夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO

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記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。

お茶会をします。

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「ハーマヒュール侯爵夫人、お久し振りですわ」
「お久し振りですわ。皆さんお元気だったかしら」

 ジルベルトの誘いでお茶会に参加させてもらうと、ありがたいことに皆さん喜んで迎え入れてくれた。

「パーティにも参加されておりますものね。あの時はご挨拶しかできなかったので、こうやってまたお茶会でお会いできて嬉しいですわ」

 こちらブノワート伯爵夫人。大人しげな雰囲気で、緑色の目の明るい栗色の髪をしている。

「ご夫人とご一緒されている時は侯爵の笑い顔が印象的で、全く違うのだと思いましたわ。二人でいらっしゃると侯爵は雰囲気が違いますものね」

 そしてこちらはアナベル子爵夫人。大きな茶色の目をぱちぱちと瞬かせる、焦茶色の髪の女性。

「不幸も続いてとても心配しておりました。またお会いできて嬉しく思います」

 最後にドミニク男爵夫人。青色の目の金髪でのんびりした雰囲気の女性だ。

 この三人とジルベルト、「わたし」は仲が良かったらしい。他にも何人かいるようだが、まずは一番仲が良い人たちを集めてくれたそうだ。

「不幸もあったけれど、しばらく体調を崩されていたそうよ。きっと疲労が溜まっていたのね。けれど少しずつ外に出られるようになったと言うから、今日は皆とゆっくりできればとお呼びしたの」
「皆さんとご一緒できて嬉しいわ」

 ジルベルトの説明から私は笑顔をつくり、皆の顔を見遣った。三人とも嬉しそうに顔を綻ばせている。
 パーティで挨拶をしたことのある人もいるがそうでない人もいる。話の内容によってはついていけなくなるかもしれないので、ジルベルトが助け舟を出してくれるだろう。
 ジルベルトは目が合うと任せろと言わんばかりに小さく頷いてくれた。

「本当はドローテ子爵夫人をお呼びしようと思っていたのだけれど、最近彼女も忙しいのか連絡がなくって。お誘いのお手紙を出しても返事が返ってこなかったのよ」
「ドローテ子爵夫人でしたら、先頃体調を崩されているようですわよ」

 アナベル子爵夫人が体を机に寄せて小声で言ってきた。外聞が悪い話なのか皆もつい体を寄せる。

「随分と痩せられて、人が変わったようになられたんですわ。私も会った時に驚いてしまって」
「ご病気でもされたのかしら?」

 私が問うと、アナベル子爵夫人はふるふると左右に首を振った。

「医者に行くように言ったのですが、大丈夫との一点張りで。でもご病気だとしか思えない痩せっぷりでしたのよ。ほら、少しだけふくよかな方でしたでしょう? それが、何と言うか、頬がこけてしまって目も虚ろで、とても健康には見えませんでしたの」
「私が前にお会いした時も、少しだけ痩せておりましたわ」

 ブノワート伯爵夫人はもっと前に会ったようだ。その時はそこまで痩せていたわけではなかったようだが、普段より過ぎるほど元気で、空元気ではないかと思ったほどだったそうだ。

「声を荒げる方ではなかったではないですか。お話に楽しんでいらっしゃったのでしょうけれど、話していくうちに興奮され、笑い転げるような大きな笑い方をされて、周りにいた方々も心配していらっしゃいました」
「お酒でもお召しになっていたのですか?」
「夕食時だったので、深酒をされて気が大きくなってしまったのやもしれませんが、それにしてもいつもと雰囲気が違って、狂喜的と申しますか……」
「体調が悪くても好きな酒を口にして悪酔いしてしまったのかしらね? それにしても、そこまでだとどこか気の病でも患ったのではと心配してしまいますわね」

 ジルベルトは付け加えた。目配せからお酒の強い方だったと推測する。

「王宮でのお仕事で何かあったのではないでしょうか。王妃様付きの侍女に推薦されてかなり緊張されていましたし」

 ドミニク男爵夫人の言葉に私は顔を上げる。ドローテ子爵夫人は王妃の新しい侍女として呼ばれたが、王宮の仕事に不安があったようだ。

「あ、それでしたら、夢中になれるものができたとおっしゃられていましたわ。何の趣味かは伺っても教えていただけなかったんですけれども。今度教えてくださると言って、それから会っておりませんが」

 アナベル子爵夫人は思い出すように語った。しかし、夢中になったことができたからと言って痩せていくのは、少々のめり込みすぎではなかろうか。

「王宮で夢中になれるものって何かしら……?」

 ジルベルトが眉を顰める。王宮で働けば面倒ごとしかない。と言いたげな顔である。

「素敵な殿方でもいたのではないかと」

 と発言して、何でもありませんとアナベル子爵夫人は小さくなって首を振った。
 この国では不倫は許容されているが、夫を持つ女性の姦通罪は厳しく見られる傾向がある。場合によっては罪になることもあった。

「そういえば、王太子殿下のご婚約はまだなのでしょうか」

 話が悪いと見てドミニク男爵夫人が話を変える。ミカエル王太子殿下は結婚している年齢にも関わらず婚約はまだだ。幼い頃は婚約者候補がいたらしいが、今は白紙である。

「……水面下で動いている可能性はあるのではないのかしら?」

 ジルベルトが含んだ言い方をした。私は何となくでもそれを察する。
 王太子殿下には敵が多い。表立って候補を募ると邪魔が入るのだろう。そうならないように婚約の発表は候補と知られる前に行うのではないだろうか。

(第二夫人の邪魔でもあるのでしょうね……)

 そうであろう、ブノワート伯爵夫人も微妙な顔をした。

「候補の方はいらっしゃるのでしょうけれど、王妃や王太子殿下、信頼できる者たちだけで動いていらっしゃると思いますわ。それでも殿下に似合う候補などはそうおりませんから、他国から連れて来るのではという噂はございます」
「他国の王女を迎えてまた一騒動起きれば、大事になるのではないでしょうか?」

 アナベル子爵夫人の言葉に皆が口を閉じる。どうやらまずいことを口にしたようだ。
 つまり、前に王太子殿下の婚約者候補に何かあったのだろう。

「最近は王の体調もよろしくないと耳にしますし、早くご婚約が決まればよいですわね」

 ブノワート伯爵夫人が障りなくしめて、お茶会の会話は王太子殿下の話から逸れたのだ。




「ふう、何とか気付かれなかったようね。今日はどうだった?」
「楽しかったわ。皆さん思ったより政治のお話が好きなのね」

 皆が帰路につき私だけが残ると、ジルベルトは少し息を吐いて私に問うた。
 王太子殿下の話は婚約話以外出なかったが、第二夫人派の話はよく出てきた。皆が王妃派とは聞いているが、反対派の情報は皆で共有しているように思える。

「最近は特に第二夫人の行動が目に付くようになっているのよ。第二王子が生まれて派閥を増やしてきているから、どう対抗しようかと皆思案に暮れているのでしょう」
「王妃に何かあれば派閥にも影響が出るものね……」

 王太子殿下に何かあれば侯爵家も煽りを受ける。派閥についても詳しくなければ有益な情報を得てもそれに気付けないかもしれない。お茶会にはこれからもっと積極的に出席し、内情を理解しなければならないだろう。

 記憶を失ったことが悔やまれる。私はもう一度、多くを記憶しなければならないのだ。
 そう心を引き締めていると、ジルベルトがもう一度、ふう、と息を吐いた。

「ジル? 体調でも悪いのですか? そういえば、少々顔色が悪いような。私はもうお暇しますね」
「ああ、大丈夫よ。何だかちょっと体が重く感じただけで。最近たまになるのよ」
「……妊娠とかでは?」
「そういんじゃないわ。医師にも診てもらったから。元気なんだけれど、疲れやすいのよね」

 茶会の始まりに比べれば顔色が青ざめているように見える。人と話して疲れてしまったようだ。
 そんな体調の悪い時にお茶会をお願いして申し訳ない。私はそろそろお暇しようと腰を上げようとした。

「夫から肌が綺麗になるお茶をもらって、それを飲んでいると倦怠感はなくなるのだけれどね」

 ジルベルトはため息混じりに呟くと、もう一度小さく息を吐いた。





「まだ見ているのか?」

 事業についての資料を読んでいると、ラファエウが部屋にやってきた。寝る前まで資料を広げているので少々呆れ顔だ。
 持ってきてくれたミルクをくれると、机にある資料をそっと集める。もう無理はするなと言いたいのだろう。

「許可を出すにも理解が及ばないと、と思いまして」
「そうだな。だが無理はしすぎないでほしい。体を壊しては苦労が水の泡だ」

 ラファエウはお義母様を思い出したのだろうか。物悲しそうな表情を見せたため、私は資料を裏返しにした。

「お茶会はどうだった? 何も、問題なく?」
「楽しい時間を過ごせました。皆さんと仲が良かったことが感じられて、嬉しかったです。ジルベルト伯爵夫人にお礼をしなくては」
「お茶などはどうだろうか。君は良く彼女に珍しいお茶を贈っていたから」

 ジルベルト伯爵からもお茶をプレゼントされていたというのを思い出し、それは良いと賛同して大きく頷く。
 お茶で思い出して、私はお茶会で話題に上がったドローテ子爵夫人の話をした。王妃の新しい侍女として選ばれた夫人に何があったのか、少し気になったのだ。
 ラファエウも私の話を聞いて沈黙した。きっと同じことを考えただろう。どこかで聞いたような話だと、調べることを約束してくれる。

「ジルベルト伯爵のギャンブルの件だが、他にも同じようにのめり込んでいる者がいた」
「何か問題はありましたか?」
「主催者は分かっていないが、場所が時によって変わるのは本当のようだ。王妃派の末端にいる者が参加していた。随分前から参加していたようで、仲間内に金を借りに何度もきていたそうだ」

 その末端の貴族は、周囲に何度も借金を繰り返していたため、妻とも離婚したらしい。
 ラファエウはジルベルト伯爵の行動範囲を調べさせ、会場とされた貴族の家を突き止めて、その男に気付いたわけである。
 会場となっていた屋敷の持ち主はあまり身分の高くない貴族で、場所を提供すればマージンが貰える紹介を得たと語っていた。

「だが、それが誰からの紹介なのかが分かっていない。名を聞いたが偽名だろう」
「ですが、場所を変えてもお客さまは次の場所に向かえるのですよね?」
「それも口伝えで噂のように耳に入るそうだ。どこからか場所が変わったこと教えてくれると」
「では、参加者の中に主催者の仲間が混じっているのですね」
「そうだ。しかし、それが誰なのか分からない。数人が混じっているのだろう。常に同じ人物が場所の変更を伝えにくるわけではないようだから」

 聞いているだけできな臭い。怪しげな集団が主催しているのは間違いなさそうだ。

「ジルに伝えておきます。参加はしないようにと」
「それがいい。犯罪に関わりがないか調べは続けるが、おかしなことに巻き込まれる前に手を引いた方が良いと伝えてくれ」

 私はラファエウの言葉に、神妙な顔をして頷いた。
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