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毎日。
毎日毎日毎日。
時には教会で、時には自室の窓辺で。
時間ができたらひたすら祈る。
今日も今日とてひたすらいの――
えっ!?
***************
私はヘルマン侯爵家の長女。年齢が一回り違う可愛い可愛い弟アレクがいる。父とはあまり交流がなかったが、母はたくさんの愛情を注いでくれた。
庭師が整えてくれた庭園を、とてとてと歩くアレクに合わせてゆっくりと三人で歩くのがたまらなく幸せだった。……その後のガゼボで美味しいお菓子も食べられたし。
でも、そんな幸せは5年前に壊れてしまった。流行り風邪にかかってしまった母は、私たち二人を残すことをしきりに心配しながらあっけなく逝ってしまった。
この頃には父の愛人の存在も理解していた私は、母の代わりにアレクを守らねば、と誓った。
そんな決意をあざ笑うかのように、母の喪が明けるとすぐに後妻としてアビーが子爵家から嫁いできた。
色んな人が「ヘルマン侯爵の愛人」だと教えてくれた人だ。なんなら、私の母と出会う前からの仲らしい。
貴族ってやーね。
このお義母様がまたクセ者だった。女主人として子爵出身と思えないほどの才覚を見せ、家政を取り仕切った。
成果を出す者には追加報酬を与え、失敗した者は原因を精査し、それが怠惰からくるものなら即時解雇する。
使用人達は認められる自信と喜び、サボることの危険性を知りキビキビ働くようになる。
私が回してた時は、皆のんびり楽しそうにしていた。それが居心地の良い環境を作れている!と嬉しかったが、なんのことは無い、ただあまっちょろいぬるま湯だと思われてただけだったのだ。つらい。
更に義母はその社交性をもって多くの高位貴族のご婦人方を虜にした。
最初は愛人風情が、子爵家のくせに、って嘲笑ってた人達が手のひらをドリルかってくらいくるくるした。
最近では「愛人として日陰で過ごすには惜しい程の才覚だからこそ、侯爵は早急に籍を入れた」という評価に落ち着いた。
やってらんね!
義母が信頼と実績と積み上げていく。そのおかげで、私はまだデビュタントできておりません!
……というのも。
この国のデビュタントは年齢ではなく母親か講師がマナー等のチェックして合格点を貰わないとできない。数代前の公爵令嬢がド派手にやらかして、ブチ切れた王様が制定したのだ。
デビュタントをしなければ貴族社会における成人として扱われない。結婚どころか婚約も、家督の相続もさせてもらえないのだ。
デビュタントしないと、何も出来ない。
ということは、早めにデビューした方がいい縁に巡り会える可能性が高まる。しかも、条件は身内のゴーサインだけ!ということで、ウキウキで幼児を連れてきたおバカさんもいたらしい。
結果。暑い、眠い、香水臭い、でギャン泣きしてしまった。
大切な催しに水を差したとして、その家族は白い目で見られたらしい。もちろんそれだけでなく社交界でもぷかぷか浮いたんだとか。めでたしめでたし。
この一件で、デビュタントはお披露目の場ではなく「最終試験会場」だということが皆の胸に刻まれた。身内のあまあま採点で、とりあえず出しとけ!とかやったら自分たちが詰む、と。
つまり。
信頼と実績を積み上げた義母が「この子はまだデビュタントさせられませんわ……」と言うのは家を守るために当然であり、「その歳でまだ合格ラインにいけないの?侯爵家なのに?マ?」という、地雷物件扱いに私がなるのもまた当然だった。
私リコリス、20歳!嫁きおくれなの!
……一応、私のマナーは問題ない。
何故かというと、母が死ぬまではマナー講師からも褒められていたし、その後も「デビュタントもできない山猿を見てみよう」と悪意を含んだお茶会に呼ばれるのだが、「あれ?普通?」っていう反応をされるからだ。
でも、最終的には「侯爵夫人は完璧主義なのですね、素晴らしい志です」と皆納得するのだ。
……やってらんね!
義母が私や家のことを思って行動してる?
そんなことはない。絶対になにか意図がある。
奇しくも、その疑問は今日の夜解消されることになる。
夕食を取り終えたあと、義母に「二人とも少し残りなさい」と言われて嫌な予感を抱えながら紅茶を飲む。
隣で不安そうに私をチラチラ見るアレクに大丈夫だよという思いを込めて微笑む。
何でだろう、さらに不安そうな顔になったぞ??
カップを置いた私たちを見て、お義母様が口火を切る。
「リコリス、アレク。次のデビュタントに参加してもらいます。半年しかないので明日から準備を始めます。そのつもりでいなさい」
なぬ!
「そして、リコリスはデビュー後、クルエード伯爵と婚約予定です。資産家であり、温厚な人物よ。あなたにはもったいないくらいの縁談だわ」
爵位は落ちるかぁ。嫁き遅れですもんね私。いや、誰のせいかな!?
「アレクにも婚約者ができます。私の妹のザフィール男爵夫人の娘よ。とても美しく、年齢も釣り合うの。今度顔合わせをしましょう」
「待ってください、ザフィール夫人の娘って確か……」
「これは決定事項です」
私が言いたかったことを察したのか、義母がかぶせてくる。
そのまま退室を促されたので、アレクと一緒にダイニングをでる。
「こんやくしゃ?僕にもできるの?」
不安そうに見てくるアレクの頭をよしよしと撫でる。
よしよしよしよしわしわしわしわし
「ねぇさま、やりすぎです……」
おっと、癒し効果がすごすぎてついつい。
アレクの部屋についたので、おやすみの挨拶をしようとすると、
「ねぇさまと一緒にいたいです」
と、いつもは大人ぶるアレクが袖をちょんっとひっぱる。
今日はやたらと甘えてくるわね!!不安からかもしれないけど可愛いが過ぎる!
ずっと一緒にいるからね!
アレクの部屋でおやすみからおはようまで一緒にいようとしたら、メイドたちに部屋に戻された。
むむむ。
毎日毎日毎日。
時には教会で、時には自室の窓辺で。
時間ができたらひたすら祈る。
今日も今日とてひたすらいの――
えっ!?
***************
私はヘルマン侯爵家の長女。年齢が一回り違う可愛い可愛い弟アレクがいる。父とはあまり交流がなかったが、母はたくさんの愛情を注いでくれた。
庭師が整えてくれた庭園を、とてとてと歩くアレクに合わせてゆっくりと三人で歩くのがたまらなく幸せだった。……その後のガゼボで美味しいお菓子も食べられたし。
でも、そんな幸せは5年前に壊れてしまった。流行り風邪にかかってしまった母は、私たち二人を残すことをしきりに心配しながらあっけなく逝ってしまった。
この頃には父の愛人の存在も理解していた私は、母の代わりにアレクを守らねば、と誓った。
そんな決意をあざ笑うかのように、母の喪が明けるとすぐに後妻としてアビーが子爵家から嫁いできた。
色んな人が「ヘルマン侯爵の愛人」だと教えてくれた人だ。なんなら、私の母と出会う前からの仲らしい。
貴族ってやーね。
このお義母様がまたクセ者だった。女主人として子爵出身と思えないほどの才覚を見せ、家政を取り仕切った。
成果を出す者には追加報酬を与え、失敗した者は原因を精査し、それが怠惰からくるものなら即時解雇する。
使用人達は認められる自信と喜び、サボることの危険性を知りキビキビ働くようになる。
私が回してた時は、皆のんびり楽しそうにしていた。それが居心地の良い環境を作れている!と嬉しかったが、なんのことは無い、ただあまっちょろいぬるま湯だと思われてただけだったのだ。つらい。
更に義母はその社交性をもって多くの高位貴族のご婦人方を虜にした。
最初は愛人風情が、子爵家のくせに、って嘲笑ってた人達が手のひらをドリルかってくらいくるくるした。
最近では「愛人として日陰で過ごすには惜しい程の才覚だからこそ、侯爵は早急に籍を入れた」という評価に落ち着いた。
やってらんね!
義母が信頼と実績と積み上げていく。そのおかげで、私はまだデビュタントできておりません!
……というのも。
この国のデビュタントは年齢ではなく母親か講師がマナー等のチェックして合格点を貰わないとできない。数代前の公爵令嬢がド派手にやらかして、ブチ切れた王様が制定したのだ。
デビュタントをしなければ貴族社会における成人として扱われない。結婚どころか婚約も、家督の相続もさせてもらえないのだ。
デビュタントしないと、何も出来ない。
ということは、早めにデビューした方がいい縁に巡り会える可能性が高まる。しかも、条件は身内のゴーサインだけ!ということで、ウキウキで幼児を連れてきたおバカさんもいたらしい。
結果。暑い、眠い、香水臭い、でギャン泣きしてしまった。
大切な催しに水を差したとして、その家族は白い目で見られたらしい。もちろんそれだけでなく社交界でもぷかぷか浮いたんだとか。めでたしめでたし。
この一件で、デビュタントはお披露目の場ではなく「最終試験会場」だということが皆の胸に刻まれた。身内のあまあま採点で、とりあえず出しとけ!とかやったら自分たちが詰む、と。
つまり。
信頼と実績を積み上げた義母が「この子はまだデビュタントさせられませんわ……」と言うのは家を守るために当然であり、「その歳でまだ合格ラインにいけないの?侯爵家なのに?マ?」という、地雷物件扱いに私がなるのもまた当然だった。
私リコリス、20歳!嫁きおくれなの!
……一応、私のマナーは問題ない。
何故かというと、母が死ぬまではマナー講師からも褒められていたし、その後も「デビュタントもできない山猿を見てみよう」と悪意を含んだお茶会に呼ばれるのだが、「あれ?普通?」っていう反応をされるからだ。
でも、最終的には「侯爵夫人は完璧主義なのですね、素晴らしい志です」と皆納得するのだ。
……やってらんね!
義母が私や家のことを思って行動してる?
そんなことはない。絶対になにか意図がある。
奇しくも、その疑問は今日の夜解消されることになる。
夕食を取り終えたあと、義母に「二人とも少し残りなさい」と言われて嫌な予感を抱えながら紅茶を飲む。
隣で不安そうに私をチラチラ見るアレクに大丈夫だよという思いを込めて微笑む。
何でだろう、さらに不安そうな顔になったぞ??
カップを置いた私たちを見て、お義母様が口火を切る。
「リコリス、アレク。次のデビュタントに参加してもらいます。半年しかないので明日から準備を始めます。そのつもりでいなさい」
なぬ!
「そして、リコリスはデビュー後、クルエード伯爵と婚約予定です。資産家であり、温厚な人物よ。あなたにはもったいないくらいの縁談だわ」
爵位は落ちるかぁ。嫁き遅れですもんね私。いや、誰のせいかな!?
「アレクにも婚約者ができます。私の妹のザフィール男爵夫人の娘よ。とても美しく、年齢も釣り合うの。今度顔合わせをしましょう」
「待ってください、ザフィール夫人の娘って確か……」
「これは決定事項です」
私が言いたかったことを察したのか、義母がかぶせてくる。
そのまま退室を促されたので、アレクと一緒にダイニングをでる。
「こんやくしゃ?僕にもできるの?」
不安そうに見てくるアレクの頭をよしよしと撫でる。
よしよしよしよしわしわしわしわし
「ねぇさま、やりすぎです……」
おっと、癒し効果がすごすぎてついつい。
アレクの部屋についたので、おやすみの挨拶をしようとすると、
「ねぇさまと一緒にいたいです」
と、いつもは大人ぶるアレクが袖をちょんっとひっぱる。
今日はやたらと甘えてくるわね!!不安からかもしれないけど可愛いが過ぎる!
ずっと一緒にいるからね!
アレクの部屋でおやすみからおはようまで一緒にいようとしたら、メイドたちに部屋に戻された。
むむむ。
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