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第一章 ヴァルム試験国家編
第四話 いざ、ヴァルム砦へ
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夜明け前の冷気は、死んだように沈黙した森の底をすべり落ちていた。宿場町で一晩横になったが、眠れたとは言えない。硬い寝台の上で、父の息の途切れる気配と、馬車が崖へ落ちていく音だけが、耳の奥で何度も再生されていた。目を閉じても、瞼の裏には炎と煙の色しか浮かばない。燃えた革の匂いが、まだ鼻の奥にこびりついている気がする。夜具に染みついた安酒の匂いが、それに薄く蓋をしているだけだ。
日の出の光が窓の縁をかすめた瞬間、シュアラは宿屋を出た。脈拍はまだ速い。だが足は迷いなく、山へ続く道を選ぶ。迷っている暇は、昨夜のうちに使い切っている。
──信頼できるものが、この周囲には存在しない。
帝国本街道には人が多い。人が多ければ、“意図を持った誰か”も紛れ込める。乗合馬車は速いが、停車位置も速度も他人任せだ。昨夜、床下から漏れ聞こえた噂──「侯爵親子は丸焼け」「殿下の静養は事故扱い」──その軽さが、むしろ処理の手際の良さを物語っていた。
事故という言葉は、帳簿の上では一行で済む。
現実では、崖下の死体と、焼け残った靴と、煤けた髪飾りが要る。
それでも、人々は簡単な方の一行を信じる。
だから街道は捨てた。それは計算ではなく、生存のための選択だった。
宿場町の裏手から伸びる細い荷馬車道へ足を踏み入れる。古い地図では点線で記された山沿いの細道だ。霧が地表を這い、木の間を抜ける風は冷たく湿っている。人の声も、蹄の音も、鉄の打ち鳴らしもない。聞こえるのは、葉に落ちる水滴と、自分の足音だけ。
(……日照角度、木々の密度、傾斜。さっき測った影より長い。地図の記載ミスか、私の読み違いか……いや、誤差は二度以内。まだ許容範囲)
紙片の簡易地図と影の角度を照合しながら進む。けれど、森は地図よりも気まぐれだ。倒木、獣道、崩れた斜面。一定でない地形が、少しずつ計算を狂わせていく。
歩みがわずかに鈍る。湿った土が足裏をとらえ、歩幅が乱れる。靴底にまとわりついた泥の重さが、数字には乗らない負荷として身体に蓄積していく。心臓が、計算も帳簿も無視して勝手に早鐘を打ち始める。
(──外での移動経験が足りない。分かっていたのに、机の上で数字だけ眺めて、反省したふりをしてきた)
帳簿で認識していた欠点が、今は足首の重さとして実感に変わっていた。認識は正しい。だが、今すぐ修正する手段はない。歩き続けるしかない。その焦りが、ほんの僅かに身体の動きを乱した。
その僅かが、森では致命的になる。
ガサ──。
乾いた枝が折れる音。獣にしては高すぎ、人間にしては体重が乗っていない位置。一歩、こちらを覗き込んで、まだ決めかねている足音。
判断がまとまる前に、右足首が強く引かれた。
地面に叩きつけられ、湿った土が頬を打つ。肺から空気が抜け、視界が一瞬白くはじける。耳の奥で、崖を落ちる馬車の軋みが、現実と重なってよみがえった。足首を締めつける感触は、冷たい指だった。
枯葉をかき分けて這い出してきたのは、泥にまみれた兵士だ。裂けた革鎧には、乾ききらない血が黒くこびりついている。頬はこけ、唇の端にはひび割れた血の膜。荒い息に混じるのは、古い脂と鉄の匂い。痩せた顔に浮かぶのは、理性よりも飢えに近い光。
(橙色の布……小領主の私兵か、蛮族の斥候。いずれにせよ、言葉は通じない)
思考が結論へたどり着くより早く、男はシュアラの腰から短剣を奪い取った。鞘から抜かれた刃が、泥と唾で濡れた光を返す。遅い。けれど、一直線にこちらへ滑り込んでくる。湿った鉄の匂いが、鼻先まで迫った。
シュアラは横へ転がる。落ち葉が服にまとわりつき、腕が土に沈む。冷たさが、遅れて皮膚に沁みてくる。足が倒木に触れ、バランスが崩れた。倒れながら、父の「外歩き用の靴底はもう一段厚くしろ」という小言が、場違いに頭をよぎる。喉に上がった息が、咳にも悲鳴にもならず途中で引っかかる。
(……起き上がれない。足が利かない。この一手で、詰む)
そうと悟った途端、呼吸の仕方が変わった。吸う量を最低限まで削り、動きに回す。背後から、湿った息遣いが迫る。短剣の影が視界の端を横切る。
もう間に合わないと理解し、ここまでかと自分の思慮の浅さを呪っていたとき――
それはきた。
「……ッがッ!」
肉を叩き潰す鈍い音が、森に跳ねた。短剣を振り下ろしかけていた男の身体が痙攣し、そのまま前のめりに崩れ落ちる。土と血が混じった匂いが、遅れて鼻を刺した。崖下で嗅いだ、あの匂いに似ている。違うのは、今は自分がまだ動けるという一点だけだ。
その背後に、別の影が立っていた。
黒鉄の剣の切っ先から、血が落ちる。長身の男が片手に剣を下げたまま静止していた。擦り切れた鎧に濁った色の外套。それでも、その立ち姿には、一度向けた敵意を最後まで手放さない種類の静かな殺気がある。
目が合う。
「……何をしている」
低く短い声。怒鳴りではなく、状況確認。必要な情報だけを引き出すための、最小限の音量。
シュアラは上体を起こし、泥のついた手を一度握ってから開いた。指の震えが収まるのを待つ。乱れた呼吸を、数を数えながら整える。
「助けてくれて、ありがとう」
声は、自分でも意外なほど平らだった。胸の奥で暴れている何かを、ひとまず喉の手前で押しとどめた結果だ。
少しだけ間を置いてから、続けて告げる。
「代わりに、あなたに手を貸させてください。……ヴァルム砦へ向かっています」
男の眉がわずかに動く。足元の斥候の死体に、一瞬だけ視線を落とす。その視線は哀れみではなく、ただ「片付いた」と確認するのに必要な長さだった。
男は、舌打ちともため息ともつかない短い息を吐いてから言った。
「順番がおかしいな」
吐き捨てるような言い方だが、声の温度は冷えすぎてはいない。
「……立てるか」
問いに即答はせず、シュアラは膝へ体重をかけてみる。足首の痛みを、頭の中で段階に分けて並べる。(歩くのはできる。走るのは、無理)
「はい。歩くくらいなら」
答えを添えてから、差し出された腕を取った。優しさではなく確認のための動作。その指は、必要な力だけを正確に加える。
「ついて来い。ここはもう安全じゃねえ」
男は背を向け、森の奥へ歩き出す。木々の配置を知り尽くした者の足取りで、迷いなく進んでいく。歩幅は大きいが、彼女がぎりぎり追いつける速度に抑えられていた。
(……この男が、カイ・フォン・ヴォルフ)
父の帳簿に記されていた名。敗戦の責任を着せられ、外縁のヴァルム砦へ左遷された指揮官。
しかし、その歩き方は敗軍の将から想像される姿とは違っていた。生き残るための直感と、長く戦場に身を置いた者の警戒が、肩の線や首の傾き一つにまで染み込んでいる。
しばらく、森を進む音だけが続いた。枝を避ける角度も、ぬかるみを踏まない位置も、彼は一度も迷わない。前を行く背中だけが、霧の中で輪郭を保っている。
「さっきの男……あの橙布の兵。あなたの敵ですか」
問いかけてから、シュアラは少しだけ口を閉じる。自分の声がこの森にどれほど浮くか、確かめるための一拍。
カイは振り返らずに答えた。
「……さてな。少なくともヴァルムの敵だ。俺個人の方は、数が多すぎて忘れた」
冗談とも本気ともつかない言い方。だが、背中の筋肉の張り具合は、笑ってはいなかった。
「帳簿上では、支援切り捨て候補の砦と記録されていました」
「知ってるさ。上の連中から見りゃ、ここは切り捨ててもいい端っこの石だ」
カイの声には、怒りよりも疲労が濃い。諦めというほど軽くもない、長く引きずられた重さ。
「しかし、あの斥候にとっては、十分に価値のある獲物に見えたようです」
カイが、わずかに肩を揺らした。笑ったのだと気付くまで、一拍かかった。
「皮肉なこったな。帝都にはいらねえと言われて、敵には欲しがられてる」
「盤面の端は、しばしば全体を支える支点になります。帳簿の見方を変えれば、価値は逆転します」
少しだけ専門用語を混ぜた言い方になったと自覚しながらも、言い直さない。彼がどこまでこの比喩を拾うか、その反応もまた情報になる。
「……難しい言い方をする」
そう言いながらも、カイの声の調子だけは少し柔らいでいた。前を向いたまま、ほんのわずかに歩幅が緩む。
森の密度が薄れたころ、視界の向こうに石造りの外壁が見えてきた。
崩れかけた城壁。剥げた漆喰。歪んだ鉄扉。旗は風にほとんど反応しないほど色褪せている。それでも、砦としての形をぎりぎり保っていた。石の隙間には、かつての補修跡が不恰好に残っている。
「……ヴァルムだ。迷うような場所でもねぇのに、よく森に入ったな」
振り返らぬまま、カイが言う。
「地図の認識が、現地の地形と一致しませんでした」
それだけを答える。崖下での炎や、床下で聞いた噂のことは、ここでは口に出さない。
「らしいな」
短い返答。だが、そこに侮蔑はなく、ただの事実確認だけがある。足元の石の床が湿った冷気を吸い上げ、空気には鉄の匂いが混じっていた。
ここが──帝国の帳簿で死んだ女が、再び生きる場所。
シュアラは呼吸を整え、カイの背を追う。
ヴァルム砦の内部へ。試験国家の盤面へ。
日の出の光が窓の縁をかすめた瞬間、シュアラは宿屋を出た。脈拍はまだ速い。だが足は迷いなく、山へ続く道を選ぶ。迷っている暇は、昨夜のうちに使い切っている。
──信頼できるものが、この周囲には存在しない。
帝国本街道には人が多い。人が多ければ、“意図を持った誰か”も紛れ込める。乗合馬車は速いが、停車位置も速度も他人任せだ。昨夜、床下から漏れ聞こえた噂──「侯爵親子は丸焼け」「殿下の静養は事故扱い」──その軽さが、むしろ処理の手際の良さを物語っていた。
事故という言葉は、帳簿の上では一行で済む。
現実では、崖下の死体と、焼け残った靴と、煤けた髪飾りが要る。
それでも、人々は簡単な方の一行を信じる。
だから街道は捨てた。それは計算ではなく、生存のための選択だった。
宿場町の裏手から伸びる細い荷馬車道へ足を踏み入れる。古い地図では点線で記された山沿いの細道だ。霧が地表を這い、木の間を抜ける風は冷たく湿っている。人の声も、蹄の音も、鉄の打ち鳴らしもない。聞こえるのは、葉に落ちる水滴と、自分の足音だけ。
(……日照角度、木々の密度、傾斜。さっき測った影より長い。地図の記載ミスか、私の読み違いか……いや、誤差は二度以内。まだ許容範囲)
紙片の簡易地図と影の角度を照合しながら進む。けれど、森は地図よりも気まぐれだ。倒木、獣道、崩れた斜面。一定でない地形が、少しずつ計算を狂わせていく。
歩みがわずかに鈍る。湿った土が足裏をとらえ、歩幅が乱れる。靴底にまとわりついた泥の重さが、数字には乗らない負荷として身体に蓄積していく。心臓が、計算も帳簿も無視して勝手に早鐘を打ち始める。
(──外での移動経験が足りない。分かっていたのに、机の上で数字だけ眺めて、反省したふりをしてきた)
帳簿で認識していた欠点が、今は足首の重さとして実感に変わっていた。認識は正しい。だが、今すぐ修正する手段はない。歩き続けるしかない。その焦りが、ほんの僅かに身体の動きを乱した。
その僅かが、森では致命的になる。
ガサ──。
乾いた枝が折れる音。獣にしては高すぎ、人間にしては体重が乗っていない位置。一歩、こちらを覗き込んで、まだ決めかねている足音。
判断がまとまる前に、右足首が強く引かれた。
地面に叩きつけられ、湿った土が頬を打つ。肺から空気が抜け、視界が一瞬白くはじける。耳の奥で、崖を落ちる馬車の軋みが、現実と重なってよみがえった。足首を締めつける感触は、冷たい指だった。
枯葉をかき分けて這い出してきたのは、泥にまみれた兵士だ。裂けた革鎧には、乾ききらない血が黒くこびりついている。頬はこけ、唇の端にはひび割れた血の膜。荒い息に混じるのは、古い脂と鉄の匂い。痩せた顔に浮かぶのは、理性よりも飢えに近い光。
(橙色の布……小領主の私兵か、蛮族の斥候。いずれにせよ、言葉は通じない)
思考が結論へたどり着くより早く、男はシュアラの腰から短剣を奪い取った。鞘から抜かれた刃が、泥と唾で濡れた光を返す。遅い。けれど、一直線にこちらへ滑り込んでくる。湿った鉄の匂いが、鼻先まで迫った。
シュアラは横へ転がる。落ち葉が服にまとわりつき、腕が土に沈む。冷たさが、遅れて皮膚に沁みてくる。足が倒木に触れ、バランスが崩れた。倒れながら、父の「外歩き用の靴底はもう一段厚くしろ」という小言が、場違いに頭をよぎる。喉に上がった息が、咳にも悲鳴にもならず途中で引っかかる。
(……起き上がれない。足が利かない。この一手で、詰む)
そうと悟った途端、呼吸の仕方が変わった。吸う量を最低限まで削り、動きに回す。背後から、湿った息遣いが迫る。短剣の影が視界の端を横切る。
もう間に合わないと理解し、ここまでかと自分の思慮の浅さを呪っていたとき――
それはきた。
「……ッがッ!」
肉を叩き潰す鈍い音が、森に跳ねた。短剣を振り下ろしかけていた男の身体が痙攣し、そのまま前のめりに崩れ落ちる。土と血が混じった匂いが、遅れて鼻を刺した。崖下で嗅いだ、あの匂いに似ている。違うのは、今は自分がまだ動けるという一点だけだ。
その背後に、別の影が立っていた。
黒鉄の剣の切っ先から、血が落ちる。長身の男が片手に剣を下げたまま静止していた。擦り切れた鎧に濁った色の外套。それでも、その立ち姿には、一度向けた敵意を最後まで手放さない種類の静かな殺気がある。
目が合う。
「……何をしている」
低く短い声。怒鳴りではなく、状況確認。必要な情報だけを引き出すための、最小限の音量。
シュアラは上体を起こし、泥のついた手を一度握ってから開いた。指の震えが収まるのを待つ。乱れた呼吸を、数を数えながら整える。
「助けてくれて、ありがとう」
声は、自分でも意外なほど平らだった。胸の奥で暴れている何かを、ひとまず喉の手前で押しとどめた結果だ。
少しだけ間を置いてから、続けて告げる。
「代わりに、あなたに手を貸させてください。……ヴァルム砦へ向かっています」
男の眉がわずかに動く。足元の斥候の死体に、一瞬だけ視線を落とす。その視線は哀れみではなく、ただ「片付いた」と確認するのに必要な長さだった。
男は、舌打ちともため息ともつかない短い息を吐いてから言った。
「順番がおかしいな」
吐き捨てるような言い方だが、声の温度は冷えすぎてはいない。
「……立てるか」
問いに即答はせず、シュアラは膝へ体重をかけてみる。足首の痛みを、頭の中で段階に分けて並べる。(歩くのはできる。走るのは、無理)
「はい。歩くくらいなら」
答えを添えてから、差し出された腕を取った。優しさではなく確認のための動作。その指は、必要な力だけを正確に加える。
「ついて来い。ここはもう安全じゃねえ」
男は背を向け、森の奥へ歩き出す。木々の配置を知り尽くした者の足取りで、迷いなく進んでいく。歩幅は大きいが、彼女がぎりぎり追いつける速度に抑えられていた。
(……この男が、カイ・フォン・ヴォルフ)
父の帳簿に記されていた名。敗戦の責任を着せられ、外縁のヴァルム砦へ左遷された指揮官。
しかし、その歩き方は敗軍の将から想像される姿とは違っていた。生き残るための直感と、長く戦場に身を置いた者の警戒が、肩の線や首の傾き一つにまで染み込んでいる。
しばらく、森を進む音だけが続いた。枝を避ける角度も、ぬかるみを踏まない位置も、彼は一度も迷わない。前を行く背中だけが、霧の中で輪郭を保っている。
「さっきの男……あの橙布の兵。あなたの敵ですか」
問いかけてから、シュアラは少しだけ口を閉じる。自分の声がこの森にどれほど浮くか、確かめるための一拍。
カイは振り返らずに答えた。
「……さてな。少なくともヴァルムの敵だ。俺個人の方は、数が多すぎて忘れた」
冗談とも本気ともつかない言い方。だが、背中の筋肉の張り具合は、笑ってはいなかった。
「帳簿上では、支援切り捨て候補の砦と記録されていました」
「知ってるさ。上の連中から見りゃ、ここは切り捨ててもいい端っこの石だ」
カイの声には、怒りよりも疲労が濃い。諦めというほど軽くもない、長く引きずられた重さ。
「しかし、あの斥候にとっては、十分に価値のある獲物に見えたようです」
カイが、わずかに肩を揺らした。笑ったのだと気付くまで、一拍かかった。
「皮肉なこったな。帝都にはいらねえと言われて、敵には欲しがられてる」
「盤面の端は、しばしば全体を支える支点になります。帳簿の見方を変えれば、価値は逆転します」
少しだけ専門用語を混ぜた言い方になったと自覚しながらも、言い直さない。彼がどこまでこの比喩を拾うか、その反応もまた情報になる。
「……難しい言い方をする」
そう言いながらも、カイの声の調子だけは少し柔らいでいた。前を向いたまま、ほんのわずかに歩幅が緩む。
森の密度が薄れたころ、視界の向こうに石造りの外壁が見えてきた。
崩れかけた城壁。剥げた漆喰。歪んだ鉄扉。旗は風にほとんど反応しないほど色褪せている。それでも、砦としての形をぎりぎり保っていた。石の隙間には、かつての補修跡が不恰好に残っている。
「……ヴァルムだ。迷うような場所でもねぇのに、よく森に入ったな」
振り返らぬまま、カイが言う。
「地図の認識が、現地の地形と一致しませんでした」
それだけを答える。崖下での炎や、床下で聞いた噂のことは、ここでは口に出さない。
「らしいな」
短い返答。だが、そこに侮蔑はなく、ただの事実確認だけがある。足元の石の床が湿った冷気を吸い上げ、空気には鉄の匂いが混じっていた。
ここが──帝国の帳簿で死んだ女が、再び生きる場所。
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