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「ターンフェルトに決まってるでしょう!? なんでそんなにバカなの!? 少しは考えたら!?」
「カロリーナ? なにを怒って。どうしてターンフェルトに帰らなきゃいけないんだ。それに、オレリアは研究所で働けるほどだよ? どうしてそんなことを言うんだい?」
「邪魔なのよ! せっかく侍女になれて、セドリック様のお相手になれるかもしれないって言われたのに! おじさまはずっと怒っていて、話をすることもできないし。このままじゃ、じじいの後妻に、」
「セドリック様の、お相手? どうして。僕と結婚するって」
「はっ。幼馴染を優先するんでしょう? 私のことなんて無視して」
「オレリアは大切な人だよ。でもそれは、ずっとオレリアが僕を守ってきてくれたからだ。姉みたいなものだよ?」
「だから何よ! オレリア、オレリアって、気持ち悪い。いいから連れて帰ってよ。あの女は邪魔なんだから! あの女のせいで、侍女を辞めさせられて!」
「侍女を辞めさせられたのは、パーティで無礼を働いたからだって聞いたよ。カロリーナは嘘をついていたの? 僕、ずっと気になっていたんだ。だから、ここに来るのも、迷っていて」
エヴァンの無神経な言葉に、カロリーナの堪忍袋の尾が切れた。頬を叩いてやれば、エヴァンはバカみたいにぽかんと口を開きっぱなしにする。こんな男のなにがよかったのか。自分の愚かさに笑ってしまう。もう、この男も邪魔だ。誰も彼も、邪魔でしかない。
「連れていかないなら、殺してよ」
ぽそりと呟いた言葉に、カロリーナはなんて名案だと気付いた。それが一番楽な方法だ。二人とも勝手に自滅して、消え去ってほしい。
「なにを、言って」
「せめて、私の役に立ってよ。騎士にしてやったんだから」
エヴァンは話についていけないと、眉を寄せる。
なにもわかっていないことが、愛らしいと思っていたが、今ではバカの極みとしか思えない。
カロリーナは嘲笑した。かわいさで補えるものは、もうない。
「おじさまに頼んだのよ。大切なお友達を騎士になれるように紹介してって。よかったじゃない。王宮で働けて。ターンフェルトから王宮に入れる騎士なんて、今まで何人いたと思う? あなたは末端貴族じゃない。普通に考えて、王宮の騎士に抜擢されるわけがないでしょう」
「そんな。だって、僕は。大会で腕を上げて」
「だから、なによ。騎士見習いとして招かれたのも、騎士として王宮で働けるようになったのも、私のおかげなのよ。私に感謝してよ! 本当だったら、ターンフェルトから離れることもなかったんだから! ほら、早く殺してきてよ。いいでしょ。そうじゃなきゃ、実力で騎士になったんじゃないって、言いふらすわよ!!」
「僕は、実力で王宮の騎士になったんだよ!?」
「ばっかじゃないの!? 私がおじさまお願いしたのよ。私が頼んだから、あんたを王宮の騎士にしてくれたの。お願いすれば、誰でも私の意のままなのよ! そうねえ。本当のことを普通にバラしてもつまらないわね。王宮の騎士になるために、体差し出したって、どう? あんた、顔は可愛いから、納得されるかもよ? 子供の頃から、男にも狙われたでしょ?」
「か、カロリーナ、君、まさか」
「ねえ、エヴァン。純粋で可愛いから側に置いてあげたけれど、私が結婚するのは、セドリック様よ。だから、さっさとあの女を殺してきて!!」
「ぼ、僕は、もう君とは付き合えない。騎士は辞める! 故郷に帰る!!」
エヴァンは怯えるように顔を歪めて、窓から部屋を出ていく。途中転んで、バカみたいに走って逃げた。
「逃げるんじゃないわよ、この意気地無し! 私を裏切る気!?」
やっぱり使えない。カロリーナは吐き捨てるように言った。この苛立ちを、いったい誰が晴らしてくれるのだろう。このまま、本当に年寄りの後妻にされてしまうのか? 義父の医療魔法士を使ったことも気づかれて、もう後はなかった。何をしているのか知っていて、だから、後妻なんて、年寄りの男に嫁がそうとするのだ。
そんなことになる前に、あの女を消したい。
「そうよ。消さなきゃ。もう、あの女に振り回されるのは、こりごり!」
あの女を消して、他の男のように、セドリックを慰めてやればいいのだ。
けれど、全て失敗した。
「ああ。どうしてこんなところにいなきゃいけないの」
牢屋の中で、カロリーナは乱れた髪を、ぐしゃりと握りしめた。
ただ殺したかっただけなのに。邪魔されて、こんなところに入れられる。
薄暗く湿った場所。ドブ臭いうえに冷えて、手足が震えてくる。
靴を取り上げられて、裸足のまま、石の床に座っていなければならない。指先は冷えて、感覚がなかった。
「どうして、こんなことに」
ぶつぶつ呟いても、答える声はない。
部屋に閉じ込められていた時、義父が、嫁ぎ先が決まったと言ってきた。相手はやはり三十も年上で、子供三人。カロリーナより年上の子供たちがいた。
冗談ではない。早く逃げなければならない。それか、セドリックを訪ねて、オレリアがすべて悪いのだと信じてもらわなければならない。
そうすれば、使えない騎士の一人、金髪の騎士が窓からやってきた。いや、もう騎士ではない。牢屋の門番兵になり、毎日下水臭い場所で働いている、役立たずだ。
薬学植物園で、オレリアが研究をしている。きっと毒を作っているに違いない。時折一人になって研究をしているのだから、怪しい。警備はいるが、彼らは気づいていない。あの二人をどうにかして、薬学植物園に入れればいいのに。
そんな話をしながら、まずは植物園を確認するつもりだと意気込む。
馬鹿馬鹿しい。そこで証拠を作ろうともしない、役立たずの話を聞いても、疲れるだけだ。しかし、門番兵は、薬学植物園は人がおらず、なんならあそこであの女を殺してもいいのに。と口にした。
そんなことをしてはいけないと止めれば、それもそうだとすぐにその言葉を撤回する。なんて根性なし。
仕方なく、誘導してあげた。まずは植物園を確認しましょうと。
カロリーナが言うのならば、と言いながら、一緒に植物園に行こうと言い出す始末。
けれど、薬学植物園に行って、殺させる方法はあるだろう。植物園に人はいない。警備が二人と、研究員が数人いるかいないか。門番兵は、この時間はいつも研究員一人とオレリアだけのはず、と言って、植物園に入っていく。隠れながら歩いていれば、エヴァンが走り去っていく。
結局、あの女に会いに行っているのか。うんざりして、あいつも殺したくなってくる。
ここで見つかるのはまずいと、門番兵はカロリーナを連れて、植物園の奥に入る。様子を見てくるからと言っていなくなると、少し経って戻ってきた。
今、薬学植物園には、オレリアしかいない。だから警備を一人、倒した。けれど、恐ろしくなったから、もう戻る。
そんなことを言って、さっさと一人逃げたのだ。
ふざけた男。
だが、ここまで来たのだから、なんとかしたい。逃げた門番兵は放置して、オレリアのいる薬学植物園に行けば、警備は本当に一人しかいなかった。
一人ならばなんとでもできる。音を出して呼び寄せて、後ろから鉢植えで殴りつけた。そして、今度は剣を奪う。
誰か殺してくれないか。死んでくれないと、気持ちが落ち着かない。でも、誰も使えない。だから、自分でやるしかないのだ。
「カロリーナ? なにを怒って。どうしてターンフェルトに帰らなきゃいけないんだ。それに、オレリアは研究所で働けるほどだよ? どうしてそんなことを言うんだい?」
「邪魔なのよ! せっかく侍女になれて、セドリック様のお相手になれるかもしれないって言われたのに! おじさまはずっと怒っていて、話をすることもできないし。このままじゃ、じじいの後妻に、」
「セドリック様の、お相手? どうして。僕と結婚するって」
「はっ。幼馴染を優先するんでしょう? 私のことなんて無視して」
「オレリアは大切な人だよ。でもそれは、ずっとオレリアが僕を守ってきてくれたからだ。姉みたいなものだよ?」
「だから何よ! オレリア、オレリアって、気持ち悪い。いいから連れて帰ってよ。あの女は邪魔なんだから! あの女のせいで、侍女を辞めさせられて!」
「侍女を辞めさせられたのは、パーティで無礼を働いたからだって聞いたよ。カロリーナは嘘をついていたの? 僕、ずっと気になっていたんだ。だから、ここに来るのも、迷っていて」
エヴァンの無神経な言葉に、カロリーナの堪忍袋の尾が切れた。頬を叩いてやれば、エヴァンはバカみたいにぽかんと口を開きっぱなしにする。こんな男のなにがよかったのか。自分の愚かさに笑ってしまう。もう、この男も邪魔だ。誰も彼も、邪魔でしかない。
「連れていかないなら、殺してよ」
ぽそりと呟いた言葉に、カロリーナはなんて名案だと気付いた。それが一番楽な方法だ。二人とも勝手に自滅して、消え去ってほしい。
「なにを、言って」
「せめて、私の役に立ってよ。騎士にしてやったんだから」
エヴァンは話についていけないと、眉を寄せる。
なにもわかっていないことが、愛らしいと思っていたが、今ではバカの極みとしか思えない。
カロリーナは嘲笑した。かわいさで補えるものは、もうない。
「おじさまに頼んだのよ。大切なお友達を騎士になれるように紹介してって。よかったじゃない。王宮で働けて。ターンフェルトから王宮に入れる騎士なんて、今まで何人いたと思う? あなたは末端貴族じゃない。普通に考えて、王宮の騎士に抜擢されるわけがないでしょう」
「そんな。だって、僕は。大会で腕を上げて」
「だから、なによ。騎士見習いとして招かれたのも、騎士として王宮で働けるようになったのも、私のおかげなのよ。私に感謝してよ! 本当だったら、ターンフェルトから離れることもなかったんだから! ほら、早く殺してきてよ。いいでしょ。そうじゃなきゃ、実力で騎士になったんじゃないって、言いふらすわよ!!」
「僕は、実力で王宮の騎士になったんだよ!?」
「ばっかじゃないの!? 私がおじさまお願いしたのよ。私が頼んだから、あんたを王宮の騎士にしてくれたの。お願いすれば、誰でも私の意のままなのよ! そうねえ。本当のことを普通にバラしてもつまらないわね。王宮の騎士になるために、体差し出したって、どう? あんた、顔は可愛いから、納得されるかもよ? 子供の頃から、男にも狙われたでしょ?」
「か、カロリーナ、君、まさか」
「ねえ、エヴァン。純粋で可愛いから側に置いてあげたけれど、私が結婚するのは、セドリック様よ。だから、さっさとあの女を殺してきて!!」
「ぼ、僕は、もう君とは付き合えない。騎士は辞める! 故郷に帰る!!」
エヴァンは怯えるように顔を歪めて、窓から部屋を出ていく。途中転んで、バカみたいに走って逃げた。
「逃げるんじゃないわよ、この意気地無し! 私を裏切る気!?」
やっぱり使えない。カロリーナは吐き捨てるように言った。この苛立ちを、いったい誰が晴らしてくれるのだろう。このまま、本当に年寄りの後妻にされてしまうのか? 義父の医療魔法士を使ったことも気づかれて、もう後はなかった。何をしているのか知っていて、だから、後妻なんて、年寄りの男に嫁がそうとするのだ。
そんなことになる前に、あの女を消したい。
「そうよ。消さなきゃ。もう、あの女に振り回されるのは、こりごり!」
あの女を消して、他の男のように、セドリックを慰めてやればいいのだ。
けれど、全て失敗した。
「ああ。どうしてこんなところにいなきゃいけないの」
牢屋の中で、カロリーナは乱れた髪を、ぐしゃりと握りしめた。
ただ殺したかっただけなのに。邪魔されて、こんなところに入れられる。
薄暗く湿った場所。ドブ臭いうえに冷えて、手足が震えてくる。
靴を取り上げられて、裸足のまま、石の床に座っていなければならない。指先は冷えて、感覚がなかった。
「どうして、こんなことに」
ぶつぶつ呟いても、答える声はない。
部屋に閉じ込められていた時、義父が、嫁ぎ先が決まったと言ってきた。相手はやはり三十も年上で、子供三人。カロリーナより年上の子供たちがいた。
冗談ではない。早く逃げなければならない。それか、セドリックを訪ねて、オレリアがすべて悪いのだと信じてもらわなければならない。
そうすれば、使えない騎士の一人、金髪の騎士が窓からやってきた。いや、もう騎士ではない。牢屋の門番兵になり、毎日下水臭い場所で働いている、役立たずだ。
薬学植物園で、オレリアが研究をしている。きっと毒を作っているに違いない。時折一人になって研究をしているのだから、怪しい。警備はいるが、彼らは気づいていない。あの二人をどうにかして、薬学植物園に入れればいいのに。
そんな話をしながら、まずは植物園を確認するつもりだと意気込む。
馬鹿馬鹿しい。そこで証拠を作ろうともしない、役立たずの話を聞いても、疲れるだけだ。しかし、門番兵は、薬学植物園は人がおらず、なんならあそこであの女を殺してもいいのに。と口にした。
そんなことをしてはいけないと止めれば、それもそうだとすぐにその言葉を撤回する。なんて根性なし。
仕方なく、誘導してあげた。まずは植物園を確認しましょうと。
カロリーナが言うのならば、と言いながら、一緒に植物園に行こうと言い出す始末。
けれど、薬学植物園に行って、殺させる方法はあるだろう。植物園に人はいない。警備が二人と、研究員が数人いるかいないか。門番兵は、この時間はいつも研究員一人とオレリアだけのはず、と言って、植物園に入っていく。隠れながら歩いていれば、エヴァンが走り去っていく。
結局、あの女に会いに行っているのか。うんざりして、あいつも殺したくなってくる。
ここで見つかるのはまずいと、門番兵はカロリーナを連れて、植物園の奥に入る。様子を見てくるからと言っていなくなると、少し経って戻ってきた。
今、薬学植物園には、オレリアしかいない。だから警備を一人、倒した。けれど、恐ろしくなったから、もう戻る。
そんなことを言って、さっさと一人逃げたのだ。
ふざけた男。
だが、ここまで来たのだから、なんとかしたい。逃げた門番兵は放置して、オレリアのいる薬学植物園に行けば、警備は本当に一人しかいなかった。
一人ならばなんとでもできる。音を出して呼び寄せて、後ろから鉢植えで殴りつけた。そして、今度は剣を奪う。
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