お前に『幸福』は似合わない

アタラクシア

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後章 終わらぬ雨なら止めてやる

第59話 いざ決戦のとき

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「違う。お前は『愛』の何たるかが分かっていない」
「……は?」
「あの子の記憶になくても。あの子という本に俺の記述がなくても。――それでも俺はあの子の幸せを願っている」

そう言い切った。

「真実の愛というものはその人のことを一番に思うこと。たとえそこに自分がいなかったとしても、だ。俺は同率一位がかなりいるが、全員の幸せを願っている。全員が俺のことなんて忘れ去ったとしても幸福であることを願っているんだ」
「……随分と綺麗なことを言うね」
「事実だからな。人を殺そうとするほど愛にえたなら分かってるの思ってたんだが……これで理解したよ」

嘲笑あざわらうかのように。勝ち誇ったように。石蕗は言い放つ。

「結局。お前の独りよがりだったんだな。ただ幸せになりたいだけ。全部お前の責任だ。なんの同情も後腐れもなく言ってやる――――地獄に落ちろクズが」





――ドアを叩く音。弦之介だ。

「いけた!説得できました!他のライブハウスの人も協力してくれるらしいです!」
「……そうですか。ならさっさと済ませましょう。時間はあまりありませんから」

そう言って石蕗は外へと出た。雨はまだ酷い。だがそれでいい。冷たい雨は気合いを入れてくれた――。



2時間45分が経過。小屋の中で待機している4人は弦之介からの着信を焦りながらも待っていた。

「あと残り15分」
「間に合わなかったのか……?」

――その時。八重の携帯が鳴り響いた。すぐさま手に取る。

「もしもし!?」
『――準備完了!!いつでも来い!!』
「よっし!!」

――準備完了。たった4文字。たった4文字の言葉をどれほど待ち望んでいたことか。


「紐か布は?」
「ほいさ」
「よし――おんぶするぞ時雨」
「う、うん」

子供を背負うかのように麻布を使って自分の体に時雨を縛り付ける。作戦のためには時雨が必要不可欠だ。腐った足で歩かせるわけにもいかないし、かといって普通に背負っていては落とす可能性がある。

「……なんか恥ずかしい」
「『パパ』って言ってもいいぞ?」
「はいはい、イチャつかないの」

調子に乗っていると光にチョップされてしまった。

「――本当にやれるんですか?」

――気が緩んでいた。そんな時に貴大が問いかけてくる。

「やれるって……俺以外に適任はいないだろ?運動不足とチビと老人1歩手前と負傷者だぞ?消去法で俺しかいないだろ?」
「いや……そういうことではなくてですね」
「誰がチビだ」
『誰が運動不足だぁ?』
『まだ還暦かんれきは迎えてませんよ』
「電話切ってなかったのかよ」

貴大は真面目な顔だ。……ふざける雰囲気ではない。

「失敗すれば死にます。確実に。死ぬだけならまだ楽でしょう。ですが――」
「何回も聞いた。そうだな……失敗したらその時に作戦を考えたらいいさ」

ふざける雰囲気ではない――のだが、八重は軽く答えた。

「どんな結果にせよ。時雨は死なさない。ここでアイツを倒しきる」

軽い。軽い言葉だ。とても人の命を預けられる声じゃない。しかし――なぜだか安心する。心の底から暖かくなる。『この人なら自分の命を託せる』と思える。

だから貴大は笑った。それは馬鹿にするようにも見えた。それは意図せず出てしまったようにも見えた。

「……不思議な人ですね。貴方は」
「変な人の間違いでしょ?」
「変な人でも彼女ができてるのにお前ときたら……」
「あ?」

背中……は時雨がいるので、腹に捻りを加えたボディブローをぶちかます。

「ぐぇ!?威力考えろよバカ!」
「人が気にしてること言うのが悪いんでしょ!」
「こ、こらこら喧嘩はやめてください」
『始まる前から喧嘩してどうするんですか』
『まぁ……らしいと言えばらしいけどな』
「まだ電話切ってなかったんかい」

明るい。とても死が近づいている様子とは思えないほど明るい。――いいのだ。これで。明るくないとやっていけない。

「……気合いは入った?」
「ちょっと気合いが漏れるくらいにはな」
「じゃあよし。時雨も大丈夫?」
「実は私の方にも衝撃がきてた……」
「それはごめん」

――気合いは入った。準備も完了した。あとは実行するだけ。運命の終着点はもうすぐそこまで来ている。

目的は『時雨を救う』ことのみ。あとは一切を忘れろ。小屋から一歩踏み出せば終わりが始まる。

「――――――行くぞ」

――最後の決戦。そのフィールドへと入場した。

「……うん」
「オッケー」
「はい」
『応』
『了解』

最高の仲間を引き連れて――。
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