エレンディア王国記

火燈スズ

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第2章

101.暗殺計画

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 夜のオグド家の書斎。重厚な机の前に座るウァリウスは、杯を片手にウェデルの報告を聞いていた。ウェデルは表情を抑えつつ、これまで開拓団内で見聞きした情報を語る。

「リア王子は、どうやら信仰や神殿の調査に注力してるようです。ティルナの件には深く関与してない。村の構造そのものに関心があるようでした」

 ウァリウスは鼻で笑った。「なるほど、つまりは理屈だけの小僧か。何も見えておらん。エレンディア開拓も難航するだろうな。」

「ノーグの動向も、特に警戒されていません。リア王子は彼女の忠誠心には理解を示していますが、子どもとして扱っているように見えた」

 ウァリウスは杯を置き、満足げにうなずいた。

「つまり、あやつらは計画を何も知らん。よろしい。ならば──すべて計画通りに運ぶ」

 書斎の机の引き出しから、彼は一枚の羊皮紙を取り出す。そこには、翌日の祭りと神殿訪問に関する行動予定が記されていた。

「明日、神殿の調査に王子たちが訪れる……そして、祭りもその日であったな」

 彼の目が細くなり、不気味な笑みが浮かぶ。

「神殿の中で閉じ込め、奴らを暗殺する。我が配下の精鋭をもってすれば、逃すことなどない」

 さらにウァリウスは、にやりと笑って言葉を続けた。

「……仮に失敗しても問題はない。夜の祭りで殺せばいい。どのみち、生きて帰すつもりなどないのだからな」

「父上、私は…」

 ウェデルの質問にウァリウスは冷たく言い放つ。

「今回のことはよくやったと言っておこう。しかし、余計な仕事を増やしたお前はまだ働いてもらう。これも社会勉強と思うのだな。明日はギルドの人間が祭りの準備をするだろうから、そこに手を貸し、いつでも行動できるようにしておけ。」

「はい、父上。」

 ウェデルは深く頭を下げたが、その目は決して笑っていなかった。

 ウェデルはその後すぐにギルドに向かう。開拓団が一室に集まる。

「──神殿での調査が明日。そして祭りも同じ日。父は、その二つの行事に王子たちが揃って参加するのを利用して、一気に暗殺するつもりだ」

 ギルドの空気が凍りつく。リアは静かに頷いた。

「予想通りだな。祭りの喧騒に紛れて……完璧な計画だと思っている」

「だからこそ、逆手に取るべきだ」ウェデルは前を向いて言った。

「兵を大量に神殿側に動かすとなれば、リグレン家の警備は確実に手薄になる。その隙に、俺がティルナを救出する」

 その言葉に、ヒナが反論しかけたが、リアがそれを制し、口を開いた。

「ウェデル。一人で行く気だったのか」

「ああ。……ティルナを救うために家を捨てたんだ。俺が助け出す。」

 その瞳は迷いがなかった。リアは少しだけ頷くと、カイラに目を向けた。

「カイラ、同行してくれ」

「承知しました」

 短く返したカイラは、ほんの少しだけ口元を緩めてウェデルを見る。

「……家を捨ててまで想い人を助けに行く男、悪くない」

 ウェデルは照れ隠しのように鼻を鳴らした。

「…足引っ張るなよ。」

 そのやり取りにノーグが微笑む。リアは皆の顔を見渡し、静かに言葉を続けた。

「俺たちは神殿に向かう。俺、ヒナ、アレス、ケニー、ルテラ、シャリス──そして護衛役としてカイラを抜くが、戦力は十分だ。神殿での動きを封じて、祭りの裏での計画を暴く。ノーグはあくまでいつも通り、ギルドで過ごしていてくれ。何かが起きたときにすぐ動けるようにな。」

 ノーグが小さく拳を握る。「明日、必ず終わらせましょう」

 リアは全員の目を見て、力強く言った。

「ティルナを、必ず救い出す。そのために──この機を逃さない」

 その言葉に、全員がうなずいた。明日、ケルナ村の運命を変える一日が、幕を開けようとしていた。
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