席に戻る。
「ねぇねぇアドニス君、今日も騎士様に会って来たの?」
そう話しかけてきたのは同じクラスの女子たちだ。彼女たちは僕を囲ってにこにことしている。
「うん、そうだよ」
「きゃーっ、相変わらずラブラブなのね!」
「だって他の誰よりもアドニス君を選んでくれた騎士様よ! ものすっごくアドニス君を大切にしているに決まってるじゃない!」
「アドニス君可愛いから、きっと騎士様も他の誰にも取られたくないのよね~」
「あはは……」
彼女たちの言葉に上手く頷くことができなくて愛想笑いしか浮かばない。そもそもセリオはまだ護衛騎士候補であって、今はまだ騎士ですらないんだけど。
僕だって最初はそう思ってた。騎士を目指しているセリオが僕を選んでくれたことに喜んでいた。セリオも誰よりも大切にする、そう言ってくれた。
今はどうなんだろう。今のセリオの気持ちを聞くのが怖い。だって先に好きなったのは僕のほうだから。どんな手を使ってでもセリオの恋人になりたいって願ってたのは僕のほうだから。
でもそれを彼女たちに相談することはできない。彼女たちが僕に話しかけてくるのは僕の顔が他の男子に比べて可愛いと言われるものだからだ。だから彼女たちは男子に話しかけてるという感覚よりも、自分たちと同じ同性に話しかけているという感覚なんだと思う。
昔からこうだ。女の子とたくさん喋る機会はあったけれど、その反面男友達がほぼいなかった。話しかけてくる男の子は大体僕に告白してくる。この顔を好きになって話しかけてくる。僕の中身を見てくれる人は、わりと少なかった。
心が落ち込んだまま授業を受けて、次は移動教室のため廊下を一人で歩く。女子たちと一緒に行こうって誘われたけど、やんわりと断った。
「でも王子ってさ、自分のこと振った相手のこと応援してんだろ?」
「なんだか親近感湧いたよな。もし俺が失恋したら親身になって相談に乗ってくれそう」
「お前はまず誰かに恋しろよな?」
「うるせぇなー!」
同じクラスの男子たちがそんな会話をしているのを横目にトボトボと歩く。僕だって、なんでも話せる男友達が欲しい。普通に喋ってる男子たちが羨ましくてしょうがない。
もし、もし僕が普通の顔だったら。男友達できてたのかな。普通の顔でもセリオは僕のこと好きって言ってくれたかな。
王子が僕のことを好きになることはなくて、それでセリオが負い目に感じることはなかったのかな。
「今日どうする?」
「僕の新作食べてくれる? 実は力作なんだ! 二人の感想が聞きたくて!」
「おっ、いいな! そしたら今日はジャックの部屋でってことで!」
「それよりも先に勉強したほうがいいぞ。今度小テストがあるだろ」
「……そうだったね」
「……オリバー! 助けてオリバー! 全然わっかんねぇよぉ!」
「縋りつくな! アシエの馬鹿力だと俺の骨が折れるだろ‼」
なんだか楽しそうな会話が聞こえて思わず顔を上げる。廊下の向こうで男子生徒三人がお喋りしながら歩いてきていた。
「頼むよ勉強教えてくれ!」
「そうだな……このままだと居残り待ったなしだろうしな」
「見捨てないでぇ!」
「そしたらどうする? オリバーの部屋で勉強会やる?」
「でもジャックも新作作るんだろ?」
ここの学園の庶民たちは寮生活だ。きっと彼らは授業が終わったあと三人のうちの誰かの部屋で楽しく過ごす予定なんだろう。すごく楽しそうで、すごく賑やかでなんだかいいなって、無意識にこっちが笑顔になる。
「う~ん、そしたら僕の部屋でまず勉強会して、その後に僕が作ったお菓子を二人に食べてもらうってのはどうだろ?」
「いいじゃん! そうしよそうしよ!」
「頭を働かせたあとの糖分摂取はいいな。そうするか」
どうやら決まったらしくて、そんな楽しそうにしている三人とすれ違う。一般学部の生徒だけど誰も見たことのない顔だ。ということは他のクラスだ。
正直いいなぁって思った。僕にもああいう風に楽しくお喋りできる友達がいたら。そしたら色んなことを喋ってセリオのことも相談できたかもしれない。そんなこと思いながらとある一人の生徒とすれ違った時だ。
「え……」
びっくりして思わず振り返る。でも相手がそんな僕の反応に気付くことはない。一瞬だけで、勘違いかなってちょっと思ったけどそうじゃない。
すれ違った三人のうちの一人、勉強を教えてくれって喋っていた生徒。あの生徒から甘みの少ない爽やかな、王子が使っていたコロンと同じ香りがした。
もしかして同じものを使っているかもしれない、っていう考えは浮かんで一瞬で消える。だって前にセリオが王子が使っているものは一般的に販売されているものじゃないって言っていたから。だからこの学園であの香りを纏っているのは本来なら王子ただ一人のはず。
同じ香りを纏っていたということは、そういうことだ。
「あっ……」
僕は、とんでもない思い違いをしていた。とんでもない勘違いをしていた。王子の今の様子はまったくわからないけれど、どうして僕は今でも王子が僕のことを好きなんだって思ったんだろう。どうして僕が普通の顔でも僕のことを好きになるって思ったんだろう。流石に自意識過剰すぎる。
自分が自惚れていたことに気付いて顔が熱くなる。結局僕は自分のことしか考えてない。
自分のことしか考えてないから、王子が他の人を好きになったって気付いてモヤモヤしてるんだ。
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