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20② ー両親ー
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「公爵は峡谷を渡る道作りの工事をやっと終えたとか。我が家の資金が役に立ってなによりですな。領土は都に近いとは言え不便で田舎なのだし、娘が嫁いで少しは華やかになったのでは? しかし、新しい道のためにその花も枯れてしまっては困ります。水をやらねば良い花は咲かせません。また入り用であればお知らせください」
髭をなでながら、ここでまた金を貸すぞと口にする。しかも娘のために金を使えと言わんばかりだ。
フィオナは半眼を向けそうになった。これがセレスティーヌの父親か。母親は隣でにんまり笑顔をして話を聞き、いかにも当然の話だと頷いている。
「申し訳ありませんが……」
「いりません」
クラウディオとフィオナの発言がかぶった。両親が今なんと言ったのかと、目を大きく瞬かせる。
「いりませんと申しました。ご用件がそれだけならば私たちは失礼させていただきます。旦那様、参りましょう」
「え、あ、はい」
フィオナが腕を引くとクラウディオは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、両親はもっと呆気にとられたと、口を半開きにしたまま静止していた。
それもどうでもいいと広間の方へ足を向けるが、ふと思い立ってフィオナは首だけで両親へ向いた。
「お父様、お母様。そのお姿、趣味が悪いを通り越して、醜悪ですわよ」
「は!? なにを、」
「どのあたりが流行りなのか私はまったく分かりませんけれど、無駄に大きな宝石ばかり着けて、バランスが悪いのではないですか? そのような装飾品をまとわれるのならば、購入される前にセンスを磨かれたらいかがかしら」
「な、なな、なにを……っ」
「ただの助言ですわ。旦那様、参りましょう」
セレスティーヌがそんな言い方をするとは思わなかったか、両親は呆然としながら、すぐに顔を真っ赤にさせた。派手な装いであることは自覚があったようだ。
趣味が悪いと言ったところで、丁度通りかかった人たちが小さく笑うのを見てなおさら顔を赤らめる。
憤慨していようが構わないと、フィオナはクラウディオを引いたまま広間に戻った。
「セレスティーヌ……?」
「くたびれましたね。なにか飲み物はいかがですか。旦那様、こちらどうぞ」
側を通った者からさっとグラスを取り、遠慮せずにそのグラスをクラウディオに渡した。渡しておいて自分もグラスをとるとグッと一気飲みする。
王からの両親で、情報量と緊張感が多すぎた。そこからの腹立たしい発言を耳にして、喉が渇いてしまったのだ。
クラウディオはポカンとしていたが、フィオナはふーっと息を吐いた。
あの両親と話していると、自分の両親を思い出してしまう。今まで言いたかったことのうっぷんを、セレスティーヌの両親に吐き出してしまいそうだ。というか、少し吐き出してしまった。
フィオナの両親は見栄っぱりで、衣装や宝石など高価な品を欲しがる癖があった。古い物より新しい物。お金がないところは違うが、似たような雰囲気を感じる。
(領主の息子もすごい宝石着けてたの、思い出しちゃったわ。セレスティーヌの両親ほどじゃないけど)
それに、セレスティーヌも気分が悪いだろう。好きな人の前であんなことを両親が言うのならば、恥ずかしさでその場に埋まりたくなる。
結婚させてもらった恩があるとはいえ、あれはない。
(セレスティーヌもその恩恵を受けているから、何も言えないかもしれないけど)
それにしても、会うたびあのような発言をしてくるのだろうか。
セレスティーヌは気が強いわけではなかったので、両親の言いたい放題を放置していたのかもしれない。そうであれば、クラウディオがセレスティーヌにも何を思うか。
そもそも、クラウディオに対して、セレスティーヌは何も思わなかったのだろうか。
「申し訳ありません。少し喉が渇いてしまいましたので。他の方へのご挨拶は済まれましたか?」
「は、ええ、そう、ですね。ほとんどの方と挨拶はしました」
「では、そろそろお暇しませんか?」
「え!?」
さっさと帰りたい。またあの両親と話したくないし、これ以上セレスティーヌの知り合いに会いたくない。そんな気持ちで言ったのだが、クラウディオはなぜか言葉を失ったかのように口をぱくぱくさせた。
「まだ、挨拶は終わってません」
「今、終わったって言いませんでした??」
「挨拶する者は残っています。まだ帰るわけにはいきません!」
「そうなんですか……?」
誰かと挨拶をするならば、セレスティーヌがいない方がいいだろう。離れていた間に挨拶をしていたかと思ったが、まだ会う人がいるようだ。
(後ろで待ってればいいわよね。話すのはきっとセレスティーヌじゃないだろうし)
「それに、まだダンスをしておりません」
クラウディオは顔を背けると、呟くような小さな声でそんなことを言ってくる。
前回のことをかなり引きずっているようだ。
「しなくても良いではないですか。私は気にしませんので、ご挨拶が済み次第お暇しましょう」
「そんな!」
(なにが、そんな、なの??)
髭をなでながら、ここでまた金を貸すぞと口にする。しかも娘のために金を使えと言わんばかりだ。
フィオナは半眼を向けそうになった。これがセレスティーヌの父親か。母親は隣でにんまり笑顔をして話を聞き、いかにも当然の話だと頷いている。
「申し訳ありませんが……」
「いりません」
クラウディオとフィオナの発言がかぶった。両親が今なんと言ったのかと、目を大きく瞬かせる。
「いりませんと申しました。ご用件がそれだけならば私たちは失礼させていただきます。旦那様、参りましょう」
「え、あ、はい」
フィオナが腕を引くとクラウディオは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、両親はもっと呆気にとられたと、口を半開きにしたまま静止していた。
それもどうでもいいと広間の方へ足を向けるが、ふと思い立ってフィオナは首だけで両親へ向いた。
「お父様、お母様。そのお姿、趣味が悪いを通り越して、醜悪ですわよ」
「は!? なにを、」
「どのあたりが流行りなのか私はまったく分かりませんけれど、無駄に大きな宝石ばかり着けて、バランスが悪いのではないですか? そのような装飾品をまとわれるのならば、購入される前にセンスを磨かれたらいかがかしら」
「な、なな、なにを……っ」
「ただの助言ですわ。旦那様、参りましょう」
セレスティーヌがそんな言い方をするとは思わなかったか、両親は呆然としながら、すぐに顔を真っ赤にさせた。派手な装いであることは自覚があったようだ。
趣味が悪いと言ったところで、丁度通りかかった人たちが小さく笑うのを見てなおさら顔を赤らめる。
憤慨していようが構わないと、フィオナはクラウディオを引いたまま広間に戻った。
「セレスティーヌ……?」
「くたびれましたね。なにか飲み物はいかがですか。旦那様、こちらどうぞ」
側を通った者からさっとグラスを取り、遠慮せずにそのグラスをクラウディオに渡した。渡しておいて自分もグラスをとるとグッと一気飲みする。
王からの両親で、情報量と緊張感が多すぎた。そこからの腹立たしい発言を耳にして、喉が渇いてしまったのだ。
クラウディオはポカンとしていたが、フィオナはふーっと息を吐いた。
あの両親と話していると、自分の両親を思い出してしまう。今まで言いたかったことのうっぷんを、セレスティーヌの両親に吐き出してしまいそうだ。というか、少し吐き出してしまった。
フィオナの両親は見栄っぱりで、衣装や宝石など高価な品を欲しがる癖があった。古い物より新しい物。お金がないところは違うが、似たような雰囲気を感じる。
(領主の息子もすごい宝石着けてたの、思い出しちゃったわ。セレスティーヌの両親ほどじゃないけど)
それに、セレスティーヌも気分が悪いだろう。好きな人の前であんなことを両親が言うのならば、恥ずかしさでその場に埋まりたくなる。
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(セレスティーヌもその恩恵を受けているから、何も言えないかもしれないけど)
それにしても、会うたびあのような発言をしてくるのだろうか。
セレスティーヌは気が強いわけではなかったので、両親の言いたい放題を放置していたのかもしれない。そうであれば、クラウディオがセレスティーヌにも何を思うか。
そもそも、クラウディオに対して、セレスティーヌは何も思わなかったのだろうか。
「申し訳ありません。少し喉が渇いてしまいましたので。他の方へのご挨拶は済まれましたか?」
「は、ええ、そう、ですね。ほとんどの方と挨拶はしました」
「では、そろそろお暇しませんか?」
「え!?」
さっさと帰りたい。またあの両親と話したくないし、これ以上セレスティーヌの知り合いに会いたくない。そんな気持ちで言ったのだが、クラウディオはなぜか言葉を失ったかのように口をぱくぱくさせた。
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誰かと挨拶をするならば、セレスティーヌがいない方がいいだろう。離れていた間に挨拶をしていたかと思ったが、まだ会う人がいるようだ。
(後ろで待ってればいいわよね。話すのはきっとセレスティーヌじゃないだろうし)
「それに、まだダンスをしておりません」
クラウディオは顔を背けると、呟くような小さな声でそんなことを言ってくる。
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「しなくても良いではないですか。私は気にしませんので、ご挨拶が済み次第お暇しましょう」
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(なにが、そんな、なの??)
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