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第2章
102.地下神殿
しおりを挟む翌朝、空気はひんやりとしており、まだ陽の光が村全体を照らしきってはいなかった。リアたちは早朝から準備を整え、宿を出発した。ギルド前で一度集合し、最後の確認を済ませると、神殿調査のためオグド家へと足を運んだ。
オグド家の屋敷門が重々しく開かれると、出迎えたのは当主ウァリウス=オグドその人だった。黒と金の刺繍をあしらった衣装に身を包み、表面上は丁寧な笑みを浮かべている。
「リア殿下、ようこそ。我が家へ」
だが、その目はまるで冷たい石のように感情を感じさせなかった。リアは心の中でその様子を皮肉った。
(もう勝ったつもりか? その顔じゃ「さっさと死んでくれ」と言っているようなもんだな)
リアたちはウァリウスの案内を受け、屋敷の中央にある地下へと続く石階段へと向かった。そこには、鉄製の門があり、その先に神殿が広がっているらしい。
「殿下の護衛のため、我が家の兵を数名お付けします」
そう言って、ウァリウスは四人の兵士を紹介し、自身は屋敷の中へと戻っていった。
「お気をつけて。神聖な場所ですので、粗相なきよう」
最後まで微笑みを崩さず、去っていくウァリウス。その背を見送りながら、リアは心中で深く警戒心を募らせた。
神殿へと向かう道は、石造りの回廊を進んだ先にあった。暗がりに松明が灯され、苔むした壁からは湿気が漂ってくる。
しばらく進んだ先、案内役の兵士が立ち止まり、右奥の小部屋を指さした。
「まずはこちらを調査されては」
リアは一瞬だけ視線を鋭くし、兵士たちの動きを観察した。兵士たちから黒いオーラが現れる。無言のジェスチャーで、背後の仲間たちに殺気を伝える。全員が静かに頷き、腰の武器に手を添えた。
小部屋には装飾らしきものもなく、ただ古びた壁面に複雑な彫刻が施されているだけだった。皆が部屋に足を踏み入れた瞬間──
「バタン!」と重々しい音を立てて、背後の石扉が閉ざされた。
直後、兵士たちが剣を抜くそぶりを見せたが、リアたちの方が一枚上手だった。シャリスの短剣が一閃し、アレスの拳が兵士の顎を砕く。カイラの素早い一撃で、瞬く間に全員が無力化された。
「──全滅。扉が開くのを待とう」リアが静かに言う。
全員が部屋の隅に身を寄せ、数分間待機した。やがて、外からゴゴゴという鈍い音が響き、石扉がゆっくりと開いていく。
リアたちはその隙を逃さず、一斉に飛び出した。通路に待機していた他の兵士たちも同様に始末し、ようやく神殿内部の探索に移ることができた。
さらに進んだ先には、大きな広間が広がっていた。そこには天井まで届くような巨大な壁画が描かれている。
ルテラが一歩前に出て、食い入るように壁画を見つめた。
「これは……王たち……?」
壁画には、黒髪に青い目を持つ王と、赤髪に青い目の王が描かれていた。最初は手を取り合い、共に王座に立っている。しかし、途中から背に白い羽を持つ人間が現れ、赤髪の王に何かを囁く場面が続く。そして次の場面では、赤髪の王が黒髪の王を裏切り、追放している──そんな物語が描かれていた。
それを見ていた時、突如ルテラの表情が変わる。何かに気づいたようだ。リアがルテラを見る。
「どうした?何か見覚えでも…?」
「いえ、そういえば、ティグリス家にある家系図のタペストリーに書かれている絵と同じ絵柄というか…」
そこまで言って、ルテラは息をのむ。
「……思い出しました。そこに、エレニア王家の祖先と同じ名前が……刻まれていたんです。だから、この村って、エレニア王家と関係が深いのかなって思ってたんですけど…」
リアの目がわずかに見開かれた。
「つまり──この二人の王は、エレニア王国の始祖…いや、ここは古代エレニア王家というべきかもしれないな。」
シャリスが眉を寄せる。
「でも、羽の生えた人間が間に入っているわ……。そんな種族はこの国にはいないはずよ。」
「そうですね…。そんな獣人がいるのかもしれませんが、私も見たことはないです。」ルテラが呟いた。
リアは壁画をじっと見つめた。古代に起きた王たちの分裂──それは、現在のティグノー信仰の状況とも重なるように思えた。
(この村には、複数の権力者がいる。そのうち一つがバランスを崩せば…)
静まり返った神殿の広間に、彼の思考だけが静かに響いていた。
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(追記2018.07.26)
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