幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

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「ああ。なんでこんなことになるのよ。なんで、あいつは生きているのよ!」
 頭を掻きむしり、大声を出せば、コツ。と靴音が響いた。
 ゆっくりと近づいてくるその足音は、目の前で止まる。

「あーあ。本当に襲うとは思わなかったわ」
「は……?」
「今、鍵開けてあげますから。安心してくださいねー」

 間延びした言い方をして近づいてきたのは、あの金髪の門番兵だ。植物園に入って、逃げ出した。
 助けに来てくれたのか。門の鍵を開けて、カロリーナを招く。

「助けにきてくれたのね。うれしいわ!」
「あー。はいはい。こんな感じだ。わかっただろ?」
「え? きゃっ! いった。なにするのよ!」

 カロリーナが門番兵に抱きつけば、門番兵にいきなり押されて、柵にぶつかりながら尻餅をついた。出ようとしたのに突き飛ばされたせいで、また牢の中に入ってしまう。

 薄暗い上に、じめっとした床は冷たく、気分は最悪だ。なにをするのだと見上げれば、門番兵の後ろに、もう一人男が突っ立っていた。黒い前髪が目までかかっていて顔は見えないが、お風呂に入っていないのかプンと匂う。臭すぎて鼻を摘むと、その後ろの黒髪の男がぴくりと動いた気がした。

「がっかりだよ。カロリーナ。お前がこんな女だなんて」
「なんですって?」
 門番兵が罵ってくる。カロリーナは聞き捨てならないと、門番兵を睨みつけた。

「どれだけ男騙して、その体見せてきたわけだ? 笑えるな。クソみたいな女」
「なにを、あんた、まさか」
「あのオレリアって女を殺してやると言ったら、どう出てくるのかと思っていたんだよ。部屋行ったら虫ケラ見るような目で見たくせに、そんなことしてはいけないわ。とか言って、目が爛々じゃないか。警備を一人やったら、どうするかと思えば、本当に自分で行くとはな」
「な、なんですって……?」
「騙されたよ、カロリーナ。屋敷に行って、お前らの会話を耳にしたんだ。エヴァン?」

 門番兵はから笑いをする。あの屋敷に、ちょうどエヴァンが逃げ出す時に話を聞いていて、耳を疑ったと。
 落ち着いて考えて、真実を知るために、再びカロリーナの部屋に行き、オレリアを殺す話をして、カロリーナの反応を待った。頭に血がのぼっているのか、オレリアの話を出せばすぐに食いついて、植物園までついてくる。そうしてわざと逃げてみれば、自ら警備を倒して、オレリアを殺そうとした。

「先に、セドリック様が来るとは思わなかったけれどな」
「どういう意味よ!」
「証拠を残さないとダメだろう? 俺がわざわざ、警備が倒されていると、叫んだんだ。セドリック様は植物園周辺を注視するよう、騎士たちに命じていた。だから、騎士たちが先に来るかと思ったが、その前にセドリック様がやってきた。これほど笑える話はない」
 門番兵はお腹を抱えて笑い出す。後ろにいた黒髪の男は無言だが、門番兵が笑っているのをずっと見ていた。

「あんた、私を騙したの!?」
「騙したのはお前だろう! なにが、オレリアにいじめられて、殺されかけただ! お前があの女を陥れたかっただけだろうが! なにが、ただの幼馴染なのに、妬かれて嫌がらせされただ! エヴァンと恋人同士だったのは、お前だったんじゃないか! その上、セドリック様を狙ってただと!? ふざけやがって!!」

 門番兵が牢を蹴り付けた。ひどく興奮して、辺りは暗いのに青筋が見えるようだった。怒りは激しく、今にも剣を抜きそうな雰囲気さえある。カロリーナは少しだけ後ずさった。
 誰か来ないのか。先程まで他の門番兵がいたのに、どこかへ行って、戻ってきていない。

「ご、誤解よ。どうしてそんなことになるの?」
「まだ誤魔化す気か? ある意味感心する。それで、よくもナヴァール大臣の娘を、陥れようと思ったな」
「……大臣の娘?」
「まだ知らなかったのか!? 同じ故郷じゃなかったのかよ? あの女は、お前みたいな養女じゃなく、本物の大臣の娘だ!」
「そんな、ばかなこと……」

 オレリアが大臣の娘ならば、エヴァンは知っているはずだ。あれだけ仲が良いと自慢して、姉のような努力家の素晴らしい人だと、バカの一つ覚えみたいに言っていたのだから。

「嘘よ。そんなはずないわ!」
「嘘のわけあるか。医療魔法士は知っていた。医療魔法士たちは、みんな知っていたんだよ! ナヴァール大臣の義理の弟が、有名な医療魔法士だからってな! みんな知らないふりをするんだと。この世界はコネだと言われやすいからって。なんなんだそれ! あの髭面の男が、セドリック様だってことも知っていた。ああ、あの女のせいに仕立てようとして、何度も俺を止めたわけだよ! お前の戯言を信じて、周りにあの女はまともに薬草を扱えないと、何度も言って、信じたやつはお前に下心があって、信じなかったやつは、お前が売女だと気づいていたんだ! なんで教えてくれないんだ! わかっていたら、あんなことしなかったのに!!」

 門番兵はぶるぶる震えて、カロリーナのように髪の毛をぐしゃぐしゃにして、しゃがみ込む。
「他にも何人の男と寝たんだよ。吐き気がする。お前みたいなのは、生きている意味もないだろう。ほら、」
 門番兵は後ろにいた黒髪の男を促した。

「この女は、ずっと嘘だったんだ。俺のカロリーナは、そんなことは言わない」
 暗くて気づかなかったが、黒髪の男は剥き出しの剣を持っていた。
「ちょっと、まさか」
「信じていたのに」

 黒髪の男はポツリと呟いて、牢の中に入ってくる。カロリーナは座ったまま、壁まで後ずさった。
 着ているのは、囚われていた犯罪者のようなボロ布の服。ずっと牢屋に住んでいるかのように、据えた匂いが鼻をつく。下水と汚物の匂いだ。

「嘘よ。待って、なにか、勘違いしているのよ!」
「俺だけだって言っていたのに。許さない。許さないからな」
 黒髪の男は顔を上げる。名前も覚えていない、役立たずの一人。君の役に立ちたいと言いながら、自分を虐めた騎士たちを殺した男。

「ふざけやがって、お前のために、あいつらを殺したのに!」
 なにが、お前のため。自分のために殺して、カロリーナのためだと言っているだけではないか。それに、殺してほしいなどと頼んでいない。お前が勝手に行っただけだ。

 そう言いたかったのに、肩が熱くて、気付いたら冷えた床に倒れていた。
 ぼやけた視界が真っ赤な色彩に塗られていく。そこに、ぼんやりと二人の男の顔がうつった。
 銀色の煌めきが見えたが、すぐに暗転した。
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