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45 思惑
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「副大臣が失脚、ですか?」
「カロリーナの件に加え、君とナヴァール大臣を陥れようとしたことが、明らかになったからだ」
バルテルス副大臣。カロリーナの養父が、オレリアとオレリアの父親を陥れようとしていたとわかったのは、カロリーナが捕らえられた後のことだった。
バルテルス副大臣は、オレリアの父親が大臣になることに、前々から不満を表わしていた。自身はやっと副大臣になれたのに、長い間大臣に上がれず、ぽっと出の若手が大臣に任命されたのだ。カロリーナのように、嫉妬で怒り狂っていた。どうにかして追いやろうと考えていた。
そんな中、養女として育てていたカロリーナを、王女の侍女として上げることに成功した。王の許しを得たことから、うまくいけばカロリーナをセドリックの妻として、大臣の座につけると思っていただろう。しかし、カロリーナは王女の侍女をクビになる。セドリックのパートナーだったのは、ナヴァール大臣の娘。
カロリーナの愚行に気づいた副大臣は、カロリーナが誘導した騎士に混じらせて、オレリアを陥れようとした。
「そんなことで、私を陥れようと?」
「君を陥れれば、ヴァール大臣が失脚すると考えたのだろう」
オレリアが毒を使い、騎士たちを殺した。それが事実ならば、オレリアの父親は失脚する。そのシナリオを事実にするために、副大臣の命令で金に惑わされた騎士たちが、オレリアを犯人に仕立てようとしたのだ。
騎士の二人が毒で殺された事件で、剣を出してセドリックに撃退された者たちの話だ。
あれらはカロリーナの誘導ではなく、バルテルス副大臣の手によって行われていた。
「でも、随分お粗末ではありませんか? 犯人に仕立てると言うより、ただ言いがかりをつけてきただけですよ?」
「副大臣の名は出さず、高額な金を渡しただけだったようだな。親友の騎士が殺されて、怒り狂っていた者がいただろう。それを焚き付けさせて、あわよくば君を殺そうとしたんだ。研究所で剣を出した奴らが、その手の者だった」
実際の犯人である黒髪の騎士は、その犯行をオレリアに押し付けようとした。それに追従して、剣を出した者たちは、どさくさに紛れてオレリアを殺害し、犯人に仕立てようとした。しかし、セドリックに邪魔されて、簡単に追い返されてしまう。
「カロリーナが促しただけで、実害を出したのは騎士たちだ。金を出したとして、身元はわからないように指示していた。関わりは表沙汰にならないと考えた。黒髪の男が促して、決起した者たちという体だ。気軽に行ったのだろう」
そんなことを、気軽に行わないでほしい。しかし、そのせいで、騎士たちは局長であるセドリックを攻撃してしまったのだ。
「では、セドリック様に剣を向けさせた罪ということで、罰せられるんですか?」
「これは一つの例だな。王はなんというか、いい性格をしているから、これに関しては王の陰謀としか言いようがない」
セドリックがため息混じりに言う。
他の王女の侍女も、バルテルス副大臣からの推薦により選ばれた。しかし、その時すでに王は、バルテルスを副大臣に任命したこと自体に対し、疑問を持ち始めていたのだ。
王はバルテルス副大臣の言うとおりにして良いと許しを与えたが、王と王女は向いている先が同じ。バルテルス副大臣の資質を再確認するために、ちょうど良いと判断したのである。
アデラはバルテルス副大臣が推薦した侍女たちを吟味していた。すぐに辞めさせたくなったようだが、王は一度許したのだから、侍女を辞めさせることができるだけの理由を作れと命じる。
「婚約者の推薦も入っていたから、王も面白がっていたところはあるんだ」
「セドリック様の、婚約者候補ですか?」
アデラの侍女になれれば、セドリックの婚約候補者として選ばれやすくなる。それも使い、どう出るかを試していたというのだ。
バルテルス副大臣は躍起になって、カロリーナをセドリックの婚約者候補として推薦する。王も、内心では賛成していないのに、良い娘がいると吹聴する。エリザベトにも本当のことは言わず、王はその様子を眺めていた。バルテルス副大臣も、これでカロリーナがセドリックの婚約者候補に上がったと思っただろう。しかし、実際は、いつ尻尾を出すか、監視されていたのだ。
「やって良いと言っても、それでできるかどうかを試される。やり方はなんであれ、王はそういう方だ。好機を与えて、それを活用できるかはその人次第。人が悪いと言いたいところだが。裏表を確認するには、良い方法なのだろう」
それくらい狡猾でなければならないし、非道でなければならない。
そして、パーティの事件があり、アデラは簡単に侍女たちを辞めさせることに成功した。その上、バルテルス副大臣の養女であるカロリーナの失態は、養父であるバルテルス副大臣に直結し、バルテルス副大臣自体にも疑問を呈することができた。
話はそれだけでは済まない。カロリーナの素行を調査という名目で、副大臣を調べたところ、バルテルス副大臣が、オレリアとオレリアの父親をも陥れようとしていたことが発覚したのだ。
もともと、オレリアの父親が関わる国の事業で、不可思議な金の動きがあったり、他の貴族たちが関わった裏金の存在が見え隠れしていたりと、周囲を混乱させようとする工作が散見されていた。実際不明瞭な金の動きは見つけられており、オレリアの父親が最悪捕らえられる可能性もあった。しかし、オレリアの父親は、王にその動きを調査する旨を伝えており、王はその報告を待っていて、誰が関わっているかの調査にあたらせていた。結局、オレリアの父親のきな臭い話は、副大臣の手下によって行われており、カロリーナの素行不良から、副大臣の関わりを示すことができたのだ。
「養女だけでなく養父まで、似たような真似をしていたわけだ」
人をうまく使い、自らは動かず、何か気づかれても、罪も罰もその行った者に与えられるように、動かしていた。
結局、カロリーナの愚行から、バルテルス副大臣の失脚に繋がったのだ。
オレリアの父親がやっかみを受けていたのは知っていたが、副大臣に足を引っ張られているとは知らなかった。父親は、オレリアを社交界で紹介していなかったことについて後悔していたようだが、王から言わせれば、良くぞ黙っていてくれた。ということだったらしい。
「身分を隠していると、こういう面白い案件に当たることもある。今回は副大臣にとって、最悪の展開になったわけだ。君の場合は、ナヴァール大臣の娘だとわかっていても、それはそれで狙われた可能性があるからな。むしろもっと面倒なことに巻き込まれたかもしれない。学生程度と思われていて良かったのかもしれない」
もしも、ナヴァール大臣の娘だとわかっていれば、副大臣は父親を失脚させるために、工作を行ってきたかもしれない。カロリーナのような、単純な話ではなく。
セドリックは脅すように口にして、オレリアを横目で見やった。
わざと、怖がらせるような。
どうしてそんなことを言うのか、理由はなんとなくわかって、オレリアは微笑んだ。
「大臣の娘として狙われるのならば、同じと思いませんか?」
セドリックは眉を下げる。これから発表することにより、面倒が増えると言いたいのだろうが、そんなことを気にする必要はない。自分が気にしていたのは、身分によって本来の評価がなされないことだ。隙を狙うような者たちを恐れているわけではない。
「オレリア……」
「私は打たれ強いので、大丈夫ですよ。それよりも、周囲に気を配ることを忘れないようにしたいです。もう少し、エヴァンを気にしてあげるべきでした。私が狭量なせいで」
「エヴァンは、調査を終えたら、すぐに帰されるだろう」
「そうですか……」
エヴァンはターンフェルトに戻ろうとしていたが、今回の事件の調査のため、連れ戻された。すべての事件の根源であるカロリーナが、牢屋で殺されたからだ。
カロリーナは多くの男たちをそそのかし、時に関係を持って、自分の思い通りに操ろうとしていた。
エヴァンの関わりはこれから調べられるが、関わりは薄いとされているので、すぐにターンフェルトに戻れるだろう。ただ、騎士に戻ることはできないかもしれない。
やっと終わったと思うと共に、どうしてこんなことになったのか、やるせない気持ちでいっぱいだ。
カロリーナはどこにいても、似たようなことを行っていたのだろう。そこに権力が加わり、王女の侍女という立場を得て、暴走は加速した。セドリックを一目見れば、それに拍車をかけた。
セドリックの立場と美貌は、カロリーナにとって、すべての願望の象徴のようなものだったのかもしれない。
エヴァンも、その程度として扱うほど。
「カロリーナの件に加え、君とナヴァール大臣を陥れようとしたことが、明らかになったからだ」
バルテルス副大臣。カロリーナの養父が、オレリアとオレリアの父親を陥れようとしていたとわかったのは、カロリーナが捕らえられた後のことだった。
バルテルス副大臣は、オレリアの父親が大臣になることに、前々から不満を表わしていた。自身はやっと副大臣になれたのに、長い間大臣に上がれず、ぽっと出の若手が大臣に任命されたのだ。カロリーナのように、嫉妬で怒り狂っていた。どうにかして追いやろうと考えていた。
そんな中、養女として育てていたカロリーナを、王女の侍女として上げることに成功した。王の許しを得たことから、うまくいけばカロリーナをセドリックの妻として、大臣の座につけると思っていただろう。しかし、カロリーナは王女の侍女をクビになる。セドリックのパートナーだったのは、ナヴァール大臣の娘。
カロリーナの愚行に気づいた副大臣は、カロリーナが誘導した騎士に混じらせて、オレリアを陥れようとした。
「そんなことで、私を陥れようと?」
「君を陥れれば、ヴァール大臣が失脚すると考えたのだろう」
オレリアが毒を使い、騎士たちを殺した。それが事実ならば、オレリアの父親は失脚する。そのシナリオを事実にするために、副大臣の命令で金に惑わされた騎士たちが、オレリアを犯人に仕立てようとしたのだ。
騎士の二人が毒で殺された事件で、剣を出してセドリックに撃退された者たちの話だ。
あれらはカロリーナの誘導ではなく、バルテルス副大臣の手によって行われていた。
「でも、随分お粗末ではありませんか? 犯人に仕立てると言うより、ただ言いがかりをつけてきただけですよ?」
「副大臣の名は出さず、高額な金を渡しただけだったようだな。親友の騎士が殺されて、怒り狂っていた者がいただろう。それを焚き付けさせて、あわよくば君を殺そうとしたんだ。研究所で剣を出した奴らが、その手の者だった」
実際の犯人である黒髪の騎士は、その犯行をオレリアに押し付けようとした。それに追従して、剣を出した者たちは、どさくさに紛れてオレリアを殺害し、犯人に仕立てようとした。しかし、セドリックに邪魔されて、簡単に追い返されてしまう。
「カロリーナが促しただけで、実害を出したのは騎士たちだ。金を出したとして、身元はわからないように指示していた。関わりは表沙汰にならないと考えた。黒髪の男が促して、決起した者たちという体だ。気軽に行ったのだろう」
そんなことを、気軽に行わないでほしい。しかし、そのせいで、騎士たちは局長であるセドリックを攻撃してしまったのだ。
「では、セドリック様に剣を向けさせた罪ということで、罰せられるんですか?」
「これは一つの例だな。王はなんというか、いい性格をしているから、これに関しては王の陰謀としか言いようがない」
セドリックがため息混じりに言う。
他の王女の侍女も、バルテルス副大臣からの推薦により選ばれた。しかし、その時すでに王は、バルテルスを副大臣に任命したこと自体に対し、疑問を持ち始めていたのだ。
王はバルテルス副大臣の言うとおりにして良いと許しを与えたが、王と王女は向いている先が同じ。バルテルス副大臣の資質を再確認するために、ちょうど良いと判断したのである。
アデラはバルテルス副大臣が推薦した侍女たちを吟味していた。すぐに辞めさせたくなったようだが、王は一度許したのだから、侍女を辞めさせることができるだけの理由を作れと命じる。
「婚約者の推薦も入っていたから、王も面白がっていたところはあるんだ」
「セドリック様の、婚約者候補ですか?」
アデラの侍女になれれば、セドリックの婚約候補者として選ばれやすくなる。それも使い、どう出るかを試していたというのだ。
バルテルス副大臣は躍起になって、カロリーナをセドリックの婚約者候補として推薦する。王も、内心では賛成していないのに、良い娘がいると吹聴する。エリザベトにも本当のことは言わず、王はその様子を眺めていた。バルテルス副大臣も、これでカロリーナがセドリックの婚約者候補に上がったと思っただろう。しかし、実際は、いつ尻尾を出すか、監視されていたのだ。
「やって良いと言っても、それでできるかどうかを試される。やり方はなんであれ、王はそういう方だ。好機を与えて、それを活用できるかはその人次第。人が悪いと言いたいところだが。裏表を確認するには、良い方法なのだろう」
それくらい狡猾でなければならないし、非道でなければならない。
そして、パーティの事件があり、アデラは簡単に侍女たちを辞めさせることに成功した。その上、バルテルス副大臣の養女であるカロリーナの失態は、養父であるバルテルス副大臣に直結し、バルテルス副大臣自体にも疑問を呈することができた。
話はそれだけでは済まない。カロリーナの素行を調査という名目で、副大臣を調べたところ、バルテルス副大臣が、オレリアとオレリアの父親をも陥れようとしていたことが発覚したのだ。
もともと、オレリアの父親が関わる国の事業で、不可思議な金の動きがあったり、他の貴族たちが関わった裏金の存在が見え隠れしていたりと、周囲を混乱させようとする工作が散見されていた。実際不明瞭な金の動きは見つけられており、オレリアの父親が最悪捕らえられる可能性もあった。しかし、オレリアの父親は、王にその動きを調査する旨を伝えており、王はその報告を待っていて、誰が関わっているかの調査にあたらせていた。結局、オレリアの父親のきな臭い話は、副大臣の手下によって行われており、カロリーナの素行不良から、副大臣の関わりを示すことができたのだ。
「養女だけでなく養父まで、似たような真似をしていたわけだ」
人をうまく使い、自らは動かず、何か気づかれても、罪も罰もその行った者に与えられるように、動かしていた。
結局、カロリーナの愚行から、バルテルス副大臣の失脚に繋がったのだ。
オレリアの父親がやっかみを受けていたのは知っていたが、副大臣に足を引っ張られているとは知らなかった。父親は、オレリアを社交界で紹介していなかったことについて後悔していたようだが、王から言わせれば、良くぞ黙っていてくれた。ということだったらしい。
「身分を隠していると、こういう面白い案件に当たることもある。今回は副大臣にとって、最悪の展開になったわけだ。君の場合は、ナヴァール大臣の娘だとわかっていても、それはそれで狙われた可能性があるからな。むしろもっと面倒なことに巻き込まれたかもしれない。学生程度と思われていて良かったのかもしれない」
もしも、ナヴァール大臣の娘だとわかっていれば、副大臣は父親を失脚させるために、工作を行ってきたかもしれない。カロリーナのような、単純な話ではなく。
セドリックは脅すように口にして、オレリアを横目で見やった。
わざと、怖がらせるような。
どうしてそんなことを言うのか、理由はなんとなくわかって、オレリアは微笑んだ。
「大臣の娘として狙われるのならば、同じと思いませんか?」
セドリックは眉を下げる。これから発表することにより、面倒が増えると言いたいのだろうが、そんなことを気にする必要はない。自分が気にしていたのは、身分によって本来の評価がなされないことだ。隙を狙うような者たちを恐れているわけではない。
「オレリア……」
「私は打たれ強いので、大丈夫ですよ。それよりも、周囲に気を配ることを忘れないようにしたいです。もう少し、エヴァンを気にしてあげるべきでした。私が狭量なせいで」
「エヴァンは、調査を終えたら、すぐに帰されるだろう」
「そうですか……」
エヴァンはターンフェルトに戻ろうとしていたが、今回の事件の調査のため、連れ戻された。すべての事件の根源であるカロリーナが、牢屋で殺されたからだ。
カロリーナは多くの男たちをそそのかし、時に関係を持って、自分の思い通りに操ろうとしていた。
エヴァンの関わりはこれから調べられるが、関わりは薄いとされているので、すぐにターンフェルトに戻れるだろう。ただ、騎士に戻ることはできないかもしれない。
やっと終わったと思うと共に、どうしてこんなことになったのか、やるせない気持ちでいっぱいだ。
カロリーナはどこにいても、似たようなことを行っていたのだろう。そこに権力が加わり、王女の侍女という立場を得て、暴走は加速した。セドリックを一目見れば、それに拍車をかけた。
セドリックの立場と美貌は、カロリーナにとって、すべての願望の象徴のようなものだったのかもしれない。
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