59 / 70
後章 終わらぬ雨なら止めてやる
第58話 クズのさえずり
しおりを挟む
――見上げた先に幼い時雨は居ない。目の先には険しい表情の店長がいた。
「俺は……クズです。それは死ぬまで変わらないと思います」
開き直り。そうとも言える――そうとしか言えない言葉だった。
「人に迷惑をかけ続けます。八重にも迷惑をかけ続けます。他のみんなにも……俺はずっと迷惑ばかりをかけます」
「それで?」
「それでも……それでも――好きなんですよ。幸せになってほしいんですよ。八重のことが大好きだから。だから……八重が好きな人も幸せになってほしいんです」
迷惑ばかりかけてるから。だから。もう返せないくらいに溜まった『貸し』を少しでも返せるように。
「そのためなら俺は――なんだってします」
「……ふぅん」
その目には覚悟があった。その言葉には決意があった。内容は分からない。なんのために必要なのか分からない。
だが――今の弦之介にはそれが絶対に必要だ。それだけは店長にも分かった。
「……私のツテは広いよ」
「はい」
「もし壊さなかったり、返さなかったりしたら」
「俺の全部を持ってってください。家も。物も。俺の体も。何もかもを」
「……八重君に肩代わりさせるのはナシだからね」
「――約束します」
――店長はため息をついた。
「分かった。信じるわ。正直、何に使うのかも分かんないけど」
「言っても信じてはくれないと思いますけどね」
「ふぅん……ま、返してくれるならいいわ。でもどうやって持ってくの?」
「外にいるんです。協力してくれる人が――」
ライブハウスの前にでかいトラックが居座っていた。その中には――石蕗だ。
「大丈夫かな……」
外は暗く。雨はどしゃ降り。不穏だ。だけど心はサッパリしている。
「時間は――あと2時間か」
時計の針はカチカチと進む。止まりなんてしない。カーナビの時計も同じだ。デジタル数字が0時13分を示している。
やはり緊張しているのか。ソワソワと脚を動かしたり肩を動かしたりしている。
こんな時にこそタバコを吸いたい。――が、医者から注意されてるので現在は禁煙中だ。口元が寂しいのは我慢できないので、唇をチュウチュウと吸っている。
「――ふぅ」
「バカだね」
――時雨が現れた。小学六年生の時の時雨だ。石蕗の前にちょこんと座っている。
「笑っちゃうくらいにバカ。たった1年しか会ってない子のために命なんて賭けるの?」
「……」
「このまま逃げればさ。少なくとも天寿は全うできるよ。苦しみなんてない。緩やかに寿命を迎えて死ぬことができる」
「……そうですね」
「でも立ち向かうと……地獄だよ。考えられうる全ての痛みに向き合わなきゃいけなくなる。そうなっちゃったらこう思うはず。『こんなことしなければよかった』って」
時雨は真面目な顔をしていた。本心からそう言ってるかのように。
「そんなことする意味ある?死ぬかもしれないのに立ち向かう意味はある?見返りなんてないんだよ?どれだけ助けようとも。どれだけ救おうとも」
「……ないですね。彼女を助けたところで、私が得るものなどありません」
「逃げた方が楽だよ。逃げたら何もかもから解放される。命の危機も。彼女への憐れみも。少し時間が経てばそれも忘れられる」
「そうですよね。人なんて冷たい生き物ですから。時間が経てばこのことも忘れてしまうんでしょう」
「たった1年。しかも相手は会うまで名前を忘れていたくらいだよ。そんな奴に優しくする必要なんてある?わざわざ命を捨てる必要はある?」
「……はぁ」
意見は同意だ。このまま進んでも何も得れない。全部を失うことだってあるかも。成功したとしても得られる物は何ひとつだってない。
だがそんなんじゃないのだ。理屈じゃないのだ。動いている理由はそんなものじゃないのだ。
「そうですよ。1年です。数年前に担任をしただけ。接点なんてそれだけです。あの子の記憶からも私は消えかかっていたでしょう」
「そう思うなら逃げようよ。逃げちゃおうよ――」
「ふぅ――――少しは期待していた俺が馬鹿だったか」
――石蕗は見つめる。覚悟を決めた目つきで。
「俺は……クズです。それは死ぬまで変わらないと思います」
開き直り。そうとも言える――そうとしか言えない言葉だった。
「人に迷惑をかけ続けます。八重にも迷惑をかけ続けます。他のみんなにも……俺はずっと迷惑ばかりをかけます」
「それで?」
「それでも……それでも――好きなんですよ。幸せになってほしいんですよ。八重のことが大好きだから。だから……八重が好きな人も幸せになってほしいんです」
迷惑ばかりかけてるから。だから。もう返せないくらいに溜まった『貸し』を少しでも返せるように。
「そのためなら俺は――なんだってします」
「……ふぅん」
その目には覚悟があった。その言葉には決意があった。内容は分からない。なんのために必要なのか分からない。
だが――今の弦之介にはそれが絶対に必要だ。それだけは店長にも分かった。
「……私のツテは広いよ」
「はい」
「もし壊さなかったり、返さなかったりしたら」
「俺の全部を持ってってください。家も。物も。俺の体も。何もかもを」
「……八重君に肩代わりさせるのはナシだからね」
「――約束します」
――店長はため息をついた。
「分かった。信じるわ。正直、何に使うのかも分かんないけど」
「言っても信じてはくれないと思いますけどね」
「ふぅん……ま、返してくれるならいいわ。でもどうやって持ってくの?」
「外にいるんです。協力してくれる人が――」
ライブハウスの前にでかいトラックが居座っていた。その中には――石蕗だ。
「大丈夫かな……」
外は暗く。雨はどしゃ降り。不穏だ。だけど心はサッパリしている。
「時間は――あと2時間か」
時計の針はカチカチと進む。止まりなんてしない。カーナビの時計も同じだ。デジタル数字が0時13分を示している。
やはり緊張しているのか。ソワソワと脚を動かしたり肩を動かしたりしている。
こんな時にこそタバコを吸いたい。――が、医者から注意されてるので現在は禁煙中だ。口元が寂しいのは我慢できないので、唇をチュウチュウと吸っている。
「――ふぅ」
「バカだね」
――時雨が現れた。小学六年生の時の時雨だ。石蕗の前にちょこんと座っている。
「笑っちゃうくらいにバカ。たった1年しか会ってない子のために命なんて賭けるの?」
「……」
「このまま逃げればさ。少なくとも天寿は全うできるよ。苦しみなんてない。緩やかに寿命を迎えて死ぬことができる」
「……そうですね」
「でも立ち向かうと……地獄だよ。考えられうる全ての痛みに向き合わなきゃいけなくなる。そうなっちゃったらこう思うはず。『こんなことしなければよかった』って」
時雨は真面目な顔をしていた。本心からそう言ってるかのように。
「そんなことする意味ある?死ぬかもしれないのに立ち向かう意味はある?見返りなんてないんだよ?どれだけ助けようとも。どれだけ救おうとも」
「……ないですね。彼女を助けたところで、私が得るものなどありません」
「逃げた方が楽だよ。逃げたら何もかもから解放される。命の危機も。彼女への憐れみも。少し時間が経てばそれも忘れられる」
「そうですよね。人なんて冷たい生き物ですから。時間が経てばこのことも忘れてしまうんでしょう」
「たった1年。しかも相手は会うまで名前を忘れていたくらいだよ。そんな奴に優しくする必要なんてある?わざわざ命を捨てる必要はある?」
「……はぁ」
意見は同意だ。このまま進んでも何も得れない。全部を失うことだってあるかも。成功したとしても得られる物は何ひとつだってない。
だがそんなんじゃないのだ。理屈じゃないのだ。動いている理由はそんなものじゃないのだ。
「そうですよ。1年です。数年前に担任をしただけ。接点なんてそれだけです。あの子の記憶からも私は消えかかっていたでしょう」
「そう思うなら逃げようよ。逃げちゃおうよ――」
「ふぅ――――少しは期待していた俺が馬鹿だったか」
――石蕗は見つめる。覚悟を決めた目つきで。
0
あなたにおすすめの小説
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる