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第2章
100.ウェデルの決意
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ウェデルの姿を見て、カイラたちの視線が鋭くなった。ウェデルの突然の来訪に、警戒が走るのも無理はない。そんな中、ウェデルがリアに向かってぽつりと口を開いた。
「……この間は、勘違いして……失礼なことをしてしまって、すまない」
それはまるで同級生に謝るような、ぞんざいで、王族に対する言葉とはとても言えない調子だった。その様子に、ヒナが声を荒げる。
「なにその言い方!相手を誰だと思って…!」
だがリアは笑って制した。
「いいんだ、ヒナ」
リアはウェデルを真っ直ぐ見つめる。
「対等な立場を崩さずに謝罪するというのは、かえって本当の謝意の表れだ。……ウェデル、その謝意、受け取るよ。」
ウェデルの目が驚きに見開かれる。
「でも──」と、リアは少し笑みを含ませた表情で言葉を続けた。
「ティルナに振り向いてほしいなら、家の威信なんかじゃなく、自分を磨けばいいじゃないか。男として、誇れる自分を作ればいいさ。そして、彼女から声をかけたくなるような男になるんだ。お前ならできるさ」
それを聞いたノーグが、リアのぽつりと呟いた。
「……まるで、教師みたいですね」
ウェデルはリアの言葉に何とも言えないような顔をし、深く頭を下げた。そして、ここに来た理由を話す。
「──オグド家は、捨ててきた」
一瞬、空気が止まる。シャリスもアレスも驚いたように顔を上げ、カイラが眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「中で話す」
ノーグが先にギルドに入り、裏口からほかのメンバーが入った。話題にできるだけならないようにするためだ。ギルド内の奥の個室に通された一同。リアたちはウェデルを囲むように腰を下ろし、その言葉を待った。ウェデルは、重たい口を開く。
「父──ウァリウスは、俺に命じた。『リア王子の側につき、情報を流せ』と。スパイをしろと、そう言った」
カイラが驚き目を見開く。ヒナも眉を吊り上げるが、ウェデルは続けた。
「だが、その命令の中で……父は言ったんだ。今年のいけにえは、ティルナだって」
ノーグが息を呑む。
「ウェデルは知らなかったの?!」ノーグの質問にウェデルは頷いた。
「ああ。元々オグド家…父が何を考えているかなんて俺は聞いてない。村の政治にも参加はしていなかった。継がせるつもりがないんだろうな。」自虐的に笑うウェデル。しかしそのすがたは悲痛なようにも見える。
「その時…ティルナのことを聞いたとき、俺は決めた。このまま父に従っていたら、ティルナが死んでしまう。そんな命令、従えるわけがない。……だから、スパイを装ってこっちに来た。……ティルナを救いたい。父を裏切ってでも」
リアはウェデルの体から放たれるオーラを見た。緑──真実。桃色──恋慕。そして、もう一色……淡い銀色。決意。
「嘘はついていない」
リアは静かに言った。
「彼の心は本物だ。信じよう」
ヒナとカイラが顔を見合わせる。しばしの沈黙ののち、カイラが苦笑した。
「……本気なら、それはそれで大変だけどな。いいのか?この村にいられなくならないか?」
「ああ。ティルナを救ったら、俺はこの村を出るつもりだ。ティルナが来てくれることは…ないだろうけど」
すると、ノーグが口を開いた。
「……オグド家を捨てたって、本当にすごいことなんですよ。あの家は、多分裏切りを許さない。」
その言葉の意味すること。ウェデルはこの村を出ることがかなわない可能性もあるということだ。ウェデルは肩をすくめた。
「俺の人生、自分で選びたくなっただけさ」
リアは小さく頷き、話をまとめにかかる。
「さて、ティルナを助けるには、村政の目を欺かねばならない。ウァリウスの信頼をまだ持っている君に、できることがあるかもしれないな」
ウェデルは座り直し、真剣な表情で言った。
「俺が二重スパイになる。父にはスパイとしてのふりを続けつつ、リグレン家にアクセスするよ。ティルナは俺が助ける。」
リアが深く頷いた。
「──その作戦いいな。じゃあそれを全力で支援するとしよう」
この時、開拓団は強力な助っ人を手に入れた。
「……この間は、勘違いして……失礼なことをしてしまって、すまない」
それはまるで同級生に謝るような、ぞんざいで、王族に対する言葉とはとても言えない調子だった。その様子に、ヒナが声を荒げる。
「なにその言い方!相手を誰だと思って…!」
だがリアは笑って制した。
「いいんだ、ヒナ」
リアはウェデルを真っ直ぐ見つめる。
「対等な立場を崩さずに謝罪するというのは、かえって本当の謝意の表れだ。……ウェデル、その謝意、受け取るよ。」
ウェデルの目が驚きに見開かれる。
「でも──」と、リアは少し笑みを含ませた表情で言葉を続けた。
「ティルナに振り向いてほしいなら、家の威信なんかじゃなく、自分を磨けばいいじゃないか。男として、誇れる自分を作ればいいさ。そして、彼女から声をかけたくなるような男になるんだ。お前ならできるさ」
それを聞いたノーグが、リアのぽつりと呟いた。
「……まるで、教師みたいですね」
ウェデルはリアの言葉に何とも言えないような顔をし、深く頭を下げた。そして、ここに来た理由を話す。
「──オグド家は、捨ててきた」
一瞬、空気が止まる。シャリスもアレスも驚いたように顔を上げ、カイラが眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「中で話す」
ノーグが先にギルドに入り、裏口からほかのメンバーが入った。話題にできるだけならないようにするためだ。ギルド内の奥の個室に通された一同。リアたちはウェデルを囲むように腰を下ろし、その言葉を待った。ウェデルは、重たい口を開く。
「父──ウァリウスは、俺に命じた。『リア王子の側につき、情報を流せ』と。スパイをしろと、そう言った」
カイラが驚き目を見開く。ヒナも眉を吊り上げるが、ウェデルは続けた。
「だが、その命令の中で……父は言ったんだ。今年のいけにえは、ティルナだって」
ノーグが息を呑む。
「ウェデルは知らなかったの?!」ノーグの質問にウェデルは頷いた。
「ああ。元々オグド家…父が何を考えているかなんて俺は聞いてない。村の政治にも参加はしていなかった。継がせるつもりがないんだろうな。」自虐的に笑うウェデル。しかしそのすがたは悲痛なようにも見える。
「その時…ティルナのことを聞いたとき、俺は決めた。このまま父に従っていたら、ティルナが死んでしまう。そんな命令、従えるわけがない。……だから、スパイを装ってこっちに来た。……ティルナを救いたい。父を裏切ってでも」
リアはウェデルの体から放たれるオーラを見た。緑──真実。桃色──恋慕。そして、もう一色……淡い銀色。決意。
「嘘はついていない」
リアは静かに言った。
「彼の心は本物だ。信じよう」
ヒナとカイラが顔を見合わせる。しばしの沈黙ののち、カイラが苦笑した。
「……本気なら、それはそれで大変だけどな。いいのか?この村にいられなくならないか?」
「ああ。ティルナを救ったら、俺はこの村を出るつもりだ。ティルナが来てくれることは…ないだろうけど」
すると、ノーグが口を開いた。
「……オグド家を捨てたって、本当にすごいことなんですよ。あの家は、多分裏切りを許さない。」
その言葉の意味すること。ウェデルはこの村を出ることがかなわない可能性もあるということだ。ウェデルは肩をすくめた。
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リアは小さく頷き、話をまとめにかかる。
「さて、ティルナを助けるには、村政の目を欺かねばならない。ウァリウスの信頼をまだ持っている君に、できることがあるかもしれないな」
ウェデルは座り直し、真剣な表情で言った。
「俺が二重スパイになる。父にはスパイとしてのふりを続けつつ、リグレン家にアクセスするよ。ティルナは俺が助ける。」
リアが深く頷いた。
「──その作戦いいな。じゃあそれを全力で支援するとしよう」
この時、開拓団は強力な助っ人を手に入れた。
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