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第1章
4.シャリスという少女
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「シャリス様、リア様がいらっしゃいました」
アルマがノックをし、扉を開ける。ここは王城の南側の塔。シャリスの部屋がある場所だ。ノックをしても反応はない。
「…はあ…。まだその状態で…」
アルマがガクッと崩れ落ちる。見るとシャリスは部屋の隅で体育座りをしている。
「…私なんてどうせ宣誓の順番を間違えたり歩く途中でこけたり言葉忘れたり内容を笑われたりするのよ…」
リアはシャリスの普段以上のネガティブっぷりについ苦笑してしまう。それをシャリスは見て顔を膝にうずめてしまった。その姿を見て、リアはなぜか懐かしい気持ちになる。
(こんな子ども、どこかで見た気がするな…いや、気のせいか。でも…)
「私なんて王位継承権剝奪よおおお…」
「いや失敗して剥奪はされないし、そもそも王位継承する気ないだろ?」リアが優しくつっこみ、シャリスの手をつかんで引っ張り上げる。
「いいかシャリス。ちょっと真面目に話すぞ。」リアが真剣な目でシャリスを見た。シャリスの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、リアの目を見て小さくうなづいた。
「俺たち王族には、信じてついてきてくれる従者たち、期待している派閥の人々、そして命を預けてくれるこくみんたちがいるんだ。自分が苦手なことだからと言って逃げちゃだめなんだ。…わかってるんだろ?もう。」
リアの言葉にシャリスは顔をくしゃくしゃにする。
「わかってるわよおおお…。でも…でも…」
「緊張するんだよな、わかる、わかるよ。でも今に始まったことじゃない。そうだろ?」
「…うん。」
「シャリスはやるときはやる子。大丈夫だって。失敗しても次は俺が宣誓する番だし、フォローするから。」
「うぅ…ありがとうリアああ…」
ヒナは泣きじゃくるシャリスとなだめるリアをみてどちらが年上だか忘れてしまう。
(それにしてもリア様は人をなだめるのがうまいというか、王族としての威厳、なのでしょうか?)
そしてヒナは知っている。リアの話術のことだけでなく、シャリスという王女の真骨頂はここからであるということを。
シャリスは涙をぬぐい、決意した目でアルマに声をかける。
「アルマ、化粧をし直すわ。手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんです!」
シャリスはリアとヒナに向き合って軽くお辞儀をした。
「ありがとう、リア。それにヒナ。」
「そんな、私は何もしていません!」ヒナが慌てて手を振ると、シャリスは笑ってヒナの頭に触れた。
「リアを連れてきてくれた。それだけで十分なの。ありがとうね。…ではリア、謁見の間で。」
「ああ。後でな。」
シャリスとアルマが奥の部屋に去っていくのを確認して、二人は部屋の外に出た。
「一緒に行くんじゃなかったんですか?」
「ぐずぐずするかなと思ったからああいっただけさ。ひとりで行けるならその方がいい。精神統一もできるしな」
「そんなことするのリア様だけです。」
「そんなことないだろ、…いやそうかもな。」リアが嫌味に笑う。ヒナはその意味を察し、ふふふ、と笑った。
リアの兄弟たち、エレニア王国の王子たちはとにかく自信家な人物が多い。精神統一なんかするはずもなく、自分が常にナンバーワンだと思っているのだ。
「リア様、そろそろ…」
「ああ、そうだな。行くか。」
リアは頬をぱちんとたたき、王城中央の大広間の奥、『謁見の間』に向かい歩き始めた。
アルマがノックをし、扉を開ける。ここは王城の南側の塔。シャリスの部屋がある場所だ。ノックをしても反応はない。
「…はあ…。まだその状態で…」
アルマがガクッと崩れ落ちる。見るとシャリスは部屋の隅で体育座りをしている。
「…私なんてどうせ宣誓の順番を間違えたり歩く途中でこけたり言葉忘れたり内容を笑われたりするのよ…」
リアはシャリスの普段以上のネガティブっぷりについ苦笑してしまう。それをシャリスは見て顔を膝にうずめてしまった。その姿を見て、リアはなぜか懐かしい気持ちになる。
(こんな子ども、どこかで見た気がするな…いや、気のせいか。でも…)
「私なんて王位継承権剝奪よおおお…」
「いや失敗して剥奪はされないし、そもそも王位継承する気ないだろ?」リアが優しくつっこみ、シャリスの手をつかんで引っ張り上げる。
「いいかシャリス。ちょっと真面目に話すぞ。」リアが真剣な目でシャリスを見た。シャリスの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、リアの目を見て小さくうなづいた。
「俺たち王族には、信じてついてきてくれる従者たち、期待している派閥の人々、そして命を預けてくれるこくみんたちがいるんだ。自分が苦手なことだからと言って逃げちゃだめなんだ。…わかってるんだろ?もう。」
リアの言葉にシャリスは顔をくしゃくしゃにする。
「わかってるわよおおお…。でも…でも…」
「緊張するんだよな、わかる、わかるよ。でも今に始まったことじゃない。そうだろ?」
「…うん。」
「シャリスはやるときはやる子。大丈夫だって。失敗しても次は俺が宣誓する番だし、フォローするから。」
「うぅ…ありがとうリアああ…」
ヒナは泣きじゃくるシャリスとなだめるリアをみてどちらが年上だか忘れてしまう。
(それにしてもリア様は人をなだめるのがうまいというか、王族としての威厳、なのでしょうか?)
そしてヒナは知っている。リアの話術のことだけでなく、シャリスという王女の真骨頂はここからであるということを。
シャリスは涙をぬぐい、決意した目でアルマに声をかける。
「アルマ、化粧をし直すわ。手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんです!」
シャリスはリアとヒナに向き合って軽くお辞儀をした。
「ありがとう、リア。それにヒナ。」
「そんな、私は何もしていません!」ヒナが慌てて手を振ると、シャリスは笑ってヒナの頭に触れた。
「リアを連れてきてくれた。それだけで十分なの。ありがとうね。…ではリア、謁見の間で。」
「ああ。後でな。」
シャリスとアルマが奥の部屋に去っていくのを確認して、二人は部屋の外に出た。
「一緒に行くんじゃなかったんですか?」
「ぐずぐずするかなと思ったからああいっただけさ。ひとりで行けるならその方がいい。精神統一もできるしな」
「そんなことするのリア様だけです。」
「そんなことないだろ、…いやそうかもな。」リアが嫌味に笑う。ヒナはその意味を察し、ふふふ、と笑った。
リアの兄弟たち、エレニア王国の王子たちはとにかく自信家な人物が多い。精神統一なんかするはずもなく、自分が常にナンバーワンだと思っているのだ。
「リア様、そろそろ…」
「ああ、そうだな。行くか。」
リアは頬をぱちんとたたき、王城中央の大広間の奥、『謁見の間』に向かい歩き始めた。
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